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第二十八話 魔王の青年期①

 

 ロン爺の家に住んでいると、一日ロン爺以外誰とも会わないことは珍しくない。

 たまに見かけても、すぐに俺たちから離れていく。

 爺さんは過去、何をしたんだ?

 爺さんに勝ち、その日のうちに村長がいるらしい村の中心に向かっていると……そんな長年の間解けなかった謎がやっと理由がわかってきた。


「あれ、ロンのところにいるガキだよな?」

 誰一人とも面識なくても、俺は村で有名人だった。

 人とすれ違う度に、なんでこいつがここに? という顔をされた。


「どうしてこんなところに来ているんだ?」

 そして、しばらく歩いていると男たちに取り囲まれた。


「……」

 俺は黙って、取り囲んでいる男たちを見た。

 こいつらは……そこまで強くないな。全員で挑まれても俺一人で対処できる。


「もしかしてロンのやつ、あのガキを使って村長と再戦するつもりなのか?」


「おい。どういうことだ? 詳しく説明してくれ。そのロンってやつは誰なんだ?」


「ああ、お前はまだ生まれていなかったな。二百年前、村長だった男の話だよ」

 二百年……爺さんはそんな前に村長になっていたんだな。


「そうそう。凄く強かったんだけどな。今の村長に負けて、村の端に追いやられてしまった男だ」

 村長というのは、本当に爺さんよりも強かったのか。

 爺さんがあれだけ強いと、村長の強さが想像できないな。

 だが、そいつに勝ったら、本当の意味で俺は爺さんを越えられたことになる。

 村長と戦うのが楽しみだ。


「へえ。それじゃあ、あのガキも強いのか?」


「かもしれないな。挑んでみるか?」


「よし。俺が行ってみよう。最近、誰も相手してくれなくて暇だったんだ」

 村人たちが雑談を終え、やっと戦闘部族らしい話の流れとなった。


「おい。お前、俺と戦え」


「やっと来た」


「ふん。ガキが調子に乗っていると痛い目を見るぞ?」


「いや、お前なら調子に乗っていても大丈夫だろ。お前は、村で何番目なんだ?」

 目の前の男からは、まったく恐怖というのを感じなかった。

 爺さんと戦う時なんて、すぐに逃げ出したくなるくらいの威圧を強くなった今でも感じるのに、この男からはまったく感じない。


「んだと?」


「まあ、良い。何番目でも、片っ端からボコボコにして一番が誰かを聞けば良いか」


「こいつ……ああ~完全にキレた。お前、生きてロンのところに帰れると思うなよ?」


「心配しなくても、もう帰るつもりはない」

 負けて帰ったりなんてしたら、あの爺さんは俺を生かしおいてはくれないだろうよ。


「そうかよ」


「ああ、そうだ。もう始めるぞ」


「がはっ」


「剣を使うまでもないな」

 隙だらけの男は、俺の一発を避けることもできず倒れてしまった。


「く、くそ……」

 この男は打たれ強さが自慢だったのかもしれないな。

 俺の一発を貰って立てなくても、意識を失わずにいるなんてすごいじゃないか。


「それで、お前はこの村で何番目なんだ?」


「十番だな」


「十番でこの程度か……。それで、お前は?」

 ここに住む村人の人数は知らないけど、十番って微妙だよな。


「俺は、四番目だな」


「ふ~ん。四番もあまり期待できそうにないな」

 さっきの奴よりは威圧がある気もするが……俺の敵ではないな。


「ナメるなよ? 俺でもあいつは瞬殺できる」


「そうなんだ」

 と言いながら、俺は爺さん仕込みの不意打ちで男に斬りかかった。


 キン!


「へえ。これを受け止められるか。ちょっと、お前を見直したよ」

 この不意打ちを避けるだけでも、俺は五年かかってしまったというのに。


「ふん。ロンに教わっているからと言って、調子に乗るなよ? あいつは負けた人間だ」


「と言っているお前も四番と言うことは、最低でも三人には負けているんだろ? お前も十分負けた人間だな」


「こいつ……」

 この程度で感情をコントロールできないから、お前は四番なんだよ。



 そして、相手が一旦距離を取ることでやっと戦闘が始まった。

 俺がどう倒してやろうか考えていると、男の周りに炎が現れた。

「へえ。魔法も使えるのか」


「馬鹿にしているのか? 魔法を使えない魔族などいるものか!」


「それはすまん。今まで、魔法を使わない魔族としか会ったことがなくて」

 ロン爺は使えないのか、使わないのかは知らないが、ボコボコされていた間に一度も魔法を使われたことがなかった。

 とは言っても、目の前の男の魔法は練習なしでも避けられる程度のものだった。

 うん。これは問題ないだろ。


「初めて魔法を見せてもらった礼に……俺も魔法を使ってやるよ」

 そう言って、俺は背中に用意していた二本の剣を空間魔法で抜いた。

 俺式三刀流。これを覚えてから、俺はやっと爺さんと対等な戦いができるようになった。


「な、なんだ……その魔法……剣が浮いている……」


「空間魔法。この魔法、珍しいらしいな」

 男が浮いている剣に驚いている間に、俺は二本の剣を飛ばしていく。

 回避に遅れ、バランスを崩したところに、俺が直接胴を斬りつけてやった。


「ぐあああ!」


「そこそこ強かったが……この程度じゃあ、物足りないな」


「よし。次は誰が俺と戦う? 誰でも良いぞ。ほら、さっさとかかってこい」


 ドッゴ~ン!!

 後ろから殺気があって飛び退くと、俺がいた場所に大きなハンマーが落ちてきた。

 そして、目線を少し動かせばそれを持った大男が見えた。


「お前は何番だ?」

 この人は、今までの中で一番強いな。


「三番だ。死ね」


「うぐ……」

 どう見てもパワータイプの男からは想像できないスピードに、俺は重い一発を貰ってしまった。

 完全に油断していた……こんな姿を爺さんに見られていたら、俺はどうなっていたのだろうな。


「ふん。その程度の力でイキるな」


「グハッ」

 止めとばかりに、俺は腹に大穴を開けられた。

 くそ……痛みに慣れてきたと思っていたけど、俺はまだまだだな。


「さすがブル!! 村一番の巨漢は伊達じゃないな!」


「ふん。俺にかかれば、あんなガキは二発で十分さ」


「……それはどうかな?」



「嘘だろ……あいつ、あんな一発貰っても立ち上がりやがった」


「ふん。なら、また寝かせてやるだけだ」


「同じ手は通じない」

 直線的な動きしかできないなら、いくら速くても怖くないんだよ。

 そう思いながら、俺は落とした剣を空間魔法で男の真横から飛ばす。


「それは俺も同じだよ!」

 俺の剣は簡単に弾き飛ばされ、男のハンマーが今度は俺の頭に当たった。


「うぐ……」

 頭が潰れるのはなんとか避けることができたけど脳震盪を起こし、俺は立ち上がることができなかった。


「次は絶対に立ち上がれないよう、徹底的に痛めつけてやる」


 ゴン! ドカ! ドガン!


「はあはあ……はあ。このくらいで……十分だろう」


「お、おい……」


「嘘だろ……あいつ、不死身かよ」

 そうだ。俺は不死身だ。

 三十年間、毎日殺され続けても死ななかったんだからな。


「お前の攻撃はこれで終わりか?」


「くそ!」

 男は体力を使い切ってしまったのか、ハンマーを持ち上げる力すら残ってなかったみたいだ。


「そこまで疲弊してしまったら、流石に問題ないな」

 俺は拳一発で男を沈めた。


「あいつ……ブルまでやりやがった……」

 あの大男がやられると、途端に村人たちは不安な顔をしていた。

 自分たちもやられると思ったのか? まあ、俺は村長にしか興味ないから、挑まなければ放っておいてやる。


「おい。そこのお前」


「な、なんだよ」


「村長の家はどこだ?」


「あ、あそこだ」


「そうか」

 俺に恐怖する村人たちに背を向けて、俺は村長の家へと向かった。



 村長の家に着くと、俺はノックもなしに村長の家に入った。

 すると、一人の女が待ち構えていた。

「私の家になんか用?」

 この女……強いな。


「ああ、村長を倒しに来た」


「そう。こっちよ」

 戦闘になることも覚悟したのだが、どうやら村長と戦わせて貰えるようだ。

 いや、村長は俺と戦わせてもまったく問題ないと思わせるくらい強いってことなのかもな。



「爺ちゃん、お客」

 こいつ、村長の孫だったのか。


「なんだ? そんな予定はなかっただろう?」


「でも来た」


「くそ……どこのどいつだ? 二度とこんなことないよう、ぶっ殺してやる」

 声からしてロン爺よりは若そうだが、十分歳を取ってそうだな。

 そんなことを思いながら部屋に入ると、人間だったら五十歳くらいの男がベッドに寝転がっていた。


「ん? お前は誰だ?」


「名前はない」

 俺は一度も名前で呼ばれたことがない。爺さんも、俺のことはお前でしか呼ばなかった。


「はあ? こんなやつ、村にいたか?」


「村の端の家にいた」


「ああ、あいつの家にいつからか住んでいたとかいうガキか」

 やはり、俺はこの村で有名人らしい。


「そうだ。俺はロン爺のところに住んでいた男だ」


「ロンの野郎に命令されたか? 父親の敵か? 母親を取り戻しに来たか?」


「いや、どれにも当てはまらない」


「それじゃあ、なんだ?」


「俺の意思でお前を殺しに来た」

 魔王になるには、まずはここで一番にならないといけないからな。

 お前には、俺が魔王になるための踏み台となって貰う。


「そうか……良いだろう。ロンの弟子よ……相手してやろうじゃないか」


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