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第十話 コルトの贖罪①

 

「いらっしゃいませ。こちらの商品ですか?

 こちらは、このボタンを押すと光る魔法具です。ダンジョンなどで服や装備に付けておくと便利ですよ。

 え? 私? 私は、これから一ヶ月間ここで働かせて貰うことになりましたコルトと申します。

 はい、あ、店主は奥で魔法具作りに専念してもらっています。

 そうです。少しは在庫が増えるかと思います」


「あの人が師匠の弟さん?」


「ああ、昨日からここで働かせてる」


 現在、俺達は物陰に隠れて、彼の有名な大富豪を観察していた。


「フェルマー商会はどうするんですか?」


「ん? それは一ヶ月後のあいつに任せるさ」


「そうですか……それにしても、やっぱり帝国一の商人と言われるだけありますね。接客が上手いですよ」


「今日はそうだな。昨日のあいつは本当に使い物にならなかったけどな」


「そうだったんですか?」

 意外だな。あの感じからは想像つかない。


「ああ、ずっと接客をしていなかったみたいでな。けど、最後の方から勘を戻してあんな感じになった」


「へ~なんだか、楽しそうですね」


「お! お前もそう思うか? 楽しそうだよな」


 SIDE:コルト


 こんなに働いたのはいつ以来だろうか……。

 子供の頃、親の手伝いで接客をしていたのを思い出すな~。

 働くのが楽しかったあの頃を。


 俺は兄貴みたいな職人としての腕は無いが、接客だけは誰にも負ける気がしなかった。


 あの時の俺は、跡継ぎのことなんてどうでもよかったんだよな……。

 だから、兄貴が親父と喧嘩して家を出て行ってしまった時はどうするべきなのか悩んだ。


 店を経営する自信もないし、このまま一生接客をして生きていくのだと思っていたから。

 ただ、俺が継ぐと決まったからには頑張ろうと思った。


 俺のせいで、この店を潰すなんてことはしたくない。

 それと、どうせならこの店を大きくしたいと思った。


 俺はその一心で何十年も働き続けた。

 そして、ふとした瞬間に気づいてしまった。


 もう俺が遊んでいてもこの店は潰れないんじゃないか?

 だって、この国に俺の敵はいないんだぞ?


 そう、魔が差したんだ。


 昔から、俺の娯楽は酒だけだ。


 今の俺なら、一日中飲んでいられる。

 その考えが浮かんだ途端、自分の財力を使って世界中の高級な酒を集めては飲んでいた。


 仕事なんてどうでもよくなってしまった。

 だから、自分の店の経営が悪くなり始めたと報告されたあの時は本当に焦った。


 もう、あの時には俺に商売する力は無く、ただの飲んだくれの状態では何をどうすればいいのかがわからなくなっていた。

 だから、部下のせいにして現実逃避をしてしまったんだ。

 今考えてみると本当におかしな命令を出していたものだ……。


 そして、兄貴の店で働いていると本当に自分が愚かだったことに改めて気がついた。


 兄貴は、すぐにでも店を大きく出来るほどの売り上げを出しているにも関わらず、このままを維持し続けようとしていた。

 昨日、俺が「どうして大きくしないのか? そっちの方がもっと儲かるんじゃないか!」と聞いたら。

「この店はな……死んだ妻との思い出なんだよ。だから、絶対に改装はしない。それに、俺は今の状況で十分すぎるからな。これ以上儲かっても困る」

 と言われて、俺は何かを感じた。


 そうか……俺はこれがダメだったんだ。


 店を大きくすることは、金を儲ける為の手段なんだ。

 そして、店を大きくすることだけが全てではなかったんだ。


 俺は、店を大きくすることだけが目的になっていた。


 だから、帝国中に店を作って、この国、この世界で一番の富豪になって、もうこれ以上大きくなることがないとわかった時、俺のやる気は無くなっていしまったんだ。


 そして、昨日と今日で気がついた。

 俺に大金持ちは向いていない。

 汗を流して働いている方が俺には合っているんだ。


 本当、兄貴には感謝だな。


「ふう、今日の仕事も終わった~」


「お疲れ様です」

 兄貴の奴隷をしているエルシーが話しかけてきた。

 この()は……。


「う、うん、お疲れ」


「流石ですね。あの接客は勉強になります」


「そうか……それは良かった」


「どうしたんですか? さっきまでの元気がありませんよ?」


「あ、ああ、大丈夫だ。少し疲れただけだから」

 慌てて、誤魔化す。


「そうですか。今日は早く寝てくださいね。それじゃあ、ホラントさんの所に行きましょう」

 心配されるだけで、ナイフで心を突き刺されているように感じる。

 この()は気がついて……いや、知らないみたいだ……。

 俺は本当に馬鹿なことをしてしまったな……。


「ホラントさん、今日の営業は終わりました」


「お疲れ。今日もたくさん売れたな」


「はい。たくさん売れました」


「コルトはどうだったか?」


「一日楽しかったよ」


「それは良かった。見ていて楽しそうだったよ。な?」


「はい。凄く楽しそうでした」

 そう言えば、兄貴の隣にいる少年は誰だ?

 何処かで見たことがあるな……。


「兄貴、その子は?」


「俺の弟子だ」

 兄貴に弟子?


「初めまして、レオンス・フォースターです」


「は!? レオンス・フォースター? が、兄貴の弟子?」

 そうだ!

 見たことがあると思ったら皇帝主催の一年前のパーティーに参加した時だ。

 凄い数の敵から姫様を守っていたのを覚えているぞ。


「ああ。半年前にここに来たかと思ったら弟子にしてくださいってな」


「だ、だって、あのレオンス様だぞ? 次の貴族界の派閥の中心になるであろうと噂されている」


「へ~ そうなのか?」


「俺も初めて聞きました。それより、様とかやめてくださいよ。僕のことはレオと呼んでください。もちろん敬語もなしでお願いします」


「わ、わかった……もしかして、この店が急に売り上げが伸びたのって……」


「そうだ、こいつのおかげだ」


「そうだったのか~兄貴にしてはおかしいなと思っていたんだよね~。昔から、兄貴には商売という言葉すらわかっていなかったんだから」

 納得納得。


「う、うるせー!」


「ははは。やっぱり二人は兄弟だ」


「仲良しですね」



 《一ヶ月後》


「ふう、今日の営業も終わった」

 最後のお客さんを見送って、戸締りを始める。


「お疲れ様です」


「エルシーもお疲れ。兄貴、終わったぞ~」

 戸締りを終えたら、兄貴に報告する。


「お疲れ」


「お疲れ様です」

 工房にはレオもいた。


「二人もお疲れ」

 最近では、レオも店の商品を作っていたりする。


「今日でお前が来て一ヶ月だな。見た目は随分と変わっちまったが。いや、元に戻ってきたと言うべきか?」


「うん、そうだな」

 俺は、自分の腹を見ながら肯定した。

 この一ヶ月でまだ太ってはいるがしっかり痩せていた。


「それで、お前はこれからどうするんだ?」


「うん~この店に残るよ」


「お前、店はいいのか? てか、お前の店が無いとそろそろ帝国は深刻な魔法具不足に陥るぞ?」

 今、帝国では俺の店がなくなったことによる魔法具不足が起こっている。

 一ヶ月程度だからそこまでではないが、これ以上続いたら大変なことになってしまうだろう……。


「わかっているよ。でも、俺はあの店には戻らないよ。次期経営者も見つけたしね」


「ほう、そうか。それで、それは誰なんだ?」

 兄貴がニヤニヤしながら聞いてきた。

 おい、もっと驚いた演技をしろよ!

 二人にバレてしまうだろ。


 たく……

「エルシーだよ」


「え?」

 エルシーはちゃんと驚いてくれたようだ。

 さあ、俺がこの一ヶ月間で準備した贖罪(しょくざい)計画を実行するときだ。


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