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さて、武術大会の予選日。
明後日から4日間続く本戦までに、出場者は16人に絞られる。
予選の方法は単純かつ乱暴なものだった。10人から15人からなる出場者が全員同時に闘技場の上で戦い、最後に残った一人が本戦に出場できるというもの。
相手が降参するか、継続が難しいと判断した場合は審判が勝敗を判定する。重症を負わせたり、死に至らしめたりすることは禁じられていて、即失格になる。また、いかなる魔術・魔道具の使用も禁止されていた。
けが人の治療のため、ブスラに唯一存在するルミナス神殿からは治療師が派遣されている。
予選は、予想どうり荒れた。同じ予選組の出場者同士で事前に示し合わせて、真っ先に強者を襲うという作戦にでる者もいれば、それを裏切るものもいる。
そんな中、だが、シアは見事に勝ち残った。
小柄な見た目から、先に倒す勝ちなしと判断されたようで、多勢に無勢で他の強敵が倒され行くのを横目で眺めながら、最後に残った数人と危なげなく戦い、さほど汗もかかずに本戦の出場権を得たのだ。
シアは7歳の誕生日を迎えたばかりの頃、とある強国の騎士見習いとして、騎士団に放り込まれたことがある。
「ちょっと身体を鍛えたら?」という言葉とともに育ての親から引き離され、否応なく連れてこられたその場所で、朝から晩まで5年間みっちりしごかれた。
地獄のような日々だったが、そのおかげで今でも少し強いぐらいの猛者どもに遅れをとることはない。何しろ大陸最強の騎士たちから直々に教えを受けたのだ。
体力と身長に合わせた細剣をしなやかに踊らせ、相手の予測より素早く切り込むシアの持ち味は、この時に生まれた。
12歳で騎士団を退団してからの数年、今度は魔法の特訓を強いられる羽目になる。魔法を使いながらの戦いに慣れるため、それまでの剣筋にも改良を加えた。
正直、剣の腕だけで、かつて指導してくれた騎士たちから一勝をあげるのは難しい。彼らはそれだけ強い。
しかし、この辺境の地で開かれている大会なら十分に優勝を狙えるのでは、とシアは考えていた。
本戦出場が決まり手続きを終えたシアの肩に、闘技場の屋根から予選の様子を眺めていたフェンが飛んできて停まった。
「やったね、シア。おめでとう」
「ありがとう」
「手続きしている間に、最後の出場者が決まったみたいだよ」
「そうなの。じゃあ、もう宿に戻りましょう」
シアとフェンは市場に立ち寄り、果物を買ってから宿に戻った。
夕方、まだ空いている食堂で早めの食事を取ることにする。
「出場決まったんですね。おめでとうございます」
注文したおすすめ定食を運んできた給仕の女性が、シアに声をかけた。
昨日のことがあったので、今日は最初からフードは外して食事をしていたのだが、それにしても、話が伝わるのがずいぶんと早い。
「ありがとう。それと、昨日はあの後大丈夫だった?」
問題ありませんでしたよ、と笑顔で答え、女性は仕事に戻っていく。
深皿には食べきれないほどの煮込み料理が盛られていた。少し小皿に取り分けると、それまで椅子の背に留まっていたフェンが机に飛び移り、味見する。
本来、人間の食事など食べないはずの幻獣だが、好奇心旺盛なフェンは、ことあるごとにシアの食べるものを味見したがる。山盛りの料理が食べきれないシアにとってはむしろ好都合で、時折こうして食事を分けていた。
人が行き交う宿には、変わった動物を連れた人が訪れることもあるため、フェンを連れていてもそれほど目立たない。ただ、人語を話せることがバレるといろいろと面倒なことになるため、人目のあるところでの会話は控えている。
どうやら今日の料理はフェンのお気に召したようだ。
表情から、満足気な様子が伝わってくる。
フェンはくちばしを器用に使って、次々に料理を飲み込んでいった。
それを見ていたシアだったが、思い出したように果汁の入ったグラスを一飲みして、食事を始めた。