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継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十三章 新世代編

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第九話 引き籠もりたい

 

 この世界に驚かされる日々を過ごしていると、早くも私は四歳の誕生日を迎えてしまった。

 本当、前世の常識なんてこの世界ではまったく通用しないわ。


 そんな前世の常識の一つ、誕生日は毎年誰かに祝われる。

 この世界ではそんな常識はなかった。

 本当の理由はわからないけど、これだけ大家族だと毎月誰かを祝わないといけなくなってしまうからじゃないかな? と思っている。


 とは言っても、この世界でも誕生日を祝うという制度はあるみたい。

 八歳の社交界デビューの日と十六歳の成人する日の二回、八年分を盛大に祝うらしい。

 私の住んでいる帝国の首都でたくさんの貴族を呼んでパーティーをするとか。


 私、たくさんの人に囲まれるのとか嫌なんだよね……。

 お金ももったいないし、家族だけで静かに祝って貰うこととかできないかな……。

 そんな四年後の計画を立てつつ、私はもっと直近の嫌なことから逃げるにはどうしたらいいのか考えていた。


 直近の嫌なこと。

 それは……一番上の兄であるカイン兄さんの誕生日パーティーだ。

 私の家はなんでも世界最大の貴族らしい……。

 そんな家に生まれた長男の誕生日パーティーなんて、想像しなくてもとんでもなくたくさんの人が集まるに決まっている。


「はあ、どうにか逃げられないかな……」


「そんなこと言っても、逃がさないわよ」

 思わず出てしまった独り言に、お母さんがぎゅっと私の手を握ってきた。

 はあ、そこまでしなくても逃げないよ。


「パーティーに参加しないのにどうしてそこまで嫌がっているの?」


「参加しなくても、たくさんの人に会うかもしれないから」

 だって、何もしなくていいなら、わざわざ私を帝都に連れて行く必要がないんだもん。

 絶対、父さんたちは私を私の結婚相手を見つけるために連れて行くつもりなんだわ。

 はあ、嫌だー。私の結婚相手、顔の善し悪しは求めないから、とにかく優しい人になって欲しい~。



「はあ、外に出るのも嫌なのに」


「引き籠もりの鏡ね」


「お姉ちゃんには言われたくない」

 私が引き籠もりなのは認めるけど、お姉ちゃんだけには言われたくない。

 だって、常に私の近くにいるんだから立派な引き籠もりだわ。


「そんなことないでしょ。私だって、魔法や剣術の稽古で外に出ているのよ?」


「私はその時間寝ているから知らなーい」



「準備できたぞー」


「はーい。ほら、諦めて行くわよ?」


「やだ」

 一瞬の隙を突いて、私はお母さんの手を振りほどいた。

 ふふん、この広いお城で私を見つけられるかな?


「もう、そうやって駄々をこねても無駄よ」


「あっ……」

 最後の抵抗も虚しく、私は逃げる暇も与えられず簡単に持ち上げられてしまった。


「帝都でおじいちゃんたちが待っているんだから」


「おじいちゃんならいつも会っているじゃん……」

 あの、無駄にくっついて暑苦しいおじいちゃんが。


「いつも会ってないおじいちゃんとおばあちゃんがいるでしょ」



 それからお母さんに玄関まで連れて行かれると、出迎える為に下の子たちが玄関に集まっていた。

 何人かは、お母さんたちに抱きついてわんわん泣いていた。

「お母さ~ん。私も連れて行って!」


「ボクも~!!」

 はあ、別に行っても良いことなんてないのにね……。

 なんなら、私が代わりに留守番したいくらいだわ。


「三人はまた今度。もう少し大きくなってから帝都に行きましょう?」


「良い子にしていたらすぐに連れて行ってあげるから」


「……うん」


「わかった」


「ルー母さんが一緒にお留守番してくれるから。たくさん遊んでもらいなさい」


「うん。ルー母さん……」


「はいはい」

 ルー母さんは頭に角が生えていて……少し普通の人には見えない。

 でも、よく私たちの遊び相手になってくれる優しいお母さんで、私も引き籠もりの同志としてとても慕っている。

 あの食っては寝る生活……とても憧れるわ。


「ルーとエルシー、悪いけど子供たちのことを頼んだわ。なんかあったらすぐに念話してね」

 エルシー母さんは今回、もうすぐ子供が産まれるから子供たちとお留守番するみたい。

 ノーラ姉さんは元気すぎるから、今度は物静かな妹だと良いな……。


「はい。こちらのことは任せてください」


「久しぶりの帝都、楽しんできて~」


「ありがとう。それじゃあ、行ってくるよ」



 玄関から出ると、何台か車が用意されていた。

 そう、普通の車が。

「あれ? 馬は?」


「遂に魔動車が完成したんだ。今回は、これの宣伝も兼ねようと思ってね」

 お母さんの指摘に、お父さんが得意げに答えた。

 へえ……。これ、お父さんが発明したんだ。


「なにこれ~、お父さんが作ったの?」


「いや、俺じゃなくてエルシーだよ」


「え? お母さんが!?」


「正確にはお母さんじゃないわ。お母さんの商会で働いている職人さんたちが作ったのよ」

 ノーラ姉さんの驚いた声に、外まで見送りにきたエルシー母さんがそう謙遜した。

 お母さんの会社で発明したのなら、それはもうお母さんの発明と言っても過言じゃないと思う。

 エルシー母さん、いつもお母さんたちの中で一番忙しくしているなあ。とは思ってたけど、女社長だったんだね。


「ガソリンの代わりに、魔力をエネルギーにしているってことよね……」


「そうみたいね」


「え?」


「ん? どうしたの?」


「う、ううん」

 今、私は間違いなくガソリンって言ったよね?

 この世界にはガソリンなんて存在しないのに……ローゼ姉さんはガソリンが何なのかわかっているかのように答えてくれた。


「ほら、乗った乗った。馬車の十倍は乗り心地が良いから安心して!」

 もしかして……お姉ちゃんも? いや、まさかね。

 そんなことを思いながら、私は魔法の車に乗り込んだ。


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