第十二話 久しぶりとはじめまして②
カイトたちの出迎えを終え、家の中に案内しているとすぐにフランクたちも到着した。
「久しぶりだな」
「忙しい時期に呼び出して悪かったね」
フランクは最近父親の跡を継ぎ、正式にボードレール家の当主となった。
引き継ぎ作業や挨拶回りで忙しいとは聞いていたけど、今回はどうしても聞いて欲しい話があったから無理を言って参加して貰った。
「いや、これくらいの休暇は問題ない。むしろ、ここのところ疲れが溜まっていたから休む機会が貰えて助かった」
「無理しすぎるなよ? 何か困ったことがあったらすぐに頼っていいんだからな?」
こっちはどの都市も軌道に乗ってきて、少し暇になってきたからすぐに手を貸せるぞ。
「大丈夫だ。今は引き継ぎ作業で忙しいけど、あと半年もすればそれも片付くからな」
「それなら良いんだけど」
「ジョゼとアリーさんも元気そうね。二人とも、病気とかしなかった?」
「はい。おかげさまで」
「ええ。二人とも特に病気とかはなかったです」
「ジョゼさんたちにも三人の子供がいるんですよね?」
確か、アリーさんとの間に娘二人、ジョゼとの間に息子が一人だったはず。
「はい。下の二人はまだ小さいので領地でお留守番して貰っています」
「その子が長女のエリーネちゃん?」
「この子は、アリーとの間に生まれた長女のエリーネだよ」
どちらかと言うとフランクに似ているかな?
「はじめまして、エリーとお呼びください」
「しっかりした子だね」
性格もどことなく、真面目な感じがしてフランクに似ている感じがする。
「そうか? 家だと我が儘が多くて少し困っているんだがな」
「そ、そんなことないもん……」
なんだ。演技上手いな。騙されてしまったよ。
「ふふふ。それじゃあ、後は中でお話ししましょう? 今さっき、カイトさんたちも到着したところなんです」
「そうだな。それじゃあ、短い間だけどゆっくりしていってくれ」
カイトたちと合流した後は、父親と母親、子供たちで分かれて話したり、お風呂に向かったり、遊んでいて貰ったりしている。
俺たち父親組は、恒例の酒を飲んで近況を報告する会をしていた。
「こうして男だけで集まるのも久しぶりだな」
「そうですね。皆さん、忙しくなってしまいましたから」
そう言うヘルマンも最近は騎士団長になり、騎士団を纏めながら子供たちに剣術を教えてくれているので、日々忙しくしている。
「俺はいつでも呼んで貰って構わないんだがな」
「いや、お前が一番忙しくしてないとダメなんだからな?」
「まあ……こいつはエレーヌの紐みたいな男だから」
優秀な奥さんが全て面倒をみてくれちゃうからな。
「お、俺が紐だと?」
「最近、どんな仕事をした?」
反論できるものならしてみろ。聞いてやる。
「そ、それは……次男のリキトに剣を教えたり……」
「教えたり?」
「教えたり……」
「つまり、何もやってないってわけだ」
エレーヌも、こいつに仕事を任せるのは諦めたのか。
「そ、そんなことは……」
「まあ、勇者が暇なのは良いことだと思うぞ。ただ、エレーヌのことは大切にしてやれよ?」
「それはもちろん!」
まあ、愛妻家のカイトならそんな心配する必要もないか。
「フランクは順調?」
「ああ。今のところ問題ないな。ガエル殿が教皇であるおかげで、教国との関係もギクシャクすることはないし」
「それは良かった。教国も、あれから落ち着いた?」
「ああ。もう、ガエル殿に反抗する貴族は残っていないと思う。暗殺者を持っている貴族もいなくなったんじゃないかな?」
「へえ。ガエルさんも頑張っているんだな」
暗殺大国とまで言われた教国で、暗殺者を無くせたんだ……。
数は減らせると思ってはいたけど、まさか九年で撲滅するなんてね。
「ヘルマンはどうなんだ? アルマは元気にしているか?」
「アルマは今、子供が小さいので休暇を取っています」
「ちょうど去年くらいだったよな? 可愛らしい女の子だよ」
「はい。我が家の宝です」
「そうだよな。子供は可愛いよな~」
親馬鹿勇者はいつになっても変わらないな。
「そういえば、王国の貴族学校は上手くいっているのか?」
去年、王国が帝国に出された条件の一つである王国貴族学校が、王女の八歳に合わせて創立された。
「ああ。今のところ問題ないな。少々、親の権力を振りかざそうとして問題になることはあるが、それも徐々に減ってきた」
それは帝国の貴族学校でもよくあることだな。
「そうなんだ。それは良かった」
「俺も週に何回か剣を教えに行っているんだが、皆本当に素直で良い子だよ」
「へえ。カイト自ら剣を教えに行っているんだな」
なんだ。ちゃんと働いているじゃないか。
「俺の国は人手不足なんだよ。自分で言うのも変だけど、剣を教えられるくらい暇な奴が少ないんだ」
「それは確かに自分で言うことじゃないな」
「でも、子供たちは勇者の剣術を学べて嬉しいんじゃないか?」
「そりゃあ、世界中の子供たちの憧れの的だからな」
この世界で一番売れている本は、前代の勇者が魔王を倒す話だからな。
皆、子供の頃は勇者に憧れて育つものだ。
「王国の子供たちが羨ましいですね」
「いや、ヘルマンの指導もなかなか羨ましがられると思うぞ」
「そうだな。ミュルディーン家最強の騎士が直々に教えてくれるんだ。子供だけじゃなく、大人も羨ましいはずだ」
「そ、そんなことは……」
「まあ、少なくとも子供たちはヘルマンに剣を教えて貰えて嬉しそうにしているけどな」
カインなんて、晩飯の度に今日は師匠にこんなことを教わった~。って、嬉しそうに報告するのが習慣になっているくらいだからな。
「そ、それは良かったです」
「やっぱり、レオの子供たちに師匠って呼ばれているのか?」
「ま、まあ……」
フランクの鋭い指摘に、ヘルマンは恥ずかしそうに頭をかいた。
「ハハハ。レオを師匠と呼んでいたあのヘルマンが師匠と呼ばれるようになるとはな」