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第十三話 ドワーフを勧誘②


「ここが儂の工房だ! 凄いだろ?」

 そう言われて案内された建物の中には、地球で見たことがありそうな機械から、見たことがない機械までたくさんの機械が並べられていた。


「これ、全部電気で動くの?」


「もちろんだ。儂は電気を使う機械が専門だからな」


「魔法具なら儂の方が詳しいぞ」


「武器なら俺だ。お前たちに最高の一品を用意してやろうじゃないか」


「ふうん。それじゃあ、これより凄い剣を作れる?」

 そう言って、ノーラが勝手に私の剣を腰から抜き取ってドワーフたちに見せた。

 私が使っている剣は、お父さんの師匠が作ったらしい魔法具の技術が使われた剣だ。巷では、魔法を剣に纏わせられることから魔剣と呼ばれている。

 父さんの師匠以外に、まだ作るのに成功した人はいない。


「うん? 俺を誰だと思っている? こんな物……はあ? 剣に魔方陣だと?」


「魔方陣? ちょっと見せてみろ……おい、これを作ったのは誰だ?」


「えっと……外の世界で一番の魔法具職人だった人」


「そいつはまだ生きているのか?」


「私たちが生まれる前に死んじゃったわ」


「なんてことだ……。できることなら、これを作った奴と、酒を交えながら魔法具について語り合いたかったのに」

 ドワーフたちがそう言うってことは、お父さんの師匠は本当に凄い人だったのね。

 まあ、付与士の家系だし、当然と言えば当然か。


「やっぱり、そんなに凄いんだ」


「ああ、ここまで細かな魔方陣を描けるのは、ここでも俺かディグだけだ。ドワーフでもないのに、よくここまで……」


「あ、それを作った人は、一応ドワーフの血を引いているわよ」


「何だと!? それは消えた技王の末裔じゃないか!」


「技王の末裔……なるほど、少し技王が誰のことを言っているのか理解できたわ」

 技王の正体は付与士。それなら納得だわ。


「ほお。やっぱり、外の世界に技王はいたんだな」


「ええ。外では付与士と呼ばれ、人が魔王を倒せる唯一の武器を作った人で有名だわ」


「ま、魔王を倒す武器……さすが技王だ。いつか、俺もそんな武器を作ってみたい……」


「そうか。それで、その付与士はどうした? ひょっとして、その剣を作ったのが付与士か?」


「違うわ。この剣を作った人の息子が付与士。王国と帝国の戦争に巻き込まれて……死んだわ」


「……そうか。もう、ドワーフが技王に巡り合える日は来ないんだな」


「残念なことにそうね」

 殺されてしまった以上、もう次に記憶を引き継ぐことはできない。

 もう、この世界に付与士が生まれることはないわ。


「ねえ、私にもわかるように技王について教えてくれない?」


「うん? ああ、いいぞ。技王というのは、元々ドワーフの王だった男のことだよ」


「補足すると、誰よりも頭が良く、手先が器用で、誰にも真似できないような発明たくさんする。そんな男がドワーフの王族には百年に一度くらい生まれたんだ。その天才をドワーフは王ではなく、技王と特別に呼んでいたんだ」


「なるほどね……。さっきまでの会話がなんとなく理解できたわ」


「でも、どうしてドワーフの集落がここまで人が少ないの? それも技王が関係しているの?」

 ここに来るまで、一人もドワーフを見かけなかった。

 もしかしたら、ドワーフの生き残りはこの五人だけなのかもしれない。


「ああ、関係あるぞ。外の罠は全て何百年も前の技王とその仲間たちが設置した物だからな」


「どうしてそんなことを?」


「知らん。ただ、技王は何かに怯えていたと聞いたことはあるな。もしかしたら、外の人族と何か揉めていたのかもしれない」


「なるほどね」

 きっと当時の付与士……技王は他の転生者に怯えて、あんなにも過剰な罠を設置したんだわ。


「そして、代を重ねるごとに外の罠は強化されていったんだ」


「この頃になってくると、罠がドワーフを守る為なのか……ドワーフを閉じ込めるための罠なのかはわからなくなってしまったらしいわね」


「そんな時に、一人の王子が罠を掻い潜って、人族の世界に飛び出して行ってしまったんだ」


「その剣を作ったのは、きっとその王子の子孫よ」

 一人の王子が逃げ出し……それが付与士の先祖。


「なるほどね。読めたわ。もしかして、この集落に技王が生まれなくなってしまったんじゃない?」


「そうよ。その代の技王が死んでから、二度とこの集落に技王が生まれることはなかったわ」


「でも、どうしてそれがドワーフの数を減らす理由になるの?」


「元々、ドワーフっていうのは、よく言えば自由……悪く言えば自分勝手なんだ。それまで、技王の技術に魅了されてドワーフたちが団結していたが、技王がいなくなればそれぞれ勝手に動き出すようになる」


「その結果……たくさんの人が外の罠に挑んで死んでいったわ」


「特に、若いドワーフが年寄りたちに反抗して外に出て行くんだ」


「誰も成功してないのに、どうして誰も学ばないの?」


「皆、自分ならできると思ってしまうんだよ。嬢ちゃんたちだって、ここに来るまで誰かに止められたりしなかったか?」


「言われてみれば……」

 老ドワーフたちが言うとおり、私たちはここに来るまでにいろんな人に止められた。

 それでも挑戦してしまった私たちは、死んでいったドワーフと同じなのでしょうね。


「若いってのは……そういうもんだ」


「その結果がこれなんだけどね。もう、この集落には年寄り四人とディグしかいないわ」


「ディグの両親はどうしたの?」


「生まれたばかりの子供を置いて、儂らの息子や娘たちと一緒に外へ行ってしまったよ」


「なるほど……それで、遂にこの村にはこの五人だけになってしまったわけね」


「そうだ」


「ねえ、お爺ちゃんたちは安全に出られるとしたらここから出たい?」

 ノーラが遂に、勧誘を再開するみたいだ。


「そりゃあ、もちろんだ」


「最近、足腰が悪くなってきたからね……。そろそろ、この五人でここを維持するのは難しくなってくるわ」

 あら、思っていたよりも早く交渉が終わってしまいそうね。


「ディグだって、このままでは嫁を見つけることができないしな」


「べ、別に、お、俺に嫁なんて……」


「嘘つけ。お前の計画だって気がついているんだからな?」


「け、計画?」


「惚けたって無駄だ。俺たちがくたばるのを待って、森を出ようと考えていたみたいだが……俺たちはそう簡単には死なねえぞ?」


「そうね。少なくともあと二十年は死ぬつもりないわ」


「ハハハ。それはディグが可哀想だ。三十後半じゃあ、結婚は絶望的じゃないか」


「というわけで、儂たちとしてはディグだけでもここから連れ出して貰いたい」

 笑顔だった老ドワーフたちの顔が一変、真剣な顔で私たちにお願いしてきた。


「ま、待ってくれよ! お、俺は、ば、ばあちゃんたちを置いてで、出て行くことなんて……」


「ディグ、よく聞け。これは一生に一度のチャンスだ。何度も言うが、お前は若い。儂らみたいな老いぼれと違って、未来しかない。いつ死ぬかわからないじいさんたちのことより、お前の人生を優先するんだ」


「そうよ。あなたはもっとドワーフらしく、自由気ままに生きなさい」


「い、嫌だよ……皆と離ればなれなんて……」


「どうせ、いつかは別れの日が来るんだ。それがちょっと早まっただけだろ?」


「そ、そんな悲しいこと言わないでよ」


「いいや。お前とは今日でお別れだ」


「これ以上首を縦に振らないなら、俺たちは今日ここで死んでやるよ」


「それは良いね。そうすれば、ディグもここに未練はなくなるわ」


「や、やめてよ! そ、そんな、し、死ぬなんて!」


「なら、素直にここから出て行くことだな」


「言っておくが、俺たちは本気だぞ?」


「ああ、儂らはお前が幸せになってくれれば命も惜しくない」


「わ、わかったよ……。で、出て行くから……し、死なないで」

 老ドワーフたちによる強引な説得により、少年は涙を流しながら了承した。

 それを見て、老ドワーフたちは顔にくしゃくしゃになるくらいシワを寄せ、必死に涙を堪えていた。


「よく言った。それでこそ男だ」


「何かに集中しすぎて飯を食い忘れるなよ? 外に出たら、怒ってくれる婆さんもいないんだからね」


「そうよ。体には十分気をつけなさい」


「わ、わかったよ」


「というわけで勝手なことで悪いんだが、嬢ちゃんたちにこいつを頼んでもいいか?」

 私たちは、老ドワーフたちになんと答えれば良いのか悩み、顔を見合わせた。

 そして、先にノーラが意を消して、話し始めた。


「大丈夫……というか、非常にこの空気で言うのはためらっちゃうけど……お爺さんとお婆さんたちも外に連れて行けるわよ?」

「え? 儂らも……」

「連れて行ってくれるのか?」


「今までのやり取りはなんだったんだ……」


「わ、私はお爺さんたちに外に出たいのか聞いたんだから! 私、悪くない!」

 抗議の目を向けてくるドワーフたちに、ノーラはそう必死に弁明していた。

 まあ、ちゃんと全員連れて行くと名言しなかった私たちも悪いと思うけどね。


「だけど、ディグだけならまだしも、こんな足手纏いを更に四人も連れてこの森を出られるのかい? 無理して言っているなら、気にしなくて良いわ。私たちは、ここでの生活が当たり前だからね。無理して、外に出たいとは思わないわ」

 別に、私の結界ならこの程度の人数くらい安全に運べるわ。


「ふふふ。心配しないで。もう、帰りの手段は用意してあるから。お父さん……どうせ見ているんでしょ? 早く出てきて!」


「お父さん?」

 え? なんでお父さん?


「はいはい。お父さんが来ましたよ。それと、お母さんもね」


「なんだか、ホラントさんの工房を思い出しますね。仕事ができる人の部屋って感じがします」


「それと、研究馬鹿な男の部屋だな」


「もう、そんなことを言うと師匠様に怒られますよ」

 ノーラが呼びかけると、空間に穴が開き、お父さんとエルシー母さんが穴から出てきた。

 よく考えてみれば、こんなお金にしかならないことを易々娘に渡すわけにないわよね。


「ええ……お母さんまで来たの?」


「別に良いじゃない。私だって、ドワーフの集落に行ってみたかったんですもの」


「お、お前ら……どこから出てきたんだ?」

 急なお父さんたちの登場に、ドワーフたちは腰を抜かして驚いていた。

 そんなドワーフたちに、エルシー母さんはニコリとノーラがよくする笑顔をしてみせた。


「魔法ですよ。私の城とここの空間を繋げて来ただけです」


「来ただけですって……」


「そんな魔法が森の外では普通なのか?」


「まさか、こんなことできるのはこの世界で三人だけよ」

 一応、当たり前とは思われたくないので、使うことができる正確な人数を教えてあげた。


「そ、そうなのか……お前たちの父ちゃん、凄い人なんだな」


「う、うん」

 ノーラはエルシー母さんが来たことで、完全に借りてきた猫みたいに大人しくなってしまった。

 いくらノーラでも、本物を前にしたら勝ち目がないってことないのかしらね。


「それで、あなたが私たちを外に連れて行ってくれるのかい?」


「ええ。この穴を通れば、すぐにでも外に出られますよ」


「そ、そんな簡単に……」


「とりあえず、お試しで外に出てみません? またすぐに戻って来られますし」


「も、戻れるのか……」


「それなら、出てみても良いじゃないんか?」


「そうね」


「とりあえず出てみるか」


「ふふふ。それじゃあ、皆さんこちらへ」

 エルシー母さんが少し喋っただけで、ドワーフたちは外に出ることになってしまった。

 さて、これからノーラは母親を相手に、ドワーフの技術をどれだけ勝ち取ることができるのかしらね?



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