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第二十九話 魔王の青年期②

 

「ここは?」

 村長の男に案内されたのは、広場のような場所にそれを囲うように椅子が並べられた場所だった。

 そして、更に外側には奇妙な木像が四つ等間隔で置かれていた。


「闘技場だ。俺が村長の座をかけて戦う時に使うんだ」

 ここが闘技場? ただの趣味の悪い集会場な気がするのだが?

 まあ、こんな小さな村の闘技場はこんなものなのかもしれないな。


「なるほど。村の人間に見せつけるわけだ」


「そうだ。今日も、お前の血を村人たちに見せてやるとしようじゃないか」



 それから村人が集まってきて、席は全て埋まり、立ちながら眺めている村人たちまで出てきた頃、ようやく俺たちは戦うことになった。

「ん? お前は武器を持たないのか」

 俺が剣を抜いていると、村長は手に何も持っていなかった。


「必要ない。俺には魔法で十分だ」

 魔法使いってことか。魔法使いと戦ったことはないから、慣れるまでは一方的にやられてしまうかもな。


「……良いだろう。好きなタイミングで始めて良いな?」


「ああ、好きにしろ。動けるならな」


「ん? これは……」

 村長がニヤリと笑った瞬間、体が何かに拘束されたかのように動かなくなった。

 これは……村長の魔法か?


「やはり、あの村長の魔法は強えな」


「未だ、突破口すら見えていないからな」


「あのガキもさすがに村長相手では手も足も出まい」

 この魔法は、村長の得意魔法ってわけか。



「へえ。こんな魔法があるんだな」


「勉強になったか? まあ、もう死ぬお前には関係ないが」


「爺さんもこれでお前にやられたのか?」


「そうだな。今のお前と同じように手も足も出ず、あいつは降参したよ」

 まあ、だろうな。あの爺さんは、良くも悪くも剣しか能のない男だからな。


「ふうん。なら、お前に勝てれば、全盛期の爺さんに勝ったと言っても過言じゃないな」


「寝言は寝て言え」

 そう言って、村長は無数の氷を俺に飛ばしてきた。

 へえ。氷魔法も同時に使えるのか。



「可哀想な男よ。村の端で静かに暮らしていれば、見逃してやったというのに……静かに眠っていろ」


「生憎、まだ眠くないんでな」

 村長が何か決め台詞を言っていたが、俺は十秒もせずに完全回復してしまった。


「なんだと? お前、不死身か?」


「そうかもしれないな。それじゃあ、俺の番だな」

 そう言って、俺は三本の剣を宙に浮かせた。


「こ、これは……」


「空間魔法だ。体が動かなくても、俺はお前を攻撃できる!」

 俺は二本の剣を村長に飛ばし、避けられてもすぐに回転してまた村長に飛ばし続けた。

 氷での防御が間に合わず、村長は転がりながら避けていた。

 どうやら村長は、魔法しか能のない男のようだ。


「く、くそ! こんな反則な魔法があってなるか!」


「それと、俺はこの拘束もどうにかできるぞ」


「なに!?」

 村長が驚きの声を上げている中、俺は趣味の悪い木像に向けて近くに待機させておいた一本の剣を飛ばした。



「やっぱりな。おかしいと思ったんだ。闘技場にこんな飾りは似合わない」

 木像を全て真っ二つにすると、俺は自由に動くことができた。

 もう、こいつに俺が負ける要素はゼロだな。


「くそ……」


「まあ、こういう仕込みに気づけないのもその程度の実力だったということだからな。別に、お前の実力が嘘だったとか言うつもりはない」

 爺さんも罠に気がつけなかったのを恥じて、それから村人との交流をしなくなったんだろうな。


「こ、降参だ! 村はお前が好きにしていいから、命だけは助けてくれ!」


「だそうだが……降参を認めて良いのか?」


「殺せ!」

「そうだそうだ!」

「今までよくも俺たちを騙してきたな!」

「お前は横暴で本当は死んで欲しかったんだよ!」

 こいつが善人だったら助けてやろうと思ったのだが……予想よりも村人たちに嫌われていてびっくりしてしまった。

 今まで随分と好き勝手やっていたんだな。


「お、お前たち……」


「それじゃあ、村人の総意ってことで」

 村人の意思に従い、俺は絶望している村長の首を飛ばした。

 こうして、俺は一つ目の目標である村長になった。


 村人たちに祝福されながらも、正式な村長の就任式は村人が全員集まれる明日にすることになった。

 明日まで暇になった俺は、村長の家で一夜過ごすことにした。

「お帰りなさいませ」

 村長の家に入ると……村長の孫に出迎えられた。

 この女は……何を考えているんだろうか? そう思い、顔色をうかがっても、表情からは何も感じ取れなかった。


「お前は、俺が憎いか?」


「まったく」


「どうしてだ? お前の爺さんを殺したんだぞ?」


「だから何? ここは強さが全て。負けた爺ちゃんが悪い」


「なるほどな」

 ここの村人らしいな。

 そういえば、他の村人たちもあれほど俺に敵意むき出しだったが、村長を殺してからは態度が一変して、俺を祝福までしていた。

 強い奴が偉い。この村はそういう場所だったな。


「あなたの父親も弱かったから女を私の父に奪われた」


「そうらしいな。その奪われた女は、まだ生きているのか?」


「私を産んで……しばらくしてから死んだ」

 さっき人を殺してきたばかりか、母親と言っても顔も覚えてない人が死んだからか、特に悲しみも怒りも感じなかった。


「へえ。お前は、一応俺の妹ってわけか」

 俺とは全然似ていないけどな。


「そう。そして、私はこの家の奴隷で、今日から私はあなたの物になった」

 こんな美人が……俺の物か。


「名前はなんて言うんだ?」


「シーラ」


「シーラか。気に入った。俺の女になれ」


「元々あなたの物……と言いたいところだけど、私の心が欲しいなら私に勝たないとダメ」


「俺に勝つ自信があるのか?」

 さっき、この村で最強の男を倒してきたんだぞ?


「勝負はやってみないとわからない」


「それはそうだな。ここでやるか?」


「うん。今すぐ」


「んあ?」

 気がついたら、俺の視界がぐるぐると回転していた。

 どうやら、一瞬の間に首を飛ばされたみたいだ。

 へえ……やるな。


「驚いた……本当に不死身」

 すぐに復活すると、初めてシーラが表情を変えているのを見ることができた。


「俺も驚いた。お前なら、村長も殺せただろ?」

 村長の力は偽物だったし、ひょっとしたら村で最強なのはシーラなのかもしれないな。


「別に殺す理由もない。私は奴隷でも、特に酷いことはされなかった」


「それは意外だな」

 あれだけ村人に嫌われていた村長なら、孫とは言え奴隷に優しくできるとは思えなかったんだけどな。


「あなた、どうすれば死ぬの?」


「さあな? たくさん殺せば死ぬんじゃないか?」

 三十年死んでも死ねなかったから、百年くらい死なないとダメかもしれないがな。


「じゃあ、そうしてみる」


「消えた? だから、さっきは目で追えなかったのか」

 そんなことを言っていると、背後から胸にナイフが突き立てられた。


「これから、たくさん殺してあげる」


「それは楽しみだ」



 予言通り、シーラは何回も俺を殺した。

 ここまで何もできずに殺され続けたのは、二十五年ぶりくらいだ。

「凄いな。何回殺されても、お前がどうやって消えているのかわからない」


「私も驚き、あと何回殺せば良いの?」


「あと一回かもしれないし、数百回殺しても死なないかもしれないな」


「それは面倒。早く負けを認めて」

 ハハハ。こいつ、面白いな。


「俺が負けを認めたとして、お前は俺に何を求めるんだ?」


「あなたを私の奴隷にして、こき使う」


「俺はお前が凄く気に入った。何度殺されようと……絶対に手に入れてみせるよ」


「凄く面倒」



 キン!


「ハハハ。少しずつお前がどこにいるのかわかってきたぞ」

 初めてシーラの攻撃を受け止めることができて、俺は嬉しさのあまり笑ってしまった。

 こうなってしまったら、俺はもう負けないぞ。


「……」

 シーラは何も言わず、また消えた。

 だが、俺にはもうシーラがどこにいるのか手に取るようにわかる。


「そこだな」

 俺は、背後に回っていたシーラを空間魔法で、空中に固定した。


「ぐう……」


「シーラのおかげで、俺の空間魔法が一段階上がったようだ」

 そう言いながら、シーラの頬に手を当てながら。


「あっそう。感謝しなさい」


「ああ。感謝する。今日から、お前は俺の物だ」

 諦めたように不貞腐れた顔をしたシーラに、口づけをした。



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