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第九話 最初の一歩

 

 SIDE:オーロ


 ローゼに父さんを助けられて日から約三ヶ月が経った。

 あれから、ローゼとノーラは大人たちに村の一員として受け入れられ、手が空いた大人たちが船造りを手伝ってくれるようになった。

 その結果、あっという間に船は形になっていき、今日完成してしまった。

「お前ら、準備良いか!」


『おう!』

 父さんの掛け声に、俺を含む村の男たちが船を力強く掴みながら大きく返事をする。


「ローゼの嬢ちゃん! 合図を頼む!」


「わかった。せーの! 一気にいくわよ!」


『ウオオオオ!』

 ローゼの合図を聞いて、俺たちは一気に船を海まで押し運んだ。

 そして……バシャン! と気持ちの良い音を立て、ついに俺たちが四ヶ月かけて完成させた船が着水した。


「……沈みはしないようね。はあ、良かったわ」


「俺は心配してなかったけどな」

 あれだけローゼが念入りに最後の確認をしていたんだ。絶対に沈むはずがないだろ。


「何を言っているのよ。朝飯が一切喉を通らなかったくせに」


「そ、それは、ちょっと今朝は食欲がなかっただけだ!」

 母さん……せっかく俺がかっこつけたのに、そういうこと言うなよ……。


「ふふふ」

 まあ、ローゼに笑って貰えたから良しとするか。


「それにしても……村の船と比べると、見比べる必要もないくらい立派ね。これなら、ローゼが最初に言っていたことも納得だわ」

 お母さんは腕を組みながら、うんうんと誇らしげに頷いていた。

 何を言っているんだよ……。この村で、一二を争うくらいローゼを信じてなかったくせに。


「そうだな。もっと早く嬢ちゃんに協力できなかった俺たちが馬鹿だった」


「いえ、途中からでも手伝って貰えて凄くありがたかったです」


「あれくらいは当然だ。これからはきっちり最初から最後まで手伝わせて貰うぞ!」

 当たり前だ。俺たちが使う船なのに、俺たちが造らなくてどうする。


「ええ。いずれは、村人だけでも一から造れるようになってくださいね」


「もちろんだ! いつかは、俺も立派な船に乗って漁をするぞ!」

「俺も! あんな丸太一本で魚なんて獲ってられるか!」

 ノーラが四ヶ月前に言っていた通り、実物を見れば簡単に手のひらを返したな。

 あんなに誰一人として信じていなかったのに……。

 まあ、こんなにかっこいい船を見せられたら仕方ないか。



「おーい! 網を詰め込み終わったぞ!」

 しばらく村人たちと話していると、出港の準備が整ったようだ。

 今回は、ローゼと父さんで海に出て、どのくらい魚が捕れるか試すようだ。

 これで成功すれば、明日から父さんはあの船に乗ってたくさんの魚を獲って帰ってくることになるだろう。


「オーロも乗ってきなさいよ」


「え? 俺も?」

 船に三人も乗って大丈夫か?


「あの船なら二人も三人も変わらないわよ。ローゼと一緒に乗れる機会なんて、なかなかないわよ? 男なら、乗ってきなさい」

 そう言われたら、断ることができないじゃないか。

 相変わらず、ノーラは人を操るのが上手い。


「わかったよ。ノーラは乗らないのか?」


「心配しなくても、あなたたちの邪魔をしたりしないわ」


「べ、別にそんなことは気にしてないし! もういい! たくさんの魚を楽しみにしておけよ!」

 ここにいるといつまでもノーラに茶化される。

 そう思った俺は、ノーラから逃げるよう船に乗り込んだ。


「結局、お前も乗るのか」


「ノーラが乗れって言うから」


「そうか。なら、働いて貰うぞ。ほら、錨を上げろ」


「わかった!」



「おお、本当に漕がなくても風だけで進むのか。楽で良いな」

 錨を上げ、帆を張ると、船がゆっくりと進み始めた。

 わあ……凄いな。疑っていたわけではないけど、こんな布一枚を広げているだけで、大人たちが数人がかりじゃないと動かない船が動いてしまうなんて。


「推進力、操縦性ともに問題なし。今のところ、順調ね」


「心配するなって、俺たちの船は完璧だよ」

 船の舵を取りながらブツブツと呟いているローゼに少しでも安心させようとしたが、ありきたりなことしか言えなかった。

 仕方ないだろ……。俺だって、今さっきまで動いているだけで驚いてしまっていたんだから。


「別にそこまで心配してないわ。これからもっと大きな船を造らないといけないから、少しでも今回の経験を活かしたいの」


「それって、どれくらい大きいんだ?」

 この船だって、丸太一本の船に比べれば十分大きいのに、これより大きい船ってどんな船なんだ?


「まだ決めてない。でも、最低でも五人は寝泊まりできるくらいの大きさは欲しい」


「船で寝泊まりか……。やっぱり、船の中だけで生活するのって大変?」


「陸より過酷なのは間違いないと思う。死ぬ可能性だってあるわ」


「そ、そこまで?」

 森に入るわけじゃないんだよ? 流石に、死ぬなんてことはないでしょ。


「驚くことじゃないわ。天候によっては転覆する可能性はあるし、海にだって魔物は出るもの」


「う、海にも魔物が出るの!?」


「そうよ。まあ、陸よりも数がずっと少ないからそこまで会わないとは思うけど」


「そ、そうなんだ。ひょっとして、こうして海に出るのってとても危険なことだったりする?」

 今まで、村人たちが死ななかったのは奇跡?


「陸から離れすぎなければ、危険な魔物が出てくることもないから大丈夫。ほら、網を準備して、漁を始めるわよ」


「わかった。父さん! 漁を始めるらしいぞ!」


「わかったわかった。ここら辺は、いつも俺たちが潜っている場所だな。ここらなら、間違いなく活きの良い魚が捕れるはずだ」

 へえ。いつも父さんたちはここまで船を漕いでくるのか。

 通りで、いつになっても腕相撲で勝てないはずだ。


「それにしても、これを投げ入れただけで……本当に魚が獲れるのか? 別に嬢ちゃんを疑うわけじゃねえが、魚はそこまで馬鹿じゃないぞ?」


「大丈夫よ。ほら、網を海に投げ入れていくわよ」


「了解」


「網を下ろし終わったらしばらく網を船で引いて、魚が引っかかるのを待つわよ」


「風の力で網を引っ張るんだね」

 てっきり、人の手で網を使って魚をすくい上げるものだと思っていたよ。


「そう。エルフの里でもよくやっていた漁法だわ」


「エルフの里?」

 初めて聞いた地名だな。有名な場所なのかな?


「……なんでもないわ。とにかく、この方法でたくさんの魚が獲れるのは間違いないわ」


「ローゼがそう言うならそうなんだろうね。今日の晩飯が楽しみだ」

 なんせ、今日は朝飯を抜いている。目一杯魚で腹を満たすぞ!


「そろそろ良いかしら、網を上げるわよ」


「力仕事なら男に任せておけ。オーロ! 反対側は任せたぞ! 俺に遅れるな!」


「わかった。負けないぞ!」

 と、言いながらも素の力では絶対に勝てないから、無属性魔法でちょっとズルをしながら網を引き上げていく。

 すると、網に引っかかった魚たちが次々と海出てきた。


「おお……。本当に魚がたくさんだ」


「わあ! 何か跳ねたぞ。ん? これ、魚じゃないぞ?」


「エビよ。美味しいから逃がさないでよね」


「わ、わかった!」


「ハハハ! これは確かに潜って一匹一匹魚を獲っていたのが馬鹿らしくなってくるな!」



 SIDE:ノーラ

「上手くいっているのかしら……」


「大丈夫だろ。あんな立派な船だぞ?」


「船が良いだけで魚がたくさん獲れるわけではないだろう」


「ふふふ。皆、半信半疑って感じね。これは、ローゼたちが帰ってきたら驚きすぎて腰を抜かしちゃうんじゃないかしら?」

 村人たちの不安そうな顔を見ながら、船が帰ってきたことを想像して思わず笑ってしまった。



「おーい! 帰ってきたぞー!」

 しばらくして、オーロの大きな声が聞こえてきた。


「あ、帰ってきた。あの、オーロの表情からして……魚は獲れたみたいね」

 望遠鏡を覗くと、オーロは嬉しさを一切隠さずにニコニコと笑いながらこちらに向かって手を振っていた。

 これは、期待して良さそうだ。


「おーい! 大漁だぞ~!」


「大漁!?」


「ということは成功したってことか!」


「ふう。とりあえず、これで商会として第一歩を踏み出せたわね」

 ようやくこれからに希望が見え、思わず一息ついてしまった。

 一歩にこれほど苦労するとは思わなかったけど、これからは順調に稼げるようになりそうね。

 さて、ローゼが帰ってきたら私のターンよ!



「おお! こんな立派な魚、潜って獲るにはなかなか骨が折れるぞ。それがこんなにもたくさん。これは……今までの俺たちが間違っていたと認めるしかないな」


「そうだな。ローゼには感謝しないと」


「これ、人が食べられるものなの? ウネウネしていて気持ち悪いわね」


「タコって言うらしいよ。ローゼが言うには美味しいらしい」


「でもこれ……たくさんあり過ぎて、腐る前に干すのが間に合うか心配だわ」


「そうね……。いつものペースでやっていたらとても間に合わないわ」

 魚をダメにしてしまうと気づき、さっきまで笑顔でいっぱいだった村人たちの顔が曇り始めた。

 来た、このタイミングね。


「ふふふ。そんな皆さんに商談です」


「商談?」


「ええ。私から素敵な取引があります」


「その儲ける時のうさんくさい笑顔、久しぶりに見た」


「確かに、いつもの笑顔となんか違う気がする……」


「そこ、静かに!」

 ローゼとオーロが余計なことを言い始めたので、指差しで黙らす。

 これから大事な話をするのだから、邪魔しないでよね。


「そ、それで、商談ってなんだ? 俺たち、知っていると思うが、金なんて持ってないぞ?」


「ご心配なく。お金を払うのは私の方だから」


「え? 嬢ちゃんが俺たちに金を払うのか? ここまでして貰っているのに?」

 まったく……ここまで単純だと、なんだか私が騙しているみたいであまり気分が良くないわね。

 まあ、お金の為ならそんな感情は関係ないんですけど。


「そう。これから、村で処理できなかった魚を私たちに買い取らせて欲しいの」


「そ、そんな。買い取ってどうするんだ?」


「魚が欲しくて仕方ない金持ちに高値で売るのよ」

 海から遠いミュルディーンで売ったら、間違いなくとんでもない値がつくはずだわ。


「ど、どうやって? 嬢ちゃんたちだけで魚を干して運ぶのは難しいと思うぞ?」


「心配なく。私たちにはこれがあるから」

 そう言って、私は魔法の鞄から秘密兵器を取り出した。


「こ、これは?」


「通称冷凍庫。この中、凄く冷たくなっていてね。ここに入れておけば、どんな食べ物もしばらくは腐らないで済むの」


「そ、そんな物がこの世界には存在するんだな……」

 ふふふ。魔法具をまったく使ったことない人からしたら、信じられないかもしれないわね。


「ちなみに、これは皆にあげるね。村長の家にでも置いておくと良いわ」


「い、良いのか? これ、絶対高いだろ?」

 買えば高いけど、これは私が一人で作った物だからタダ同然だったりする。

 だからそこまで気にする必要はないのだけど……なるべく恩を売っておきたいし、黙っておきましょうか。


「これから皆には私たちの代わりに船を造ってもらうことになるし、仲良くやっていきたいからね。友好の証だと思ってくれれば良いわ」

 そう言って、お母さん仕込みの満面の笑顔で村人たちを見た。

 これで、村人たちは船の件を含めて私のことを無条件で信用してくれるようになるはずだわ。


「……わかった。その分、俺たちはたくさん魚を獲って、嬢ちゃんたちを儲けさせてやるぞ!」


「そうだな!」


「任せておけ!」


「ふふふ。皆さん、ありがとうございます」

 優しい笑顔で笑いながら、私は心の中で大きくガッツポーズした。

 よし! 商談成立! やっと商会らしいことができる~!!


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