閑話17 皆が無事に
魔王の核と俺の核を融合させていく。
失敗したら即死。とても緊張する作業だが、どうせ助からなかった命だと思えてからは、気楽に作業ができた。
そして俺は、寿命が無く、魔力が枯渇しない完璧な体を手に入れた。
「無事、成功したみたいだ」
「良かった……」
俺を抱きしめたままだったルーの力が弱まった。
「レオ……生きてて良かった……私、レオがいないと生きていけない……」
「ルー、ありがとうな。ルーが俺の意図を汲み取って魔王を破壊してくれなかったら、あそこまで上手くいかなかったよ」
あの一瞬で魔王を消してくれたからこそ、俺は創造魔法で魔王を改造することができたんだ。
「でも、それからはレオを助けることはできなかった……」
「そんなことないよ。俺が気を失ってから、ずっとルーが支えていてくれたんでしょ? ありがとう」
結果が良ければ全てよし。今日くらいはそう思おうよ。
「……うん」
頭を撫でてあげても、ルーは納得していない顔をしていた。
これは、帰ってから美味しいご飯をたくさん用意してやらないとダメだな。
「うう……あれ? もう終わってしまったのか?」
エレーヌに抱えられて気を失っていたカイトが目を覚ました。
カイトも傷らしい傷がなかったから良かった。
「カイト、大丈夫か?」
「一回起きたはずなんだけどな。どうやらまた寝てしまったようだ。俺は問題ないが……良かった。全員無事だったみたいだな」
カイトは見渡して皆の無事を確認すると、また体をエレーヌに預けた。
「子供たちも全員、無事で良かった。カイトも犠牲が義手だけで済んで良かったな」
盛大に爆破された義手の根本に手を当て、俺は創造魔法を使った。
今は材料がないからそこまでの性能が出せないが、仮と言うことで我慢して欲しい。
「お、おい。貴重な魔力を俺に使うなよ!」
「大丈夫。もう……俺は助からないから」
「え……嘘だろ?」
「嘘だよ」
綺麗に騙されてくれたカイトに、ニヤリと笑った。
「笑えない冗談を言うなよ!」
「ごめんごめん。義手の方で殴るなよ」
怒って殴るカイトに軽く謝りながら退避した。
「ふん。笑えない冗談を言ったお前が悪い」
「ごめんって。なんとか無事だったよ」
「そうか……本当に良かった。あ、グルはどうした?」
あってなんだよ。お前、今まで忘れていたのか?
一応、親友だろう?
「魔王にどこかに飛ばされてから、まだ帰ってきてない」
「……大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思う。魔王もグルを殺そうとはしていないはずだから」
「まあ……。あいつなら、そう簡単に死んだりしないか」
「そうだな。グルの不死身な体を信じるしかない」
あいつなら大丈夫だろ。
グルを信じ、俺は床に尻餅をついた。
ふう。やっと一息つける。
「うわ~~~ん」
「ああ、怖かったね」
「おがあ~~~ざ~~~ん」
「はいはい」
俺が一息つこうとすると、子供たちが大泣きし始めた。
これには、お母さんたちも大忙しだ。
「あらら。皆、緊張の糸が切れたみたいだな」
「逆に、今までよく泣かずに我慢できて偉いと思う」
あの状況は、子供には怖くて声も出せない状況だったと思うぞ。
今日の魔王は、一段と怖かったからな。
「とりあえず……俺たち以外は一旦ミュルディーンに避難させるか」
まだどこかに長老の手下が隠れているかもしれないし、子供たちがここにいるのは危ないだろう。
「え? レオたちは残るの?」
「そうだな。俺たちはグルの帰りを待っていないといけないから」
せっかくグルが帰ってきたときに、誰一人も出迎えてやれなかったら可哀想だろ?
せめて、男だけでも残ってないと。
「それなら私たちも……」
「そうはいかないだろ。ここにはまだ敵が残っているかもしれない。グルがいない以上、敵と味方の見分けがつかないし……子供たちを安心させてあげたいんだ」
「……わかりました。皆さん、帰りましょう?」
「……レオンス様。グルのことをよろしくお願いします」
「はい。任せてください」
「それじゃあ、一気には無理だから三組に分かれるわよ」
「あ、全員一気にでも大丈夫だよ」
「え?」
「それじゃあ、皆あっちで待っててね」
俺は空間に穴を開け、全員を俺の城へと飛ばした。
「今のは……空間魔法か?」
「そうだよ。もう、魔力の心配をしなくて済むからな。惜しみなく魔法を使える」
魔法を自由に使えるってこんなにも楽しいことなんだね。
もう、いろんな魔法が使いたくて仕方ないよ。
「そうか。遂に、最強のレオが復活したわけか」
「全盛期と比べてどうなんだろう? 魔力が自分で回復できるようになったと言っても、自力で作れる魔力はほんのわずかだからね。結局、嫁さんたちに魔力を分けて貰わないといけないのは変わらないと思う」
今の回復量でもし、全ての魔力を使ったとするならば、満タンになるのに最低でも一年はかかるだろう。
だから、結局は嫁さんたちに魔力を貰う生活がこれからも続くだろう。
「それでも、魔法を使っていなくても魔力が減る、なんてことはなくなったんだろう? それだけでも、随分と違うんじゃないか?」
「確かにそうだね。最近、嫁さん五人がかりで朝と夜に一時間魔力を注いでもらわないと、魔力が無くなって死んでしまう体になっていたからね」
これからも魔力は分けて貰うつもりではいるけど、最悪貰わなくても死ななくて済む体になった。
これだけで、日々のストレスが大幅に軽減されるはずだ。
「あの五人が一時間もかけて注いだ魔力をほぼ一日で使い切ってしまうなんて、不労の体とはいえどデメリットしかないな」
「本当だよ。でも、もうそんな心配もしなくて良いんだ。嬉しいね」
「ああ、良かったな」
「魔王に感謝しないといけないな」
「……そうだね」
自分の命と引き換えに、俺を助けてくれたんだ。
いろいろとあったが、小さい頃からお世話になっているし、改めて感謝しないといけないな。
「魔王とは小さい頃から親交があったんだっけ?」
「そうだよ。じいちゃんが死んだときに、強くなろうと魔の森に一人で挑んだ時に初めて会ったんだ」
「まだ八歳だったんだろ? 相変わらず、お前は怖い物知らずだな」
「まあ、そうだね。じいちゃんが死んで、少し自暴自棄になっていたところもあったのかな」
あの時は、爺ちゃんが死んでしまって……自分の無力さを知って、形振り構わず強くなりたいと思って世界一危険な魔の森に入ったというわけだ。
「俺の前の勇者って……どんな最後だったんだ? レオを守って死んだのは聞いたんだけど」
「そのまんまだよ。ダンジョンのボス相手に、自分の寿命を縮めてまで時間稼ぎをしてくれたんだ」
「そうだったのか……。寿命を縮める戦い方……二代目の本に書いてあった気もするな。エルフの秘術で、生命力を魔力に変える方法があるって」
そういえば、爺ちゃんが死んだ理由をちゃんと考えたことがなかったな。
歳を取っていたと言っても、限界突破を使って死ぬようなことはなかったと思うんだよね。
だとすると……生命力まで使って、俺を助けようとしてくれた。と思うのが正解な気がする。
「そういえば、魔族の長老も自分の生命力まで使って魔王を召喚していたよな?」
「あんな爺さんでも魔王を召喚できるくらいの魔力が得られるなら、もしもの時の為に……やり方を知っておきたいな」
もちろん。生命力を使えば死んでしまうから、人生で一度しか使えない方法だ。
だけど、いつか絶対に必要になる日が来るはずだ。
「エルフの秘術って言ったな? それなら、ローゼにやり方を教わるのが手っ取り早いな」
元エルフの女王様なら、全て知っていそうだ。
「ああ、元エルフの女王か。……教えてくれるのか?」
「さあな。わからん。もう少し時間を置いてから頼んでみるよ」
今はいろいろとあって、とても頼める状況じゃないから、一、二年して今日の記憶が少し薄れた頃に頼んでみるとしよう。
「頼む。教わったら、俺たちにも教えてくれよ?」
「そうだ」
「教えてくれたらな」
教えてあげるか悩む……。たぶん、というか絶対、二人とも何かあったら平気で自分の命を捨ててしまいそうだからな。
「話は変わるけど、とりあえず皆無事で良かったよな」
子供たち、奥さんたち、皆が生きて今日を終われそうで本当に良かった。
間違いなく死人が出ていてもおかしくない状況だったからな。
「ああ……レオのおかげだよ。あんな化け物、俺たちにはどうすることもできなかった」
「仕方ないさ。あれは、正真正銘の化け物だ。あの人に勝てるのは、この世界でも二人しかいない」
「そんな人に勝ってしまったなんて、レオも世界最強を名乗っていいんじゃないか?」
「まさか。俺が魔王を改造できたのもルーが魔王を破壊してくれたからだし、魔王がネリアを殺すことを第一に考えていなかったから、俺は簡単に殺されていたさ」
最初から本気を出されていたら、俺たちは瞬殺だったはずだ。
それくらい、俺たちと魔王の間には実力の差があった。
「そうかもしれないけど、結果的にはネリアちゃんを守れたじゃないか」
「それも、ローゼの結界魔法とネリアの焼却魔法があったおかげだな」
いろいろと頑張ったけど、結局俺は最後の詰めが甘かった。
もし、ネリアとローゼが普通の女の子だったら、魔王も簡単に殺せていただろうな。
「……不死の魔王も燃やしてしまう炎か」
「魔族たちが人族を恐れる理由がわかったな」
「確かに……あの子が大きくなって、もっと火力が上がってしまうことを考えると……」
「魔界を燃やしつくしてしまうのも納得だよな」
そうだな。適性魔法も判明していなかった四歳の段階であの火力だ。
最高火力に達したら、そりゃあ魔界を火の海に帰ることが可能だろう。
「帰ってきたぞ! 元魔王よ! 真の魔王は俺だ!」
「グル!」
やっと帰ってきた。
空間に穴が開き、グルが転がりこんできた姿は、ちょっと笑ってしまいそうになったけど今日だけはかっこよく見える。
「あれ? あの男はどうした? それに、皆は?」
「話せば長くなるけど。とりあえず、全員無事なまま倒すことができたよ」
「……そうか。やはり、レオなら世界最強だろうと問題ないな」
「そんなことないって。今回は皆での勝利だ」
今日の俺がしたことって、本当に大したことないよ?
「謙遜するな。まあいい。体はどうなんだ? 魔王と戦う為に魔法をたくさん使っただろ? それに、見たところカイトの義手まで……」
「ああ、それは心配しなくて大丈夫だよ。魔王のおかげで、回復は遅いけど自力で魔力を賄えるようにはなったから」
「魔王のおかげ? 魔王は何をしたんだ?」
「レオに自分の核を渡して死んでいったよ」
「なぜだ? あいつは結局何が目的だったんだ?」
まあ、そう言うなって。誰だって、生きていれば心変わりするものだろう?
「最初は、死んだ家族や仲間の復讐のことしか考えられなかったんだと思う。けど、いざ殺そうとしたときにネリアを見て、自分の子供たちが脳裏に浮かんでしまったらしい」
「それで、殺せずに諦めたわけか……。まったく、魔王らしくない最後だな」
「でも、男らしい死に方ではあったと思うよ」
あそこで、復讐心に負けてあんな小さな女の子を殺してしまうような男だったら、俺は魔王を失望していた。
「ふん。魔王というのは悪役でないといけないんだよ」
「それをお前が言うか?」
「そうだな。最近のお前、どっちかと言うと正義の味方だぞ?」
魔界と人間界を繋げて、世界平和を目指したり、人族の俺たちの為に全力で戦ったり、とても悪役がする動きをしていないぞ?
「わかっている。もう、魔王が悪役である時代は古いんだ。これからは、全ての種族が手を取り合う平和な世の中になっていく。そんな時代の流れに、魔王も悪役のままではいられないんだ」
「それじゃあ結局、あの魔王の死に方は正しかったのか?」
「……まあ、七十点というところだな」
「合格点ぐらいって感じだな」
思ったよりも点数が高くてびっくりだ。
「最初から平和的解決を選べなかったのは大きく減点だが、最後の最後で娘を思い出して復讐を諦めたのは大きく加点だ。結果、ぎりぎりの合格点と言ったところだな」
「そうか。まあ、俺は九十点ぐらいにしちゃうかな」
「どうしてそこまで高くするんだ? お前の娘が狙われたんだぞ?」
「まあ、同じ立場に立って考えると……ああなってしまうのも仕方ないかなって」
娘たちを燃やされ、その復讐相手が千年を越えてやっと見つけられたんだ。
俺が同じ立場だったら、きっと我慢できなかっただろうな。
「魔王ってその……焼却士に娘を燃やされたことがあったんだよな?」
「魔王がそう言っていたよ」
「千年間、よく耐えられたな」
「そうだな。俺なら途中で諦めて自殺してしまう」
「それがそうはいかない。魔王は自殺することができないんだよ」
「……そうだったな」
死なない体というのは、そうなってしまうと本人には呪いだろうな。
「きっと、魔王は千年間焼却士を殺すことだけを考えていたはずなんだ」
「それなのに諦めることができたから、凄いと?」
「そう。少なくとも俺なら、怒りに任せて邪魔するやつも含めて殺していたと思う」
千年も煮詰まった復讐心だ。普通なら自分自身を含めて誰にも止められない。
「確かに、あいつは復讐の対象以外を無力化はしたが、誰一人として殺そうとしなかったな」
「そうそう。それも含めて、九十点の生き様だと思ったんだ」
「そこまで言われたら、九十点にしか感じないよ」
「ふっ。そうだな」
それは良かった。これで、魔王は悪役として死ななくて済む。
「この話術、是非とも皇帝相手にも頑張ってもらいたいものだ」
あら、話を誘導していたことバレてた?
「魔界と人間界を繋げるゲートの話か」
「そうだ。今日で、もう魔界に人間界を過度に敵視する連中はいなくなった。こっちは、もう何の問題もなく進められるだろう」
確かに、反対派の筆頭がいなくなったんだ。
もう、魔界でグルに逆らう奴はそうそう出てこないだろう。
「やっと一息つけたのに、また仕事の話か」
「そういえばそうだな。すまん」
「気にするなって。とりあえず、頑張って交渉してみるよ」
カイトの指摘にちょっと落ち込むグルの肩を叩き、慰めてやった。
まあ、クリフさんを口説き落とすのは大変かもしれないけど、やれるだけ頑張ってみるよ。
ポイントが9万ポイントを突破しました。
いつも読んでくださりありがとうございますm(_ _)m





