第二十四話 一難去って
SIDE:レオンス
キールくんが人質に取られ、俺たち様子を伺っていると急にキールくんを捕まえていた男が発火した。
そして、その火は男を中心に周りの魔族にどんどん燃え移っていった。
「な、なんだ? うわあああ!」
「早く火を消せ!」
「魔法でも消えません!」
「くそ! お前たち! こいつがどうなっても……ぐあああ」
指揮官らしい男が声を発そうとするも、それよりも早く炎の餌食となってしまった。
「これ、誰の魔法だ……?」
「敵は殲滅できましたけど、このままだと私たちまで燃えてしまいます」
ヘルマンの言うとおり、炎は魔族を燃やし尽くし、こっちにまで広がっていた。
「私の魔法でも消えないわね」
シェリーの氷でも消えない炎か……。こんな魔法を使えるのは、一人しかいない。
「消えない炎……これは焼却魔法だな。リーナ! ネリアを眠らせるんだ!」
「はい!」
SIDE:ロゼーヌ
「ネリア、落ち着いて。もう、あの子は助かったから。それに、このままだと皆も燃えちゃう」
私は、炎に包まれるキールを結界で守りながら、ネリアが正気に戻るよう必死に話しかけていた。
「ユルサナイ……ユルサナイ……」
私の声が聞こえてないの?
「ああもう! ネリア! 正気に戻って!」
思いっきり揺すっても炎の勢いが収まらない。
どうしよう……このままだと、私たちまで燃えてしまうわ。
「大丈夫よ。お母さんに任せて」
「ユルサナイ……ユルサ……」
お母さんが優しく抱き上げると、ネリアは静かに眠ってしまった。
すると、炎の広がる勢いが収まってきた。
「火の勢いが止まった! グル、亜空間にあの炎を飛ばしてくれ!」
「了解!」
「お母さん……」
お母さんがいなかったら、きっと私たちは丸焼きになっていたわね。
聖魔法なんて怪我しなければ必要ないものとか思っていたけど、その考えは改めないと。
「結界魔法で皆を守ってくれていたんでしょ? ありがとう」
「こ、これくらいたいしたことないわ」
「十分凄いわ。よしよし」
「……」
もう、子供じゃないのに……お母さんに頭を撫でられて嬉しいと感じてしまった。
そんな自分に驚き、私は黙ってしまった。
「キールくんは……痣はあるけど、命に別状はなかったみたいね」
ボードレール家の……ジョゼさんがキールの状態を見ながら、聖魔法で痣を治してしまった。
聖魔法……やっぱり侮ってはいけないわね。
「ローゼ、何があったんだ?」
キールが治療されているのを眺めていると、お父さんが私の頭に手を置きながら事の発端を聞いてきた。
「キールがネリアを庇って魔族の男に攫われちゃって……それを見たネリアが動揺しちゃって……魔法が暴走しちゃったみたい」
「動揺で魔法が暴走なんて聞いたことがないな。スキル、感情魔力と関係があるのか?」
「私も知らない……」
ネリアのスキルが感情魔力だってことを今知ったくらいなんだから。
焼却士……やっぱり感情に関するスキルを持っていたのね。
「そうか。とりあえず、皆を守ってくれてありがとうな」
「うん……」
皆して、そんなに褒めないでよ。別に大したことはしていないんだから。
SIDE:レオンス
「とりあえず、一件落着か?」
無事消火も終わり、俺たちは一息ついていた。
いや、まさかこんなことになるとは。
一度も魔法を使ったことなくて、適性魔法が開示されてなくても人って魔法を使えるものなんだな。
もしかしたら、焼却士だけの特別な力なのかもしれないけど。
「いや、長老が逃げた」
そういえば、まだ長老がどんな奴なのか見てなかったな。
あれだけ偉そうに負けたら死だとか言いながら、自分は逃げるのか。
「どうする? 追いかけるか?
「ちょっと待ってろ。よし。今捕まえた」
グルがそう言うと、天井から一人の老人が落ちてきた。
そんな使い方もできるんだな。
「うぐ? ここは……くそ! 殺すなら殺せ! だが、俺を殺したら魔界全てを敵に回すと思え!」
「そんなことはないな。人族を良く思っていないのはお前たち老害たちだけだ」
「なんだと!? お前は人族に紛れる炎の魔女を知らないからそんなことを言えるんだ!」
「炎の魔女? 初めて聞く名前だな」
いや、焼却士の話はしただろ? 呼ばれ方が違うだけで一緒だって気づこうよ。
「なんせ、九百年近く前のことだからな。お前ら若い連中は知るはずもないだろうよ」
「九百年も前のことをどうしてそこまで怯えているんだ? 人族の寿命は百年にも満たない。その……炎の魔女はとっくの昔に寿命を迎えたと思うが?」
だから、そいつは焼却士で、今もお前の背後にいるんだよ!
「いや、炎の魔女はまた現れる。そして、今度こそこの魔界を草一本生えていない焦土と変えてしまうだろう」
「聞いて損した。ただの惚けた老人の妄想話か」
なんだか、この爺さんが可哀想に思えてきた……。
言っていることは、別に間違ってないのに。
まあ、子供を人質に取るようなやつの擁護なんてしてやらないけどな。
「なんだと!? この私を愚弄するのか! くそ……若いから扱いやすいと思ったが、やはりお前を魔王にしたのは間違いだった!」
「ふん。お前に認められなくても俺は魔王になっていた!」
「そんなことはない……。お前なんて、前代の魔王に比べればお前なんて雛鳥も当然なんだよ!」
そう言うと、男はどこからか取り出した紙を床に広げた。
その紙には……魔方陣が描かれていた。
そして、爺さんが魔力を魔方陣に注ぎ始めるとバチバチと音を立てながら発光し始めた。
「これは召還術……?」
「あの人、自分の命まで魔力に変えて何かとんでもないものを召喚するつもりだわ!」
ローゼがそう叫ぶと、爺さんはニヤリと笑って倒れた。
「くそ! 子供たちを部屋から出せ!」
せんねんも生きる魔族が命と引き換えに召喚した魔物なのか人なのかわからないが……絶対にヤバいものがくるのは間違いない。
「いや、間に合わない! 全力で子供たちを守るぞ!」
「ローゼ、ネリアの傍にいてくれ」
「うん」
「まさか、この俺が召喚されるとは……。まあ、どんな時もしぶとく生き残った爺さんの生命力が対価なら納得できなくもない」
「おいおい……嘘だろ」
よりにもよってこの人を召喚してしまうのかよ。
これは……俺たちに勝ち目あるのか?
「レオ、あの魔族を知っているのか?」
「……前代の魔王、三人いる世界最強の一人だ」
俺が初めて会った魔族であり、俺が初めてこの人には一生敵わないと思わされた人だ。
そんな人と、俺たちはこれから戦わないといけないらしい。





