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第十一話 コルトの贖罪②

「わ、私がフェルマー商会の次期経営者?」


「そうだ。エルシーにやって欲しい」


「どうしてか、聞いてもいいですか?」


「ああ、これは……償いみたいなものだ」


「償い?」


「……ふう……説明するよ」

 一呼吸おく。

 覚悟を決め、説明を始めた。


「エルシーは奴隷になる前、酒屋で働いていただろ?」


「ええ、父と母の店です」


「俺は若い頃からあそこで酒を買っていた。エルシーの爺さんの代からな」


「そうだったんですか……」


「あそこの店は凄く親切だった。俺が好きそうな酒を提供してくれたり、頼めばどんな酒も取り寄せてくれた」


「両親の店は親切が売りですからね」

 そう言うエルシーの顔は誇らしげだった。


「本当にそうだった……ただ、俺がダメ人間になり始めた頃……俺は親切にしてくれたあの店に無理な注文をし始めた」

 本当に愚かなことをした……。


 また一呼吸おいて、話し始める。

「一つを取り寄せるのも凄く大変な酒を大量に頼んだり、幻と言われる程の酒を早急に取り寄せるように頼んだり……普通なら断る。

 でも、親切なお前の父親は頑張ってくれた。けど……やっぱり無理だったんだ……」


「そんなことがあったんですか……」

 エルシーは何とも言えない表情をしていた。

 俺に対して怒っているのだろうか……。


「いや……それだけじゃない……

 その後、俺はそこで酒を買わなくなった。自分の部下に揃えさせるように命令するようになったんだ。

 そして、俺はあの店の悪口を常々言っていた。どこに行っても……。俺はわかっていなかったんだ……自分の立場を、影響力を……。

 俺のご機嫌を取ろうとしていた馬鹿な奴らがあの店に嫌がらせを始めたんだ。

 まあ、その報告を受けて喜んでいた俺も馬鹿だったんだけどな……」


「なるほど……」

 エルシーはまだ怒りもせず、表情を変えていなかった。


「そして、一ヶ月前にエルシーの顔を見た時にあの店を思い出した。俺はエルシーの小さい頃にお手伝いしていたところを何度か見たことがあったからな。

 大きくなったなと思ったと同時に、エルシーの首輪を見てあの店がもうないことを理解した」


 それまで、あの店のことなんて頭の中になかったんだ。

 あの時は、本当に後悔した。

 エルシーの前から逃げ出したかった。

 ただ、数日一緒に働いていて、神からのお告げのような気がした。


『自分の罪を償え』

 そんな気がしたんだ。

 だから、エルシーに俺の全財産を捧げようと思ってこの計画を考えた。


「そうだったんですか……父も母も今はいません。父は貧乏で医者に診てもらえずに、病気で死んでしまいました。そして、母は借金を返す為に働き過ぎて倒れてしまい……そのまま病気で死んでしまいました。そして、私は残った借金を返せずにこうして奴隷になりました」

 エルシーは、淡々と語った。


「本当にすまなかった」

 謝る事しか出来ない……。

 そうか……あの二人は死んでしまったのか……。


「うん……正直、複雑な気持ちです……コルトさんがいい人なのはこの一ヶ月でわかっていますから……怒りたいけど……コルトさんに怒る気にもなりませんし……」


「お、俺はエルシーの両親を殺したんだぞ?」


「それも……直接的ではありませんし……」


「でも、俺が原因だ」


「わかりました。私はあなたに怒りません」


「え?」

 怒らない?


「あなたは私に怒って貰って気持ちを楽にしたいんですよね?」


「……そ、そうかもしれない……」

 確かに……この罪悪感から楽になりたいのかもしれない……。


「だったら、怒りません。それがあなたへの罰です」


「わ、わかった……」

 そうか……おれは一生、このことを悔いて生きていかなければいけないのか……。


「それと……私は、コルトさんの店を引き継ぐなんて出来ません。とても私の力ではあの大きな店を動かすなんて出来ませんよ!」


「それは大丈夫だ……こんな俺にも出来たんだから。しっかりとサポートはする」


「それでも、私はホラントさんの奴隷ですし」


「それも大丈夫。奴隷は買い取られたら後は開放するかどうかは主人の自由だ。首輪も奴隷商に金を払えば外して貰える。それに、俺の店はこれから、兄貴の店の傘下に入ることになるからそこまで心配することはないよ」


「どういうことですか?」


「これから、フェルマー商会はホラント商会になる。フェルマーのイメージが凄く悪いからね。兄貴の店の一部になったことにするんだよ」


「で、でも、ホラントさんは店の規模を大きくすることは……」


 それも確認済み。

「形だけだから兄貴が俺の店の経営に関わることはない。それなら大丈夫って了解も得ているし」


「そうなんですか……それでも、私が継ぐ必要があります?」


「ああ、この店で働いていたエルシーが経営者になれば、客も本当に兄貴の店なんだと思ってくれるからな」

 この理由は、エルシーに納得してもらう為に前もって用意しておいた。

 エルシーは遠慮して、断るだろうと思ったからいろいろと考えてきた。


「そうですか? 私のことを覚えている人なんて少ないと思いますよ?」

 やはり、エルシーは簡単には承諾してくれなさそうだ……。

 だが、ここは俺の話術でどうにか。


「いや、エルシーは帝都で有名だぞ。親切で美人で優秀な店員てな」

 これは本当だ。

 兄貴よりも目立つエルシーは、この店の顔なんだ。

 そして現在、この店は帝都の人なら誰もが知る店になった。


「本当ですか?」


「ああ、本当だとも。外に出た時に話しかけられないか?」


「そ、そういえば……」

 エルシーに心当たりはあるみたいだ。


「そういうことだ」


「で、でも! 従業員はどうするんですか? 私には集められませんよ?」


「それも大丈夫。俺が元従業員たちに頭を下げて戻って来て貰えるようにしておいたから」

 この一ヶ月、これが大変だった。

 まあ、全て今までの俺が悪いんだけどな。

 逆に、よく一ヶ月で戻ってきてもらえることが出来たよ。


「そ、そうなんですか……」

 エルシーは悩んでいる様子だ。

 これはあと少しだ。


「大丈夫。俺の部下は優秀だから。なんたって俺が仕事をしない中、店を支え続けてくれたんだから。それに、兄貴が職人たちの教育もしてくれているから心配する必要はない」

 俺の部下は本当に優秀だ。

 兄貴には、頭を下げて高い酒を飲ませたら快く引き受けてくれた。


「で、でも……」

 よし、あと一押し。


「それと、アドバイザーにレオをつける。これで安心だろ?」

 部屋の端から『え?』って声が聞こえてくるが気にしない。

 レオがいれば店の商品開発は問題ないだろう。

 彼の頭には、面白いアイディアがたくさん詰まっている。


「あ、安心ですけど……本当に私でいいんですか?」


「ああ、エルシーじゃないと困る。俺には子供はいないし他に頼める人はいないんだ」


「そうですか……わかりました。それじゃあ、やります」

 よっし!!


「良かった……ありがとう。本当にありがとう」

 俺は何度も頭を下げてしまった。


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