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本戦1日目。
16人の出場者が競技場の上で一堂に会した。
予選を勝ち抜いただけあって、いかにも力自慢の猛者どもといった面々が互いに火花を散らす。
女性はシアの他にもう一人。筋肉が盛り上がった大きな赤毛の女剣士がいる。
目つきの悪い盗賊のような様相をした男や、ひょうひょうとつかみどころのない雰囲気の優男。
先日、宿で絡んできた巨漢もいた。
そんな中、一人の戦士姿の男にシアの目は釘付けになった。
正確には、男の被っている兜に。
あれ、明らかに何かの呪いがかかってるでしょ。
牛のように2本の角を生やした兜が、黒い靄で覆われているように見えた。
ちょっと、神殿から派遣されているっていう司祭はどこなのよ。
明らかに、ルール違反でしょうーっていう前に、あの男の身が危険じゃない
。
武術大会開始の挨拶を述べている部族長のそばで、それらしいゆったりとした衣装をまとった高齢の男がいる。
しかし、何事もないような顔をしてその場に立っている。
まさか、兜の呪いに気づいてないの?
司祭なのに、呪いを払う力がないとか?
これでは、シアも下手なことは言えない。なぜ司祭も気がつかない呪いに気づいたんだということになれば、魔力持ちだということがバレてしまう。
魔術師だってバレたら、よくて街からの追放、悪くて火あぶりかも。
大人しく捕まってあげる義理はないが、そうなると賞金の金が手に入らない。それは困る。
つまり、気づかないふりをしなくてはいけないってことね。
もう一度兜の男に目をやるが、同時に誰かからの視線を感じた。
視線のやってくる方を見ると、同じ出場者の若い男がシアの方を見ていた。
上下黒づくめの服を着た優男ーーーそれがシアの第一印象。
シアと目が合うと一瞬ニコッと笑い、それから兜の男をちらりと見て、肩をすくめた。
なに? 今の身振り?
あの男も、呪いに気がついているってこと?
頭の中に疑問が浮かぶが、そうこうしているうちに組み合わせを決めるくじ引きとなった。
壺の中に入った紙片をとり、その色によって組み合わせが決まるという方式らしい。
順番にくじを引き、勝ち抜き戦となる対戦表を埋めていく。
組み合わせが決まるごとに、歓声が上がる。聞くところによると、大会中はその勝敗を巡って賭け事が行われるようで、一般市民の関心も高いとかなんとか。
そうこうしているうちに、開会のセレモニーが終わった。
シアの一回戦は第4試合。対戦相手は、長身の鞭使い。
対戦相手とみられる人物はちらりとシアの方を見たが、控え室に戻るとすぐにどこかに行ってしまった。
あっさりとした姿に拍子ぬけるが、試合前から火花がバチバチといった展開になるよりよっぽどいい。
火花バチバチといえば、開会式の間中うっとうしいほどこちらを見つめる視線があった。
先ほどの黒い服装の優男ではない。
筋肉が隆々とした巨漢ーーーつい先日、酒場で絡んできた酔っ払いだった。
今この瞬間も、自分の背中を凝視している視線をを感じる。敵意がないことから、おおよその理由には見当はつくが、眼力が強いのか、見られる側としては心地悪いことこの上ない。
めんどくさいなあ。
用があるなら一言声をかければいいものを・・・
と、シアは意を決して後ろを振り向いた。