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継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十四章 最終決戦編

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第二十八話 因縁の相手

 

SIDE:ダミアン

 今頃……師匠(バルス)は因縁の相手と戦っているのだろうか?

 まあ、あの人のことだから心配する必要もないだろう。それより、自分の戦いを優先だ。

 そんなことを考えながら、目の前の敵に目を向ける。


「久しぶりだな。聖都以来だから、二十年ぶりか? 随分と老けてしまったな」


「そりゃあな。今年で私もお前も五十八歳。普通ならとっくに戦いからは退いていておかしくない歳だ」

 気がつけば、死んだ父親と同じ歳だ。

そりゃあ顔にしわが増えるし、頭は白く染まってしまうのも仕方ないだろう。

 そんな私に対し、同い年の元ライバルはあの時とまったく変わらない……三十前後の見た目をしていた。

 どうやら、アレンは人であることもやめてしまったようだ。


「ダミアンも俺みたいに、若返りとかすれば良かったのに。その体、不便すぎるでしょ。お前の甥ならできるんじゃないか?」


「ふん。その体……どうやって手に入れたかは知らないが、私の心配は無用だ」

なぜなら、お前に勝てると思ったからここに来たのだからな。


「ハハハ。まあ、俺としてはお前が強ければなんでもいいや。それと、この体の秘密は……悪魔に魂に手に入れた、とでも言っておこう」


「悪魔……。それについても、お前から聞き出さないといけないな」

 レオくんたちの話を聞いていたが、まだ悪魔の正体や詳しいことはわかっていないようだ。

 ここで、アレンから聞き出せれば、今後の戦いがかなり楽になるかもしれない。


「出来るものならやってみることだ。二十年前を忘れたわけではないだろ? お前は何もできず、俺に敗れたじゃないか」


「ふん。二十年前の私と同じと思わないことだ」

 さっきからいろいろと心配させて悪いが……約六十年、その中で私の強さが衰えたことはない。私は常に、今が一番強いのだよ。


 余計な会話を済ませた私は、三十年愛用している魔剣を引き抜き、まっすぐアレンへと向かう。


「おお……いつかの戦いみたいに、魔法の打ち合いはしないんだね」


「この歳で、若いままのお前と魔力勝負に勝てるはずがないからな」

 そう言いながら、私は影の中に身を沈める。

 その間も、速度を緩めずに影はまっすぐアレンへと向かわせる。


「影魔法か……久しぶりに見たな。でも、その魔法は隠密には劣るよね?」


「私もそう思っていた時期があったよ……」

 影の中で準備を終えた私は影から飛び出し、雷魔法で加速した投げナイフを次々と投げていく。


「へえ。少ない魔力で工夫するものだね」

 余裕な表情で、ナイフをしっかりと避けていく。

 剣で弾いて感電してくれれば、それで戦いが終わったんだけどな……。


「工夫を馬鹿にしない方が良いぞ。工夫が積み重ねれば、どんな相手も初見では回避できない大技に化けるのだからな」

 そう言っている傍から、俺がアレンの足を狙ったかのように投げたナイフがアレンの影に突き刺さった。


「ぐう……くそ。そんなこともできるのか」


「影魔法による攻撃を影に受けると、その影の持ち主に同等のダメージを与えられる。どうだ? 影魔法も捨てたものじゃないだろ?」

 刺さったのは左肩か……足を狙ったんだけどね。まあ、傷を負わせただけでも上出来だろう。


「こうなったら近づいて接近戦に持ち込みたいところだが……たぶん、右腕だけでどうにかできるほど、今のダミアンは甘くないだろうな。はあ、これは敗色濃厚だね」

 そう言いながら、ダミアンは程よい距離を保った中距離で戦う選択を取った。

 魔法で牽制しながら、少しずつ私の体力か魔力が切れるのを待つと言ったところかな。

 年老いた私の方が魔力も体力も少ない。だから、その選択は正解なのかもしれない。ただ、正解を選んでいるだけでは、今の私は倒せないぞ。

 私は、必要最小限の魔法でアレンの魔法を打ち落としていき、避けきれない魔法は影に沈むことで回避し、アレンに接近していく。


「無駄のない達人技だな。これは、お手上げだ」

 アレンが剣を落とし、手を上げたときには既に私の剣がアレンの首に当てられていた。


「二十年前の雪辱を果たせたな」


「そうだな。こっちは若い体のままだった分、倍返しをされた気分だよ。あ~悔しい」


「そういう割には。悔しがっているようには見えないぞ?」


「それは……おっと、あっちで誰かが死んだみたいだ。これは……一気に形成が傾くぞ。それじゃあ、またな」

 何かに気がついたような素振りを見せ、油断した私を蹴飛ばすと、アレンは隠密を使って気配を消しながらどこに行ってしまった。


「アレン! くそ……あっちって言ったか?」

 あの方向は……師匠、その先にはレオくんたちがいる方向だ。

 さっき……誰かが死んだと言ったな?


「これは、急いだ方が良さそうだ」

 レオくんたち……頼むから無事でいてくれ

 皆、私よりも若いんだから死ぬなんて許さないぞ。


SIDE:ミヒル


「いや~、出会い際に破壊されなくて助かったよ」

 そう言いながら、ダンジョンの壁に拘束した破壊士ことルーベラに笑いかけた。

 まあ、目隠しもしているから、彼女が俺の笑顔を見ることはできないんだけど。

 そんな矛盾に心の中で笑いながら、千年来の宿敵を上から下までもう一度よく観察する。

 本当に生きているのが不思議なくらいボロボロだ。

 根本から折られている角なんてまだ可愛い方が。

 左手はひどい火傷で使い物にならず、右足は太ももを半分残してなくなっており、呪いなのか……全身には黒い斑点が広がっていた。


「一応、破壊したよ。何故か服すら壊れなかったけど」


「レオが面白い鎧を発明していてね。それを参考にして、このローブを創造したんだ。ちゃんと破壊魔法を打ち消してくれて良かったよ」

 言われてみればそうなんだよ。破壊魔法が結界を壊せないのは知っていたのに……。はあ、年を取ると頭が硬くなって嫌だね。


「私に壊せない物なんてないはずなのに……」


「いや、壊せてはいるよ。あの出会い際で、俺のお気に入りのローブはボロボロだ。あと一回でも破壊されていたら、俺は体ごと破壊されてしまうだろうね」

 そう言いながら、自分のローブを見る。ところどころ穴が開いており、引っ張れば簡単に破れてしまうくらいボロボロだ。

 昨日急ごしらえで創造したとは言え、久しぶりに気に入ったデザインだったのに……。

 まあ、また造れば良いか。


「それならこの拘束と目隠しを取ってよ。それか、魔力の気配を消すのをやめて。そしたらすぐに破壊してあげるから」

 それは俺に死ねと言っているのか?


「ハハハ。千年も会わない間に、面白い冗談を言うようになったね。もうダンジョンに拘束されてしまった以上、君はどう頑張ってもその拘束を解くことはできないよ」


「どうして? こんな壁、いつもなら簡単に壊せるのに」

 そう言いながら、ルーベラはぐいぐいと壁に埋まった両腕を抜き取ろうと奮闘していた。


「無駄なんだよ。この中に入れば力は弱まるし、魔法を使おうとした瞬間に魔力がダンジョンに吸われてしまう」

 これは、君を拘束するためだけに創造されたダンジョンなんだ。

 誰かが助けに来ない限り、抜け出すことはできないよ。


「こんなことできるなら……今までどうして引き籠もっていたの?」


「いや、こんなことはできなかったよ。ある人から助けを得られなかったら、俺は魔法も使うことはできなかったんだから」

(そうそう。先生に感謝しなさ~い)

 頭の中で上機嫌な声を響かせる先生は無視し、俺は会話を続ける。


「それで、さっそく本題に入るんだけどさ。どうして君はそんなに人や物を壊せるんだい? 少なくともミホは……そんな人じゃなかった。やっぱり、悪魔のせいなのか?」

 答えてくれるとは思えないが、回りくどく聞いている時間もないから最初から直球ど真ん中の質問をした。


「……やっぱり、あなたは何も知らないのね」

 意外なことに、ルーベラは答えてくれそうだった。

 そして、何も知らないことを指摘が心にぐさりと刺さった。


「ああ、俺は無知だ。昨日まで、自分が何のために戦わされていたのかさえ知らなかった愚かな男だよ」


「そういうことを言っているんじゃない。私はあなたに裏切られた……だから、私は全てを壊したいと思った。それだけよ」


「どういうことだ? 俺が何をしたというんだ?」

 裏切った? 俺がいつ、君を裏切ったというんだ?

 確かに、こっちの世界に来てからはずっと敵対してきたが、それは君がたくさんのものを壊すからじゃないか。


「はあ、良いわ。千年ぶりに会った初恋の相手だもの……忘れていても一から教えてあげる。長くなるけど、全部聞く?」


「ああ、教えてくれ。君が何に対して怒っているのか、俺のどんな行動が君を裏切ってしまったのかね」

 これが時間稼ぎの作戦だったとしても、俺はルーベラの……美保の……前世で愛していた人の考え、気持ちを知りたかった。

                                             


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