第二十二話 魔界と人間界を繋げたい
SIDE:レオンス
子供たちが魔王城を探検している中、俺たちは最近それぞれ何があったのか話していた。
カイトは、貴族学校で本格的に先生として働き始めたらしい。
フランクはやっと引き継ぎも終わり、今は俺に負けない領地にするための改革案を考えているらしい。
そして、俺の番になった。
「そうか。仕事のほとんどを部下に引き継いだか」
「そう。どの都市も俺が見ていなくても大丈夫なくらい安定してきたからね。もちろん、これからもっと成長させていきたいけど、その仕事は俺じゃなくても良いかなと思えてね」
「良いじゃない。ほぼ一人で新しく四つも都市を創設するなんて、正気の沙汰とは思えなかったし、間違いなく働き過ぎだったと思うわ」
正気の沙汰じゃないか。今なら、俺もそう思うよ。
「それじゃあ、これからはミュルディーンだけレオが面倒をみるってことか?」
「まあ、自分の住んでいるところくらいは自分でやりたいからな」
とは言っても、ミュルディーンの管理はほぼフレアさんがしてくれてしまう。
だから最近の俺の仕事は、フレアさんが要した種類に目を通してサインするだけの、簡単なお仕事だ。
「そうか……。仕事を減らしたところで、これを頼むのは非常に申し訳ないんだが……」
何か頼みたいことがあったのか。グルが申し訳なさそうにしていた。
「その前置きは怖いな。断るかは置いといて、とりあえず要件を言ってみろ」
「お前の街に魔界と行き来できるゲートを建てたい」
「それはまた……」
「レオを過労に追い込みそうな案件ね」
いや、これは俺じゃない気がする。
「うん……正直、これは俺だけの権限で決めて良いものじゃないな。一度、帰ってから皇帝と相談するよ」
俺ができるのは、クリフさんにグルを紹介してあげることと、少し裏で建てる許可を出すようにお願いするくらいだ。
大変なのは、間違いなくクリフさんだろう。
魔族を受け入れる前に魔王国とそれ関連の条約を結ばないといけないし、魔族に関する自国の法律をちゃんと制定しないといけない。
俺が想像できるだけでも大変そうだから、実際はもっと大変だろうな。
「すまん。だが、前向きに検討して貰えるとありがたい。真の敵がいる中で、これまで通り魔族と人族が敵対しているのは絶対に良くないんだ」
「そうだな」
まあ、俺も前から魔族と人族の関係を改善したいとは思っていたよ。
「魔族は見た目や寿命こそ違うが、中身……心は人族と何ら変わりのない生き物だ。きっと、そのことがわかり合えれば、きっと俺たちは仲良くやっていけると思うんだ」
「わかったよ。俺も頑張って皇帝に交渉してみる」
ずるいぞ。そこまで言われて、この俺が断れるわけがないじゃないか。
……仕方ない。帰ったら、魔界のお土産を持って帝都に直行だな。
「ありがとう!!」
「王国になら良いんじゃないか? エレーヌが許可を出すだけだろ?」
知らないって怖い。お前、奥さんを過労死させるつもりか?
「……そうね。と言いたいところだけど、無理だわ」
「どうして? 魔族と貿易できるようになれば王国は儲かるんじゃないのか?」
はあ……。こいつを貴族学校の先生にしていて大丈夫なのか? 子供に悪影響なきがするんだが?
「そうだけど……そのために必要な法律や設備を整える余裕が私にはまだない。それに、王国は帝国に比べて古くからのガルム教の信者が多いのよ? たぶん、今の状況で魔族の入国を認めてしまったら、それを口実に反乱をおこされてしまうわ」
「そうなのか……」
さすがエレーヌ。馬鹿勇者のとんでも発言にも動じず、わかりやすく説明してあげるなんて。
「でも、帝国が魔族の入国を認めたら王国もそうだし、教国もすぐに認めると思うわ」
「どうして?」
「今の王国と教国は、ほぼ帝国の属国みたいなものよ? どっちの国も自ら進んで魔族を受け入れるのは難しいけど、帝国という言い訳があれば誰も反対することはできないわ」
今、帝国は三国の中で財力、軍事力の両方で差をつけている。
戦争になれば、王国も教国も絶対に帝国には勝てないだろう。
だから、二カ国とも帝国の期限を取らないといけない。これが言い訳として成立する理由だな。
「なるほどね。ということは、帝国……レオ次第ってわけだな」
「はあ、また本当に面倒な仕事を押しつけやがって……」
ここまで言われたら、どうにかクリフさんに許可して貰わないといけないじゃないか。
「すまん。だが、これも真の敵を倒す為だ。どうか、許してくれ」
「わかったよ。こっちの交渉は任せておいて」
まあ、クリフさんなら俺が頑張れば許可してくれるだろ。
「なんと感謝したら良いか……本当にありがとう」
「別に良いさ。親友なんだから、これくらいの頼みは聞いてやる」
それに、教国で助けて貰った恩もある。
あれ? そう考えると、俺が嫌々受けている方がおかしいな。
もっと協力的じゃないとダメだな。
「親友……そうだな。俺たちは親友だ」
「あ~あ。私にもっと余裕があったら即決で王都にゲートを建てていたのにな~。これでまた、レオが大金持ちになっちゃ~う」
「いや、これ以上ミュルディーンにスペースがないんだよな……」
ゲートを建てて、入国を管理する建物を建てるとなると、またミュルディーンの敷地を広げるしかなくなる。
まあ、そんな魔力、もう俺にはないんだけど。
「え? じゃあ、どうするの?」
「冒険都市ベルーだな。あそこなら、土地がまだまだ有り余っているし、街のコンセプトと合っている」
「どんなコンセプト?」
「ベルとルーの名前をつけたのは、もちろん二人のような強い冒険者に来て欲しいのともう一つ……。人族じゃない獣人族や魔族でも差別されない街を造りたかったんだ」
「それは確かに、街のコンセプトに合っているわね」
「というわけで、ミュルディーンの本都市から少し離れちゃうが、そっちの街にゲートを建てても大丈夫か?」
「ああ、問題ない。レオの領地内にある街なのだろ?」
「そうだよ」
「なら、大丈夫だ」
「了解。それじゃあ、そんな形で皇帝に交渉してみるよ」
大丈夫だと思うけど……ここまで皆を期待させておいて、クリフさんに断られたらどうしよう?
いや、それでもどうにかグルと話をして貰えるように頼むしかないか。
クリフさんなら、一目見ただけでグルが良い奴なのをわかってくれるはずだ。
「大変です!」
俺が帰ってからのことを考えていると、一人の魔族が部屋に転がり込んできた。
「うん? どうした?」
「長老たちが魔王に会わせろと門の前で騒いでおります」
長老? そんなのが魔界にはいるのか。
「何? あの老いぼれたちが? 今更なんだと言うんだ?」
「それが……人族を魔界に招くことを認めないと……」
「なんだと!? 今すぐそいつら連れてこい!」
「はっ!」
これは……久しぶりに俺の悪運が発動した予感。
なんか、もう帰りたくなってきた……。
次回から怒濤の展開が始まります。お楽しみに!!





