第二十四話 私のお姉ちゃん
SIDE:ルー
『全てが憎い……全てを壊したい……全てを消したい……』
この気持ちは誰の?
私が思っているということは……私の? いや、私は凄く幸せだし、何も憎くないし、壊したいものなんてない。
それじゃあ……誰?
……あ! そうだ! お姉ちゃんだ!
あれ? どうして……私は今までお姉ちゃんのことを忘れていたんだ?
『ルー、あなたは私みたいにはならないで……あなたなら幸せになれる……だから私のことを忘れなさい』
思い出した……。私が破壊魔法を習得した日に、そう言って頭を撫でられて……私は頭が痛くなって……お姉ちゃんはそのまま振り返らず……消えちゃったんだ。
そうだったんだ……。お姉ちゃんが破壊士だったんだね。
でも……あの優しかったお姉ちゃんがレオたちの言っていたような酷いことをするとは……とても思えない。
絶対にしないと言い切れる。きっと、何か勘違いよ。
「……う、うう」
ズキンと頭が痛み、目が覚めた。
なんか……いろんなことを思い出した。私って……こんなにもいろんなことを知っていたんだね。
「ルー!!」
私が目を開けたままボーとしていると、シェリーが覆い被さるように抱きついてきた。
「ルー、大丈夫か?」
あ、レオも近くにいたみたい。
シェリーにレオ、リーナ、ベル、そしてここにはいないけどエルシー。
……うん。今の私にとっても、大切な家族だ。
皆、凄く大好きだし、とても愛している。
自分の気持ちを確認しながら……シェリーと一緒に起き上がる。
「うん。大丈夫」
「そうか。それは良かった」
「ねえ、レオ。私、お姉ちゃんを助けたい」
「お、おう……。ん? お姉ちゃん?」
「うん。お姉ちゃんはきっと何か理由があって人を殺しているはず。だって、私のお姉ちゃんは私に凄く優しかったもん」
「そのお姉ちゃんって……ルーベラのことか?」
レオの後ろから、一人の男の人が顔を覗かせた。
あの人、見たことある。
「あなたは……ダンジョンの奥にいた人?」
「あ、覚えていてくれたんだ。嬉しいね。それで、君はルーベラに育てられたんだよね?」
「お姉ちゃんの名前……そういえば、そんな名前だったかな。ルーって名前も自分の名前から? めんどくさがりのお姉ちゃんらしいね」
記憶に残っているお姉ちゃんは、何かと横着していた記憶がある。
きっと、私の名前も横着してつけたんでしょうね。
「へえ。今のルーベラはめんどくさがりなのか、それは良いことを聞いた」
「むむ。やっぱり、あなたはまだあの女に気があるのね」
ミヒルの後ろにいた魔族の女がムッとした顔をしていた。
あの人、確かミヒルの奥さんだったわよね。
「ジモーネ、もう良いじゃない。それに、今は二人しかいないから忘れているけど、私たちの旦那様は何人の妻がいたと思っているの?」
この人もダンジョンで見たわね。年齢に触れると、怖い人だ。
「言われてみればそうね……」
「いや、それは僕が節操なしみたいじゃないか」
「
「実際にそうでしたから!」」
「ご、ごめん……」
「レオのもミヒルから……?」
三人のやり取りを見て、私に抱きついたままのシェリーが顔だけレオに向けた。
「俺は五人だから……」
「いや、俺も六人だぞ?」
『変わらないわよ!』
「
「ご、ごめん」」
二人は似たようなことを言って、息ぴったりに謝っていた。
やっぱり、レオはミヒルに似た部分があるんだね。
「もう、こんな茶番は終わりにして、ルーの話を聞きましょうよ」
「ご、ごめん……」
「それでルー、破壊士がどんな人だったのか詳しく教えて」
シェリーによって、話題がまたお姉ちゃんの話に戻ってきた。
お姉ちゃんってどんな人? どんな人だったっけ?
「見た目は……今の私にそっくりだったと思う。私みたいによく笑っていたけど、今思うとどこか表情だけというか……無理をして笑っていた気がする」
「へえ……。やっぱり、ルーベラ自身が悪人というわけではなさそうだな。悪魔……絶対に許さないぞ。死にたくなかったら、今すぐルーベラから出ておくことだな」
「悪魔? 誰それ?」
私、初めて聞いたんだけど。
「破壊士……ルーのお姉さんに住み着いている悪い悪魔よ。そいつがあなたのお姉さんを操っていたみたい」
「そうだったんだ……。わかった。私、悪魔からお姉ちゃんを助ける」
お姉ちゃんはひとりぼっちだった私を助けてくれた。今度は、私が助ける番。
「いや、どうかその役は俺にやらせて欲しい」
「どうして?」
「理由は二つある。一つは、ずっと皆に戦いを任せてしまったからね。最後ぐらい大将らしい相手と戦って終わりたい。二つ目は……ちょっとした私情さ」
「その私情を知りたいんですけど?」
ミヒルの言葉に、またジモーネが反応した。
「まあまあ、大したことじゃないから。解決したら、二人にも教えてあげるから」
「わかったわよ……。酒を飲みながらね?」
「もちろん。それで、ルー、俺に譲ってくれないか?」
どうしよう……私がどうにかしたい。
でも、ミヒルもお姉ちゃんと何かありそう。
「……わかった。お姉ちゃんはあなたに譲ってあげる」
「ありがとう。絶対、俺がルーベラを助け出してみせるよ」
私はお姉ちゃんとまた話せれば問題ないし、ミヒルは私より強いらしいから譲ることにした。
あと、私よりもこの人の方がお姉ちゃんは喜ぶ。そう感じた。





