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第二十二話 再会

 

 聖都から出てから、もうすぐ一週間が経とうとしている。

 予定通りに行けば、今日の夕方前にでもリーナの到着できるはずだ。

「もうすぐリーナの故郷だけど、どう? この景色、見覚えある?」


「はい……この道、小さい頃に通った覚えがあります」


「自然豊かで、我が家の聖女が育つには十分な土地ね」


「そうだな。老後はこういう場所で余生を過ごすのも悪くないかもしれないな……」


「ちょっと! まだ成人したばかりなのに、老後の話なんてしないでよ」


「ははは。ごめんごめん」

 言われてみれば、俺はまだ成人したばかりだったな。

 感覚的にはもう三十歳を過ぎていてもおかしくないんだけど……。


「旦那様は、もう少し今を楽しむことを意識した方が良いと思います」


「ベルさんの言う通りですね」


「ごめんって。でも、十分楽しんでいると思うぞ? こんなに可愛い奥さんたちに囲まれてさ?」

 そう言って、隣に座っていたベルとシェリーを抱き寄せた。


「もう。そんなこと言っても誤魔化されませんからね?」

 などと言いながら、ベルは嬉しそうに口元を緩ませた。

 ふふ。流石、俺が育てたチョロインなだけある。



 そんなやり取りをしていれば時間が経つのは案外早く、目的地が見えてきた。

「あ、リーナが住んでいた家ってあの家?」

 本当に、周りには何もないな。近くの村からも少し離れているし……。本当に、隠れるための場所って感じだ。


「え? あ、はい! あれです!」


「あ、人が見えるよ。女の子だ」

 目をこらして見ていると、女の子が畑をせっせと耕していた。

 偉いな。近くの村の子供かな?


「女の子? あ、確かに女の子ね」


「あ、驚かせちゃった」

 俺たちの馬車に気がついたのか、女の子は桑を放り投げて急いで家に入っていった。

 悪いことしちゃったな……。



 SIDE:マーレット

「はあ、この土地に来て六年。流石に、この生活にはもうすっかり慣れてしまったね」

 モニカの服を縫いながら、思わず大きなため息をついてしまった。

 いつまでこの生活を続けていけば良いのだろうか? そんな不安が常に私を襲ってくる。

 これまで上手くやれていたけど……何があるかわからない。

 いや、六年もこんな土地で生きていられたのは、奇跡と言って良いと思う。

 それくらい、ここの生活は過酷だった……。


「リーナ……元気にしているかしら? 無事なら、もう成人しているはずよね。素敵な相手を見つけて、幸せになっていて欲しいわね……」

 こういう時に思い出してしまうのは、十年前に離れ離れになってしまった長女リーナの顔。

 あの、別れ際に見せた泣き顔だった。

 あなたを守れなくてごめんなさい……。娘も守れない母でごめんなさい……。

 リーナ、お願いだから生きていて……。


「お母さん! お母さん! 大変だよ!」


「そ、そんな慌ててどうしたの?」

 大きな声を出しながら入ってきたモニカを見て、私も慌てて立ち上がった。


「遠くから馬車がこっちに向かっているのが見えたの! たぶん、前にお母さんが言っていた貴族よ!」


「馬車? 貴族?」

 そ、そんな。もしかして、私たちの居場所が教皇に知られてしまったというの?

 それとも、お兄様が私を売った?


「本当だから! ねえ、お母さんどうする?」

 モニカの声に、私はすぐ我に返った。

 もし本当に貴族がこの家に向かっているのだとしたら、考えている時間はない。


「とりあえずモニカは奥の部屋で隠れていなさい!」


「お、お母さんは?」


「大丈夫。少し貴族様とお話しするだけだから」

 私は、モニカを不安にさせないよう必死に震えるのを堪え、笑ってみせた。

 ここで、モニカを不安にさせたらダメ。


「で、でも! 貴族は恐ろしい人だって」


「大丈夫。お母さんが強いのは知っているでしょ?」


 コンコン


「すみませ~ん。マーレットさんいますか?」


「ひっ」

 扉の向こうから男の人の声が聞こえて、モニカが頭を抱えて縮こまった。

 そんな恐怖で震えるモニカを私は優しく抱きしめた。


「大丈夫……。とりあえず、奥の部屋で隠れていなさい。良い? お母さんが呼ぶまで出たら絶対ダメだからね?」


「わ、わかった……」



 モニカが奥の部屋に入ったのを確認してから、私は扉を開けた。

 すると……思っていたよりも若い、成人したばかりのような男と……複数の女、その後ろに騎士らしき男と女が立っていた。

「出迎えが遅くなってしまって申し訳ございません」

 私は訪問者が貴族であることを確認すると、すぐに謝罪した。


「いえ、こちらこそ、急な訪問で申し訳ございません」

 あれ? 思っていたよりも丁寧な男ね。

 そういえば、服装も教国の貴族じゃない気がする……。

 そう思い、頭を上げてもう一度貴族様たちの顔を見渡した。


 すると、一人だけじっと私の顔を見る人が……あれ?

「あなた……リーナ?」


「……はい。お母様」


「リーナ!」

 私はすぐに抱きついた。

 間違いない。リーナだ! リーナで間違いないわ!


「う、うう……お母さん……お母さん……会いたかったよ……」


「私もよ。リーナ……生きていてくれて本当に良かったわ……」

 泣き始めたリーナの頭を撫でながら、釣られて私もすぐに涙があふれ出した。

 生きていてくれて、本当に良かった……。



 それからしばらく泣いて……私たちが落ち着いたのを見計らって最初に挨拶してきた男がリーナに話しかけた。

「えっと……リーナ、紹介してもらえる?」


「う、うん。帝国で公爵の爵位を持つレオくん……元皇女のシェリー、元獣人族のお姫様のベル、世界一大きな商会を持つエルシー、食いしん坊なルーよ。レオくんは私の旦那様で、他の女の子は私と同じお嫁さん」


「え? も、もう一度言って貰える?」

 あまりにも突拍子もなくて、情報量の多いことを言われたせいで、私の頭が追いつかなかった。

 ど、どういうこと? 公爵に皇女に、旦那様ですって?


「うん。私の旦那様で、公爵のレオくん」


「はじめまして」


「はじめまして……」

 こ、この人がリーナの旦那? しかも公爵だなんて……。

 これは夢なのかしら?


「元皇女のシェリー」


「はじめまして。リーナとは、八歳からの頃から仲良くさせて貰っています」


「は、はじめまして……。小さい頃から、娘と仲良くして頂きありがとうございます」

 皇女様……ということは、アシュレイさんの娘さんね。

 そういえば、リーナと同じ年に生まれたんでしたっけ。


「そんな畏まらないでください。さっきリーナが言った通り、今は同じレオの妻ですから」


「わ、わかりました……」


「じゃあ次ね。獣人族のお姫様、ベル」


「はじめまして。これからよろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします」

 こちらも王族……て、この子、ディルさんが探していた獣人族希望の姫様じゃない!

 ディルさんが生きていたら喜んでいただろうな……。


「その隣が世界一の金持ち。エルシー」

 せ、世界一のお金持ち?


「ふふ。だから、無駄遣いして、私自身はそこまでお金持ってないんですって。リーナのお母様、はじめまして。これからよろしくお願いします」


「は、はい。よろしくお願いします」

 この人も凄そうね……。


「最後に、魔族で食いしん坊のルー」


「ふふ。リーナのお母さん、リーナにそっくりだね」


「よ、よく言われます」

 どうしてだろう……魔族というだけで驚くべきなのだろうけど、前の人たちが凄すぎたせいで、そんなに驚けない。

 というより、この子なんだか可愛らしいわね。


「どう? 誰が誰かわかった?」


「う、うん……。あなた……随分と凄い家に嫁いだのね……。ちなみに、レオさんは帝国のどの家なの? 黒髪だからフォースター家かしら?」

 確か、フォースター家にもリーナと同じ歳の男の子がいたはず。

 お義母(かあ)様がよく魔導師様との手紙の話をしていた時に言っていたわ。


「いえ、フォースター家は実家です。僕は、独立して今はミュルディーンと名乗っています」


「ミュルディーンというと、あの世界の中心で有名な?」


「はい。そうです。今は、フィリベール領とその周辺の土地も治めています」


「え? ど、どういうこと?」

 あの大きなフィリベール領がなくなってしまったというの?


「えっと……旦那様の説明をするには凄く時間が必要から、後でゆっくり聞いて。それより、今の状況を知りたいでしょ?」


「そ、そうね」

 今は、どうしてここにリーナがいるのか方が大切だわ。


「ガエルさんから手紙を預かっています。これを読んで貰えれば、大体の事情がわかると」

 そう言って、レオさんが私に一通の手紙を渡してくれた。

 フォンテーヌ家の蝋印とお兄様の字で書かれた私の名前があった。

 確かに、これはお兄様からの手紙だわ。


「ありがとうございます。えっと……全員が座るところもありませんが、どうぞ中にお入りください」


「ありがとうございます」



「モニカ! 出てきて良いわよ!」

 家にレオさんたちを招き入れ、奥の部屋に隠れているモニカを呼んだ。

 もう、隠れている必要もないわ。


「お母さ~ん!」

 呼ぶとすぐにモニカは出てきて、泣きながら私に抱きついた。

 よしよし。怖がらせちゃったわね。


『お母さん?』


「え? ……モニカがお母さんと言ったことがそんなに変だったでしょうか?」



 それから、すぐに誤解は解けた。

 どうやらお兄様、レオさんたちにモニカの説明を忘れていたみたい。

「なるほど……リーナには妹がいたのですね」


「リーナが知らなかったのも無理ありません。本当は、あのめでたい日に妊娠していることを報告しようと思っていましたから……」

 リーナの六歳を祝う場で、家族全員に報告するつもりだった。

 なのに……あんなことになって……。


「そうだったのですか」


「ね、ねえ。お母さん、この人たち……」

 レオさんに目線を向けられ、モニカは助けを求めるように私の背中に隠れてしまった。


「怖がらなくて大丈夫よ。モニカ。ほら、お姉ちゃんよ」

 そう言って、モニカをリーナの前にまで引っ張って行った。


「え? リーナお姉ちゃん?」


「え、えっと……私がリーナです。モニカちゃん、これからよろしくね?」


「ほ、本当にお姉ちゃん?」


「そうよ」


「うえ~~~ん。会いたかっだよ~~~」

 本当にお姉ちゃんであることを確信したのか、モニカはリーナに抱きついて大声で鳴き始めた。

 ふふ。やっと二人を会わせてあげることができた。



 それから、リーナにモニカのことを任せて、その間に私はお兄様からの手紙を読んでしまった。

 内容は随分と予想外のものだった。

 お義母(かあ)様とリーナが帝国に向かった後、フォースター家に二人が助けられたこと。

 その後すぐ、リーナとレオさんが仲良くなり、シェリーさんと同じタイミングで婚約が決まったこと。

 リーナが結婚したことで、教国に里帰りすることになったこと。

 それを狙って、教皇の暴走が再開したこと。

 全て、レオさんが解決し、お兄様が教皇になってしまったこと。

 どれも現実には思えなかった。

「まず……レオンス様、リーナとお義母(かあ)様助けてくださったこと、心より感謝申し上げます」


「いえ。こちらこそ、リーナには数えきれないほど助けられていますから」


「そ、そんな。私が助けられた数の方が圧倒的に多いじゃないですか!」


「いやいや。リーナの方こそ」


「いえ。旦那様の方こそ」


「ふふ。夫婦仲も良さそうで、母としてはうれしい限りね」

 微笑ましい二人のやり取りに、思わず笑ってしまった。

 良かった。本当に嫌々結婚したわけではないのね。


「そうよ。凄く仲良しなんだから!」


「それは良かったわね。それで……話は変わりますけど、私たちはこれからレオンス様のもとに……」


「はい。是非、うちに来てください。もう、暗殺の心配も必要ありませんし、不便な生活をする必要はないと思います。それと、一応これからは義理ですが僕の母なのですから、様なんてつけないでくださいよ。気軽にレオと呼んでください」

 本当、丁寧な男ね。リーナが羨ましいわ。


「そ、それじゃあ、レオさんと呼ばせてもらいますね。それで……レオさんのところでお世話になるかについてですが……」


「はい」


「お言葉に甘えさせていただきます。モニカも、もうすぐ十歳……本来なら友達がいて、たくさん遊んでいる時期に、こんな寂しい思いをこれ以上させたくないんです」

 娘の新婚生活を邪魔してしまいそうで悪いけど、それ以上にここでの生活を続けたくなかった。というのが本音だ。

 リーナ、こんな母親でごめんなさい……。


「わかりました。モニカちゃんは、魔法学校に興味あったりする?」


「魔法学校? 魔法を教えてもらえるの?」


「そうだよ」


「行きたい! 私、魔法学校に行きたい! お母さんみたいに魔法を使ってみたい!」


「そ、そんな、魔法学校なんて……」


「学費とかは心配しなくて大丈夫ですよ」


「そ、そういうわけには……」

 生活費だけでも相当な額になるのに、魔法学校の学費なんて払って貰うのは申し訳ないわ。


「お母さん、大丈夫。旦那様にとって、それくらい大した額じゃないから。まあ、旦那様の領地を見ればそれも理解できるわ」


「ミュルディーンが栄えていることは知っているけど……」


「もう、そんなレベルじゃないんだから」


「まあ、学校についてはまた後でゆっくりと話しましょう。それより、引っ越しの準備にどれくらい時間がかかりますか? あちらに行けば大体の物は用意できるので、必要最低限で大丈夫なのですが……」


「そ、それじゃあ、すぐに……三十分ほど待っていただけるでしょうか?」

 あれとあれをかき集めて……うん。三十分で終わる。


「急がなくて大丈夫ですよ。僕たちは、少し散歩でもしてきますので」


「わかりました」

 さて、急いで戸締まりと荷造りをしてしまうわよ!

 レオさんとリーナたちが家を出て行ったのを確認して、急いで作業に取りかかった。



今月二十日に七巻が発売されます。予約購入よろしくお願いしますm(_ _)m


挿絵(By みてみん)

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