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継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十三章 新世代編

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第二話 恐ろしい妹

 

 ……更に三年後。

 わたし、凄く頑張ったと思う。

 とてもめちゃくちゃ頑張った。四回の人生の中で一番頑張った。

 生活に必要なこと以外全ての時間を魔力鍛錬に費やした。


 その結果……私の魔力はとても四歳とは思えない量になった。

 この調子で頑張れば、二十歳になる前には前の体の魔力を越えるんじゃないかしら?

 とは言っても、ここで調子に乗って怠けてはダメ。


「継続は魔力なり……何があっても努力を怠ってはいけないわ。私の魔力には、里の命がかかっているんだから」


「ん? ロゼーヌ、何か言った?」


「いえ、何も言っていないわ」

 どうやら、声に出てしまっていたみたいね。

 気持ち悪い子供扱いされるかもしれないから、極力独り言は注意しないと。


「そうなんだ。それより、新しく生まれてくるのは妹だと思う? それとも弟? ちなみに、わたしは弟だと思う!」

 今、私たちはそろそろ産まれてくるらしい弟か妹を待たされている。

 誰が産まれようと私には関係ないから、静かな場所で魔力鍛錬をさせて欲しいものだわ。

 と思いながらも、私は黙々と魔力を動かしていた。


「僕はどっちでも良いかな……」


「カイン兄ちゃんは?」


「俺は……妹かな」


「へえー。ローゼは?」


「どっちでもいい」

 そんな関わるつもりもないし、得にも害にもならない妹か弟に興味なんて持てないわ。


「えー。リルもローゼもつまんなーい」


 ガチャ


「もしかして喧嘩してた?」

 そう言って入ってきたのは、ピンク髪が特徴的なエルシー母さんだ。

 優しい顔とは裏腹に、世界で一番の商会を束ねるボスらしい。

 裏の顔とかありそうで、ちょっと怖い。


「してないよ! ねえ? ローゼ?」


「ええ……してないわ」


「そう。それじゃあ、私について来なさい」



「もしかして産まれたの?」


「ええ。元気な女の子よ」


「あー妹か。カイン兄ちゃんの当たりね」


「やったー」


「こら。あーとか言わないの」


「ごめんなさ~い」

 失言して、耳を引っ張られているノーラを見ていると、急に悪寒がした。

 この魔力の感じ……身に覚えがある。

 しかも、とてつもなく悪い身に覚えだわ。


「ねえ、ローゼ、具合悪いの?」


「だ……大丈夫よ」

 こんなに微量な魔力なのに反応するなんて、何の魔力なの……?

 うう……思い出せそうで思い出せない。


「ロゼーヌ? どうしたの?」


「う、ううん。大丈夫……」

 エルシー母さんにまで心配され、私は無理矢理勝手に震える体を止めてみせた。

 この魔力の正体を確認するまでは部屋になんて戻れない。

 たとえ、吐いてもこの魔力のところに行かないと……。


「本当? 無理したらダメだからね?」


「大丈夫だから……」


「そう。それじゃあ中に入るけど、皆静かにしているのよ? シェリー母さん、凄く疲れているんだから」


『はーい』



「こ、この感じ……」

 部屋の中に入ると、やっとこの魔力が何なのか……誰の魔力なのか思い出した。

 そんな……どういうこと? ずっと死んだと思っていたのに……どうして……どうして私の妹として生まれてくるのよ!


「わあ! これが僕たちの妹?」


「ふふふ。そうよ……名前はネーリア。ネリアって読んであげて」


「うん。ネリア、これからよろしく」


「よろしくね!」


「ローゼ? どうしたの?」

 兄、妹たちが赤ちゃんに興奮している中、部屋の入り口で立ち止まっている私にお母さんが心配そうな目を向けてきた。


「……」

 心配させまいと皆のところに近づこうとしても、恐怖でまったく足が動かなかった。


「なんか、さっきから具合悪いみたいなの」


「そうなのか? 無理しなくて良いぞ? 赤ちゃんは逃げたりしないからな」


「う、うん……。自分の部屋で寝てる……」

 お父さんに出された助け船に少し安堵しながら、見た目だけは可愛い化け物に背を向けた。


「無理するな。連れて行ってやるから」


「いい。大丈夫」


「そう言うなって」

 捕まれた手を振り払うも、簡単に持ち上げられてしまった。

 はあ、もういい……歩く気力もなかったし、運んでもらおう。



「……」

 ベッドに運ばれて、私は無言で布団を頭までかぶった。


「一人で寝られるか?」


「うん。大丈夫」


「そうか……」


「なに?」

 何か言われた気がして、布団から顔を出すと、お父さんが優しい目でこちらを見ていた。

 何を考えているの……?

 お父さんは創造士のコピーで間違いない。

 ということは、私とあの子の正体も気がついているのよね?


「いや、お前は何の心配をしなくていい。ただ、それだけだ」


「う、うん」

 何が言いたいのかはわからなかったけど、とりあえずそのままの意味で受け取っておくことにした。

 はあ、あんなのを前にして、心配しないなんて無理に決まっているじゃない。


「それじゃあ、夕飯までゆっくり寝てなさい」


「……わかった」



「間違いない……あれ、焼却士だ」

 お父さんが部屋から出たのを確認してから、私はぽつりと独り言を呟いた。


「もうとっくに死んでいたと思ってた……」

 九百年も前に暴れまくって、魔界をあれだけぐちゃぐちゃにしておいて、それから一切音沙汰なかったから……創造士か魔王辺りに殺されたのだと思っていたんだけど……どうやら生きていたみたいね。


「でも、よく考えてみたら、前の世界で私と同じように彼女は目立たないように生きていたはず」

 それがどうしてあんなことになってしまったのかは知らないけど、何かあったからなのは間違いない。

 ……そう考えると、普通にしていたら普通な子なのでは?

 あれ? そういえば、焼却士って破壊士に勝ったことがあるわよね?


「これはまだ……私にも勝機があるわね」

 あの子をどうにか育てて、十五年後に破壊士とぶつければ十分勝てる気がしてきた。

 魔界を一人で火の海にした女よ? 育て方で失敗しなければ、十分破壊士に対抗できるはずだわ。


「ただ……その育て方が何よりも重要ね」

 強くしないといけないのは当たり前として、感情や思考面での教育を間違えれば、間違いなく九百年前の再現になってしまう。

 それだけはなんとしても避けなければ……。


「これは、気合い入れて道徳心を教えていかないといけないわね……」

 人の命がどれだけ尊いのかについて、十年はかけて教えていかないと。


「それにしても……この家族、どうなっているのかしら?」

 焼却士の妹を持ったことで、私は自分が生まれた家の血筋がとてもおかしいことを思い出してしまった。


「お父さんは創造士のコピー、ルー母さんは破壊士のコピー。リーナ母さんはスキルまでは次いでないとはいえ聖女の血を色濃く引いているし……、ベル母さんだってあの獣王の娘。これはお父さんが狙って結婚した? でも、本来殺し合わないといけない私たちを集めて何をしようとしているの?」

 いや、子供まで転生者なのはお父さんも予想外だったはず。

 それに、ルー母さん以外はもう既に殺された転生者の血筋だわ。

 新ルールのおかげで、破壊士と創造士は共闘することができてしまった。

 とすると、お父さんとお母さんたちは単純に好きで結婚したって感じね。


「はあ、あとはお父さんが娘を殺せない善人であることを願うだけね」

 これに関しては、本当に祈るしかない。

 今の私と妹では、簡単に殺されてしまうからね。


「何の心配もしなくていい……その言葉、信じるからね」

 部屋から出る前にお父さんが言った言葉を思い出しながら、私はお父さんに殺される心配をするのをやめた。

 そんなしても意味のない心配よりも、生まれてきたばかりの化け物妹をどうにか話のわかる最終兵器に育てる計画を考えていた方がよっぽど建設的だからね。


「皆、頑張って耐えて……絶対に助けに行くから。私、絶対諦めないから」



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[一言] 創造と破壊は表裏一体、創っては壊すを繰り返す。 片方が絶対でも永遠でもないのだ。
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