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閑話15 花嫁を探せ!


 SIDE:グル

 教国であの謎の女に負けてからしばらく経った。

 あれから、しばらく鍛錬を積んでみたが、あの女に勝てるイメージは一向にわかない。

 やはり、レオの言うとおり、あいつはどう頑張っても勝てない相手なのだろうか……?


「はあ。暇だ。キーよ。何か面白いことはないか?」

 このままではダメだと思った俺は、気分転換をすることにした。

 キーは、俺が唯一傍にいることを許している魔王の参謀的な存在だ。

 まあ、本当は単なる幼なじみの腐れ縁で、傍に置いているだけなんだけど。

 第一、こいつがまともに働いているところを見たことがない。いつも、俺の椅子に座って居眠りをしている。

 幼なじみじゃなければ、ぶっ殺していたな。


「そうですね……。今、残されている面白いことは、先代の魔王に会いに行くか、婚約相手を探しに行くことですかね」


「あ、そうだ! そんな重大なイベントを俺は忘れていたのか! よし。先代のことはあと回しにして、急いで俺の花嫁を探しに行くぞ!」

 俺はとんでもないことを忘れていた。レオに啖呵を切ってからもう何ヶ月経った?

 これじゃあ、俺が逃げたみたいじゃないか。


「先代を後回しですか?」


「もちろんだ。どうせ死なないなら、遅かろうと早かろうと結果は変わらん。だが、花嫁との時間は有限だ!」

 魔王に寿命はないが、人族は寿命があるんだからな。

 俺をいつまでも待っていてくれる余裕は、人族にあるわけがないだろ!


「わ、わかりました……。お一人で向かわれるのですか?」


「もちろんだ。護衛がいないと外も歩けない弱いやつだと思われたら嫌だからな」

 それに、花嫁を探すのに、女を連れていてどうするんだ?


「そうですか……。私は、人界にグル様と釣り合うような素晴らしい女性がいるとは思えませんけど」


「なんだ? キーよ。嫉妬か?」

 珍しいじゃないか。


「嫉妬もしますよ。本当は、私がこのまま魔王妃になって、魔王国を乗っ取るつもりだったのに……」


「ハハハ。残念だったな。そんな淑女の演技をしても無駄だ。俺にはその考えがお見通しなんだよ。それじゃあ、行ってくる」

 キーには精々、その魔王の椅子で寝ているのがお似合いだな。


「さて、どうするか……。レオに手を借りるわけにもいかないし、まさかライバルであるカイトを頼るなんてこともできない」

 レオの領地にやって来たのは良いが、肝心の花嫁をどう探すか悩んでいた。

 手当たり次第は魔王らしくないし、気に入った女を無理矢理つれていくのは、レオとの約束を破ることになるし……。

 どうしよう?


「とりあえず、歩いて探してみるか。ちょうど良い相手が見つかるかもしれない」

 これだけ人がいるんだ。歩いていれば、いつか運命の相手と出くわすだろ。

 そんなことを考えていると、すごい注目を集めていることに気がついた。


「お、おい。あれって……」


「魔族だな」


「魔族がいるぞ」


「も、もしかして魔王なんじゃないのか?」

 おお。そういえば、魔王が急に現れたら、人族は恐怖に包まれるのが定番だったな……。

 本来なら、魔王として正しいことをしているのだが、今回はただ花嫁を探しに来ただけだし……。


「やはり、魔王というものは、人々にとって恐怖の対象……。さて、どうやってこの状況を打開する? 一番手っ取り早いのは、変装してしまうことだが……変装する魔王なんてかっこ悪い。それは、俺が目指す理想の魔王像に反する。魔王というものは、如何なる時も堂々としていないといけないんだ」

 うん……。どうする? このまま人々に恐怖されていたら、いつになっても花嫁は見つからないぞ?

 やはり、変なプライドは捨てて変装するべきか……。


「あの……」


「ん? なんだ?」


「道の真ん中で魔王様が立っていたら、他の人の迷惑です。馬車が通れないので、とりあえず端に寄りませんか?」

 そう言って、指さされた方向には、困ったように止まった馬車とその後ろに続く長い馬車の渋滞だった。

 おっと。これはいけない。

 俺は急いで道の端に寄った。


「……すまん。俺の配慮が足りなかった」


「いえ。人界のルールを知らない魔王様なら、仕方ないと思います」

 なんだこの女は? 妙に優しすぎないか?


「そ、そうか……。それにしても、よく俺が魔王とわかるな。なにか、特殊な能力を持っているのか?」


「そんなことありませんよ。事前に、魔王様の顔写真をレオ様に見せて貰っていただけです」

 ん? もしかして、これはレオからの手助けか?

 それとも、俺にこの女を惚れさせてみろ、という挑戦状か?

 良いだろう。その挑戦、受けて立とうじゃないか。


「ああ、なるほど。お前は、レオの関係者なんだな。名前は何という?」


「エステラです」


「そうか。エステラは彼氏とかいるのか?」


「いませんけど……もしかして私を口説くつもりですか?」


「ああ。悪いか?」

 その為に、レオから送り込まれてきたのだろう? なら、遠慮するつもりはない。


「別に良いですけど……。私、当分結婚するつもりはありませんよ?」


「ど、どうしてだ?」


「私は、騎士として未熟ですから。もっと人に誇れる騎士になってからじゃないと、騎士を辞めたいとは思えません」

 レオよ……。随分と強敵を用意してくれたじゃないか。

 だが、見ていろよ? 俺は魔王だ。これくらい乗り越えてみせるぞ。


「なるほど……。エステラにとって、誇れる騎士とはなんだ?」


「強くて、誰に対しても手を差し伸べられるような優しい人でしょうか?」

 なるほど。それをクリアすれば、俺と結婚してくれるのだな。

 良いだろう。俺が全力でサポートしてやろう。


「まず、優しさという点では、もう十分だな」


「え? 私が優しい?」


「これまでの会話で、お前が優しいことはよくわかった」

 俺を悪さしたというのに、こいつはすぐに許してくれた。

 これは、優しすぎて心配になるくらいだ。


「え? どこら辺が?」


「大丈夫だ。お前は自信を持て、心優しい心の持ち主だ。この魔王が保証する」


「あ、ありがとうございます」

 よし。認めた。これで、第一関門突破だ。


「それじゃあ、次は強さだな……」


「私、強さに関しては魔王様の足下にも及びませんよ?」


「そんなの当り前だ。俺を倒せる人族は、勇者とレオだけと決まっている」

 まあ、倒せる可能性が高いというだけで、カイトとレオでも倒されるつもりはないけどな。


「す、すみません……」


「別に謝る必要はない。そうだな。とりあえず、お前の実力を知りたい。とりあえず、俺の城に来い」


「え、ええ?」


 エステラを連れて魔王城に帰ってくると、キーが俺の椅子でまた居眠りしてやがった。

「あ、グル様……もしかして、一目惚れした女性を誘拐してしまったのですか? 別に、魔王ならそれくらいやっても良いと思うのですが……これから友好国となろうとしている国にそれをやってしまうのは、非常に不味いと思うのですが?」


「も、もちろん。同意の上に来て貰っている。な? エステラ、そうだよな?」


「え、ええ……」

 良かった。後からだけど、ちゃんと同意は貰えた。これで、キーに文句を言われる筋合いはなくなったな。


「本当ですか? まあ、良いでしょう」


「よし。キーの許可も貰ったし、お前の強さを試すとするか。剣を抜け。俺を殺してみろ」

 レオの騎士なら怖いが、まさかエステラまでも聖剣を持っているということはないだろう。

 そう思いながら、俺は腕を組みながら堂々とエステラの前に立った。


「魔王様は剣を抜かないんですか?」


「必要だったら抜く。俺に抜かせてみろ」


「……わかりました。そこまで言われたら、やらないなんて選択肢はないですね」

 そう言って、エステラが好戦的な笑みを見せてくれた。


「おお。そんな顔もできるのか。お前は、本当に俺好みだ。今すぐ結婚したいくらいだ」


「お断りします。私にだって夢があるんですから」


「だから、その夢を早く叶えてやると言っているんだ」

 素直に俺の命令に従わないのもなかなか良い。

 従順な下僕は、魔物だけで十分だからな。



 エステラが剣を抜くと、瞬時に俺の懐に入り込んできた。

 思っていたよりも速い。やはり、レオの騎士だけあるな。

「ほお。謙遜する割には十分強いじゃないか」

 エステラの剣を魔剣で受け止めながら、ニヤリと笑った。

 これは、鍛え甲斐がありそうだ。


「この程度で褒められても嬉しくないです」


「そうか? 俺は剣を抜かないとヤバいと思ったぞ?」


「それは嬉しいですね」

 それから、剣術だけの攻防が続いた。

 やはり……エステラは動きに無駄がなくて、綺麗だ。



「お前の弱点がわかったぞ」


「なんですか?」

 俺が止まったのを見て、エステラも動きを止めた。

 決着をつけても良かったが、俺は敵でもない女を傷つける趣味はない。


「単純にレベルが低い。もっとレベルを上げるべきだな。せっかくいい技を持っていても、そのステータスでは話にならない」

 エステラは、もう技は完成されていると言って良いだろう。

 だが、ここはファンタジーだ。レベルの差はどう頑張っても技では埋められない。

 だから、エステラはこれからレベル上げに専念させれば、良いだろう。


「なるほど……確かにそうですね。わかりました。これから、レベル上げを重点的に頑張ります」


「ああ、そうすると良い。それと、レベル上げはこの城で行え」


「え?」


「ここは、魔王の城というだけあって、経験値をたくさん落とす魔物がたくさんだ。どうだ? 短時間でレベルを上げるには持って来いだと思うが?」

 ゲームで言う、最終章に出てくる魔物ばかりだからな。

 レベル上げには、ここ以上に適した場所はないだろう。


「え~。酷~い。一応魔王なんだから、魔物も大事にしなさいよ!」


「ふん。エステラと結婚する為になら、魔物なんて安いものだ」

 魔物なんていくらでも替えが効く。だが、エステラに代えはないからな。


「それ、惚れ込みすぎじゃな~い? まだ、会った数分でしょう?」


「ふん。運命の出会いに時間なんて関係ないさ」


「運命って……。絶対、人界で初めて会った女じゃない」

そうだな。だが、俺はエステラが運命の相手だと信じているさ。


SIDE:エステラ

 今日一日で魔王と私が結婚する流れになってしまったことに困惑しながらも、今日あったことを報告しないわけにもいかず、とりあえず団長に報告した。

「なるほど……。そんなことがあったのか。災難だったな」


「ええ。でも、魔王様に鍛えて貰えることになったので、なんだかんだ良かったと思っています」

 間違いなく強くなることが保証されていますからね。魔王城の魔物と戦わないといけないことが少し気掛かりだけど、レオ様のダンジョンに比べたら大したことないでしょう。


「そうか。それで、魔王と結婚するのか?」


「それは……そうですね。たぶん、私が一番適任ですから」

 私なら、レオ様に逐一魔王様の様子を報告できますし、これから魔界と交易していこうと言うのなら、絶対になるべくレオ様に関わりがある人が魔王妃になった方が良いですから。


「お前が魔王と結婚してくれれば助かるが、別に無理強いするつもりはない。嫌なら断って良い」


「いえ。別に良いですよ。魔族とは言え、王様と結婚できるなんて普通は経験できないことですから」

 帝国の女性なら、皇妃様の話を聞いて一度は憧れるものだからね。

 騎士の家系に生まれたとは言え、貴族でもなかった私が急に王妃様になれるのよ? 普通にアリだと思うわ。


「そうか……」


「そうですね。来年の最強決定戦を持って、私は騎士を引退させて貰おうと思います」


「本当に良いのか? もっと騎士として働きたいだろ?」


「ふふ。まあ、政略結婚も騎士の仕事の内ですから」


「お前がそう言うなら、止めはしないが……嫌だと思ったらすぐに断れよ?」


「大丈夫ですよ。意外と、魔王様は優しい方ですよ? 第一、レオ様のご友人なのですから、悪い人のはずがありません」


「それもそうか。それじゃあ、魔王様のことは……お前に頼んだ」


「はい。任せてください」

 こうして、私が魔王様と結婚することは決まった。

 あの人は、もちろんこんな前から決まっていたとは知らないだろうな~。

 騎士団最強決定戦で、あれだけ私を頑張って応援していたのだから。



今週の土曜日は、七巻の発売日です!


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[気になる点] 王国との戦争から特に話の流れとパワーバランスの矛盾が露骨すぎて辛くなった。 戦争の人員の少なさや主人公に好き勝手にやらせすぎる帝国、捉えた捕虜を即返却や何故か被害の出る市街地で戦闘。…
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