第二十五話 いざ開戦
SIDE:レオンス
ルーが起き、体も心も問題なさそうということで、予定通り開戦することとなった。
そして今、俺たちは装備を整え、最後の確認をしていた。
「皆、準備は良い?」
そう皆に確認を取るミヒルの装備は、思っていたより普通ないつもの服装に全身を覆うタイプの魔法使いがよく着ているローブだった。
まあ、ミヒルのことだから、ただのローブのわけがないだろうけど。
「いつでもオッケーだ!」
ちなみに、俺の装備は高純度のミスリルで造った全身鎧だ。
機動力は落ちてしまうが、ルーが全力で放つ破壊魔法を五回耐えることができるほど、防御力が高い装備となっている。
ミヒルがダメだった時、次に戦うのは俺になるだろうからな。破壊魔法の対策は必至だ。
「俺たちも準備完了だ」
グルは死んでも良いからいつも通り。カイトもスピードを落としたくないということで、ミスリル鎧を拒否した。
「私たちもいつでも行ける」
シェリーたちは、もちろん鎧を着させた。
ルーだけは、獣化するのに邪魔ということでいつもの冒険者の格好となった。
「バルスたちも結界を解いて大丈夫か?」
「え? バルス?」
どこにいるんだ? と思った瞬間、俺の影から相変わらず憎たらしい顔をした男が出てきた。
おい。俺の影に隠れていたのかよ。
「もちろんで~~~す。いつでも~~~戦えま~~~す」
話し方も相変わらずだ。
「だから、私の近くで変な話し方をするなって言っているでしょ」
「複製士……」
同じように、複製士が俺の影から現れた。
いや、二人も俺の影に隠れていたのかよ!
「教国以来ね。子供も生まれて、幸せそうで良かったわ」
「う、うん」
俺の影に二人もいたことの衝撃が大きすぎて、あまり複製士の声が頭に入ってこなかった。
「よーし。それじゃあ、全員持ち場に着こう! ローゼ、僕が念話で支持を出したら結界を解いてくれ」
「わかった」
「それじゃあ、皆生き残ってまたここで会おう」
『おう!』
SIDE:ミヒル
(オッケー。ローゼ、結界を解除してくれ)
(了解。すぐに消えるわ)
ローゼがそう言うと、本当にすぐ結界が消えていった。
俺は結界が消えきるのと同時に、全速力で森に向かって駆け抜けた。
破壊士以外は興味ないから、途中に出てくる魔物たちは全て無視だ。
「それにしても……とんでもない量だな。これ、全て悪魔が用意したのか?」
(そうですね。この世界に魔物と魔族という生物を造ったのは彼ですから)
俺は独り言のつもりだったのだが、体の中にいる先生が反応してくれた。
そして、今さらになって衝撃の事実を教えてくれた。
「先生たちにはそんな能力があるのか……」
(いえ、私はそんなことできませんよ? 私がやったのは人々にステータスという概念を与えただけです)
「あの頭のおかしいステータスは先生の仕業だったのかよ!」
いや、先生が犯人ならむしろ納得できるか。
神がステータスを用意していたとしたら、絶対にあんな意味不明な仕様にはしなかっただろう。
(しょ、しょうがないんです! 私は人族が強くならないと魔物に勝てないと思って……はい、私もやり過ぎだったと思います)
「どうして修正したりしなかったんだ?」
(更に悪くなるのが怖かったんです。だって、失敗してもし人々が弱くなったらたくさんの人が魔物に殺されてしまいますもん。それに、魔力以外のステータスは一万を越えると実際には反映されないことがわかったので……修正する必要もないと……)
「あれのせいで、俺の鑑定の使い道が減ったんだけど?」
転生者たちのステータス、※ばかりで、最初の二十年くらいで鑑定が活躍する機会が減ってしまった。
これは、俺だけが不利になったと言えるんじゃないか?
(ご、ごめんなさい……)
「冗談だよ。俺は気にしてない」
「何を気にしてないの?」
「うん? ああ、この千年の苦労を気にしてないって言ったんだ……よ!」
不意をつくように現れたルーベラを見て、俺は動揺することなくダンジョンを創造した。
SIDE:ベル
ローゼの結界が消え、ミヒルさんとバルスさんたちが一足先に森の中に入っていくと、それと入れ替わるようにたくさんの魔物たちが押し寄せてきた。
それに対して、私たちは二人一組で円になって魔物の包囲網に対応していた。
こういう時は一点突破で包囲を抜け出すのが定石だけど、今回に限っては一箇所に固まっていると破壊魔法で全滅させられてしまうから仕方ない。
というわけで、私はリーナとペアになって南東方向の魔物たちを一掃することになりました。
「慌てる必要はありません。私たちなら倒せる敵です。落ち着いて対応しますよ」
「はい」
「まあ、ベルさんならこんなことを言う必要もないんですけどね」
「いえ、私もリーナさんが一緒なので安心して戦えますよ」
そう言いながら、私は手足を獣化させる。
そして、次々と目に入った魔物たちの喉を爪で切り裂いていく。
久しぶりの実践だけど……普段からダンジョンに潜っていた分、そこまで感は鈍ってなさそうね。
私が取りこぼしても、リーナさんが眠らせてくれ眠らせてくれるから大丈夫。
そう安心していると、右斜め上空から鋭い魔力を感じた。
すぐにその方向を見ると、黒い狼が私に向かって飛んできていた。
『グルアアアアア!』
あれがキールくんを襲ったという黒狼ね。
「危ない!」
「大丈夫です」
私はすぐに全身を獣化し、緊急回避した。
イタタ……。避けきれませんでしたね。
脇腹が抉られてしまったようです。
「大丈夫ですか?」
(はい。すぐに治して貰えたので、そこまで痛みも感じませんでした)
リーナさんの心配そうな声に、黒狼とにらみ合いながら念話で答えた。
「あれが……キールくんを襲ったという狼ですかね?」
(はい。たぶんですが……あれ、獣魔法ですよ)
あの狼からは。獣や魔物と違った匂いがする。
一番近い匂いは……そう、ジルだ。
「え? ということは、獣人!?」
(知性は感じられませんし、破壊士のように操られている可能性が高いです、ね!)
今度は、回避に成功した。
よし、大丈夫。私もスピードには自信があるんだから。
と言っても、これから長期戦になるかもしれないのに、ここで一か八かの勝負をする必要はない。
(リーナさん、南のネリアか東のローゼに応援を要請してください)
私は、一対一で戦うのを諦め、安全策を取ることにした。
「わかりました。魔物の方は、私が一人で眠らせて時間を稼げますので、気にせず戦ってください!」
(ありがとうございます)
それじゃあ、ローゼたちが来るまでスピード勝負をするとしましょうか。
SIDE:メイ(複製士)
「あいつ……どこにいるのかしら?」
私は、森に入ってからずっととある男をずっと捜し続けていた。
あいつだけは、絶対に私が殺すと決めている相手だ。
魔法アイテムによると、ここら辺にいるらしいんだけど……。
「あ、やっと見つけた」
「奇遇だな。俺もお前を探していたんだ。なんせ、ずっとずっとずっと俺はお前が殺したくて仕方がなかったんだからな!」
私が殺したかった男は、持ち前の気持ち悪い顔を更に気持ち悪くしながら、気持ち悪い言葉を吐いていた。
通称……ゴブリン王。本名は知らないというか、知りたくもない。
このゴブリンがずっと殺したくて仕方がなかった男だ。
「私を殺したかったら、殺しに来れば良かったじゃない。まあ、卑怯で度胸のない醜いあなたにはできないでしょうけどね」
「俺を醜いって言うなああああ!」
この男、醜い見た目をしておきながら、醜いと言われるのをもの凄く嫌う。
そんな姿が更に醜く感じさせらるから、私は再度教えてあげる。
「どう見たって醜いでしょ。とても人とは思えないわ。どう見ても、頑張って人の格好をしているゴブリンにしか見えないわ」
「お前……絶対に殺してやる」
「それも口だけよ。あなた、そう何度も言っているけど、一度も私を殺そうとすらしなかったじゃない」
「それは……仲間同士の殺し合いは……」
「それを理由にして、本当は私と戦うのが怖かったんでしょ? あなたは所詮口だけじゃない」
「違う! 俺はたくさんの人を殺してきた!」
ふふふ。何それ、面白い冗談?
「今まであなたが殺してきた転生者たち、生まれたばかりの子供か、私たちが弱らせたのを横取りしただけ。卑怯で度胸のない醜いあなたは、一度だって正面から戦ったことがない」
「醜いって言うな……」
「何度だって言ってやるわ。あなたは、見た目も心も醜い。この世界で最も醜い生物よ」
私も腐った人間だけど、あなたには負けるわ。
「お前……俺を怒らせて知らないぞ? 俺のスキルと魔法の数を知らないだろ?」
「殺した人のスキルか魔法を一つだけ盗める強奪のスキルだっけ? 醜いゴブリンにぴったりな能力よね」
人の力で強くなった気でいられるなんて、本当におめでたい人。いや、人でもなかった。
「お前! 絶対に殺す!」
「だから無理だって」
あなたは絶対私を殺すことなんてできないわ。





