表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十四章 最終決戦編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

312/335

第十八話 試運転


SIDE:ロゼーヌ

 十九歳となり、結界もそろそろ壊れていてもおかしくない時期に入ってきた。

 けど、船は完成したし、後は向かうだけだから昔ほどの焦りはない。


「船長! 出港の準備ができたよ!」


「わかった! それじゃあノーラとローゼ、エンジンのスイッチをオンにしてくれ!」


「任せて! ローゼ、準備は良い?」


「もちろん。あなたのタイミングで回すわ」

 ノーラが鍵を差し込み、その手に私の手を添える。

 一応、この船のオーナーということで、私たちが最初のエンジンの点火をすることになった。


「それじゃあ、せーの!」

 ギュイーーーン!!

 鍵を回し切ると、後方から大きなエンジン音が響いてきた。


「へえ。魔力エンジンってこんな音がするんだ」


「こ、これでも音は抑えたんだけど……ご、ごめん」


「何を謝っているのよ! この短時間でこの大きな船を完成させただけでもあなたは十分凄い。もっと誇らしげにしなさい!」


「ご、ごめん……」


「もう……。一番の功労者がそれじゃあ締まらないわね」


「出港するぞ! 錨を上げろ!」


「ふふふ。オーロ船長はいい感じね」


「もちろんよ。オーロは私が素材集めをしている間もずっと船に乗っていたんだから」

 海での経験、船の操縦技術は、この中で誰にも負けないわ。


「そうね。あなたの恋人は凄いわ」


「恋人じゃないって言っているでしょ」

 もう、このいじりも慣れたので、顔色一つ変えずに否定する。


「錨が上げ終わりました!」


「了解! それじゃあ船を発進するぞ!」

 そうこうしている内に、船が前進を始めた。


「わあ、動き始めた。本当にこんな大きい鉄の塊で航海できるんだね」


「鉄の塊って……あなたの恋人が造ったものでしょ?」


「あ、さっきの仕返しのつもり? ふふふ。ええ、そうですよ? 私の最愛の人が造ってくれた世界一の船です!」

 ノーラが見せつけるように、ディグに抱きついてみせた。


「ちょ、ちょっとノーラ……ひ、人前で恥ずかしいよ……」

 そうだった。もう、この二人は恋人を通り越してほぼ夫婦なのよね。


「アハハ。これじゃあ、お姉ちゃんは何を言っても仕返しにならないわね~」


「そうね。私の完敗だわ」

 もう、これからは言い返すのもやめて無視することにするわ。


「それじゃあ、少しずつエンジンのスピードを上げていくよ!」


「うん。速さの方も問題なさそうね。それじゃあ、そのまま沖に出てみて!」


「わかった。それじゃあ、これからは自由時間だ。それぞれ、船の中を自由に動き回ってくれ!」

 船長の号令で、操縦室にいた人たちが次々と甲板に向かってぞろぞろ部屋から出て行った。

 そして、操縦室に残ったのは私とオーロだけとなってしまった。


「船長になってみてどう?」


「悪くないけど……本当に俺で良いのか?」


「何を言っているのよ。このために、この四年間ずっと船に乗り続けていたんでしょ? 自信を持って私をエルフの里に連れて行きなさいよ」


「そうだな。頑張って期待に応えるよ」


「よろしく頼むわ」


「そういえば……ローゼはどうしてエルフの里に行きたがっているんだ? もう、教えてくれても良いだろう?」


「え? ノーラに聞いてないの?」

 もう、知っているものだと思っていた。

 というか、今までどうして気にならなかったわけ?


「聞いたことあるけど、直接ローゼに聞けって」


「そう……。まあ、自分から話すのが当然よね。わかったわ。一から教えてあげる」


「ありがとう」


「そんな改まって感謝されるほどの内容じゃないわ。話さなかったのも説明が面倒で後回しにしていただけ」


「面倒な説明をしてくれるだけでもありがたいよ」

 はあ……あなたと言う人は……。


「正直、今まで私には四人夫がいたけど、あなたほど私の心を動かした男はいないわ。まあ、長命のエルフにとって夫婦なんて子供を残すための形式的なものだったから、それと比べるのは違う気もするけど」


「え? ローゼ、既に四人も夫がいるのか!?」

 表現が難しいけど、オーロは驚き一割、悲しみ四割、信じられない五割って感じの顔をしていた。


「もういないわよ。誤解する言い方をして悪かったわね。私は何度も生まれ変わりを繰り返しているの」


「生まれ変わり?」


「そう。普通、人は死んだらそこで終わりでしょ?」


「ああ」


「でも、私は死んだらまた赤ん坊からやり直すことができるの」

 まあ、正確には死ぬ前にやり直しているんですけど。


「そんなこと、どうやったらできるんだ?」


「スキルよ」


「スキル? 魔法と何が違うんだ?」


「スキルは、最高レベルの魔法と同等以上のことが、何の代償もなしにできてしまう能力よ」


「へえ。ということは、魔法を極めてもローゼと同じように生まれ変われたりするのか?」


「できるんじゃない? 死霊魔法とか、魂を扱える魔法使いならできるはずだわ」

 もしかしたら、序盤に死んでしまったネクロマンサーならできたかもね。


「そうなのか。やっぱ、世界には知らないことばかりだな」


「そんなものだと思うわ。こんなこと、世界中のほとんどの人が何も知らないで死んでいくんだし」

 私だって、ここまで知っているのも千年以上も生きているからだし。


「でも、こういうことがまだまだ世界にはあると思うと知りたくなるじゃん?」


「そうかもしれないわね。というか、私の話はもう良いの?」


「あ、ごめん! せっかく話してくれていたのに脱線しちゃった。ローゼが生まれ変わったって話だったよな? それとエルフの里に行きたい理由に何か繋がりがあるのか? あ、わかった。エルフの夫って言っていたし、ローゼは前世がエルフだったんでしょ?」

 どう? 名推理でしょ? みたいなドヤ顔をされても、それしか答えがないじゃない。


「ええ、そうよ。というか、生まれ変わっていることに驚かないの?」


「あ、驚いた方が良かった? なんというか、そういうこともできる人もいるんだな……って感心しちゃった」


「なによそれ」

 感心って、その言葉のチョイスもまたよくわからないわね。


「だって。馬鹿な俺は、ローゼと違って生きていて新しく知ることばかりなんだ。そんなことあり得るの? みたいな毎日を送っているから、驚き慣れちゃったんだよね」


「……そういうこと。まあ、あなたらしくて良いと思うわ」


「そう? それじゃあ、これからもそうする!」


「はあ、でもこれから説明することを聞いたら、驚かずにはいられないと思うわ」


「そんなに凄いことを話すの?」


「ええ。この世界でも、ほんのわずかしか知らない世界の真実を教えてあげるんだから」


「そ、そこまで言われると聞かなくても良い気がしてくるな……」


「もう後戻りはできないわ。最後まで聞いていきなさい」

 船長として、私たちを島に行くなら絶対に知っていないといけないことだもの。


 それから、私は千年間も続いている転生者の戦いについて教えてあげた。


「……というわけで、驚いた?」


「いや……なんか思っていたよりも凄い情報が多すぎて、驚く余裕がないんだけど」


「そう。でも、ちゃんと私が言っていたことは理解できたでしょうね?」


「た、たぶん……。この世界には他の世界の記憶を持った人たちが何人かいて、ローゼはその一人。それで、その選ばれた人たちはどうしてか殺し合わないといけなくて……ローゼはその中でもっとも強い人に狙われて、生き返りを使ってこっちに逃げてきた。でも、故郷に残してきた仲間たちを見殺しにするわけにはいかないから、ずっと船を造ろうとしていた。これで合ってる?」


「合っているわ。まあ、私が前世の仲間を助けてあげたいと思っている。これだけ覚えていてくれれば問題ないわ」


「うん。それくらいなら、俺でも覚えられると思う」

 ドスン!


「な、なんの揺れ?」

 急に、船が何かにぶつかったように揺れた。


「どこかにぶつかった?」


「そんなまさか、ここは海よ? ぶつかる物なんてないわ」


「それじゃあ……なに?」

『もしもし? オーロ』


「ネリア、何があったの!?」

『あ、お姉ちゃんもいるんだ。それなら、説明しやすいわ。鯨くらい大きなサメ型の魔物が船にぶつかってきて、船が揺れた感じ!』

 確かに、その説明は前世の知識がないと理解はできないでしょうね。

 まあ、私にはどんな魔物が襲ってきたのか理解できたけど。


「船は無事なの?」

『もちろん。傷一つないわ。頑張ってミスリルを集めた甲斐があったわね』

 思いがけず、耐久テストができて良かったわね。


「それで、魔物の方はどうなったの?」

『とりあえず、船についている武器だけで戦うみたい。今、ディグくんが魔物に向かって大砲を撃ってる』


「大砲くらいでそんな大きな魔物に効くの?」

『問題なさそう! 詳しいことはわからないけど、魔法も混ざっているみたいだし、鯨みたいなサメに大穴がいくつも空いているわ』

 流石、ドワーフの技術力ね。細かいところまで、完璧に作られているわ。


「そう、なら問題なさそうね」

『うん! もし大砲でダメでも、私とキールで対処するから心配しないで~』

 まあ、心配はしてないわ。


「頼んだわよ」


「その魔物……美味しいのかな?」


「もしかしたら美味しいかもしれないわね。船にくくりつけて持って帰る?」


「良いね! 今日は宴だ!」


「元々、今日は船の完成祝いで宴をするつもりだったじゃない。それじゃあ、魔物の討伐報告を聞き次第、船を旋回して帰るわよ」


「了解!」

 はあ、これで船は問題ないことがわかった。

 話さないといけないことも話して、もう後悔するようなことも何一つ残していない。

 準備万端。いつでも行ける状態だわ。

 皆……あとほんのちょっとの辛抱よ。だから、どうか無事でいて。

ずっと先にあるであろう、最終決戦の地であり故郷の島の方角をじっと見て、そう祈った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
更新通知や書籍の情報を呟いています!
Twitter(@Ricky1144557)のフォローもよろしくお願いします!!

☆一巻の表紙☆
Dq4zakLU8AEgsqZ

☆最新巻の表紙☆
i423498
書籍版もよろしくお願いしますm(__)m
書籍ページはこちら
漫画版もよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ