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第二十五話 番狂わせ

 

「えっと……久しぶりだね。一応、聞くんだけど……平和的な解決はできない?」

 魔王の登場に動揺しながらも、なんとかそう聞くことができた。

 頼むから……そのまま帰ってくれ……。


「お前が抵抗せず、焼却士を引き渡すなら平和的に終わる。無駄に死人を出したくなければ、お前の娘を渡せ」

 やっぱりダメだよな……。


「それはとてもお平和的とは言えないだろ!」


「お前は俺のコピーか。随分と生温い人生を送っているみたいだな」

 魔王の言葉に反応してグルが空間魔法で攻撃しようとするも、逆にグルが地面に押さえつけられる形となってしまった。


「うぐ……」


「お前を殺すと俺まで死んでしまうからな。とりあえず、俺の空間に入っていろ」


「あのグルが一瞬で……。レオ、何か魔王の弱点を知らないか?」

 グルがほんの数秒の間に無力化されてしまったことに動揺したカイトがそんなことを聞いてくるが、そんなの答えられるはずがない。

 だってないのだから。


「いや……ない。あの人の空間魔法に隙はないし、不死のスキルも持っているんだ」


「あんなに強くて不死身なのかよ。まさに魔王だな」


「どうする? お前だけでも逃げるか?」

 たぶん、魔王はお前に興味ないから見逃してくれると思うぞ。


「そんな生き恥を晒すくらいなら、ここで死んだ方がマシだ」


「そうだな。どうせ死ぬなら、妻と娘を守って死ぬか」

 それも、ただ死ぬんじゃない。守って死ぬんだ。



「腹は決まったか?」

 負ける要素がない魔王は、俺たちの覚悟が決まるまで待ってくれていたようだ。

 まったく……こんな格上にどうやって勝てって言うんだよな。


「わざわざ待ってくれてありがとう」


「別に良い。この二十年、お前には楽しませて貰ったからな」

 ああ、そういえば俺のことを除き見しているって言っていたな。


「二十年分あれば、見逃してくれてもいいんじゃない?」


「それとこれは別だ」


「ぐあああ!」

 魔王が手をカイトに向けると、カイトの義手と剣が弾き飛んだ。


「どうする? 唯一の対抗手段が無くなったぞ?」

 そうだった……カイトの剣があれば、回復不可能の攻撃を与えることができたんだ。

 いや、そもそも魔王にあの剣でどうやって攻撃を当てるのかってことになるのだけど。


「カイト!」


「殺していないから心配するな」

 エレーヌが大声でカイトを呼ぶと、カイトの代わりに魔王がそんなことを答えた。

 殺していない? それは妙だな。


「どうして殺さないんだ?」

 勇者を殺さないと、引き分けにはならないんだぞ?

 創造士に封印された魔王があんな紙切れの召喚魔法で召喚できるはずがないんだ。

 絶対に、魔王の裏には創造士がいる。


「簡単だ。創造士の利になるからだ」

 は? どういうことだ? 今回の召喚に、創造士が関わっていないってことなのか?

 いや、でも……。


「意味がわからないな……。俺の娘を殺すのもミヒルの利になると思うんだけど?」


「一々説明しなくてもお前は知っているだろ? 焼却士をこの世界から消し去る。これが千年生きた俺に残された唯一の使命だ」

 娘たちの命がかかっているんだ。戦って勝てない相手にどうにか口で交渉とするのは当たり前だろ?


「つまり……創造士にはあまり協力したくないけど、今回は自分の私怨があるから協力すると?」

 くそ。何か、魔王の考えを改めさせる材料はないか?

 思いつかない……このままだと、戦闘が始まってしまう。


「そうだ。わかりやすいだろ?」


「……俺の娘はあんたの家族を焼いた焼却士とは違うぞ?」


「そんなのは知っている。それでも、俺はあいつを殺さないといけないんだ」

 魔王はどうしてそこまで焼却士に拘りを持っているんだ?

 家族や故郷の人々を殺されたから? でも、前に話を聞いたときには、そこまで村には執着がなかったみたいなことを言っていたじゃないか。

 それなのに、どうしてそこまで? やっぱりミヒル、お前が魔王を操っているのか?


「もう、何を言っても俺の気持ちは変わらないぞ?」


「くそ……わかったよ。お喋りは終わりだ」

 本当に心変わりはしてくれそうだから、俺は一か八かの賭けにでることにした。


「良いのか? お前、その体で戦えば死ぬぞ?」


「言っただろ? お喋りは終わりだ」

 余計なお世話だっつうの。誰のせいで命を捨てないといけないと思っているんだ?

 それに、俺の命で娘の命が助かるのなら、俺は喜んでこの命をくれてやる。


「……そうだな」


(ルー! 今だ!)


「はいよ! 消えちゃえ!」


「破壊士か……」


「流石ルー!」


「いえ、魔王はあれくらいでは死にません!」

 ベルがそんなことを言っている傍から、魔王の肉が再生し始めた。

 あの肉……どこから来ているんだろうな。


「あ、そんな……」


「でも、ナイスだ。これで安全に魔王とここから離れられる」


「あ、待っ……」

 シェリーが止めようとするよりも早く、俺は魔王の肉を掴んで転移した。



 転移したのは魔の森。魔王が封印されていた場所だ。

「この再生時間を転移ではなく創造魔法に使っていれば、まだ勝ち目はあったのにな」


「でも、結果的にはそんな時間は無かったから転移で正解だったな」

 完全に復活してしまった魔王を前に、俺は愛剣二本を召喚した。

 さて、ここまでは順調だ。でも、ここからが何よりも重要。

 娘の命がかかっているんだ。絶対に集中を切らすなよ、俺!


「俺をここに転移してどうするつもりだ? 空間魔法のある俺は、簡単に戻れるぞ?」


「そうかもしれないけど、俺も最後くらい周りを気にせず戦いたいんだよ! ……最後ぐらい、俺のわがままに付き合ってくれてもいいだろう?」


「ふん。どうせ何か企んでいるんだろうが……良いだろう。お前が倒れるまでここにいてやろう」


「ありがとうよ。でも、俺はお前が倒れるまで倒れないぞ!」

 そう言って、俺は斬撃を飛ばしていく。

 子供たちと剣を振っておいて良かったな。あれがなければ、こんなスムーズに斬撃を飛ばせてなかったぞ。


「できるものならやってみな……ん? 魔法を封じられているのか?」

 魔王は空間魔法で何かしようとしたらしいが魔法が発動せず、回避に遅れ、左腕切り落とすことに成功した。

 今ので致命傷を与えられたら良かったんだけど……腕一本落とせただけでも十分か。


「転移している間にね。おかげさまで、魔力をほとんど使ってしまったけど」


「あの短期間でここまで俺の情報を書き換えてしまうとは……」


「これでも創造魔法のレベルがマックスになっているからね」


「ということは、スキルの情報も操作可能ってことか。道理で再生が始まらないわけだ」

 最近……と言っても五年くらい前の話だけど、久しぶりに自分のステータスを見てみたらびっくり、創造魔法がレベルマックスになっていたんだ。

 最高レベルの創造魔法は何を想像できるのかずっと気になっていたんだけど……やっとその正体がわかったんだ。

 スキル創造……一度見たことがあるスキルなら、自由に創造できるというとんでもないことが最高レベルの創造魔法ができるらしい。

『らしい』というのは、この魔法を使ったら魔力が一瞬でゼロになって即死になるからだ。

 あの時は、死ぬのが怖くて使えなかったけど、今は命なんて惜しくないからな。死ぬ覚悟で使ってやった。


「どう? これで少しは諦める気になった?」


「何を言っているんだ? 今のお前相手に、魔法なしで右腕一本でも勝てるに決まっているだろ?」


「さて、本当にそうかな……?」



 それから、俺は自分から攻撃するようなことはせず、魔王が近づいてきたら距離を取ったり、斬激を飛ばして牽制したりすることで、一定距離を保ち続けた。

 圧倒的にステータスがあっちの方が上だけど、俺は全ての魔力を無属性魔法に注ぎ込むことで、なんとかやられずに済んでいた。

「時間稼ぎをして何になる? お前の体は風前の灯火。急がないと俺を倒す前にお前は死ぬぞ?」


「さて、本当にそうかな?」


「その余裕……まだ俺の体に何かしたな? なるほど……俺の体にそういう細工をしたのか」

 どうやら、やっと気がついてくれたみたいだ。

 俺は、魔王のスキルと魔法を封じるのと一緒に、魔王の核で俺のダンジョンを創造した。

 もっとわかりやすく説明すると、魔王の体内にある魔石で部屋が一切ないダンジョンを創造し、魔王の近くにいると自動的に魔力が供給されるようにした。

 これのおかげで、俺は魔王と戦っている間はいくら魔法を使っても魔力が枯渇することはないって仕組みだ。

 創造士が魔王に相性が良い理由はこういうことだったんだな。


「幸い、この体は魔力さえあれば生きることができるからね。俺は、あんたの魔力が尽きるまで戦えるぞ。それに、もし俺が死んでもあんたは死ぬようになっている」


「お前は……本気で俺と心中するつもりなんだな」


「そうだよ。自分の命と引き換えに、世界最強二人を殺せるんだ。悪くないだろ?」

 俺が死ねば魔王とミヒルが死ぬんだ。

 破壊士のことは少し気がかりだけど……そっちはルーに任せるしかないな。


「くくく……。確かに、こうなったら三人とも死ねるな」


「それは良かった」


「だが、この程度で俺を止めることはできないぞ?」

 ……なんだって?


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