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第十話 フェルマーのお宝

 


 SIDE:ノーラ

 私は現在、とある物のを探すためにホラント商会帝都支店、またの名を旧フェルマー商会本店に来ていた。

 半年前まで一日のほとんどをここで過ごしていたと思うと、なんだか凄く懐かしい気持ちになるわね。

 おじさんたち、元気にしているかな?

「そんな店の前で立ち止まっていないで、さっさと入れば良いのに」

 私が感傷に浸っていたら、空気を読めない生まれた時間が数分違いの姉が後ろから急かしてきた。

 というか、どうしてもうここに来ているのよ。


「ネリアのところにちゃんと行ってきたの? ちゃんと契約なんだから、ちゃんと守って貰わないと困るわ」


「ちゃんと会ってきたわよ。心配なら、後で確認してくれば良いじゃない」

 まあ、ローゼがわざわざこんなことで嘘をつくとは思えないし、本当なのだろう。

 それにしても、二年ぶりの再会だと言うのに、数分で帰って来る?

 ネリアの寂しげな顔が容易に想像できるわ。


「もう、今日一日くらいあっちにいれば良かったのに」


「別に、そこまで話すこともないわ」


「あなたになくても、きっとネリアにはあったと思うんだけどね」


「大丈夫よ。ネリアにはキールがいるから」


「あ、ついにローゼがキールのことを認めた」

 いつまでもキールを子供扱いしていたのに、珍しいじゃない。


「認めていなかったわけではないわ。ただ、まだネリアを任せるには体も心も小さいなと思っていただけ」


「それを認めてないって言うんでしょうが」

 本当、ネリアに対しては過保護なんだから……。



「よう! 久しぶりだな!」

「ノーラ嬢、聞いたぞ! 魔法具が一つもない漁村に住んでいるらしいじゃねえか」

「おいおい。そんな村、人が住めるのか? 人は魔法具に囲まれていないと、死んでしまうんだぞ?」

「それはお前だけだ」

 店の裏口から工房に入ると、懐かしい声が次々と飛んできた。

 ふふふ。おじさんたち、まだまだ元気そうね。


「この人たちは?」


「私に魔法具の作り方を教えてくれた人たち」


「へえ。ここは、魔法具工房ってわけね」


「うん。ここには腕が良い魔法具職人たちがたくさんいるわ」


「おいおい。俺たちを褒めてもノーラ嬢を喜ばせられるものなんて何も出せやしねえぞ?」


「そりゃあ違えね。最低でも白金貨は渡さねえとこのお嬢様は喜ばねえからな」


「別に、白金貨じゃなくても喜ぶわよ。例えば……フェルマーに隠れるお宝とかね」

 もう、失礼な人たちね。私、そこまでお金に取り付かれた女じゃないわよ?


「そんなん、白金貨より高えだろ!」


「ノーラ嬢は相変わらずだな」


「てか、今日嬢ちゃんが俺たちを集めたのってその為か?」


「そうよ」

 ふふふ。私が今日、ここに来たのは、古くからこの見せに眠るというフェルマーのお宝が目的だ。

 私の予想が正しければ、それがあれば……お金では絶対に手に入らない物が手に入れられるはずなんだから。


「あなたたち、ここで随分と長く働いているんでしょ?」


「まあ、お前たちの父ちゃんがホラントさんの弟子をやっていた頃よりも前からここで働いているな」


「今年で……四十年ぐらいか?」

お父さんの話はちょっと興味あるけど……今は宝探しに集中ね。


「そんなに長くいれば、宝探しにおいて強力な戦力になりそうね」


「宝探しって……俺たちに宝を探させるのか?」


「私たちも探すわ。でも、長く働いている人の方がこの建物のことも詳しいでしょ?」


「まあ、そうだが……」


「可愛い弟子からのお願い。ねえ? いいでしょ?」

 そう言いながら、あざと可愛い笑顔を見せればこのおじさんたちはイチコロだ。


「し、仕方ないな。弟子のお願いは極力答えてやるのが師匠の役目だ」


「そうだな。任せておけ。師匠として俺が宝を見つけてやるから」

「何を言っている。俺が師匠だ」

「ふん。俺が宝を見つけて、ノーラ嬢の師匠となってみせようじゃないか」

「あ、待て! 俺が先に見つけてやる!」

「いや、俺が!」


「ふふふ。やっぱり、可愛いは正義ね」

 我先にと、工房から出て行ったおじさんたちに、私はしたり顔でニヤニヤと笑ってしまった。


「勝手に宝探しなんてしても大丈夫なの? ここは、エルシー母さんの店でしょ?」


「ご心配なく、ちゃんとお母さんに許可は貰っているわ!」

 当たり前じゃない! お父さん相手に交渉するついでに、ちゃんとお母さんからも貰う物は貰ってきているわよ。

 まあ、お父さんと違って、お母さんはお宝の所有権を私に譲ること以外、絶対に頷いてくれなかったんだけどね。


 それからしばらくして、私たちは会長室で頭を抱えていた。

「どこにも見当たらない……」


「開かずの金庫も、隠し部屋の類いもありそうになかったからな……」


「本当に宝なんてあるのか……?」

 二時間、必死に探したけど、まったくそれらしき物は見つからなかった。


「これ以上は、コルトの旦那を連れて来るか、副会長の旦那に頼む方が良いと思うぞ。あの人たちなら、俺たちよりもここに詳しいはずだからな」


「そうね……。ローゼは、何か怪しいと思う物あった?」


「……」


「どうしたの?」

 ローゼに話を振ると、ローゼはとある一点を見つめて何かを考えているようだった。


「これ、なんだか怪しくない?」

 そう言って、ローゼが指さした方向には一枚の絵が飾られていた。


「魔方陣を模した絵? これが宝だとでも言うの?」


「これ、たぶん何かの魔方陣じゃない?」


「いや……この魔方陣に意味なんてないよ?」

 確かに、素人からしたら魔方陣に見えるかもしれないけど、魔方陣を少しでも学んだことがある人が見れば、これは絵だとわかるわ。

 そう思いながら一応、私よりも詳しいおじさんたちに確認してみた。


「そうだな……。これはデタラメだ。絵で間違いないと思うぞ」


「第一、こんな基本属性も描かれていない陣で何ができるって言うんだ?」


「そんなの、私たちの方が知りたいわよ」


「でも……わずかだけど、魔力を感じる。これ、使える魔方陣よ」


「嘘!?」

 ローゼが絵を触りながらそんなことを言うから、近づいて確認してみると……確かに、ちゃんと魔力を持っていた。


「でも……私の魔力は受け付けないみたい」


「私のも……ダメね」

 何か、発動条件があるのかしら?


「おいおい。二人とも、何を平然と訳もわからない魔方陣に魔力を注いでいるんだ。もし爆発でもしたらどうするつもりだよ」


「その時は私の結界で守ってあげるわ」

 うん……発動記号は私が知っている一般的な物だ。でも、この部分……どこかで見たことがあるわね。

 あ、思い出した。前に、お父さんが持っていた魔剣を分解したときに見た魔方陣に描かれていたやつだ。

 確か……使用者指定だったはず……。


「あ! 私、ひらめいちゃった!」


「おお! それは良かった。それで、どうやってこの魔方陣を使うんだ?」


「とりあえず、コルトおじさんのところに行くわよ!」


「きゅ、急だな」


「つべこべ言ってないで行くわよ!」

 ふふふ。私の予想が正しければ、この魔方陣にはコルトさんがいれば大丈夫なはずだわ。


「いらっしゃい。おお、ノーラにローゼ、随分と大きくなったじゃないか」

 ホラント商会本店に入ると、コルトおじさんが笑顔で迎えてくれた。


「おじさん! ちょっと頼み事!」


「頼み事? なんだ? 俺に魔法具の才能はないぞ?」


「そんなんじゃないわ。これに魔力を注いでみて」


「ん? それは、会長室に飾ってあった魔方陣じゃないか」


「おじさん、これについて何か知ってるの?」


「いや、親にこれだけは大事にしろって言われていたから、会長室に飾っていただけだぞ?」

 ビンゴ!


「やっぱり、私の勘はさえているわ。というわけで、おじさんにはこの魔方陣に魔力を注いで貰います!」


「俺、そんなに魔力がないけど大丈夫か?」


「さあ? とりあえず、注げるだけ注いでみて!」


「わかった。うお!?」

 おじさんが魔方陣に手を置いて魔力をそそぐと、おじさんの手が魔方陣の中に飲み込まれてしまった。


「おじさん! 大丈夫?」


「あ、ああ……特に痛くはないな。ん? これは何だ?」

 そう言って、おじさんが魔方陣から何やら丸められた一枚の紙を取り出した。

 間違いない。それは、私が探していた物だわ!


「地図だわ! きっと、私が求めていた物よ!」


「そうか、お宝の地図だな」


「お宝はお宝でも、単なる財宝が隠されている場所を教えてくれる地図じゃないわよ?」


「じゃあ、何だって言うのよ?」


「ふふふ。それは行ってからのお楽しみに」

 きっと、ローゼでも腰を抜かして驚くはずだわ。


「え~。お嬢、知っているなら教えてくれても良いじゃん! どうせ、俺たちには狭間森には行けねえんだから」


「狭間森?」

 何それ?


「ん? 知らねえのか? まあ、帝国ではあまり聞かねえもんな」


「この、王国と教国の狭間にある森、今まで中に入って出てこられた人はいないって噂だ。もしかしたら、魔の森よりも危険かもしれねえって噂だぞ?」

 へえ……。初めて聞いた。そんな場所に、目的地があるのね。


「まあ、そんな危ねえ森があったら今頃王国や教国は森に住んでいる魔物たちに滅滅ぼされているだろうから、商人たちが話の種にしている噂話に過ぎねえんだろうけどな」

 言われてみればそうね。でも、そんな行ったらわかるような嘘を商人たちが言うのかしら?

 まあ、行けばわかるか。


「ローゼ、すぐに準備して行くわよ!」


「わかった」


「おいおい。まさか子供二人で行くつもりか? せめて、お前の父ちゃんと一緒に行けって」


「そうだ。レオ坊ならきっとあの森でも平気だろうからな」


「大丈夫。魔の森で六ヶ月も生活していた化け(ローゼ)がいるから」

 しかも前世も合わせれば、千歳を優に超えるという経験豊富な化け物だ。


「ま、魔の森で六ヶ月!?」


「まあ、レオ坊の娘だから……あり得なくはないか」


「でも無理はするなよ? 危ないと思ったらすぐに帰って来るんだからな?」


「ええ。任せて。帰ってきたら答え合わせするから、皆ここに何があったか予想しておいてね~」


「ガハハ。答え、楽しみにしておくぞ!」


「さっさと帰って来いよ! 答えが気になって夜も寝れねえからな!」


「元気に帰ってくれば良い」


「そうだ、絶対に無理はしちゃダメだからな!」


「は~い。それじゃあ、またね~」

 おじさんたちに見送られながら、私たちはそのまま王国へと向かうことになった。



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