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継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十四章 最終決戦編

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第十六話 ミスリル集め


 SIDE:ロゼーヌ

 素材集めを再開して早くも二年が経ち、私は教国の聖都にある大聖堂にて今代の聖女とお茶を飲んでいた。

 本来なら、この時間があればゴーレムを百体は倒せるというのに、どうしてこういうことをしているのかというと……。

 教国のダンジョンを無償で利用させてもらう交換条件として、たまにこうして会いに来いと言われてしまったので、仕方なく応じたのだ。

 どこかの騎士団長夫婦が帝国内でミスリルが大量に出るダンジョンを潰していなければ、こんなことにはならなかったのに……。


「どう? ミスリル集めは順調?」

 今代の聖女は、お母さんの従兄弟ということもあり、見た目も雰囲気もお母さんにそっくりだから正直苦手。

 けど、ミスリルの為だから、無視するわけにもいかないのよね。


「まだまだね。あと一年はここにいると思うわ」


「船を造るだけなんでしょ? たった一隻の船にそんなに必要なのかしら?」


「別に、鉄だけで良いならどこかの鉱山を買い取るだけで良いんだけどね」


「……ミスリルで船を造る気か?」

 いつも聖女の後ろで控えている吸血鬼の騎士が初めて口を開いた。

 ふふふ。気になるみたいね。


「あなたは知ってる? 純度の高いミスリルは魔力を吸収して、魔力の属性に応じて変化をすることを」


「……千年生きていて初めて聞いた」


「私もよ」

 まあ、そもそもエルフの里でミスリルを手に入れることはできないんだけどね。


「どうやって知ったんだ?」


「お父さんのところにいるドワーフたちよ。お父さんにたくさんミスリルを貰って研究していたら、不純物に気がついたんだって」


「ドワーフか……。あいつらが人族についていなかったら、魔王軍はあそこまで惨敗することはなかっただろうな」


「そうかもしれないわね」

 私としては、ドワーフがいてくれて助かったと言えるわ。


「ねえ。それで、純度の高いミスリルを使って何をするの? ローゼの魔力を注ぐの?」


「そうよ。私が魔力を注げば、結界のように外からの攻撃を守る硬い金属へと変化するわ」

 当初は、レッドドラゴンの鱗を加工して船の底に張ろうと考えていたけど、ドラゴンの鱗なんかより私の結界の方が硬くて長持ちするはずだわ。


「それは確かに、船の素材にはぴったりね」


「鎧にしても良さそうだな」


「そうね。結界と同等の能力が得られるなら、数回は破壊士の攻撃にも耐えられるかもしれないわ」

 実を言うと、既にルー母さんで試していたりする。

 結果は、破壊士魔法に三回だけ耐えることができた。


「やっと……あの女をどうにかできる希望が見つかったのか」


「希望って程のことでもないわよ。船底に薄くコーティングするだけでも二年間かかるのに、全身鎧なんてそんなに作る余裕ないと思う」

 薄く塗った程度ならできるでしょうけど、破壊魔法を一回防げるかどうかね。


「そうなんだ……」


「何度も言うが、俺も手伝うぞ? 破壊士には多少恨みがある。貸し借りなんて気にしなくて良い」


「あなたが気にしなくても、周りはそういかないわ。本当は、こうしてあなたたちとお茶しているのを知られただけでも、ノーラに説教されるかもしれないんだから」

 王国なら良いけど、最近の教国は帝国と微妙な距離を取っているし、これを政治利用されたら面倒だわ。


「そんな悲しいことを言わないでよ。貸し借りで言ったら、私たちはあなたのお父さんとお母さんに返しきれないくらい借りがあるのだから」


「二月に一回、こうしてもてなして貰っているだけでもありがたいわ」


「これくらいならいくらでもしますよ。二ヶ月に一度と言わず、毎日ここに泊まっても良いのよ?」

 それこそ、問題になるでしょうに。まったく、この箱入り娘はお茶を相手をするのも一苦労ね、


「ミスリルゴーレムのいる層までここから歩いて半日はかかるのよ? 毎日は効率が悪くなるから遠慮しておくわ」


「で、でも……だからと言って、二ヶ月間もダンジョンに籠もったままなんて体に悪いわ」


「この体は若いから大丈夫よ。それに、今日からは助っ人が来るから効率の悪さも多少は解消されるわ」


「ふふふ。そうでしたわね。いつぶりの再会?」


「半年ぶりよ」

 契約で縛られているから、無理してでも半年には一回会いに行かないといけない。

 本当に面倒な契約にサインしてしまったわ。


「お二人がいらっしゃいました」


「あら、噂をすれば。すぐにここまで案内して」


「承知いたしました」


「半年ぶりか……。ネリアちゃんもお母さんそっくりなのかしら?」


「見た目はそっくりね。性格は……何とも言えないわ」

 ネリアには焼却士の元々人格があるから、なんとも言えないのよね。


「そうなの? それじゃあ、性格の方は私が直接話して判断してみるわ」


「そうしてみて。たぶん……似てないと思うわ」


「誰と似てないって?」

 やっと来た。まったく……待ちくたびれたわ。


「わあ。本当にお母さんにそっくりじゃない。あなたがネリアちゃん?」


「あ、はい。はじめまして、ネーリア・ミュルディーンです」


「ふふふ。それで、そちらが噂の恋人君かしら?」


「え、えっと……はい! キールです!」


「あなたは、お父さんよりもお母さん似かしら?」


「俺の父さんと母さんを知っているんですか?」


「お父様の方をね。昔、少しだけ会ったことがあるの」


「そうだったんですね。今度、その時のことを父さんに聞いてみます」


「私のことなんか覚えているかどうかわからないわ。それよりほら、席に座って」


 それから、聖女とのお茶会をほどほどに終わらせ、すぐに三人でダンジョンに潜った。


「まさか、本当にお姉ちゃんと冒険者になる日が来るなんてね」


「そうね。間違っても、ミスリルを燃やさないでよね?」


「それは大丈夫だ。もう、ネリアは完全に自分の魔法を制御できるからな」


「お姉ちゃんの助言とお父さんに貰ったこの杖のおかげだけどね」

 ネリアが自慢げに、二十センチほどの杖を見せてきた。

 持ち手に装飾として付いている魔石から、キールの魔力が感じられる。

 ちゃんと、キールの魔石を使って杖を創造してもらったみたいね。


「それでも十分凄いと思うぞ。なあ? ローゼ姉さん」


「あなたに姉さんって呼ばれる気持ち悪いわね……。まあ、凄いと思うわ。そもそも、私はあなたが暴走せずに炎を出すのも無理だと思っていたから」

 私がネリアの魔力を鍛えていたのも、なるべく暴走したときに使える魔力が多くなるようにするためだし。


「え~。お姉ちゃんだけは信じてくれているんだ。と思って頑張ってきたのに!」


「それは悪かったね」

 仕方ないじゃない。そういうものだと思っていたのだから。


「でも、お姉ちゃんにこうして頼られたのは嬉しかったわ」


「何を言っているのよ……。一年前、私について行くって泣きついたのはどこの誰?」

 あの時のネリアを引き剥がすのに、どれだけ苦労したことか。


「そ、そんなこともあったわね……」


「大人しく、魔法学校に行っていれば良かったのに」

 十二~十六なんて、人生の中で一番楽しい時期じゃない。

 それをわざわざ薄暗いダンジョンの中で無駄にするなんて……。


「魔法学校で学ぶことなんて、私にはないわ。それよりも、お姉ちゃんと一緒にいた方が学ぶことが多いじゃない」


「そう。あなたの人生だから、あなたの好きにすれば良いんじゃない」

 ここに来てしまった以上、もうとやかく言っても仕方ない。

 精々、ゴーレムをたくさん狩ってくれることね。


「それにしても、あなたって……随分と変わったわよね。もう少し……大人だった気がするんだけど?」


「今の私が子供ぽいですって!?」

 遠回しに言ったのにわざわざ言い直さなくて良いのに。


「そう思うわ。前はもっと冷めてたわ。キールに対しても、子供を見るような目をしていたじゃない」


「ああ、確かに言われてみればそうだ! ネリアって……いつからそんな感じになったんだっけ?」


「さ、さあ……? あまり、身に覚えがないので……」


「学校に入ったくらいからじゃない? キールの面倒を見ていた頃から、なんか雰囲気が変わった気がする」


「え? 俺が原因?」


「別に……キールだけじゃないわ。もちろん、キールが主な原因なのは自分でも理解しているけど、お姉ちゃんの影響も少なからずあると思うわ」

 私? 私、何かしたかしら?


「私……お姉ちゃんほど前世の記憶は残っていないのよね。自分が誰だったのか、どんな性格だったのかすら思い出せないの」


「二世代目以降の転生者はそうなるらしいわね。けど、それがどうして私に繋がるの?」


「どうせ暇なんだから結論を急がないの」

 それもそうね。

 私は黙って、ネリアの主張を聞くことにした。


「でね。小さい頃は人格がちゃんと形成されていないのに、大人に近い知識があったのと、そんな大人な部分を隠さなくて良い相手がいたから……私の人格は大人側に引っ張られていたんだと思う」


「それで、私がいなくなったからネリアは子供になったっていうの?」


「そんな気がする。特に、初等学校に入学してからお姉ちゃんと話さなくなって、凄く子供なキールと一緒にいるようになってから、段々とこの性格になっていったんだし」


「結果、私がいなくなってキールの色に染められたってわけね」

 ほぼ、キールのせいじゃない。


「え? ネリアは、俺の色に染まったのか?」


「そ、染まっているわよ……。って! こんな恥ずかしいことを言わすんじゃないわよ!」


「まあ、どんな性格であっても、あなたが楽しいのなら良いと思うわ」


「そういうお姉ちゃんだって随分と変わったじゃない?」


「そうかしら? 私は、もう何年も前からこんな性格よ」

 千年もかけて凝り固まった性格が、今さら変わるとは思えないわ。


「そうかしら? あの、引きこもりだったローゼが今では平気で何日間も野宿ができるほどたくましくなってしまったのよ? 昔では考えられないわ!」


「別に、できることなら、今の私だってこんな汚いダンジョンで寝泊まりするんじゃなくて、家でゆったりとした時間を過ごしたいと思っているわよ」

 必要に駆られて外に出ているだけよ。


「本当にそうなのかしら? オーロくんだっけ?」


「もしかして……ノーラのところに寄って来たの?」


「そりゃあもちろん。どうせ近くを通るんだから、ノーラお姉ちゃんにも会いに行くわ」


「そう」


「ふふふ。お姉ちゃんってああいう男の人がタイプだったんだね。筋肉モリモリで、肌が日焼けで真っ黒。色白で細身なお姉ちゃんとまさに真逆ね」


「べ、別に見た目が好きってわけじゃないわ……。というか、オーロとはまだそういう関係じゃないわよ!」

 頭に血が上って、感情に任せて話してしまってから、私は自分が言ってしまったことに後悔した。


「へえ……()()ね」


「もう、うるさいわね。言い間違えたのよ」

 こうなっては、私には勝ち目はない。なるべく早くこの会話を終わらせるしかない。


「そうなんだ~。二人で海を旅する約束しているのに?」


「そ、それは……海に連れて行ってあげるのは約束したけど、二人でとまでは言ってないわ」


「そうなの? ノーラお姉ちゃんはそう言っていたんだけどな~」


「ノーラ……。帰ったら覚えておきなさい」


「あ、そういうノーラお姉ちゃんは、ディグくんと随分と仲が良さげだったよ。本人に聞いても、はぐらかされて教えてくれなかったけど」

 それは意外ね。お金のことしか興味ないノーラだから、恋とかはもっと大人になってからするのかと思っていていたわ。


「今度……ディグ本人に問い詰めてみるわ」

 ネリアにあることないこと吹き込んだのだから、絶対に同じような思いにしてあげるわ。


「ふふふ。その時は、こっそり私にも教えて」


「気が向いたら教えてあげる」


「え~」



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