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第六話 造船計画

 

 SIDE:ロゼーヌ

「これが漁に使っている船?」

 ズキズキと痛む頭を抑えながら、私は村人たちが使っているという船……いや、舟を見せて貰っていた。

 昨夜の記憶がまったくないけど、どうやら昨日の私は村人たちの漁を改善することを約束してしまったらしい。


「そうだ。俺たちはこれに乗って海に出て、潜って魚をこれで一突きさ」

 自慢げに銛を見せる男たちは、まったく昨日の酒など感じさせないくらい元気だった。

 日が昇ったばかりの早朝だというのに……やっぱり、海に鍛えられた男たちは強いわね。


「これで……こんな小さな舟で漁をしているの? よく、今まで村を維持できていたわね」


「小さい? なんだと?!」


「ローゼ!」


「本当のことを言っただけ。でも、これなら私でも食糧問題を解決できそう」

 頭が痛くて一々人の反応を気にしている余裕もないから、村人やノーラが怒っていても気にせず話を進めた。

 まあ、これから私が提案することを聞けば、きっとあなたたちはその怒りを忘れしまうわ。


「本当?」


「ええ。船をちゃんと造って、網、せめて釣り竿で漁をすれば魚を売る余裕もできるはず」

 幸い、船について調べているときに、ルフェーブル領で行われている漁についての文献を読んだことがある。

 その知識を用いれば、間違いなく今より格段に改善されると思うわ。


「む、無茶を言うな! 魚を売るだと?! そんなの絶対に無理だ! 俺たち、領主様に献上する魚を確保するだけでも大変なんだぞ!」


「だから、それはあなたたちの漁の仕方が悪いだけで……」

 そんな小さい舟じゃあ、多くの魚を積み込むことはできないし、海に潜って一匹一匹獲るやり方はとても効率的とは程遠い。

 体力のある男がたくさんいるのなら別に良いかもしれないけど、最近はどんどん若い人たちが外に出てしまっているんでしょ?


「もう聞いてられるか! 村長! 俺はもう海に出るぞ!」

「俺も!」

「こんな妄想に付き合ってられるか!」

 私がせっかく知識を与えてあげようとしているのに、村人たちは私に感謝するどころか怒って海に出て行ってしまった。

 まったく……結局外の人の言うことは聞く気はないってことかしら?


「もう! ローゼ、もう少し言葉を選びなさいよ! あんな上から目線で教えてあげるって言われて、素直に聞く人なんているわけがないじゃない」


「はあ、そうね。ごめん」

 言われてみれば、これは私たちがこの村に住まわせて貰う対価だったわね。

 それなのに……私は何をやっているのかしら? 頭痛でまともに頭が回っていなかったと言っても、千年生きている大人とは思えないわね。

 もう、この体でお酒を飲むのはなるべく控えよう……。


「とりあえず、こうなったら私たちだけで船を造ってみせないと。幸い、創造魔法があれば私たちだけでも造れるわ」


「創造魔法を使うのはダメよ」


「ど、どうして?」


「ちゃんと人の手で造れることを見せないと、村人たちは協力してくれないと思う」

 というか、それは私たちが造った船を無償で渡しているだけで、漁の改善法を教えているわけじゃない。


「……確かに。でも、私たちだけで魔法を使わないで船を造れる?」


「それは……」

 無理じゃないけど、完成まで途方もない時間がかかってしまいそうね。

 やっぱり……最初だけは魔法を使いながら船を造るしかないか。


「俺も二人を手伝うぞ! 力仕事なら俺に任せてくれ!」

 私がどのくらい妥協して見本の船を造ろうか考えていると、体格の良い一人の少年が元気よく私たちに話しかけてきた。


「あなたは?」


「俺は、オーロだ! ガロの息子って言ったらわかるか?」

 いや、当たり前のように父親の名前を出されても……ガロって誰よ。


「ああ、ガロさんの」

 え? どうしてノーラは知っているの?

 あ、昨夜私が酔って記憶がない間に知り合ったのか。

 もしかしたら……私も覚えていないだけで話していたかもしれないわね。


「こいつ、どうせ暇だから自由に使ってくれ。見た目通り力はあるから、力仕事は全てこいつに任せてしまえ」


「わかりました。えっと……オーロ、よろしくね」


「別に礼は要らないぞ。俺もこの村の為に働きたいだけだからな!」

 ノーラが手を差し出すと、オーロは元気よくその手を握った。

 この子……私がこの世で一番苦手な、とにかく元気とやる気が凄い所謂体育会系という人種だわ。


 それに……、

「よし! どうにか三人で船を造ってこの村を豊かにしてみせるぞ!」

「おーう!」

 この二人が出す大声は……今現在頭痛に悩まされている私にとって、ドラゴンのブレスよりも大きなダメージを与えてくる。


「……と二人だけで意気込んだものの、私は何も船の知識を持ち合わせていないわ」


「え? それじゃあ、さっきの言葉は本当に妄想だったのか?」


「そういうわけじゃないわよ。ローゼがどうにかしてくれるわ」


「はあ、ちょっと待って。漁船にするなら……」

 私は自分の鞄から数枚の設計図を取り出し、その中で一番単純な構造をしていて漁に向いていそうな船の設計図を一枚選んだ。


「これなんてどう?」


「ありがとう……。そんな数の設計図、どうしたの?」


「帝都の図書館にある船に関する文献を一通り写したのよ。もちろん、いくつかは私自身で設計したものもあるわ」

 どんなに探しても、一ヶ月以上航海することを前提に造船されたものは一つも文献としては残ってなかった。

 だから、どうしても私が自分の知識をフル活用して設計図を描くしかなかった。


「へえ……ただ学校をサボって無駄な時間を過ごしていたわけじゃないのね。ちょっと見直した」


「どうせ無駄な時間だったとは思うわ」

 帝都で読んだ本のほとんどは、今私がエルフの里まで乗っていこうと思っている船の設計図にはなんの貢献をしてくれなかったからね。


「もう、そんなに怒らないで。それよりほら、設計図を見せてよ」


「別に怒ってないわよ。はい」


「へえ。思ったよりも簡単そうね」


「俺にも見せてくれ! え? これ……簡単なのか?」

 ノーラの持つ設計図をのぞき込んだオーロが信じられないという顔をして、ノーラの顔を見た。

 私たちに比べて圧倒的に教養の足りないオーラが見れば、難しく感じるのは当然でしょうね。


「あ、どうなのかしら? 最近、魔法具の修行をしていて、ちょっと感覚がおかしいかも」

 へえ。そうだったんだ。

 やっぱり、あれだけ強気の発言をしていても、エルシー母さんの跡を継ぐことも選択肢としてはあったのね。


「魔法具? それって魔法の道具のことだよな? お前、魔法が使えるのか?!」


「もちろんよ。私は、どんな物を作ることができる創造魔法の使い手よ」


「すっげー。ローゼも魔法が使えるのか?」


「ええ……使えるわ」


「すげえ! どんな魔法が使えるんだ?!」


「結界魔法。壁を作る魔法だと思ってくれれば良いわ」


「へえ~。二人とも、すげえんだな」


「そんなことないわよ。それより、さっさと試作に取りかかりましょう。三人しかいないんだから、雑談に時間を割いている暇なんてないわ」


「は~い」


「わかった。それで、俺は何をすれば良い?」


「とりあえず、木を運ぶのと指定した大きさに切るのを頼むわ。木はこれくらいかしら?」

 オーロに指示を出しながら、私は木を積み上げていく。

 本来は、この程度の船の素材として魔の森の木を使うのはもったいないけど、三人だけしかいないのに木の伐採からしている暇なんてないわ。


「え!? その袋、どうなってるの?」


「魔法の袋よ。この袋の中、魔法の力で空間が広げられてるから、どんな大きな物も楽々持ち運べるのよ」


「魔法ってすげえんだな。俺にも魔法の才能があったら……」


「もしオーロに才能があったら暇な時間にでも教えてあげるわ」


「ほ、本当か!?」


「別に嘘を言ったりしないわ」

 嘘は言ってないけど、貴族と違って平民のほとんどは属性を持っていない。

 それなのに、その条件を提示するのは、教えないと言っていると同等じゃない。

 まあ、私には関係ないから余計な指摘とかもしないけど。


「それより、船の話に戻るわよ。普段、船の素材はどうしているの? さっきの舟を見た感じ、結構質の良い木を使っているわよね?」


「船を造る木なら、あっちの森から取ってきているぞ。魔物が出るから危ないんだけど、どんな高波にも耐えられる丈夫な木はそこにしか生えていないから、村の男たちが総出で切りに行くんだ」


「そう。それじゃあ今度、私たちをそこに案内してくれるかしら?」


「だから、大人たちが大人数でいかないといけない場所なんだぞ? 子供だけで行ったらダメだろ!」


「あら、オーロって真面目ね。普通、男の子って親の言いつけを破りたくなるものじゃない?」


「死んでしまうのをわかっていて行く馬鹿がいるかよ。数年に一回、木を取りに行った大人たちが怪我して帰ってくることがあるんだぞ? 俺なんかが行って無事で済むわけがないだろ!」


「昨日、ドラゴンの肉を食べたでしょ? 私はドラゴンが倒せるくらい強いのよ」

 村人の苦労話には興味ないから、さっさと私が森に行っても大丈夫な理由を説明した。

 もう、さっきから余計な話が多すぎよ。さっさと作業に取りかかりたいって言っているでしょ?


「そ、そういえばお前……ドラゴンを倒したんだったな。とてもそうは見えないんだけど」


「別に、強さに背は関係ないでしょ?」

 私のことを見下すオーロを睨みつけた。

 体はまだまだ成長期よ! 今は低くてもいつかは最低でもノーラより高くなるんだから!


「ご、ごめん……」


「ふふふ。ローゼ、オーロは別に背が低いなんて一言も言ってないわよ?」


「う、うるさいわね。ほら、さっさと作業を始めるわよ! 雑談している暇なんてないんだから!」

 ノーラの指摘に私は顔を赤くし、それを誤魔化すように作業に取りかかった。

 もう、背なんて関係ないのはわかっているはずなのに……。


「はいはい。わかったわ。それじゃあ、みんなをあっと驚かせるような凄い船を造るわよ!」


「おう!」


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