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第十八話 大聖堂の戦い⑧

 

「ふう~。とりあえず俺たちの勝ちで良いのかな。グル、大丈夫か?」

 複製士が消え、俺は大きく息を吐いてその場に座り込んだ。

 毎度のことだけど、転生者相手は命がいくつあっても足りないな。


「あ、ああ……世界とは、広いものだ。これだけ強くなった俺よりも強い奴がいて……更にもっと強い奴がいるんだろ?」


「まあ、二百年、三百年生きてる転生者に、生まれてたかだか十六年の俺たちが勝てるわけがないだろ? それに、さっき言っていた破壊士は、この世界でも最強の一角だよ。お前の一つ前の魔王も負けたんだから」

 破壊士たちなんて千年も生きているわけだしな。

 俺たちが勝てるはずもない。


「そうか……。確か、俺の前任は魔の森にいるんだったな?」


「ああ。暇なら探してみな。俺より、魔王の方が破壊士について詳しいから」

 いつでも暇しているだろうから、話し相手がてら相談に乗ってくれると思うよ。


「わかった」


「今日はありがとう。グルが来てくれて助かった」


「いや、これは魔剣を貰った礼だから気にするな」


「そうは言っても、本当に助かったんだから礼でも言わせてよ」


「わかった。それにしても、レオは何人嫁がいるんだ?」

 そう言って、ゲルが俺の隣や後ろに並ぶ女性たちに目を向けた。

 いや、全員が俺の嫁ってわけではないぞ? まあ、ほとんどそうなんだけど。


「五人だよ。シェリーにリーナ、ベル、エルシー、ルーだよ」

 誤解を解くため、グルに一人一人紹介した。


「ほう。一人魔族がいるな。人なのに魔族と結婚したのか?」


「時代は少しずつ変わっていくのさ。もう、魔族と人族が争う時代は終わりにしないと」

 そう言って、ルーの肩を抱き寄せてみせた。

 人は大昔に支配されていた歴史から魔族は恐怖の対象だし、魔族は焼却士にたくさん仲間を殺されたり勇者に魔王を殺されたりしているから人族のことを憎んでいる。

 この終わらない負の連鎖は終わらせないと。


「そうか。それもそうだな。真の敵は他にいたんだ。ここで人族と戦力を削り合うのも愚の骨頂……これからは手を組むべきか」

 よくわからない解釈をされたが、まあ手を組んでくれるなら良いか。


「そういうこと」


「なら、俺も人族から嫁を貰うべきだよな……。人族の王が魔族と結婚したんだ。魔族の王も人族と結婚しなくては」


「はい? 俺が人族の王?」

 俺、いつそんなこと言った?


「ん? 違うのか? 勇者の国を下して、聖女の国も下した。誰がどう見てもお前が王だろう?」


「い、いや……」

 世界征服とか、興味無いから。


「まあ、帝国もレオがほとんど掌握しているから、間違いでもないんじゃない?」


「ちょっとシェリー?」


「でも、実際……カイトさんも皇帝陛下も次期教皇も旦那様の頼みを断ることはできないですよね」

 おいおいリーナまで……。

 俺の代わりに否定するどころか、魔王を援護してどうするんだよ。


「なるほどな。レオの権力が強大なのはよくわかった。となると、レオに紹介して貰った女と結婚するのが一番良いかもしれないな」


「いや。うちは基本敵に自由恋愛だから。結婚したい相手は自分で探して、自分で口説いてくれ」

 もちろん。無理矢理つれて行くのもダメだからな?


「なに? 人族は政略結婚が存在しないのか?」


「あるにはあるけど。俺の家ではやってない」

 フランクは結果的に上手くいったけど、政略結婚の夫婦関係なんて絶対上手くいかないだろ。

 好きじゃない奴を好きになれなんて酷い話だ。


「くそ……俺を試そうってわけだな? わかった。俺も負けないくらい嫁を囲ってやるから見ていろよ!」

 いや、だからどういう解釈をしたらそうなるんだ?

 俺は好きに恋愛しろと言っただけなんだけど?


「まあ、応援するよ。頑張れ」

 厨二病魔王が考えているのかもうまったくわからないから、とりあえず応援しておくことにした。


「言ったな? その余裕な顔が嫉妬に歪む瞬間が楽しみだ! あ、それと! 今度、俺の城にお前を招待してやる。妻たちを連れて来い。最高のもてなしをしてやる! じゃあな!」


「あ、ありがとう……」

 勝手によくわからない宣戦布告と急な魔王城招待をすると、魔王は急いで魔界に帰っていった。

 まったく……あいかわらずだったな。



「ふう。とりあえず、おじさんを探すか」

 アレンも殺したとか明言してなかったし、おじさんは無事だと思うんだけど……一体どこにいるのだろうか?

 案外、隠密で隠れているだけでこの部屋にいたりして。


「ふ、ふふふ……ふははは! よくぞ教会に住み着いた忌々しい悪魔たちを退治してくれた! レオンス殿……なんと感謝を述べたら良いのか!」

 俺がおじさんを探しに行こうとすると、存在すら忘れていた教皇がいきなり大声でそんなことを言い始めた。

 さっきまで部屋の端で隠れていたくせに、何を言っているのやら。


「今更何を言っても遅い。お前が俺を暗殺しようとした事実は変わらないだろ。とりあえず、お前は牢獄で裁かれるのを待っていろ」

 教皇は複製士に操られていただけかもしれないけど、そんなことはどうでも良い。

 教国を陥れたのはこいつだからな。教国革命の礎となって貰おう。


「な、何を!? 私を教皇ですぞ? そんなことをしてどうなっても知りません……」


「まあ、一応確かめてやるか。シェリー、魅了魔法を頼んで良い?」

 本当は善人だったらなんか気分悪いし、こいつが屑なのか確かめておこう。


「良いわよ」


『一生嘘をつくな』


「わ、わかりました……」

 魅了魔法は便利で良いね。


「一つ目。アベラール家を滅ぼそうとしたのはお前の意思か?」


「そうだ。あんな亜人が聖女の夫であるなど……ありえないことだ。本来なら、教皇である私と結ばれなくてはいけない相手だというのに……」

 はあ? こいつ、嫉妬でリーナのじいちゃんを殺そうとしたのかよ……。

 と思ったら、まだ話は続いた。


「だが、寛大な私は見逃してやった。それなのに……あいつは私への恩義を忘れ、私が前教皇を暗殺したことを十年前に糾弾しようとした。あいつは、とても許されない奴だ。だから、神に代わって私が一族ごと消してやることにしたんだ」


「あ、あなたなんかが神の名を語るな!」


「リーナ、落ち着いて。まだ殺したらダメだ」

 本気で殺しそうな勢いで教皇に向かおうとしたリーナをそう言って、なんとか宥めた。

 教皇が思っていたよりも屑すぎて、俺も一瞬殺しそうになってしまった。


「はあ、二つ目の質問。どうして俺を暗殺しようと思った?」


「単純に邪魔だったからだ。これ以上お前に自由にされては、俺の立場がなくなる。リアーナに殺される未来も見えていたから、お前もついでに殺しておこうと思った」


「ぐう……」

 リーナの教皇に向かう力が強くなった。

 そんなリーナの背中を擦りながら、俺は教皇に顔を向けた。


「今にも殺してしまいたいくらい屑で助かったよ。ヘルマン、地下に牢屋があったからそこに入れてこい」

 思っていたよりも屑すぎて、聞いたのを後悔したくらいだ。

 本当、もう声も聞きたくない。


「わかりました」


「くっ……。教国はくれてやる。だから俺だけは助けてくれ……殺さないでくれ……」


「こんな姿を信者たちがみたら泣くだろうな……」

 人の心を救うはずの宗教のトップがこれじゃあ、信者は浮かばれないな。


「俺は……あの水晶に映し出された未来に従って教皇にまでなったんだ。それなのに……それなのにどうしてこんなことに……」


「水晶だと?」

 ガエルさんの話では予知魔法って言っていたけど、何か道具を使っていたのか?


「ほ、欲しいか? 未来を見ることができる魔法具だ! 欲しいだろう? 俺の命を助けてくれるなら隠し場所を教えてやろう! お前だって未来が不安だろう?」


「いや、別に……」

 欲しいとは一言も言ってない。


「な、なんだと? 未来を見れば……」


「レオンス、そいつの持っている魔法具は、複製士が用意した物だ。触ったら操られるかもしれない」

 教皇の言葉を遮るように、クーが思わぬ事実を教えてくれた。


「あ、そういうこと……」

 王国の時と言い……複製士は本当に用意周到だな。一体、いつからこの国を操っていたんだ?

 もしかしたら、気づかないうちに人間界は複製士一人の物になっていたかもしれないな。


「操られる? 俺が操られていたのか……?」


「はあ、もういいや。とりあえず、その水晶とやらの場所を教えろ。見つけ次第、ぶっ壊す」

 それからすぐに水晶は発見され、ルーによって破壊された。



 SIDE:ダミアン

「くそ……」

 アレンにやられた傷を押さえながら、僕は倒れていた。

 ランダム転移が起こった時、隠密を使っていた僕は転移されなかった。

 つまり、最初の部屋に残されてしまったわけだ。

 そしたら……アレンが姿を現した。


「よお。いるんだろ? ここ最近、お前が教国で俺を嗅ぎ回っているのは知っている」


「なんだアレン、僕と話をするためにここで待っていたのか?」

 僕も姿を現し、アレンに問い返した。


「まあな。八年も話してなかったんだ。少しぐらい良いだろう?」


「ふうん。随分と余裕だね」

 牽制程度に、魔法一発飛ばした。

 もちろん。アレンは難なく避けてしまう。


「まあな。実際、余裕だからな。お前、随分と弱くなったな。いや、俺が強くなり過ぎたのか」


「戦ってもいないのに、随分な物言いじゃないか」

 アレンの挑発には乗らず、静かに剣を抜いて構えた。


「戦わなくてもわかる。お前、八年前から大して強くなってないな?」


「それは……」


「俺は、この八年間……魔界で随分と揉まれてきたぞ?」

 気がついた時には、遅かった……。

 背後に回ったアレンに背中を斬られていた。


「ライバル……俺はお前をそう思っていたんだがな……。俺が強くなれば、その分お前も強くなってくれる。そう思っていたが……お前には失望した」


「ぐ、ぐう……」


「お前が変わったことと言えば、その武器だけだな。それ以外……この八年で進歩が見られない。レオンスに守られすぎて……弱くなったな」

 言い返したいけど、何も言い返せない。

 この姿で何を言っても、恥の上塗りだ。


「今のお前は弱すぎだ。これ以上戦う価値もない」


「ま、待て……」


「じゃあな」



「くそ!」

 かつて競い合っていた相手にここまで差を見せられ、大切なものまで守りにいけないなんて……皇帝を守る立場として情けなさ過ぎる。

 むしろ、こんな生かされ方をするなら、殺して欲しかった。


「素質はあるのに~~~もったいないな~~~」


「お前は誰だ?」

 聞き慣れない言葉に、俺はすぐに振り返った。

 すると、ニヤリと笑った不気味な音が立っていた。


「さあて、誰でしょう~~~? あなたと同じ血を引くもの~~~だと思ってくださ~~~い」


「同じ血を引くもの?」


「ええ。あなたと同じ影魔法使いで~~~す。まあ、あなたは~~~影魔法の使い方をよくわかっていないようですが~~~」

 影魔法使いだと?


「俺はまだ強く……なれるのか?」


「ええ。まだ三十六歳~~~まだまだいけますよ~~~」


「そうか。お前は、レオのところにいた騎士だったな」

 話していて思い出した。いつかの公爵家で王国の情報を話していた奴だ。

 あの時は確か、こんな話し方じゃなかったが……。


「なんだ~~~。知っていてさっきは聞いたのですか~~~?」


「あの時と印象が違いすぎる」


「そういうことですか~~~。私はバルス~~~。以後、お見知りおきを~~~」

 むかつく奴だが……私なんかよりよっぽど強そうだ。

 バルスに教われば、間違いなく私は強くなれる。そんな気がした。


「そうか。よろしく頼むよ。それと悪いが、肩を貸してくれないか?」


「良いですよ~~~」

 アレン、待っていろよ……。

 すぐにリベンジしてやるかな。


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