第三十八話 決着の時
SIDE:カイト
どうやら、レオたちは俺とグルは時間稼ぎしかできないと思っているみたいだ。
ふん。お前ら、俺たちを甘く見るな。俺とグルだって、ただ歳を取ってきたわけじゃないぞ?
「暇な俺たちが十年かけてこっそりと開発した、俺たちにしかできない連携技を受けてみろ!」
そう言いながら、俺は限界突破を発動し、全力の電気魔法を体に纏わせる。
これで、俺の準備は万端だ。
「ふん。魔王のコピーと勇者ごときが今の私に勝てると思うな!」
「果たして本当にそうか? グル! 行くぞ!」
「了解だ!」
俺の指示を受けて、グルが悪魔の周りに空間の穴をたくさん開けた。
「ん? こんな空間の穴を開けたところで何がある?」
「この技……あっちの世界の漫画やアニメだと定番の技なんだけどな……。もしかして、あまりそういうのは読んでなかった人か?」
それじゃあ、わからないだろうな。
「カイト! 行け!」
「おう! 俺たちの魔力が先に尽きるか、お前が俺の剣に突き刺されるからの勝負だ!」
そう言って、俺はグルが開けた穴に飛び込んだ。
それからは、何も考えずに全速力でただ直進するのみ、方向や角度は全てグルが調整してくれるからな。
そんなことを考えている間に、少しだが剣に手応えを感じる。
この剣で傷を負えば、絶対にその傷はスキルでは治せない。
どんどん傷が蓄積されていくことだろう。
「こざかしい真似を……。これくらい……この体なら簡単に治せるぞ!」
「フハハハ! それなら、致命傷を負わせるまでだ! 俺の空間魔法は、お前を拘束できることも忘れるんじゃないぞ!」
グルが空間の穴の数を減らし、悪魔の動きを魔法で押さえつけた。
どうやら、削り殺す作戦から致命傷一点狙いの作戦に切り替えるみたいだ。
「ふん。それなら、当たる前にお前を先に殺してやれば良いだけだ」
そう言って、グルに向かって光線を撃った。
「おいおい。俺にそんな魔法を撃って良いのか?」
グルがそう言ってニヤリと笑うと、自分の目の前に空間の穴を開けた。
そして、その穴の先は悪魔を囲む穴の一つと繋がっていた。
つまり……悪魔は、自分で自分を撃ち抜いてしまった。
「ぐあ?」
「隙あり!」
避けられて、致命傷は与えられなかったが、腕一本を切り落とすことに成功した。
「くそ……」
「俺たちを侮った罰だな。この調子で、お前を削り殺してやる」
「この程度の実力で俺の腕を……。お前たちは、楽に死ねると思うなよ? 四肢をちぎってから殺してやる!」
「ふん。まだまだ続くぞ!」
「そう何回も同じ手は食らわん! 叩き潰してやる」
「グハ……」
完全に見切られ、叩き落とされた。
「これで止めだ。死ね!」
ガキン!
「ギリギリセーフだな」
悪魔が振り下ろした爪をレオが剣で受け止めた。
くそ……。結局、俺たちができたのは時間稼ぎだけだったな。
SIDE:レオンス
カイトたちのおかげで、俺はなんとか完全復活を遂げることができた。
そして、命までかけて俺に命運を託してくれたミヒル夫妻の期待に応えないと。
「よりにもよって……お前に何ができる? 私にとって、この中ではお前が一番驚異じゃない。黙って死にかけていればいいものを……そんなに死にたいか?」
「お前、さっきから小物な悪役が言いそうな台詞しか言ってないぞ? 本当にラスボスか?」
「私が小物だと? ふん。好きに言っていれば良い。お前は、その小物に殺されるのだからな!」
「それと、俺最強みたいな雰囲気を出しているけど、もう何回負けているんだよ? その体だって、既に右腕がないし、とても強そうに見えないんだけど?」
「ふん。そんな挑発には乗りたくはないが……良いだろう。そこまで死にたいなら、私の全力を持ってして、お前を殺してやる!」
ビキ、ビキビキ……。
挑発に乗りたくないけど乗ってやるという矛盾したことを言い放つと、悪魔から角と羽が生え……口からは立派な牙、尻からはドラゴンに似た尻尾が生えてきた。
『グルアアアアア!』
「まさに悪魔……化け物だな」
『フハハハ! この体で、狂化、魔人化、獣化、竜化を重ねがけしても、寄生している私には一切デメリットを受けない! これで、お前は死ぬ!』
別に聞いてないのに、どんなスキルとからくりを全て教えてくれた。
さっきから、その慢心に何度も足元をすくわれているのに学ばないな。
「確かに……このまま戦えば俺は簡単に殺されてしまうだろうね」
『ククク……。今さら命乞いをしても遅いぞ!』
「やっぱり……お前って小物だよ」
強そうな見た目しているのに、まったく強く感じないんだもん。
『なんだと? あまりの恐怖に頭がおかしくなってしまったか?』
「レオ! 受け取って!」
お、やっときた。
「サンキュー。ほら、俺を侮って会話に付き合っていたから、俺はお前を殺す手段を手に入れてしまったぞ。もしかしてお前、破壊士の中に入っているときも戦いは彼女に任せていたな? 戦い慣れてないのが露見しているぞ」
そう言いながら、ルーから受け取った魔石を見る。
これが破壊士の魔石か……。一度も顔を合わせてないのに、使わせて貰うのはなんか申し訳ないな。
ちゃんと立派なお墓を用意して、ミヒルと一緒にしっかりと拝ませてもらうとしよう。
『ふ、ふん。そんな魔石を手にしたことで何が変わる!』
「さて、どうだろうね? まあ、すぐにわかるよ」
『くそ……なら! 創造魔法を発動する前に殺すまでだ!』
ドッゴン!!
俺の目には追えない速さで悪魔が向かって来るが、魔王は俺の目の前に現れた結界に衝突した
『まだ邪魔をするか……。いや、どうして……今のお前にここまでの結界を出せる魔力なんて……』
「エルフの秘術よ。まあ、そんなのもすぐに理解できないようじゃ、小物と言われても仕方ないわね」
たく……俺は本当に情けない。ローゼ、すまん。
これ以上ローゼの寿命を減らさない為にも、急いで創造魔法を完成させるぞ。
『くそ……お前に構っている時間はない。早く結界を破らなければ!』
そう言って、悪魔が結界への攻撃を再開するが……もう遅い。
「惜しかったな。チェックメイトだ」
悪魔があともう少しで俺に攻撃が届く、というタイミングで俺の創造魔法は完成した。
俺が創造した空間が俺と悪魔を飲み込んでいく。
『フハハハ。私をこんなところに閉じ込めてどうすると言うのだ! お前を殺せば、簡単に出られるだろう?』
「出来るものなら、殺してみるんだな」
『ふん。それなら、望み通り殺して……なんだ? 体が……』
「どうだ? 体が動かないだろ?」
動かない体に、首を傾げる悪魔に俺はニヤリと笑った。
『どういうことだ?』
「悪魔が寄生した生物は身動きが取れない。そういうルールだからだよ」
『なんだそれは?』
「創造魔法の奥義……それは、自分だけの世界を創造することなんだよ。お前たちが世界にルールを課せるように、俺はこの世界の中だけなら自由にルールを決められる」
もちろん。こんな大それたものを簡単に造ることはできない。
今回成功できたのも、ミヒルたちと精霊の魔力、破壊士の魔石があったからできたことだ。
世界でも有数の魔力所有者たちの魔力を集めてやっと発動できる、必要な魔力とできることが釣り合っているのかは謎だ。
まあ、コスパ最悪で有名な創造魔法の奥義にふさわしいしけどな。
『そんなことがあってたまるか! そんなことが……そんなことが……』
「これを唯一抜け出せるのは……世界も含めて、全てを破壊できる破壊士だけなんだよ。破壊士か、ルーの体から出ていなければ、お前は俺に勝てたかもしれなかったというのに……残念だったな」
コロコロと乗り換えているからそういうことになるんだ。
そんなことを思いながら、カイトから拝借した剣を持ってゆっくりと悪魔に向かっていく。
『ま、まだだ! 俺にはこいつらがいる!』
悪魔が召喚したのか、作り出したのかわからないが、黒い複製士とバルスが現れた。
「まだ悪足掻きをするのか」
『ふん。こいつらにお前は勝てないだろ? フハハハ! 仲間に殺されるんだな!』
そう勝ちを確信して、何度失敗していると思っているんだ? 相変わらず、学ばないな……。
「先生、やっちゃってください」
(は~い。ステータス解除! 皆が平等な世界に戻れ~!!)
先生が俺の体の中でそう叫ぶと、急にバルスと複製士の動きが鈍くなった。
『な、なんだ? どうして、こんなにも二人が弱くなっているんだ? お、お前! 何をしたんだ!?』
「教えてやるかよ」
「く、くそ! こうなったら! 俺のスキルを二人に付与して……」
「これ以上、私の師匠とその最愛の人の命を弄ばないでもらいたい」
悪魔が次の一手を出すよりも速く、隠密で隠れていたおじさんが二人の首を切り飛ばした。
「お、お前は!?」
「流石~。ステータスの概念がなくなってしまえば、技量の勝負になるからね。この世界で最強は、おじさんなんだよな~」
ちなみに、めちゃくちゃ俺スゲームーブをしているが、実を言うとここまで全てミヒルに教わった作戦通りとなっている。
あの人は、予知の魔法アイテムでも持っていたのだろうか? 本当に信じられない。
『く、くそ……こうなったらこの体ともおさらばだ!』
あらら、最後までミヒルの読み通りの行動しかできなかったな。
せっかくの立派な体を捨てて飛び出す悪魔を見ながら、ミヒルの凄さを改めて実感した。
「逃がしません!」
「お、お前は……」
悪魔が出たのを見て、俺の中にいた先生が飛び出して悪魔を取り押さえた。
「はじめまして。急なお願いで悪いのですが……私と死んで貰って良いですか?」
「な、何を言って……お、お前!!」
「あ、気がつきました? そうです。今、最後のルールを制定させて頂きました。私とあなたが同時に死んだとき、これまで私たちが定めたルールが全て無効になります。これで、転生者はもう生まれませんし、転生者は殺し合う必要がなくなりますね。ふふふ』
どうやら、先生がずっと隠し持っていた、とっておきを無事に使うことができるようだ。
これで、めでたしめでたしだな。
『お、お前も……死ぬんだぞ?』
『教え子たちが皆死んでしまったというのに……私たち教師だけ生きているわけにはいきません。潔く、一緒に死にましょう?』
『くそ! くそ!』
バタバタと暴れるが、先生に上から乗っかられた状態の悪魔は何もできないようだ。
「それじゃあ、これがこの世界の崩壊スイッチだ。これを押せば、この小さな世界と一緒に全てが消滅するようになっているよ」
そう説明して、世界を壊すにはとても安っぽいボタンを先生に渡す。
『ありがとうございます……。お二人は、早く逃げてください』
「そうさせてもらうよ。それじゃあ」
『ええ。レオさん、お元気で……』
ボタンを受け取った先生に手を振り、俺はおじさんの手を掴んで手を振った。
「レオ!」
「お父さん!」
「うお」
帰って来ると、シェリー、ネリア母娘にタックルされ、押し倒された。
「帰ってきたってことは、悪魔に勝ったんだね?」
「ああ……やっと長い長い戦いが終わったんだ」
そう言いながら、俺を囲うように立っている皆の顔を一人一人見ていく。
リーナにローゼ。ベルにルー。キールにグル、カイト。
たくさんの犠牲はあったし、皆が無傷というわけでもないが、船に乗ってきたメンバーが全員無事で本当に良かった。
これにて決着!
明日、エピローグを投稿してこの作品は完結となります。
もう少しだけお付き合いください。





