第二十話 処刑
あれから、二ヶ月くらいが経った。
この二ヶ月間、俺たちの行動範囲は聖都に制限されていた。
教皇の断罪が終わるまでは、王国派の貴族たちが何をしでかすかわからないからせめて聖都に止まっていて欲しいと言われてしまったからね。
いち早く、リーナにお母さんを会わせてあげたかったのだけど、これ以上の戦闘は無意味な気がしたから、大人しく従っておいた。
そのおかげで、随分と聖都に詳しくなってしまった。
もう、聖都は地図なしで歩き回れる自信がある。
とは言っても、別にこの二ヶ月を散歩だけに費やしたわけではなく……仕事らしい仕事も少しだけやった。
何をしていたのかというと、ジルやカロの他に生き残った人族以外の暗殺者たちの今後を決めていた。
聖都だけじゃなく、広い範囲で活動していたみたいで、全員の確認が終わるまで一ヶ月半もかかってしまった。
そして、その肝心な回答についてだが……、
獣人族はジルについて行くと回答した。
エルフは、教国に残る。ダークエルフは半分が残り、半分がカロについていくと答えた。
あともちろん、次期教皇のガエルさんに希望者を帝国に連れて行くことの許可は貰っている。
後で勝手に連れていかれたとか言われても嫌だからね。
こうして、我が家は即戦力を思いがけず手に入れることができた。
その数、獣人族が四十七人、ダークエルフが四人、合わせて五十一人だ。
なかなか悪くない数だ。
そして、今日は……死刑執行の日だ。
主犯の教皇、王国派、帝国派の貴族たちが縛られ、民衆の前に立たされていた。
まあ、もちろん今回の襲撃事件に関わっていない貴族も混じっている。この貴族たちは、ガエルさんがまっとうな教国をつくるのに邪魔な存在と判断された貴族たちだ。
一応レリアとクーに聞いたら、どれも屑で有名な貴族だけしか選ばれていないらしい。
だから、俺からは特に何も言わなかった。
教国がまともな国になってくれれば良いからね。
「二ヶ月前、帝国からの使者であるレオンス・ミュルディーン様の一行を狙った大規模な襲撃が起こった。これは、我が国全体の信用を著しく落とすようなとても下劣なものであり、平和を愛するガルム教徒としてあるまじき行為である。よって、この事件の首謀者とされているエジェオ、イーノック、ティムンド並びにその関係者の処刑を行う!」
聖都の広場に建てられた断頭台の横で、淡々と罪状と処刑宣告を行うと、広場に集まった国民たちの喚起の声が上がった。
中には、これから処刑される貴族の罵声を叫ぶ人までいた。
随分とこの国の貴族たちは国民に嫌われているんだな……。
「ティムンド前教皇……国民に謝罪する最後の機会ですぞ? どうしますか?」
ガエルさんが一番目立つ所に立たされていた前教皇に目を向けた。
ああ、あれ教皇だったのか。顔がボコボコ過ぎて誰かわからなかった。
シェリーの魅了魔法が効いていたから、拷問なんてする必要なかったはずなんだけどな……。
まあ、因果応報だな。
「私は……己の利益の為に民を騙し、私の前任、そして客人までも襲ってしまった……。本来なら信者の模範とならなければならない我々がこのようなことを起こしてしまったこと、死して償わせて貰う」
どうやら、二ヶ月に及ぶ拷問という名の暴力にすっかり心が折れてしまったようだ。
素直に罪を認めて、国民に謝罪した。
そんな謝罪を聞いた国民たちの反応は……
「え? 前任ってどういうこと?」
「スクリフって病死のはずだったわよね? もしかして、ティムンド様が殺したというの?」
「信じられない……」
などと、教皇が教皇を殺していたことに戸惑っているようだった。
この国の国民たちは本当に可哀想だな。まあ、これから改善されていくはずだから、もう少し我慢して欲しい。
「今後、このようなことは教会において一切許さないこと……新たな教皇としてガエル・フォンテーヌがこの刑の執行を持って宣言する!」
『うおおおお!』
教皇の首が落とされ、広場に大きな雄叫びを響き渡った。
その中には、貴族の姿も混ざっていた。
国民から広く嫌われていた教皇だったんだな。
そんなことを思っていると、隣にいたリーナが俺に抱きついてきた。
「大丈夫?」
「はい。やっと……お父さんとおじいちゃんの敵が取れたのに……あまり実感ないですね。ただただ、悲しいだけです」
「そうだな……」
なんでだろうな? あいつが思っていたよりも小物だったからかな?
「この国、これから良くなっていくと思います?」
「ガエルさんを信じられるかは……まだ正直わからないな。でもまあ、あの正義感の強いレリアが近くにいれば大丈夫だろう」
クーがいれば、ガエルさんもレリアには変なことはできないだろうし。
「そうですね。私もレリアとクーさんなら、この国をきっと良い方向に向けて引っ張って行ってくれる気がします」
「まあ、リーナの一番弟子だからな」
「そうですね。レリアは優秀な弟子です」
今の言葉を聞いたら、レリアはきっと大泣きするんだろうな……。
それから続々と貴族たちが処刑されていく中、俺たちは屋敷に戻った。
人が殺されているのを見ているのも、あまり見ていて気分が良くなるものじゃないからね。
「それにしても……帝国、王国、教国の革命に全て関わってしまったな。俺、世界平和の為に働き過ぎじゃない?」
帝国の不正を一掃して、カイトを国王にして、腐った教皇を失脚させた。
もう、歴史の教科書に乗ることは確定だな。
「ふふふ。それじゃあ、後の人生はゆっくりとお休みください」
「い、いや、そういうわけにもいかないだろ。あの広い領地を開発していかないといけないんだし……」
それに、俺はまだ十六だぞ? これからが働き盛りじゃないか。
「もう、体が働いていないといられない体になっているわね。リーナ、どうにか治療できない? 領地に帰ったら、絶対私たちとの時間を取ってくれなくなるわ」
「そうですね……。多少無理矢理……ベッドに縛りつけてでも休ませるのが一番効果的だと思います」
え? 俺、帰ったら嫁たちに縛られちゃうの?
「そう。それじゃあ、帰ったらエルシーに頑丈な縄でも創造して貰わないと」
「ふふ。任せてください。ミスリルを使ったものを創造してみせますから」
いやいや。エルシーが創造した縄なんて、絶対に洒落にならないって。
皆、最近大人しくしているから忘れちゃってるけど、エルシーの本性を思い出してくれ!
「えっと……皆さん本気? 一応俺、当主なんですけど……?」
「大丈夫ですわ。ベッドに縛られているレオ様が見られたとしても、私たちが一緒にいれば……そういう趣味だと思っていただけますから」
「いや、良くない! まったく良くないって!」
勘違いでもそんな趣味を俺が持っているなんて思われたくない!
「どうせなら、魔法アイテムにしてみたいですね……。あ、ベルさん、この素材とか使えそうじゃないですか?」
「スライムですか……確かに、使えそうですね。良いと思います。あとはこれとか……」
おい! そこの二人! 俺の大切な素材をそんな物の為に使うんじゃない!
俺は急いで暴走し始めた嫁たちから鞄を奪った。
「もう、そんな必死にならなくても大丈夫ですよ。冗談ですから。ねえ? ベルさん?」
「え? あ、はい。じょ、冗談に決まっています」
おいベル! その反応、絶対に本気だっただろ?
ベルなら、俺を縛って私が全てお世話するから大丈夫です。とか、本気で言いそうだもんな。
これからベルと寝るときは気をつけよう……。
「まあ、縛るかどうか置いておいて、仕事に夢中になり過ぎたらダメよ?」
ええ……。縛るかどうか置いとかれちゃうの?
「わかったよ。程よく頑張る。これで良い?」
「はい。程よくでお願いします。約束ですよ?」
「うん。約束する」
「約束を破った時は、ベルにお願いしようかしら」
何を……? とは、聞かない。
ただ、約束は守ろう。そう心に誓った。
二月二十日は七巻の発売日です。予約購入お願いしますm(_ _)m
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今回の表紙はベルとシェリー、レオです。