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第二話 契約

 

 SIDE:ロゼーヌ


「五か月ぶりのベッドはどうだった?」

 目が覚めると、歳が数分しか変わらない妹のノーラが嬉しそうに笑っていた。

 どうしてノーラがここに?


「……よく寝れたわ」

 寝起きで回らない頭を回すのを諦め、とりあえずノーラの疑問に答えておいた。


「それは良かったわ。もう、引きこもりが無理して家を出るから五カ月も迷子になるのよ」


「別に、迷子になっていたわけじゃないわ」


「うん。知ってる。あなた、そんな馬鹿じゃないもの」

 なら、どうしてそんな無駄な質問したのかしら?

 それとも、あなたなりの場を和ませるための冗談?


「ねえ、どうしてあなたがここにいるの? ここ、帝都の家じゃないよね?」

 よくわからない妹の会話の切り出しに、私はさっさと気になったことをぶつけた。


「ふふん。学校ならサボってきたわ。あ、ローゼに咎める権利はないからね?」


「別にあなたが学校を休んだかどうかなんてどうでもいいわよ。そうじゃなくて、どうして私が起きるのを待っていたわけ? あなたが用もなく私に会いに来るとは思えない」


「え~。可愛い妹が心配して見舞いに来てあげたのよ? もう少し、ありがとうとか言ってくれてもいいんじゃない?」

 何を言っているのよ。あなたが興味あるのは、創造魔法とお金を稼ぐことだけじゃない。


「どうせ、何か企みがあって来ているんでしょ? さっさと本題に入りなさいよ。じゃないと、内容も聞かずにまたこの家から出ていくわよ?」

 こう脅せば、すぐに本題に入るはず。そんなことを考えながらベッドから下りようしながら、ノーラを見た。

 ……ノーラは慌てるどころかニヤリと笑っていた。


「ああ、それなら大丈夫。まだ、ローゼがこの部屋から出ることはできないから」


「……どういうこと?」

 この部屋に何か細工をしたの?

 わざわざ私を閉じ込めてどうするつもり?


「ふふふ。この契約書にあなたがサインをするか、契約書を破らないと誰もこの部屋から出られないようにしたから」

 そう言って、ノーラが一枚の紙をぴらぴらとアピールしてきた。


「あなた……随分と魔法の腕を上げたのね」

 ちょっと見ない間に、ここまで強力な魔法アイテムを創造できるようになったとは。


「そりゃあそうよ。毎日練習しているんだから」


「そう」


「ちなみに、気になっているだろうから教えてあげるけど、ネリアが普通の状態でも炎を操れるようになったわよ」


「……やっと努力が報われたのね」

 焼却魔法を感情を爆発させた暴走状態では使えない。

 私は最初、そういうものだと思っていた。

 決して魔力が少なくないネリアがマッチ一本分の火も出せないのだから、そう思っても仕方ないと思う。


 けど、本人は諦めなかった。

 誰よりも努力をして、必死に魔力を増やし続けた。

 その結果が出たのだと思うと、自分のことのように嬉しいわ。


「キール君がいたおかげだと思うわ。彼がいなかったら、ネリアは練習もできなかったはずだから」

 消せる唯一の手段は空間魔法だけだものね。

 練習はキールがいないと厳しいか。


「二人は今も仲良いの?」


「あなたがちゃんと学校行っていた頃よりは良いんじゃない? 皆から、夫婦って言われてるくらいだし」


「……そう。あの子が幸せそうで良かったわ」

 そんな幸せを私が壊すのかもしれないと思うと、凄く心が痛むけど。


「何を言っているのよ。それよりほら、この契約書にサインして」


「はいはい……とはいかないわよ? これ、なんの契約書?」


「読んだらわかるわよ」


「読むのが面倒だから口で説明してよ」

 どうせ、あなたのことだから読むのが面倒になるくらい細かく書いてあるんでしょ?


「はあ、仕方ないな。一言で表すなら、私とローゼで商会を立ち上げましょうって話」


「商会? あなた、私を使って金を稼ぐつもり?」


「ちょっと、流石にそれは私を馬鹿にしすぎよ。ローゼは、私がそんな一方的な話を持ってくるような馬鹿だと思っていたの? ちゃんと、ローゼにも利があるからこの話を持ち掛けているの!」

 ふん。そうやって私の罪悪感を煽ろうとしたって無駄よ。


「でも、私にどんな利があるわけ? それと、私と組むことでノーラにどんな得があるのかも教えなさい」


「はあ、一から全て教えないといけないの? 仕方ないわね……」

 何をめんどくさがっているのよ。あなたが私に頼む側じゃない。

 そいうところはまだまだ子供ね。


「一つ、私と組むことで、あなたは自由に使うことができるたくさんの金と人手を手に入れることができるわ」


「二つ、あなたと組むことで、私はあなたの持っている知識と技術、権力を借りることができるわ」

 指を二本突き出すノーラを見ながら、簡潔に語られた言葉の裏をぼんやりと考えてみた。

 うん……まだ、目の前の妹が何を考えているのか理解できないわね。

 というか、どうして具体的に何をやるのか濁すのよ。

 私をイライラさせる作戦か何か?


「一つ目は……まあ、少しだけ理解できるわ。ただ、二つ目はまったく納得できない。あなたには私の技術、知識がなくても十分大金を稼げるはずだわ。それに、この私にどんな権力があると思っているの?」


「私、造船と貿易の会社を立ち上げようと思っているのよね」


「造船と貿易……」

 ああ、そういうこと。確かに、それなら私に話を持ってくるわね。


「私には海を長く航海できるような船の知識はないし、魔界やエルフの里まで行く航海の知識もない。どっちも自力でできたとしても、エルフたちが素直に人族と貿易してくれると思えない。どう? あなたと私が組む意味、少しはわかってくれた?」

 概ね予想通りの回答が帰ってきた。

 でも、一つだけ気になることがあるわね。


「私がどうしてエルフに影響力があることを知っているの? まあ、愚問ね。父さんから聞いたんでしょ?」

 他に知っている人なんて、ネリアかお母さんのメイドをしている、あのダークエルフだけだもの。


「ふふふ。父さんとも取引してきたのよ」

 その笑い方からして、お父さんからも相当ぶん取って来たんでしょうね。


「昔から思っていたけど、あなたって本当……商売に向いていると思うわ」

 そういう親や姉に対しても遠慮しないところ、才能だと思うわ。

 交渉術をもっと磨けば、いつかはエルシー母さんに負けないくらいの大商会を築けるかもね。


「本当!? エルフの女王様にそんなお墨付きを貰えるなんて嬉しいな~」


「はあ、わかったわ。前向きに検討してあげる。ただ、契約書は端から端まで読ませて」


「え~。そんな必要ないって、何も考えないですぐサインしちゃいなよ」


「私、こういう時のあなたを信用したらダメって知っているんだから」

 どうせ、細かいところは自分に有利な条件にしているんでしょ?


「わかりました。それじゃあ、ゆっくり読んでください」



「……思ったよりは短かったわね」

 読み終わった感想はこれだった。

 そこまで細かいことは書かれていなくて、ちょっと拍子抜けって感じね。

 あなたなら、もっと遠慮なしに突っ込んだことを書いてくると思ったんだけど。


「これから支え合っていかないといけない人を騙したりしないわ」

 ふん。そんなきれい事を言って、本音はどうなのかしらね。


「気になるところは……お互いしっかり休息と睡眠をとること。半年に一回は、ノーラ以外の家族と会うこと。これ、契約書に入れないとダメ?」

 とても商会を立ち上げる契約書に書く内容ではないと思うんだけど?


「ああ、それはお父さんとお母さんたちに援助してもらう条件。まあ、別に大変なことじゃないし、問題じゃないでしょ?」


「そうだけど……半年に一回……」


「良いじゃない。たまにはネリアにくらい会ってあげなさい。ネリア、あなたに魔法を見せたがっていたわよ」


「……わかったわ」

 ネリアに会うくらいなら、半年に一回くらい我慢してあげるか。


「他に、聞きたいこと、契約書に入れたい言葉があったりする?」


「得に……いや、一つだけあったわ。これだけは、契約書に入れて欲しいかも」


「何?」


「初航海時、ノーラは乗船しない。これだけ入れといて」


「……え? なんで? 私も一回目くらい船に乗ってみたいんだけど」


「あなたが行ったら死んじゃうもの」


「死ぬってどういうこと?」


「そのままの意味よ。あの島に行ったら、あなたは確実に死ぬ。私だって……無事でいられるかわからない場所よ」

 だから、あなたが行っても大丈夫なのは、全て解決して平和になってからよ。


「……そういうことだったんだ。だから、ローゼもネリアも必死になって強くなろうとしているのね」


「そうよ。本当は……ネリアも連れて行きたくないんだから」


「まあ、ネリアの魔法は強力だから仕方ないか。はい、契約書を書きかえたわ。これでサインしてくれるよね?」


「……わかったわ。五年と少し、この時間をあなたに全て賭けてあげる」

 とは言っても、ノーラが一緒なら船は簡単に用意できてしまいそうな気がする。

 ノーラには、そういう謎の安心感がある。

 大商会を築く人の素質は、こういうところなのかもしれないわね。


「ありがとう! 私、いいお姉ちゃんを持ったわ!」


「私はとても面倒な妹を持ったと思うわ」

 姉妹なのに、どうしてここまで腹の探り合いをしないといけないのよ。

 これからこんな日々が続くと思うと、ちょっと憂鬱になるわね。


「ふふふ。今日から、二人で頑張っていこうね。すぐには無理でも、いつかはお母さんの商会よりも大きくなるわよ!」


「四十年もあればできるんじゃない?」

 ホラント商会の成長速度も考慮すると、四十年が妥当な気がする。


「四十年か……。私にとっては長いけど、ローゼにとっては短いんじゃない?」


「そうね」

 千年生きている私にとってはとても短く感じるわ。

 まあ、それを言ったらこれから五年は一瞬なんでしょうけど。


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