#0 たとえそれが神の意志の背こうとも
雲一つない、まさに快晴と言える空には、1/4ほど欠けた太陽がさんさんと地上を照らしている。地上に生をうけた全ての種は、神の恩恵の1つである日差しの下みな平等の時間の中で生きていく。
ある者は田畑を耕し生の源を育み、ある者は多種族…もしくは同種族の生を狩る。
起承転結が繰り返されるこの神の手のひらで、今日も生ある種は営みを続ける。
――そんな中、
「その書類はまだ目を通してないから俺の机置いといて! あ?冒険者同士のトラブル?知らんお前が何とかしろ! ちょいアイシャ、仕事中に何食べてんの!? …だからその書類まだ見てないんだって!」
――帝都アデルベルムの首都、モルトー。
行商人や観光客、街に住む人々で賑わいを見せる街並みは、帝都の景気の良さを象徴しているようである。特に賑わいをみせる中央通りにある冒険者組合本部。そこで1人の男がせわしなく働いていた。
短く切り整えられた黒髪に、深く全てを呑み込みそうな黒目。180cmはあるかという身長、半袖のシャツから覗かせる引き締まった腕。その出で立ちからもその男が過去に冒険者を生業にしていたことは明らかである。
「マスター、帝都騎士団の方がいらしております」
「えぇ!? こんな忙しい時に何で!?」
だが、現在の彼の職業は冒険者ではない。
各地に設けられている冒険者組合。
そこには夢や自由を求め、自ら魔物のいる場所へ赴く者や、賭博や仕事、何らかの失敗でやむを得ず死地へと向かう者たち――冒険者が集まる。
その冒険者を取りまとめる冒険者組合長。それが今の彼の職業である。
「知りません。それより早く行ってください。うるさいので」
「ちょ、ルナさん…?一応俺は君の上司なんだけど…」
「…マスター?」
「行ってきます」
……モルトー冒険者組合の組合長であるその男、フィンデルト・エスタルバークは秘書官であるルナ・アルヅワーズに急かされ職務室を後にする。
「…やれやれ、あの男も変わらない」
ルナは微かに、誰にもわからないような笑みを浮かべ呟く。
「早く見せてくれ。お前の信じる世界とやらを…」