第三十二 平和の架け橋
「本日より、帝国は魔王国と正式に通商条約を結び、このミュルディーン領のベルーと魔界の魔王都を繋ぐことをここに宣言する! 今日という日が、魔族と人族の永続的な友好の記念すべき最初日となることを……」
魔王との戦いから二年。現在、皇帝であるクリフさんが魔界と人間界を繋ぐゲートの前でかっこよく演説を行っていた。
そしてその隣には、魔王であるグルがこれまたかっこよく立っていた。
うん。この日を無事迎えられて良かった。
「今日までありがとうございました」
演説が終わり、俺の隣に座るクリフさんに頭を下げた。
この二年間、忙しくさせてしまって本当に申し訳ない。
「いやいや。こちらこそ、歴史に名を残せる仕事をさせて貰えて感謝しているよ」
「確かに、今日は歴史的な日になりそうですもんね」
なんせ、もう何百年も関わりのなかった人間界と魔界が今日から本格的に交流が始まるのだから。
お互いの文化が混ざり合って、お互いがこれからどんな発展を遂げていくのか、非常に楽しみだ。
「とは言っても、二年前急にレオくんが魔界と繋ぐゲートを建てたいなんて言い出した時はびっくりしたよ」
「二つ返事で許可を出されたこっちの方が驚きましたけどね」
魔界から帰ってきた俺は、魔界で撮ってきた写真と魔界でしか手に入らない鉱石を持ってすぐクリフさんに会いに行った。
魔界にいる間にグルやフランクと練り練ったプレゼンを用意したのだが、そんな暇もくれない早さで許可が出てしまったのは、少し複雑な気分だったよ。
「まあ、どうせ断ったところで、どうにかこうにかレオくんの交渉術で首を縦に振らされていただろうからね」
「そんなことはないですって。親友の頼みだったので、ちょっとは交渉も頑張るつもりでしたけど」
「レオくんに頑張られたら、こっちは手の打ちようはないって」
「そうですかね?」
まあ、俺たちのプレゼンを聞いて貰えれば、間違いなく許可は下りる自信があったのは間違いないけど。
「そうそう。この世界を裏から牛耳るレオくんに逆らえることなんてできないって」
「別に牛耳ってなんていませんよ」
俺は一度も他の国の政治に関わったことないんだから。
皆、多少俺に忖度してくれているけど自由にやっているよ?
「まあ、冗談はこの辺にしておくよ。今回の件、即決した理由……それは、魔王に会ってみたかったからだね」
「冗談は終わりじゃなかったんですか?」
まさか、クリフさんがそんな子供みたいな理由で許可を出すわけがないじゃないですか。
「いや、真面目な話だよ。伝説の魔王がどんな人なのか、自分の目で確かめてみたかったし、レオくんが親友と認めている人に外れがいるはずはないと思ってね」
「それで……魔王はどんな人でした?」
「会う前は……魔界で一番強い人って聞いていたから、体がとても大きくて睨まれただけで僕なんか立てなくなってしまうくらい怖い人だと思っていたんだ」
「それで、あの見た目ならびっくりしましたでしょ?」
想像と真逆の男だからね。最近、大きくはなってきたけど背が低くて、子供みたいな可愛らしい見た目をしているからな。
「そうだね。まったく圧力を感じなくて、本当に話しやすい人で驚いたよ」
「それは良かったです」
「彼は、面白い人だね。独特な考えを持っているけど、根本には国民や世界の幸せがあって、しっかりとした芯を持った人だ。だから、レオくんが親友と慕うのもよくわかるよ」
「そこまでの評価が貰えるなんて、親友としても嬉しいです」
俺なんて、頼りになるけど厨二病を拗らせた面白い奴としか思ってなかったのに。
『わああああ』
「お、やっと魔界からの第一陣が来たみたいだ」
大きな歓声に目を向けると、エステラやキーさんたちが先頭に魔族たちがゲートから出てきた。
五十年も前だったら……これは悲鳴だったろうな。
「レオンス様、お久しぶりです」
「久しぶり」
クリフさんがキーさんと握手し、俺はエステラと握手して魔族たちを歓迎した。
そして、子供たち同士でも握手をしていく。
「え、えっと……これ!」
子供たちを眺めていると、キールくんが恥ずかしがりながらネリアに綺麗なリボンで飾られた小さな箱を差し出していた。
「これ、じゃあわからないでしょ。これは何?」
「ぷ、プレゼント!」
キーさんの助けを借りて、ようやくネリアにプレゼントを渡すことに成功した。
キールくの真っ赤にした顔に釣られて、珍しくネリアが顔を赤くしていた。
「あ、ありがとう……中を見ても良い?」
「うん」
「これは?」
「俺が二年間魔力を込めていた魔石だ。ネリアのお父さんも小さい頃に魔石をプレゼントに使っていたって……」
よく知っているな。エステラから聞いたのかな?
「ふふ。ありがとう。それじゃあ、これお返し」
そう言って、ネリアがポケットから魔石を一つ取り出した。
いつも、ネリアが暇な時に魔力を注いでいる魔石だな。
「こ、これは、ネリアの魔石?」
「うん。いつもそれを使って魔力を鍛えているんだ。私、今日からこっち使うから、キールはそっち使って」
「う、うん! 俺、これでもっと強くなる! ネリアを守れるくらい!」
「ふふ。頑張りなさい」
……娘を嫁に出す父親ってこんな気分なのかな? 嬉しいような寂しいような少し複雑。
珍しく笑っているネリアに、俺はそんなことを思ってしまった。
「ネリアちゃん……あんなに話す子だった?」
「ネリアがあそこまで話すのは、今もローゼくらいですよ」
「それじゃあ、ネリアちゃんにとってあの男の子はそれだけ大事ってことかな?」
「そうかもしれませんね~」
今、複雑な気持ちになっているんだから言わせないでくださいよ。
「おお。それは良かった。未来の魔王妃が皇族となれば、人間界と魔界の未来も明るくものになりそうだな」
「まだわからないですよ。まだネリアたちは六歳なんですから。これから、まだまだ多くの出会いがあると思います」
そうそう。まだ、ネリアが嫁に行くとは限らないんだ。
「ふっ。シェリーがレオに惚れたのは何歳だ?」
「え、えっと……初めて会ったときだから……四歳か五歳くらいかな?」
「だそうだが?」
「まあ、親と同じとは限らないし……」
「十年後が楽しみだな」
「楽しみね」
「ああ、そうですね。凄く楽しみですよ」
せめて、皆いい人と結婚してくれ。じゃないと認めないからな!
そんな念を、楽しそうに笑っている娘たちに送るのであった。
これで十三章は終わりです。
次は最終章。今、頑張って構成を練っているのでしばらくお待ちくださいm(_ _)m