第十四話 久しぶりとはじめまして④
SIDE:ロゼーヌ
『……』
メイドのアメリーが見ているとは言え、子供たちだけにされてしまった私たちは何を話したら良いのかわからず、黙ってしまっている。
お父さんたち……子供たちは子供たちで楽しく遊んでいろって言われても、そんなの無理に決まっているじゃない。
「えっと……はじめまして。私はマミ。よろしくね」
しばらくして、ようやく最年長である勇者の娘がそう切り出した。
これを皮切りに、皆が口を開き始めた。
「私はエリーネ。エリーって呼んで」
「俺はカインスだ。カインと呼んでくれ」
「ぼ、僕は、リル」
「もう、リルはもっとシャキッとしなさいよ。私はノーラ。お姫様、よろしくね?」
「うん。よろしく。それで……二人は?」
「「……」」
皆で好きに仲良くなるのは構わないけど、私のことは放っておいて。
きっと、ネリアもそんな気持ちのはず。
「もう、ローゼとネリアも何か話しなさいよ」
「「……」」
「もう、知らない! 皆、二人は放っておいていいわ」
そうそう。私たちのことは気にしないで。
精神年齢はとっくに千歳を超えているというのに、今更子供のように遊べるわけもないわ。
あなたたちが遊んでいるのを眺めているだけで十分。
「それじゃあ、何する?」
「私、カインたちの魔法を見てみたい。聞いたわよ。あなたたちのお母さん、凄い魔法を使えるんでしょ?」
「まあ、そうだけど……魔法なんて見て楽しいか?」
「私も興味あります。皆で魔法を見せ合いっこしません?」
「良いわね。皆、外に行くわよ!」
はあ、わざわざ外に出るなんて面倒ね。
参加しなくても、流石に皆と一緒にいないのは後で怒られそうだから仕方なくネリアと最後尾でついて行った。
「ここなら、魔法を使っても大丈夫ですよ」
「ありがとう。それじゃあ、誰から見せる?」
「それじゃあ、私から」
アメリーの案内で外に出てくると、さっそく魔法の見せ合いが始まった。
勇者の娘は、弱々しい風魔法をアメリーが用意してくれた的に向けて撃った。
うん……人族であのくらいの歳だと、あれくらいの威力が普通なのかしらね。
「へえ。マミも風魔法が使えるんだ」
「そうよ。カインも風魔法が使えるの?」
「ああ。俺の風魔法はもっと凄いぞ!」
そういうことは思っても言わないのよ。
勇者の娘、ムッとしているじゃない。
「それじゃあ、あなたの風魔法を見せてみなさいよ」
「良いぞ。これが俺の風魔法だ!」
何を偉そうに……無駄が多くてとても人に自慢できるような魔法じゃないでしょ。
「え、ええ……どうしてそんなに強い魔法が使えるの?」
どうやら、勇者の娘にはあれが凄い魔法に見えたようだ。
自分と比べて言っているのかもしれないけど、あれを強い魔法呼ばわりしているなんて、ちゃんとした師がいないのかしら?
「毎日、お母さんにみっちり教わっているからな。雷魔法の方が凄いぞ。おりゃあ!」
雷魔法はそこそこね。エルフでも、八歳でその魔法を使えていたら天才扱いされているわ。
まあ、カインの性格から考えて、派手な雷魔法ばかり練習していて、地味な風魔法の方はおろそかにしてしまっているのだろう。
「……凄いわね」
「そうだろう。お母さんと一緒なんだ」
「お母さんの雷魔法はもっと凄いけどね」
シェリー母さんは……たぶん、人族一の魔法使いなのよ。
あんなに威力が高くて、精密なコントロール力を持った魔法使いなんて、エルフでも五百年に一人いるかどうかだわ。
「う、うるさい! 俺だっていつかはあれくらいできるようになるんだ!」
どうなのかしらね……。あれは、才能があるのは前提条件で、魔法だけを必死に極めた人が行ける境地のはずだわ。
剣にも手を出しているカインが、果たしてそこまでたどりつけるのかしらね。
「それじゃあ、次はお前の番な。俺を馬鹿にしたんだからもっと凄いのを見せてみろよ?」
次は、ノーラのようだ。
大したことできないことを知っていながらそうやって意地悪を言うのは、年相応の男の子って感じね。
「え~。私はそんなに派手なことできないよ? そうだな……ほい」
ノーラは少し悩んだ後、勇者の娘にそっくりなお姫様の人形を創造して、本人にそれをプレゼントした。
「え?」
「プレゼント。ぬいぐるみ、いる?」
「あ、ありがとう……」
「ぬいぐるみなんてショボ」
あなたからしたらそうかもしれないけど、素材なしでここまで正確にイメージした物を創造できるなんて普通に凄いことなのよ。
「うるさいわね。これでいいのよ。知ってる? シェリーお母さんとリーナお母さんの部屋にあるぬいぐるみは全部お父さんがプレゼントしたものだって」
お母さんたちの部屋には、子供の頃にお父さんから貰ったらしいぬいぐるみなどのプレゼント、エルシー母さんが創造したお父さんのフィギア、小さい頃のお父さんとお母さんたちの写真が飾られている。
特にお母さんとシェリー母さんの部屋はぬいぐるみが多く、私ぐらいの時からお父さんと恋仲だったらしく、お父さんがよくぬいぐるみのプレゼントを二人にしていたみたい。
「え? あのぬいぐるみたち、父さんが母さんにあげたの? あれ、たまに動くから怖いんだよな……」
一体だけ、ゴーレムが紛れていたわね。
部屋で悪さをしようとしなければ何もしてこないのに、カインは何かいたずらしようとしたわね。
「次は誰の番?」
「それじゃあ、私が」
勇者の娘とは違い、大貴族の娘はちゃんとした師がいるみたいだ。
大貴族の娘が撃った魔法は、目に見えない速さで的を壊した。
「わあ。あれが当たったら魔物でも大怪我間違いなしね」
「お父様には、まだまだと言われています」
「へえ。エリーはお父さんに魔法を教わっているんだ」
「はい。お父さんの魔法は凄いんですよ!」
「う、うちのお父さんだって凄いんだぞ……」
「うちのお父さんは怪我で魔法が使えないでしょ」
何を悔しく思ったのか、意味不明な父親自慢を始めようとしたカインをそう言ってノーラが頭を叩いた。
「で、次はリルとローゼのどっちがいく?」
「私の魔法は見てもつまらないわよ」
「ぼ、僕の魔法も……」
「何を言っているのよ。皆見せたんだから、見せなさいよ」
「はあ、これで良い?」
絶対に見せたくない。というわけでもないし、私はさっさと結界を展開した。
「これはなんですか?」
「結界魔法って言うんだよ。これ、どんな攻撃をしても壊れないんだ」
「本当? 私の魔法で試しても大丈夫?」
「別にいいわよ」
いくら弱体化したとはいえ、子供の魔法くらいで私の結界が敗れることはないわ。
なんなら、全員でかかってきなさい。
と思っていたら、すぐに止めが入った。
「ダメに決まってます! 人に魔法を使ってはいけません!」
アメリーは慌てて私と大貴族の間に立った。
ふん。私の結界ならまったく心配ないと言うのに。
まあ、この人からしたらもしものことが困るから、私の結界が硬かろうが柔かろうが関係ないか。
「ご、ごめんなさい」
「それじゃあ、最後にリルだな」
「や、やらないとダメ?」
「どうしてそこまで恥ずかしがるんだ? あれ、格好いいじゃん」
獣人族の王族だけが使える獣魔法。神獣フェンリルに変身する魔法だけど……人じゃなくなってしまう気がして嫌がる獣人がよくいるのよね。
まあ、リルの場合は自分だけ人族じゃないことを気にしているのかもしれないわね。
「カインの言うとおり、私もかっこいいと思うわ。ほら、かっこよく変身しちゃいなさい」
母さんたちの教育の賜物だとは思うけど……本当、うちの兄弟は皆仲いいわよね。
普通、こんな大貴族の兄弟なんて普段から牽制しあっているものなのに。
きっと、違う家に生まれていたら、リルはいじめの標的にされていたわね。
「わ、わかったよ……」
「これは……なんて魔法なんですか?」
「獣魔法。オオカミに変身する魔法みたい。この姿になったときのリル、めっちゃ動きが速いんだ」
「そんな魔法まであるんですね……。今日は、とても勉強になりました」
「こっちこそ、俺たち以外の魔法が見れて楽しかったよ。また、魔法の見せ合いっこしような! 次はもっと凄い魔法を見せるから!」
「私も、次までにもっと魔法を練習しておく」
「私も頑張るわ」
「あ、ここにいたのね。皆、お風呂に入ってきなさ~い」
『はーい』
ちょうどいいタイミングでシェリー母さんが来て、魔法の自慢大会が終わった。
この中で、一番魔法で成功しそうなのは……大貴族の娘かな。
あの魔法は、まるで音の出ない拳銃だわ。
まだ発展途上だと思うと、恐ろしいわね。不意を突かれたら、私でも結界を張る前に殺されてしまうかも。
きっと、彼女は世界一の暗殺者に間違いなくなるわ。