予想外のことが起こりました!
昨日のナルキッススとのやりとりを思い出しながらにんまりする。
私の健康血液のおかでげ無事に婚約破棄になりそうだし!
今日は最高の一日だ!!
・・・と思ったのは束の間。
ナルキッススが私の世話をしながら、今日の夜にオゼノービリス様の来訪があることを伝えてきた。
婚約式について改めて執り行いたいとの申し出があったようだ。
(なんで?!あの感じ、血合わせとやらは大失敗に終わったよね?!)
食料として不適合だよね?!?!なんで!!執り行うっていう話になるの!!!!
そんな私をみたナルキッススがおずおずと「婚約成立がお嫌でしたら私がオゼノービリス様を処理いたしましょうか。」と尋ねてきた。
驚いてナルキッススを見ると、照れたような表情を浮かべている。
処理とか不穏な言葉が聞こえたのは気のせいか。なーんだ、よかっ・・・
「恥ずかしながら暗殺は割と得意な方ですがオゼノービリス様は相撃ちでも難しいです。ですが、リリーさまの侍女である私が暗殺を試みたとなれば婚約については破談になるかと愚考します。」
気のせいじゃなかったー!
(・・・いやいやいやいや!それってナルキッススの命ももれなく取り返しがつかないことになるよね?!っていうか暗殺が割と得意ってなに?!)私の脳内突っ込みのスキルが上がった気がする。
ナルキッススは苦悶の表情を浮かべながら「恥ずかしながら、私めはリリー様の婚約準備をするお姿をみて、ヴァンダイアへの嫁入りを楽しみにされていらっしゃるかと勘違いしていたのです。」と語り始めた。
うっとりした表情で「ですが、このような愚かな私に真名をさずけて下さったことで過ちに気づく機会を頂いたのです。我が命をもって償えるのであれば喜んで差し出します。」と締めた。
(うん、さすがに族王に手を出すことは処刑されるほどのことだということは自覚していたみたいだね。よかったよかったーって違う!!あれあれあれー?!私のクーデレ真面目系委員長はどこいったのかなぁ?!見た目はいつもと同じ表情のはずなのに!!!)
このクーデレ真面目系委員長改め爆弾美少女が暴走しないようにすることが今日の一番のミッションだなと痛感する。
昨日と同じように特に変わったこともなく、ナルキッススに飾り立てながら夜を迎える。あえて昨日と違うことをいうなら婚約式のために部屋を出る。
その際、ナルキッススが「気が向いたらいつでも仰ってください。念のため、装備しておきますから。」と強い決意を秘めた眼差しで私に宣言したくらいだ。
そう、ただそれくらい・・・。
クーデレ美少女枠、どこいった???
応接間には昨日と同じようにこの世のものとは思えない美しいイケメンのオゼノービリス様がいた。
「昨日は失礼した。」と血合わせをした首筋を右手で撫でながら非礼を詫びる。
いや、狙った通りなんで全然大丈夫です~と言いたいが、言えない。
念のため、念のため確認する。
「とんでもございませんわ。昨日のご様子では私めの血では不都合があるようでしたので。このお話がなくなる可能性についても愚考していたのですけれど・・・」と丁寧に丁寧に(私の血、まずかったんでしょ?本当に結婚していいの??よく考えた方がいいなじゃない??)と伝えてみた。
オゼノービリス様は首筋にあてた右手の動きをとめ、親指で喉をなぞる。左耳に顔を寄せ、ほかの人に聴こえないように呟く。「リーリウム、二人だけで話たいのだが許可をもらえるだろうか。」甘いマスクに低音がきいた甘い声。
普通の女性ならばヘブン状態だろう。だが、しかし!私にはきかない!!!とはいえ、当たり前だがただの傍系公族に他国の王からの申し出を拒否する権利などない。
私は微笑をうかべながら「もちろんでございますわ。オゼノービリス様。」返答した瞬間、周りの景色が暗転するのを感じた。
クピディーダス先生が恐ろしい形相でこちらを睨みつけているのが見えた。
えっ、なに?!ダメだった?!!教えて、先生!!!
真っ暗な空間で私とオゼノービリス様の二人だけが淡く光を帯びて存在する。
「さて、サーティリア・リーリウム・モリスヴィッド。其方はこの結婚に対して拒否感があるように思うが、異論はないか。」
(異論ありません!!!)と言える関係性であれば、とっくの昔に婚約破棄できている。
もちろん私は曖昧に微笑みながら「私めが他国の王族の妃になるなんて恐れ多いことでございますし、昨日のご様子では血合わせの相性も良好とは言えないように感じました。妃として嫁がせていただいても、お役目を果たすことは難しいと思いますし、この身を弁えることが最も望ましいと…。」とできるだけ遠まわしに穏便にお断りしたい旨を伝えた。
「ふむ・・・。たしかに其方との血合わせをした際、味については相性が良いとは言えなかった。しかしながら、効果は抜群であった。」
婚約破棄を狙って作った健康血液の効果は抜群なようだ・・・?
「ほんの少しの搾血だったが驚くほどに体調が万全な状態になったのだ。たった一人の少量の血でこのように回復するなど我が国でも類をみない。婚約式をしたあとは15歳の成人を迎えてから嫁入りをしてもらえば良いと思っていたが、婚約式を終えたら早急に我が国にきてもらいたいと考えている。」
そりゃー、あんな貧血気味の不健康な血じゃ効果は低いだろうし、私の健康な血液とは比べものにならないでしょーうんうん。
・・・って?!
え?!ちょっと、待って。いまなんていった?
「あらためて、リーリウム。本日の婚約式を終えたら私とともにヴァンダイア国に来てもらいたいが了承してくれるだろうか。」
私が固まっているとオゼノービリス様は「ふむ・・・。」と思案している様子が伺えた。
「リーリウム、我々としては其方に前向きな気持ちで我が国に来てもらいたいと考えている。其方が憂慮する事項について聞かせてもらえれば、改善の余地があるものについては努力しても良い。其方の忌憚ない意見を聞かせてほしい。」
そういってオゼノービリス様が私の手を握る。
(えー!どうしよう?!困るけどでもここではっきり断らないと今日の夜にでも連れて行かれるってことだよね?!)
だって可愛い美少女なお母様と離れたくないし、エディットというキマシタワー仲間と離れたくないし、美女だらけの館を離れたくないし、嫁いだら二度と帰国できないとか鬼の所業だし、なにより食料として血液を搾取され続けて失血死なんていや!!
そもそもどんなにイケメンでも男と結婚とか苦行でしかないし!!!!
なんと伝えたものか考えていると、オゼノービリス様が「くく・・・っ」と笑いながら手をさらに強く握り占める。
「では、私から提案することにしよう。そうだな、其方が希望するなら帰国を許可しても良い。なんなら数泊しても良い。」
(そんなの絶対条件なんだから!むしろ毎日会える今と比べて悪条件すぎる!!!)
「それから其方は搾血について誤解があるようだ。たしかにいろいろなパターンがあるので間違いとは言わないが・・・。」
(ひぃっ!いろいろなパターンってなに?!やっぱり失血死ルートがあるってこと?!)
「其方の血液であれば少量で十分な効果がみられる。特別な血液だ。故に搾血のためというよりは、そうだな・・・人間でいうところの薬のように真に必要な者にだけ最低限の量を与えるようにしよう。其方の血液について研究ができれば飢餓状態に陥っているヴァンダイアが多く助かるだろう。」
(え、もしかしてヴァンダイアって血液不足?!献血が必要な状態なの?!!すき放題襲ってるわけじゃないの?!?!)
「私は其方からしか搾血できないが必ず必要というわけでもない。我が一族で条件があてはまるといえば、私の妹のレナーツィアだ。あれにあう血液がなかなか見つからず、飢餓状態に近い。齢も人間でいうところの4~5歳からなかなか成長しない。あのまま見つからなければ近いうちに餓死するだろう。しかし、其方の血であれば間違いなく回復するであろうし、体の容量からみても必要量自体が少ないことから搾血しても其方の負担は少ないだろう。」
(よ、幼女の命が私にかかっている?!しかもこの超絶イケメンの妹というなら超絶美幼女だよね?!そんなことがあっていいの・・・?!)
もうだいぶ嫁ぐ方向に傾いてしまっているのを感じながら言葉を探す。