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「高い! やっぱり高いよ、この『結界石』。 いくらなんでも150ルピアってのは、高すぎじゃないか?」
薄暗い店の陳列棚を食い入るように見つめるフード姿の小柄な人物が、呟いた。
「嫌なら買わなきゃいいんだよ! こんなところで店を開いているだけでも大変なんだ。商品があるだけでも、感謝して欲しいがね」
小声を聞きとがめた店の主人ーーー 年老いた老女が、いかにも気分を害したようすで言い返した。
「それはわかってるけど・・・」
フード姿の人物は、それでもあきらめきれない様子で、棚の中の結界石と呼ばれる魔道具を見つめる。
まだ若い、女の声だ。
文明に取り残されたとも、見捨てられたともいわれる大陸の西側、しかもこんな砂漠のオアシス都市に、魔道具を扱う店があることだけでも奇跡に近い。フード姿の旅人、シアもその点はじゅうじゅう承知していた。
大陸の中央から東側にかけては、魔術を基礎とした、医療術、錬金術、建築・土木技術に木工、金属、ガラス加工技術に至るまで、目覚ましい発展を遂げており、人々は高い文化水準の中で生活している。
一方、このあたりでは、未だに魔術の『魔』がつくもの全てが、怪しいものだと考えられているのだ。
かといって、対局にあたる神殿の力が強いかといえばそうでもない。いくつもある砂漠の部族たちは、それぞれの先祖代々伝わる精霊を、独自に信仰している。
この魔道具店だって、表向きは薬草店としてひっそりと営業している。特定の客が来た時にだけ、店主の老女が店の奥の小部屋へと続く扉を開けるのだ。
「でも、持ち合わせが少し足りない。ねえ、60ルピアにまけられない? 手持ちの薬草もつけるから」
「ふん、薬草はありがたいが、こっちだって生活がかかってるんだ。びた一文まけられないね」
結界石。
大陸の中央に位置する魔術学園都市なら、さらに上質なものが一つ20ルピア以下で売られている。西部までの運び賃といえばそれまでだが、まさか10倍近い値がつけられているとは…
「そこをなんとか。これがないと本当に困るんだ。この辺りには冒険者ギルドもないから路銀だって稼げないし。ついこの間結界石が割れちゃって、代わりがいるんだよ!」
「いくら言っても無駄だよ。さあ、ほかに用がないなら、さっさと帰っとくれ!」
「そんな…」
ほとほと困り果てた様子のシアに、老女はふと思いついたかのように言葉を続けた。
「お前さん、腕に覚えはあるのかい? だったら、ほら、あれを見てごらん。勝てば賞金が出る」
「賞金!」
老女の指差す後ろを振り向くと、背面の壁に古びた掲示板のようなものがあって、たくさんの紙が貼られていた。
冒険者ギルドにあたる組織がないこの街では、魔術に関わるものたちがこうやって秘密裏に情報を交換しているのだろう。
そして、貼られた紙の中でも比較的新しいそれは、この地方一の強者を決める武術大会開催されるというチラシだった。それも、優勝賞金は500ルピアとある。
開催は数日後、参加受付はもう始まっている。
「これだ! これに勝てば結界石が買える! おばあちゃん、ありがと! じゃあ、また」
シアは大声でお礼を言うと、急いで外に飛び出した。
店内に一人残された老女は呆れたように呟いた。
「やれやれ、あの娘、あんなに細っこいのに優勝する気だよ」