第十五話 一人では抱えきれないこと
もう、忘れてしまっていると思うので、今回の話に出てくる人物名を紹介しておきます。
ゲルト……転生者の一人で付与士。レオの師匠だったホラントの息子。国王を道連れにして死んだ。
バルス……転生者の一人で影士。レオの騎士として働いているけど、本当の主人はミヒル。語尾を無駄に伸ばす。
ミヒル……転生者の一人で創造士。レオのオリジナルで千年以上生きている。
SIDE:レオンス
「子供たちは皆、お風呂に向かったわ」
そう言って、奥さんたちがそれぞれ適当な席に座っていく。
エレーヌたちの上機嫌な顔を見るに、お風呂は楽しんで貰えたみたいだ。
「ありがとう。それじゃあ皆が揃ったことだし、本題に移るか」
「本題?」
「何か、俺たちに話すことがあって俺たちを呼んだのか?」
「まあ、話すというよりは相談かな」
どうしても俺だけでは答えが出せる気がしなくてね。
ここにいる人は、大なり小なりこのことに関わりがある人たちだし、逆に言えば相談できるのはこのメンバーだけだろう。
「相談? 何か、トラブルがあったの?」
「まあね……」
それから、俺は何も知らないジョゼとアリーさん、エレーヌに俺が転生者であることから教えて、転生者同士での争いをざっくりと説明した。
「あの、戦いの数々にはそんな裏があったんですね……」
「お父様が操られていたなんて……」
「ゲルトも転生者だったのね……」
「それで、トラブルって何だ? まさか、破壊士がお前を殺しに帝国に向かっているのか?」
「それだったら、もっと前に無理にでも皆を集めて対策会議を開いていたよ」
それこそ、人族にとって存続をかけた戦いになるんだからね。
こんな、酒を飲みながら話すことではないさ。
「そうか……。それなら、何があったんだ?」
「俺の娘たちの中に転生者がいる」
「それはまた……」
「神様の嫌がらせとしか思えないな」
「俺もそう思う。もしかしたら、神が創造士の思惑を潰す為に狙って俺の娘に転生させたのかもしれないな」
神たちも黙って創造士の計画が成功するのを見ているわけでもないだろう。
これがたまたまなのか、神たちが意図的に操作したものなのかはわからないけど、間違いなく神たちは創造士の計画を阻止するための何かを用意しているはずだ。
「創造士の思惑って……引き分けで終わらせるってやつ?」
「そう。創造士、破壊士、魔王以外全員をあと約七十年以内に殺すというとんでもない計画よ」
「え? それって……カイトも含まれるってこと?」
「そう。実を言うと、王国と帝国の戦争はカイトを殺すことが目的で仕組まれた戦争なんだ」
リーナがいなければ、間違いなくカイトは間違いなく死んでいた。
バルス本人から勇者を俺に殺させるつもりだったと言われたし、あの戦争はゲルトとバルスを殺すために用意されたもので間違いない。
「そうだったのか。俺、危なかったんだな……」
は? お前には結構前に説明したはずだぞ?
たく……エレーヌがこの馬鹿勇者に仕事を任せないのもわかる気がするな。
「本当、知らないって怖いわね」
「……レオ様は、これから娘さんたちを守るため、千年も生きる転生者たちと戦わないといけないってことですか?」
「まあ、そうなんだけど……最近、俺の体は衰えていくばかりだし、心強い仲間だと思っていたミヒル……創造士も敵になってしまったし……どうしたら勝てるのかわからなくなってしまったんだ」
これが今回皆に相談したかったこと。
俺はもうまともに魔法を使うことはできないし、世界最強たちが娘を狙っているんだ。
こんな状況では、流石の俺も一人でどうにかしようとは思えなかった。
『……』
あまりのことに、全員が黙ってしまった。
まあ、こうなってしまうよな……これに解決策はあってないようなものなんだからな。
やっぱり、皆を困らせてしまうだけだし、相談なんてしない方が良かったかな。
でも、これ以上俺一人で抱え込める自信もなかったんだ。
ずっと一人で解決策を考えていてもただ不安になるだけだし、最近ミヒルが子供たちを殺している夢まで見るようになり、いよいよ俺の精神が危ういことを自覚した。
これは、解決策を求めることより、皆に話してしまうことで自分の気持ちを少しだけ楽にすることが目的だったりする。
「何をくよくよしているんだ! お前には戦う以外の道は残されていないだろ!」
「グル?」
急に現れた魔王に驚いてしまって、俺は何を言われたのか理解が追いつかなかった。
「あ、思わずこっちに来てしまった。とりあえず! お前は腹を決めて娘を守るために戦うべきだろ! 相手は交渉でどうにかなる相手なのか? そうじゃないだろ?」
「あ、ああ……」
そりゃあ、交渉できる相手ならもうとっくに土下座をしに行っているさ。
ミヒルなら話を聞いてくれそうな気もするけど、正直俺はそこまであいつを信用したくない。
部下が勝手にやったこととは言え、カイトを瀕死にまで追い込み、俺は魔法を使えない体にされてしまったわけだからな。
「なら、戦うこと以外のことは考えるな。お前なら、絶対に勝てる」
「グルが初めてまともなことを言ったかもな。もちろん、俺も協力するぞ」
「俺だって散々助けられたんだ。全力でレオを助けるぞ」
「師匠の護衛は僕たち騎士にお任せください」
「……ありがとう」
グルのポジティブな考えに、少し救われた気がする。
そうだな。どうにもならないことで不安になっている暇はないんだ。
とにかくできるだけの準備をして、負けたら仕方ない。そう考えればいいじゃないか。
「というか、今さらどうしてそんなに後ろ向きになっていたんだ? 今までだって、お前は死んでもおかしくないことを何度もしてきただろ?」
「恥ずかしい話だけど……今までは、俺が死ぬか死なないかの戦いばかりだっただろ?」
「まあ、そんな気もするな」
「自分の命だけだった時は、負けたときのことなんて気にしていなかったんだけど……」
「今度は自分の子供の命がかかっているとなると、負けた時のことが頭に過ってしまうか?」
「……そうだね」
俺だけが死ぬなら、別に構わないんだ。ここまで目立つように行動してきた俺の自己責任だからな。
でも、子供たちに関してはそうじゃない。絶対に失ってはいけないものなんだ。
「お前、疲れているだろ」
「え?」
俺が疲れている?
「少し休め。そうだな……これから、俺の城に来ないか? エステラもお前に会いたがっていたぞ」
「それは良いわね。私も一度は魔界に行ってみたかったのよ」
「でも、これから長男の誕生日パーティーがあるんです。それが終わってからでも大丈夫ですか?」
「ああ、もちろん。誰しも急に言われたら困ってしまう。それに、客を呼ぶにはそれ相応のもてなす準備をしなくては」
「それじゃあだいたい半年後……もしかしたらもう少し先かもしれないけど、ベルの子供が産まれてからでも大丈夫かしら?」
「そうね。私も溜まってしまった仕事を考えると半年くらい休暇は取れなそうだからちょうど良いわ」
「フランクは?」
「俺も半年後ならいつでも大丈夫だ。いつでも呼んでくれ」
「了解。というわけで、だいたい半年後くらいで大丈夫かしら?」
「ああ。半年かけて最高のもてなしができるよう準備しておく。レオ、楽しみにしておけ」
「ああ……楽しみにしておく」
俺が疲れている発言からあっという間に魔界行きが決まり、俺に話が回ってきた頃にはこれだけしか言えなかった。
「ああ、楽しみにしておけ! それじゃあ、俺はエステラたちに報告するために帰る!」
勝手にやってきては好き勝手に言っていき、勝手帰って行きやがった。
まったく……あいつには感謝しないといけないな。
おかげで、随分と気持ちが楽になった。
「魔界ですか……どんな場所なんですか?」
「いや、俺とカイトも魔王城の中しか経験がないからなんとも言えない」
「魔王城は、想像通りの悪の巣って感じだったけどな」
確かにあれはセンスのない城だったな。
まあ、厨二病のグルらしい城ではあったけど。
「それ……大丈夫なの? 城の中を歩いていたら魔物が出てきたりしない?」
「どうなんだろう? 流石に大丈夫じゃないか? 一応、あいつが住んでいる家だし」
あいつにも子供がいたはずだし、そこら辺は心配ないだろ。
「流石に、あのちょっと頭が……ごほん。独創的な考え方を持っている魔王でも、そんな危ない場所に住んでいたりしないよね」