第十九話 俺の役割
あれからバルスに肩を貸されたおじさんを発見し、すぐにリーナが治療を施した。
どうやら、本当にアレンにやられてしまったようだ。
城を出た後は、やることがあると言って帰ってしまったけど……おじさん、大丈夫なのだろうか?
新婚旅行が終わったら、帝都に確認しに行ってみるか。
そして今、俺たちはフォンテーヌ家の屋敷に戻ってきた。
「よくご無事で……」
帰ると、すぐにガエルさんが屋敷から出てきた。
顔色を伺うに、大聖堂で何があったのかはもう知っているようだ。
「ちょっと色々と二人だけで話したいのですが、良いですか?」
「もちろんです。こちらに」
応接に案内されて、さっそく本題に入った。
「今回は、やはり教皇がレオンス殿たちを襲撃したということで……間違いないのでしょうか?」
「はい。今度は、堂々と僕たちを殺そうとしてきました」
「も、申し訳ございません……。教国は、いかなる賠償を請求されてもお支払いします。ですので……どうか、どうかお許しを」
普通、国のトップに立つやつはこうだよな……。
あいつ、一言も謝罪しなかったし、それどころか自分が助かる為に国を売ろうとしたからな。
「わかりました。要求は二つです。一つはあなたが教皇になってこの国をまともにすること。もう一つは多種族の差別をなくすこと。これができると言うなら、今日のことは次代の皇帝にまでに責任を求めるようなことはしません」
「か、寛大な心に感謝いたします」
「頼みましたよ。教皇は今、大聖堂の牢獄にいます。早く迎えに行ってあげてください」
「わ、わかりました! すぐに向かいます」
それからガエルさんを見送り、シェリーたちの待つ部屋に戻った。
「どんなお話を?」
「大したことじゃないよ。後処理を頼んだだけ」
「えー。責め立てて領土でも要求したら良かったじゃない?」
「それは良いよ。これからの教国とは仲良くしていきたいし」
それに、これ以上土地を貰っても俺には管理しきれない。
「そう。それで、今日はもう何もないのよね?」
「うん。そうだね」
後は、全てガエルさんの仕事だ。
「それじゃあ……すぐに魔力の回復を始めましょうか」
そう言って、ベルが俺の手を取った。
「皆も相当魔力を使ったんじゃないの? 移動中、エルシーにちょっと魔力を分けて貰えたし、そんなにすぐじゃなくても大丈夫だよ?」
「ふふふ。全員でやるのは久しぶりだね」
え? 無視ですか?
「旦那様、お疲れでしたらそのまま眠ってしまっても構いませんからね?」
そう言って、リーナが反対の手を引っ張って俺をベッドに誘導した。
「えい! うふふ。私が一番乗り!」
最後はルーに押し倒され、そのまま俺の上にルーが馬乗りになって俺の胸の上に手を当てた。
「あ、ズルい!」
まあ、一番強敵だったのはルーだし、一番は譲って良いんじゃない?
などと思いながら、ルーの魔力を感じていた。
うん。温かくて気持ちいいな。
「ありがとう……。皆も無理しない程度にね?」
『ご心配なく(心配しないで)!』
皆を思っての一言だったんだけど、どうやら余計な一言だったようだ。
嫁さんたちが怖いので、しばらく黙ってよう……。
それからしばらくして、シェリーとリーナ、ルーが眠ってしまった。
そういえば、ルーは眠るのも一番だったな。
「なんだかんだ皆、疲れていたみたいだな」
三人の寝顔を眺めながら、俺はベルとエルシーを抱き寄せた。
「久しぶりの激戦でしたから」
「ですね」
「ベルとエルシーも寝て良いんだよ?」
「私は……ただ守って貰っていただけなので……」
「私も、本気で戦ったわけでもないので」
そんなことないと思うんだけどな。
エルシーはずっと俺に魔力を補充してくれていたし、ルーは結構傷を負っていたじゃないか。
まあ、二人が起きていたいなら良いんだけど。
「はあ、今回は自分の無力さを感じたな……。魔力がなくなると、俺ってここまで弱くなるんだな」
元々、魔力のゴリ押しが俺の戦術だったのが良くなかったんだろうな……。
魔力に頼りすぎて、技を鍛えようとしなかったからこんな結果になってしまった。
「仕方ないですよ。今回の相手は、全力のレオ様でも勝てない相手だったのでしょう?」
「まあ、そうなんだけど……。複製士……あれでも、転生者の中では中の上くらいなんだもんな……」
こんな状態で破壊士と出会ってしまったらどうすれば良いのやら……。
「最近、色々な転生者の方たちの話や実際にお目にかかる機会が増えて、一つ思ったことがあるのです」
「思ったこと?」
「はい。旦那様は支援職ではないのでしょうか?」
「支援職?」
「はい。魔王様に破壊士、獣王、バルスさん……どれも戦うことに特化した能力を持っていると思うのですよね。それに比べて、旦那様の能力は魔法アイテムを造ることがメインじゃないですか?」
「言われてみれば……」
「そういえば、付与士もどちらかというとカイトさんの支援に回っていましたね」
「あ、確かに……」
付与士自身は強くなくても、付与士は十分脅威だったな。
そうか、俺も付与士みたいな立ち回りをすれば良いのか。
「そうです。だから別にこれからは、旦那様自身が強くなることにこだわる必要はないと思います」
「エルシーさんの言う通りです。それに、破壊士が襲ってくるのは、二十年後と言っていたじゃないですか? もし、旦那様がこれから一生懸命鍛えたとしても、その頃には体のピークは終わっているはずです」
「確かに。それなら……新しい可能性に時間と魔力を投資していく方が可能性はあるか」
「二人とも、ありがとう。少し心のモヤモヤが晴れたよ」
俺は、感謝の意味も込めてぎゅっと二人を強めに抱きしめた。
「「旦那様……」」
「よし。こうなったら、才能のある子供たちを見つけ出さないといけないな」
二十年後にピークな若い世代を育てないと。
「あ、それなら大丈夫ですよ」
「え? 何で?」
ベル、もしかしてもう当てがあるのか?
「ここにいる女性たちと旦那様の間に生まれる子供たちは、きっと才能盛りだくさんですから」
そう言って、ベルがエルシー、シェリー、リーナ、ルーに目を向けた。
え? あ、そういうこと?
「そうですよ。ベルさんと旦那様の子供は可愛いんだろうな~」
「エ、エルシーさんの子供だって負けませんから!」
まあまあ、どっちも可愛いから喧嘩しないで。
と言おうとしたら、背中から誰かに抱きつかれた。
「ふふふ。それなら、早く確かめないとね。それでしょう、レオ?」
なんだ。シェリーか。びっくりしたじゃないか。
「起こしちゃった?」
「あれだけ騒いでいたら流石に起きるわよ。まあ、ルーは爆睡みたいだけど」
え? リーナは? と思ったら、リーナもぐーっと伸びをしながら起き上がった。
「ふふふ。ベルさんの赤ちゃんもエルシーさんの赤ちゃんも、きっと比べられないくらい可愛らしいと思いますよ?」
「「は、はい……」」
「それで、どうなの? レオは確かめたくないの?」
「お、俺も……確かめたいです」
俺は何を言わされているんだ?
それから……俺は四人に押し倒せれ……ルーは全てが終わってから目を覚ましたとさ。





