第三話 適性魔法
適性魔法についてです。
現在、俺はこの世界に来て初めて庭よりも外の世界に出ている。
そして、初めての外出はいきなりとても距離のある長旅だ。
もう既に、馬車に1週間は乗っている。
初めて乗った馬車は結構揺れ、何日かは酔ってしまった。
やっと酔いに慣れたのは2,3日前だ。
本当、普通の子供なら……以下略。
馬車の中には俺の他に、父さんと母さんがいる。
旅の前半で俺は馬車酔いでダウンしていたため、全く話すことが出来なかった。だが、一昨日辺りから余裕ができたから、いつも通り馬車からの風景を見ながらいくつも質問を投げかけた。
二人は、メイドみたいに嫌がるようなことはなく、わかる範囲で教えてくれた。
まあ、二人はちゃんと教育を受けているみたいだから、俺の知りたいことはほとんど……九割は知っていたのだが。
まず、この世界には魔物はいるのだが、前世の世界と変わらない植物や動物が生息していた。
旅で通った道では、麦畑が一面に広がっている平野や鹿を頻繁に見かける山道など、俺からしたらあまり珍しくもない風景ばかりだった。
というわけで、俺の好奇心を刺激してくれる魔物などのファンタジー要素は皆無だった。
護衛が何人か馬車に付いていたから、魔物は俺たちが気がつかないうちに倒してくれていたのかもしれない。まあ、ありがたいことなのだが……旅の間に魔物が見られると期待していた身としては非常に残念に思ってしまう。
そんな、なんの面白い旅ももう終盤だ。あと少しで帝都に到着する所までに来ている。
もう少し、ファンタジーらしいハプニングがあったりしないものなのかね?
まあ、帝都に到着したら、すぐに俺の適性魔法を調べる予定らしいし、その楽しみだけであと少しの旅を乗り越えようじゃないか。
適性魔法については、だいたい本で読んで理解した。
ただ、実際にどうやって調べるのかは知らなかった。教会で……何かをする、ということだけは知っているのだが、それ以上の細かいことは現地に行って知れということらしい。
だが、暇な俺にそんなことは関係ない。
というわけで、父さんに聞いてみるとする。
「父さん、てきせいまほうって何?」
一応、まだ5歳になりたてだから、子供らしさを意識しながら話すようにしている。
俺が変わり者なのは今に始まったことじゃないのだが、あまりにも言動がおかしくて、悪魔の子とか言われるようになったら流石に俺の身が危うくなってしまう。
まあ、この両親ならそこら辺もすんなりと受け入れてしまいそうだけどな……。
「ああ、そういえば教えてなかったな」
俺は、宗教的タブーなのか? などと思い、聞かないようにしていたというのに、父さんはなんてこともないように教えてくれるようだ。
いやいや、そう簡単に教えてくれるなら、他の皆も教えてくれてもいいじゃないか。
いや、これはセバスチャンたちは単に知らなかっただけなのかな? 魔法を使える人は、この世界でもほんの一握りなわけだし。
そんな考察をしていると、お父さんの手から何の前触れも無く白いカードが出てきた。
そして、そのカードを俺に見せてくれた。
え!? どこからそのカードをだした!? 手品? いや、魔法か?!
「これは、神殿で貰えるものでな。このカードには、自分の強さと神から貰った適性魔法。そして、まれに称号が書かれていることもあるな」
カードには、父さんの名前やさまざまな文字と数字が見えた。
ディオルク・フォースター Lv.56
年齢:33
種族:人族
職業:魔法剣士
体力:1540/1540
魔力:4250/4250
力:620
速さ:530
運:20
属性:無、炎
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
おお、ステータスだ!!
職業が魔法剣士というのもかっこいいな。父さんは、イヴァン兄さんと同じ剣好きの脳筋タイプだと思っていたけど、実際はとてもクールなオールラウンダーだったというわけか。
ということは……イヴァン兄さんもああ見えて魔法もしっかり使えるのかもしれない。
ちょっと脱線してしまったので、カードの情報に戻ろう。
何故か、スキルと称号が見えない。他の人……母さんのもこうなっているのか?
気になったので母さんに顔を向けた。
すると、俺の考えを読み取ったのか。
「私のも見たいの?」
そう言って、手からカードを出して見せてくれた。
カーラ・フォースター Lv.36
年齢:30
種族:人族
職業:貴族
体力:570/570
魔力:1820/1820
力:110
速さ:140
運:100
属性:氷
スキル
<見ることはできません>
称号
<見ることはできません>
やっぱり、スキルと称号は見えないみたいだ。
てか、母さんの運が高いな。いや、父さんのが低いのか?
「お父さん、なんでスキルと称号が見えないの?」
「それはだな、まずスキルとは、努力して手に入れることが出来るものと称号を貰うことで手に入れることが出来るものがある。称号は、何かを成し遂げることで神から貰えるものだ。この2つを他人が見えないのは、人によっては見られたらヤバいものがあるからだな」
「なるほどね」
どんな称号があるのかはわからないが、その人の細かい経歴や恥ずかしい過去などは、誰も知られたくないだろう。
それに、スキルの情報なんて、自分の手札を公開してしまうようなものだもんね。
「ちなみにLv.1の大人の平均が10になるようにステータスは出来ている」
それじゃあ、父さんも母さんも凄く強いじゃん
運についても、父さんが低いんじゃなくて、母さんが高すぎるんだな。
「ふふふ、レオがどんな適性魔法か楽しみだわ」
母さんが微笑みながら楽しみと言うが、目はどこか不安そうだった。
ここのところ、母さんはずっとこんな感じだ。
いや、物心がついた時からずっと母さんは俺の適性魔法を心配しているようだった。
「適性魔法って大事なの?」
使える魔法が決まってしまうだけだろ? それに、この世界では魔法が使えない人もたくさんいるはずだ。
「いや、社会全体で見るとそこまで大事ではないぞ。ただ、適性魔法が凄い人は優秀な人が多いから……、貴族社会では適性魔法の凄さで優劣を決められてしまうことがあるんだ。母さんはお前が学校でいじめられるのが嫌なのさ」
「だって、私は学生の頃にたくさん属性のせいでいじめられている人を見たんですもの」
え!? 適性魔法が悪いだけで、学校で虐められるのか? いやいや、だって魔法が使えなくたって世の中で活躍する手段はたくさんあるだろ?
いや……これは、大人の意見か。子供というのは、時にして大人よりも残酷になる。小学校で運動神経が良い男の子が人気者になる、それと原理は同じだろう。
はぁ、どの世界でも弱い者いじめはあるんだな。まあ、見た目も中身もほとんど同じの人間なわけだし、そんなものか。
そんな人に対する失望を抱いていたら、やっと大きな街と城が見えてきた。
「おっ、帝都が見えてきた! それじゃあ、このまま教会に向かうぞ」
父さんの言葉通り、帝都に入るとそのまま帝都の中心に進んで行き、立派なお城の間近にある教会に到着した。
そして、中に入ると神父らしき人が父さんに話しかけて来た。
「お久しぶりでございますフォースター公爵様。本日は、お子様のステータスカードでしょうか?」
「ああそうだ。さっそくいいかね?」
そう言いながら、父さんが握りこぶし程の中が詰まった袋を渡す。
袋を受け取った神父は、思っていたよりも重かったのか貰った袋を二度見していた。
どうやら父さんは、相場よりも高いお金を神父さんに渡したようだ。
「こ、こんなにもたくさんありがとうございます。では、さっそくやってしまいましょう」
父さんに丁寧に礼をして案内を始めた。
どの世の中も金が全てななんだ。神父の態度の変化に、しみじみとこの世界の摂理を感じさせられた。
それから、地下の部屋に案内された。
その部屋には、膝を地面につけて両手を差し伸べている女神の像があった。
これは……なんの部屋だ? まさか、この何もない部屋で適性魔法がわかると言うのか?
「それでは女神様の像に触ってください」
女神像に触る? ああ、これは神への感謝とか祈りを捧げる儀式てきなものなのか。
この後、他の部屋で適性魔法が教えられるのかな?
そんな理屈を頭の中で組み立て、俺は神父に言われるがままに女神の像を触ってみた。
すると、女神からとても強い光が発せられた。
「な、なんだ!? この光は!」
あまりの強さに、俺は目をつぶってしまった。
これは、何かの魔法なのか? もう、何が起こっているのかはさっぱりわからない。
とりあえず、光が落ち着くまで待つしかない。
それから、この光は約1分程続いた。
やっと光が弱まり、目を開けると女神の手に1枚のカードが光っていた。
まさか……女神像にカードを作る能力があったとは。流石魔法の世界、俺を驚かせてくれるじゃないか。
そんなことを考えながら、できたてのカードを恐る恐る持ってみた。
すると……カードはいきなり光と共に消えてしまった。
「え!? 消えた!」
「先程のカードを出ろと念じてみてください」
カードがいきなり消えてしまったので驚いていると、神父さんが教えてくれた。
俺は神父の言われるがままに念じてみた。
(出ろ!)
すると、さっき馬車で父さんがやっていたように俺の手から白いカードが出て来た。
これがステータスカードというやつか……。
さて、俺の適性魔法は何かな?
レオンス・フォースター Lv.1
年齢:5
種族:人族
職業:創造士
体力:5/5
魔力:4650/4650
力:3
速さ:4
運:1000
属性:無、創造
スキル
鑑定 創造魔法Lv.1
無属性魔法Lv.1 魔力操作Lv.4
称号
異世界の記憶を持つ者
魔法使い
俺は、このステータスをしばらく眺めてしまった……。
魔力と運がおかしすぎるだろう!
まだ魔力の方はコツコツと鍛錬してたからまだ納得は出来るが……どうなってんの普通の100倍の運って?
それに創造魔法って……凄くレアな適性魔法な気がするぞ。だって、名前からして何でも創造できそうな魔法なんだから。
「どうだったんだ?」
俺があまりにも長くステータスを見て黙っているからか、心配そうに父さんが聞いてきた。
俺はニコニコで2人にカードを見せた。
カードを見せられた2人はしばらくステータスを眺め、とても驚いた顔をした。
「魔力がおかしすぎるだろう。すでに俺負けてる……」
「あら、運だけは誰にも負けないと思ってたけどこれにはかなわないわ……」
二人とも、言葉通りの信じられないという顔をしていた。
しかし、しばらくすると母さんの顔色が変わってきた
「え、これ……適性魔法が……」
母さんがそう言いながら凄く残念……いや、悲しそうな顔をしていた。
ん? 俺の適性魔法、何かおかしいか? ちゃんと、魔法の適性はあったよな?
「そんなことを言うな……。レオは……魔力の量が多いから、無属性を極めればきっと最強の剣士になることが出来る」
いやいや、それフォローになってないから! つまり、俺には魔法使いとしての見込みなしってことだろう?
え? なんで父さんも母さんも、俺の適性魔法がとんでもないハズレみたいなことを言っているの?
普通は創造魔法って喜ぶものじゃないの?
「創造魔法って弱いの?」
二人の反応になんとなく察しはついていたが、それを聞かずに認める訳にもいかず……俺は意を決して2人に聞いてしまった。
さて……俺の創造魔法はどんな魔法なんだ?
「あ、ああ……創造魔法はな。ユニーク属性の中でも珍しい属性なのだが……簡単な物しか造れないので弱いとされているんだ……」
珍しく歯切れの悪い父さんは、言葉を選びながらも最後は包み隠せず事実をありのまま教えてくれた。
そ、そんな……。
これまで魔法を使うために、あれだけ努力をしんだぞ? それなのに、魔法が使えないなんて……。
そんなのあんまりだ。あんまり過ぎる。
「がっかりするな。魔法を使えない人だってたくさんいる。だから他を極めろ」
父さんが俺を励まそうとするが、俺の耳には全く届いてはいなかった。
魔法を使える人は一握り、少し前の自分もそう考えていたのに……よく考えれば俺がその一握りに入れるとは限らないんだよな。
はあ……どうやら、魔法を使えないという事実は、俺が思っていた以上にショックだったようだ。
次は勇者と魔導師が出てきます