第六話 娘の正体
SIDE:レオンス
「キャッキャ」
「おじいちゃん! 僕も抱っこして!」
「わかったわかった」
子供たちの適性魔法がわかり、帰ってくると前皇帝……お義父さんが子供たちと遊んでいた。
「お父さん、ただいま」
「おお! 帰ってきたか。おじいちゃん、まっとだぞー」
娘への挨拶を綺麗に無視し、お義父さんは孫たちに抱きついた。
これにはシェリーもちょっとイラッとしていたので、手を握ってなだめておいた。
「うう……おじいちゃん暑い」
「皆さん、お帰りなさい」
「ベル、ただいま。ごめんね。子供たちの面倒を押しつけちゃって」
「いえ。ルーさんもいましたので」
「オギャー」
「わかったから、少し待ちなさいって。今、やっとミーナが泣き止んだところなんだから」
ベルに言われて、ルーの方を見ると忙しく泣き叫ぶ子供たちをあやしていた。
「ルーもすっかりお母さんになってしまいましたね」
「本当、ここに来たばかりの時には想像もつかない光景ね」
「確かに」
地下市街を一日で壊滅させた人には見えないし、食うか寝るかしかしていなかった人にも見えないな。
「それで、三人はどんな結果だったんだ?」
やっと孫たちに満足したのか、やっとお義父さんが本題に入った。
「ヘへ。聞いて、お父さんとお母さんと同じ創造魔法だったの!」
最初こそがっかりしていたノーラだったが、今は誇らしげに自分の魔法をおじいちゃんに自慢していた。
「おお。やったじゃないか。しっかりと魔法の練習をするんだぞ?」
「もちろん!」
「カインスはどうだったんだ?」
「俺は、雷と氷、催眠魔法だったよ」
「おお。それはまた……珍しい魔法を授かったな。使い方次第ではとても使えそうな魔法じゃないか」
そう。使い方次第だな。
これから、そこら辺をちゃんと教えていかないと。
「そうだね。僕も頑張って魔法の練習をするよ」
「ああ、頑張れ。それじゃあ最後、ロゼーヌはどうだった?」
「……結界魔法」
いや、もっとちゃんと教えてやれよ。
おじいちゃんを見ろ、凄い悲しんでるぞ?
「ほ、ほう。それはまた珍しい魔法を手に入れたな。そういえば、リーナの祖父はエルフの王子だったか?」
「はい。そうだったみたいですね」
「エルフの魔法……果たして、どうなるか楽しみだな。ロゼーヌも練習を頑張るんだぞ?」
「……うん」
それからおじいちゃんを見送り、ローゼはネリアのところに、子供たちは庭に遊びに行った。
そして、残った俺たちは俺の部屋に集まっていた。
「……それで、そろそろ話して貰えるのでしょうか?」
「うん。そのつもりだよ」
「今まで黙っててごめんなさい」
「いえ。シェリーさんが聞き出して、隠した方が良いと判断したのですよね? それなら、問題ないですよ。ね?」
判断というより、俺がそう頼んだだけなんだけど。
「私もそう思います」
「私はどうせ難しい話をされてもわからないからいいや~」
「それで、このタイミングということは……やはりローゼが転生者だったということですか?」
「……え? わかってたの?」
「まあ……これでも、この中で一番ローゼを見てますから。ローゼ、どことなく小さい頃の旦那様に似ているんですよね。年齢にそぐわない精神年齢とたまに見せるよくわからない言動。本当にそっくりです」
さすがお母さんだな。果たして、鑑定がなかったら俺はリーナのように見破れることはできたのだろうか?
疑うかもしれないけど、確信までは持てなかっただろうな。
「なるほどね。正解だよ。ローゼはエルフの女王だ」
「え? それって大丈夫なの? 今、その……エルフの女王が破壊士からエルフたちを守っていたんだよね? 女王がいなくなったら、簡単に滅ぼされてない?」
「あり得るね。もしかしたら今、破壊士はエルフを滅ぼし終えてこっちに向かってきているかもしれない」
そう。それも俺の悩みの種だ。
怪我だらけの破壊士がここまで来るのにどのくらいかかるのかはわからないからこそ、凄く怖い。
もしかしたら明日にも人間界に到来するかもしれないし、五年経ってもここにたどりつけないかもしれない。
でも、いつかは絶対にここまでやってくる。
「ええ……」
「まあ、その話はまた今度しよう。どうせ、そうなっていたら俺たちにできることはほとんど残されていないから」
「また今度? まだ何かあるのですか?」
「ああ。実はもう一人、俺たちの子供の中に転生者がいるんだ」
「え?」
「もう一人?」
「たぶんですけど……ネリアですか?」
他の嫁さんたちが驚く中、リーナが見事一発で的中させてきた。
「……よくわかったね」
リーナ、実は鑑定のスキルを持っていたりしない?
「いえ、ローゼがいつも一緒にいるのはネリアですから」
「言われてみればそうですね。ああ……そういうことだったのですね」
「ローゼはいつもネリアの近くで何をしているの?」
「ネリアの魔力を鍛えてあげているのよ」
「え?」
「私たちに隠れて、ネリアに魔力の鍛錬の仕方を教えてあげているの。まあ、私の魔力感知は誤魔化されないけどね」
シェリーは俺が教えてから、たまに隠れて二人を観察して、二人が普段何をしているのか突き止めてくれた。
「ローゼは、ネリアの魔力を鍛えて何をしようとしているのでしょう?」
「滅ぼされたエルフの復讐じゃないか? と俺は思っている」
「復讐ですか……。ネリアなら破壊士に勝てると?」
「なのかもしれないね。ちなみに、ネリアは焼却士だよ」
「あの魔王が若い頃に殺されたと言っていた?」
「そう」
魔界を火の海にして、いつの間にか表舞台から消えたというあの焼却士だ。
まさか俺の娘として生まれてくるとは。
「……レオの話とか聞く限り、転生者たちって前の世界? の記憶はあるけど前の人の記憶は残らないんでしょ? それなのに、どうしてローゼは復讐とか考えているの? 前の記憶がなかったら、そんなこと思いつかないよね?」
シェリーの指摘はもっともだ。俺たち転生者は、転生する度に記憶がリセットされる。
だから、前の自分がどんな人生を送っていたのか知らないはず。
でも……、
「エルフの女王は違うみたいなんだ」
「どう違うの? 記憶を引き継げるってこと?」
「そう。スキルの力で記憶を残したまま自分の子孫に転生することができるみたいなんだ」
鑑定したらそう書いてあったし、本当にそうなんだろう。
エルフなんて長命種でこのスキルは若干外れな気がするけど、殺される前にこれを使っちゃえば無事逃げられるし、もしもの時を考えるとこれが一番当たりなのかもな。
「……ローゼ、破壊士に殺される前にそのスキルを使って転生したってこと?」
「少なくともピンチな状況ではあったと思うよ」
じゃなかったら、わざわざ千年も過ごした自分の土地を捨てようとは思えないだろうからね。
「仲間や家族の敵を取りたいのはわかりますが……正直、親としては危ないことをしては欲しくないんですけどね」
「そうだな」
たくさんの転生者たちが挑んで敗れていった相手だからな。
もし、二人が順調に育っていったとしても……無事勝てるとは思えない。
だからというわけじゃないけど……どうにか、ローゼには新しい人生を楽しむことに目を向けて欲しいな。