第三十話 破壊の起源②
「フハハハ。俺はお前のことが気に入ったぞタツヤ! 俺はお前を友にしてやる!」
転校生がエタノールの霧吹きとトイレットペーパーで私の臭い机を拭いてくれていると、クラス一の変わり者である猪口くんが転校生に話しかけてきた。
「ん? なんだお前? 友達になりたいなら、掃除を手伝え」
「わかった! 友として手伝おうじゃないか!」
転校生の言葉に、猪口くんまで机を拭き始めてしまった。
そして、もう一人。
「お、俺も手伝わせてくれ」
学級委員長の門井くんが意を消したように私の机に来て、机を拭き始めた。
「おい! トオル! お前、またどうなっても知らねえぞ?」
流石に、門井くんも転校生側になられるのは困るのか、いじめの主犯格である山平が門井くんを脅す。
いつもなら、脅しに屈して自分の席に戻ってしまう。
「……」
しかし、今回は無視し、震える手で机を拭き続けていた。
「おい!」
「……良いのか? 今のやり取りを見ている感じ、お前もいじめられている側だろ?」
「別にいじめられているわけじゃないよ。まあ、たまにお金は取られるけど」
「それも十分ないじめだろ……。というか、立派な犯罪だ。警察に行った方が良いぞ?」
「中倉さんを見殺しにしていた僕にそんなことする資格はない」
「何を言っているんだが、それこそ見殺しだろ。別に、全て一人で解決するのが正義のみかたじゃない。そうだろ?」
「フハハハ。俺は魔王になる男だ! ただの弱き者を助ける義理なんてない!」
「うん?」
「あ、こいつ厨二病を患っていて、たまにこういう発作が出るんだ。だから……ほっといてやってくれ」
「な、なるほど……」
「それで、金を取られたみたいな証拠とかないのか?」
机が拭き終わり、トイレットペーパーとエタノール霧吹きを片していると、転校生がまた門井くんがお金を取られていたことについて聞き始めた。
「中倉さんが見ていたくらい……」
「そうか。あいつら、お前から金を奪って遊んでいたんだろ?」
「ああ、毎日カラオケとかゲーセンとか行っているみたいだ」
「それなら、出所不明の金で豪遊していたことと……トオルが金を奪われたことを結びつけられるかな?」
「さっきから何を考えているんだ?」
「えっと……」
「おい! お前ら、さっさと教科書を出して席に着け!」
門井くんの質問に転校生が答えようとすると、国語の先生が入ってきた。
「あ、話はまた放課後にでもしよう」
「わかった」
「秘密の会議だな。せっかくだから、俺も参加しようじゃないか」
こうして、なぜか放課後に私たちは集まることになってしまった。
キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン♪
「それじゃあ、今日も気をつけて帰れよ。掃除当番は……美保、頼んだ。それじゃあ、気をつけて帰れよ」
帰りのチャイムが鳴り、今日は少し躊躇いながらもいつもどおり私に掃除当番を押しつけると、先生はそそくさと教室から出て行ってしまった。
「いつもあんな感じで掃除の当番を押しつけられているのか?」
「う、うん……」
いつもはもっと面倒。とは言えず、私は無難に頷いておいた。
「なるほどな。朝のいじめの流れがなんとなく理解できたよ」
「……ごめん」
「どうしてお前が謝るんだ?」
謝る門井くんに、転校生は首を傾げる。
「本来なら、学級委員長の僕はこんないじめをやめさせないといけないんだ。僕がもっと強ければ……」
「馬鹿だな。相手は集団なんだから、一人でどうにかできるかよ」
「なら、君だったらどうする?」
「うん? 簡単なことだ。大人に頼る、だ」
「で、でも……先生に言っても喧嘩なんて子供なんだからよくすることだろ。って、言われて聞いてもくれないよ?」
「ああ、それは相談する大人が悪い。あの先生もクズだからな。クズにクズの相談をして、解決するわけがないだろ?」
「……なら、どうやって?」
「こういうのは、親が手っ取り早い。お前の親、何やっているの?」
「どっちも医者だ」
門井くんの親は、ここら辺でも有名な診療所を経営するお医者さんだ。
「なるほど、そりゃあ金を集られるわけだ。魔王の親はなんだ?」
「フハハハ! 聞いて驚け! 魔王の最大のライバルである、正義の味方だ!」
「……うん。聞いた俺が馬鹿だったよ。トオル、魔王の親が何をやっているのか教えてくれ」
猪口くんのよくわからない発現に、転校生は諦めて門井くんに助けを求めた。
「たしか、健司の親は警察だったはずだ」
「なるほど。それじゃあ、トオルは自分の口で親に、俺が今から手紙に書くことを説明してくれ」
「わかった」
「魔王は、俺が書いた手紙を親に渡してくれれば良い。それと、手紙について聞かれたら、自分の考えとは合わない悪の組織と現在衝突しているとでも言っておけ」
「フハハハ。任せておけ! それで、あの邪魔者たちは消えるなら、喜んで協力しようじゃないか!」





