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第四話 視察と書いてデートと読む

 

 リーナの街に教会を誘致する計画を進めながら、俺はベルとルーと一緒に冒険都市ベルーに来ていた。

 まあ、ここはもう二、三年前に開発が終わってしまっているから、視察という建前を持ったデートって感じだな。

「わー。前に来たときよりもまた随分と人が増えたねー」


「成長速度は四つの都市の中でここが一番だからな」

 ここは駆け出しからベテランまで、冒険者にとっては割の良い稼ぎの場となっている。

 活動拠点をここに移す冒険者が増えすぎたことで、大小様々な貴族から冒険者が減って困っていると半分苦情みたいな手紙が日々届いている。

 無視しても良いんだけど敵は増やしたくないから、実際に冒険者が減って魔物の討伐が間に合ってないところには、武器や魔法具を融通してあげた。

 結果、俺に苦情の手紙を書けば、タダで俺に物が貰えると勘違いした馬鹿たちが大量発生した。

 もちろん、そんな手紙は読んだら破って捨てて無視しているだけどね。


「冒険者が多いと治安的な問題が多いんじゃないでしょうか?」

 すれ違う何人もの荒くれ者を横目に、ベルが心配そうな顔をしていた。


「確かに、犯罪数も四つの中で一番だね。なんなら、人口が十倍も差があるミュルディーンよりも多い」

 むしろ、ここができたことでそういう騒ぎを起こす奴らがミュルディーンから減ってしまった。

 昔はあんなに治安が悪かったのに、今では世界一商人が安心して住める街と言われるまでになってしまった。


「警備の強化はしているのですか?」


「してはいるんだけど、急激な人口増加に間に合ってないんだよね。まあ、犯罪と言ってもほとんどは冒険者同士の喧嘩に伴う器物破損だから、ギルドの方に冒険者の教育を徹底して貰った方が早い気はするかな」

 犯罪率は高いと言っても、あからさまな窃盗や殺人といった事件はそこまで多いわけではない。

 この街はいるのは、極悪人と言うより大したこともできないチンピラばかりだからな。


「なるほど」



 街の中心にあるダンジョンに向かうと、冒険者たちが長蛇の列をつくっていた。

「今日もダンジョンに人がたくさんいるね。あんなにいたら、儲からないんじゃないの?」


「いや。そんなことないよ。たくさん来ることを見越して、一層一層を広くしておいたから」

 このダンジョン、少ない魔力でこつこつ改装を繰り返し、この数年間でやっと四十階まで創造することができた。

 騎士団訓練場のダンジョンとは違って、ここはとても考えられた難易度で造られている。


「そうなんだ。攻略されたりしない?」


「まあ、大丈夫だと思うよ。最後の層だけ、異常に難易度を上げているから。たぶん、ベルとルーが二人で挑まれても大丈夫だよ」


「え~。私が破壊魔法を使っても?」


「たぶん……壁を破壊したりしなければね」

 あのギミックが俺の思っている通りに発動してくれるなら、大丈夫なはず。

 失敗すれば、瞬殺されてしまうんだけど。


「え~。なにそれ、凄く気になるじゃん。ねえ、ベル? 二人でどこまで進めるか試してみない?」

 いや、二人なら最後のボスまで二時間もあれば行けちゃうんだよ。

 問題なのは、最後のボスを通せるかだ。


「ダメですよ。私もルーさんもお腹に赤ちゃんがいるのですから」

 そう言って、ベルは自分のお腹をさすった。

 実は二人とも、絶賛妊娠中だ。

 ルーは妊娠八ヶ月、ベルは五ヶ月くらいで、二人とも一目で妊婦だとわかるくらいお腹が大きくなっている。

 それでも、平気で普段通り生活できている二人は本当に凄いと思う。


「大丈夫だって。私とベルの子供だよ? ちょっとやそっとの衝撃でどうにかなるような子供じゃないから」


「ダメです。半分はレオさんの血が入っているのですよ?」

 いやいや、その諭し方は違うよね? 俺が弱い人みたいな言い方だし、俺の血が混ざってなかったらダンジョンに挑戦しても良いみたいじゃん。


「む……。確かに、レオは大怪我すること多かったもんね。わかった。我慢する」

 はいはい。どうせ俺はよく大怪我する弱々しい体の持ち主ですよ。

 ふてくされながら、それを誤魔化すようにルーの頭を撫でた。


「えへへへ」


「……」

 ベルさん目が怖いって。


「はいはい。ベルもえらいえらい」

 嫉妬に燃えていたベルも頭を撫でてやる。

 すると、すぐにベルは幸せそうに顔を緩め、ちょっとすると自分がだらしない顔をしていたことに気がついたのか、顔を真っ赤にして誤魔化し始めた。


「べ、別に私も頭を撫でて欲しいなんて思っていませんでしたから!」


「はいはい」

 怒りながらも俺に再度頭を撫でられると、また幸せそうに表情筋の力を抜いていた。



 エルシー、リーナ、ベルとルーときて、最後はシェリーと視察という名のデートに来ていた。

「ここもやっと形になったわね」

 シェリーの言うとおり、王国との国境にそびえ立つ城壁の上から俺たちが眺めている街は、形としては街になってきた。

 ただ、そのできてきた街が張りぼてに見えてしまうくらい、街を行き交う人の数が少なかった。


「一からだったからね……。人が増えるのはこれからかな」


「きっと増えるわ。エレーヌが帝国との貿易に力を入れてくれているんだもの」


「そうだね。俺もあまりこの街の心配はしてないかな」

 現在、ホラント商会もそうだし、ミュルディーンで活躍する多くの商人たちがここに王国で商売をしていく為の拠点を立てている。

 それに後を追うように、王国相手に一儲けしようと企む小中規模の商人たちがここに拠点を移し始めた。

 帝国と王国の関係が悪化しない限り、この街の心配をする必要はないだろう。


「とまあ……形だけの視察はさておき……」


「え?」

 俺がこの街の将来に安心していると、シェリーが俺の襟首を掴んで迫ってきた。


「そろそろ答えて貰おうかしら」


「な、なにを……かな?」

 いや、たぶんあれのことだろうけど……。


「惚けても無駄。ここまで迫られても白を切ると言うなら、私も手段を選ばないわよ?」

 そう言って、シェリーがいつか俺がプレゼントしてあげた杖を俺に向けてきた。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ」


「待たない。今すぐ選びなさい。自分から話すか、私に魅了魔法で無理矢理聞き出されるか」

 ああ、ダメだ。シェリーの目が本気だ。

 これは、選択の余地がない。


「……はあ、降参」

 俺は両手を上にして、降参のポーズを取った。


「話してくれるってこと?」


「ああ」


「良かった。それで、ここ最近……特にネリアが産まれてから何に悩んでいたの?」

 ネリアが原因なのは、薄々気がついていたんだな。


「何でだと思う?」


「どうせ、ネリアに適性魔法がなかった。とか、そんなことでしょ? 別に、昔と違って適性魔法だけがこの世界で生きていく全てじゃないんだから、気にしなくていいじゃない」


「いや、それくらいのことなら……俺もここまで悩まないさ」


「……それじゃあ、何が悩みの種だって言うの?」


「実は、ローゼとネリアが転生者だったんだ」


「……え? ローゼと……ネリアが?」

 悩みの種が誰にあるのかはわかっていたけど、二人も自分たちの子供に転生者がいることは想像できなかったみたいだな。

 まあ、俺も初めて見た時に鑑定と自分の目を疑ってしまうくらい、あり得ないことだからこれは普通の反応だ。


「ああ。ローゼはエルフの女王、ネリアは焼却士の記憶を持っている」


「なるほど……。ローゼが大人びていて、子供とは思えない魔力を持っていた理由がやっとわかったわ。でも、ネリアからはあまりそういうのは感じられないわ」


「まだ産まれたばかりだからだよ。それに、たぶんネリアは言われないと転生者って気がつかなかったと思う」


「え、なんで?」


「千年間で何回も代替わりをしていて、魔王や他の転生者たちに正体がバレていなかったんだよ? たぶん、そういうのを隠すのが上手いんだと思う」

 実際、ネリアは目立たないように手のかからない大人しい子供を演じている。

 俺の時なんて、ハイハイで家の中を自由に動き回ったり、普通の子供にはわかるはずもない本をメイドに読ませたりと、とても普通の子供ではない行動をしていた。

 平和に生きるなら……ネリアの方が正解なのかもな。


「なるほどね……」


「そういうことだから。もう、良いでしょ?」

 俺は持ち上げていた手を下ろし、俺の襟首を持つシェリーの手を優しく包み込んだ。


「ふん」


「ぐへ」

 シェリーの頭が思いっきり俺の顔面にぶつかってきた。

 いきなりのことに倒れそうになるも、俺の襟首を掴んでいるシェリーの手がそれを許してくれなかった。


「私を舐めるんじゃないわよ? あなたが悩んでいそうなことなんて、ちょっと聞いただけでお見通しなんだから」


「ええ……」

 どうやら、シェリーさんは誤魔化されてくれないらしい。


「もう、一人で抱え込もうとするのはあなたの悪い癖。自分一人で娘たちを守ろうとしないで」


「……わかったよ。でも、皆に話すのはもう少し待ってくれない?」

 諦めて全て話してしまうことにした俺は、話す前にどうしてもこのことをシェリーと約束しておきたかった。


「どうして?」


「ローゼが五歳になって……適性魔法を調べるまでは、知らないふりをしてあげたいんだ。今、彼女は何かに向けて頑張っている。それを邪魔したくないんだ」

 これが正しい判断なのかはわからない。

 けど、俺が子供の頃にそうさせて貰ったように、ローゼとネリアにも好きなように生きさせてあげたいんだ。


「そう。わかったわ。まあ、あと一年くらいだし、それなら良いわよ」


「ありがとう」


「それで……レオは何に悩んでいるの?」


「ちょっと耳を貸して……」


「……本当、レオは神様に好かれ過ぎじゃない? 一難去ったらまた一難と……どれだけレオに試練を与えたら気が済むのかしら?」

 俺が絶賛悩み中のことを打ち明けると、シェリーは難しい顔をして、俺を安心させるように抱きしめてくれた。


「さあね。もしかしたら死ぬまでかも」


「ふふ。それは飽きない人生にして貰えそうね」


「そうだね。神には感謝しないと」

 出来ることなら、お礼に一発ぶん殴らせて欲しいものだ。




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