第十五話 大聖堂の戦い⑤
SIDE:レオンス
ベルのお説教が確定してから、少し経ち。
俺たちはルーが戦っている場所に向かって歩いていた。
どうやら、ルーは一番地下深いところで戦っているようだ。
「う、うう……」
「お、目が覚めたか?」
さっきまでベルと戦っていた獣人族の少年が目を覚ましたようだ。
流石獣人族。傷の治療までしてやったとはいえ、回復が早いな。
「お、お前は!」
目を覚ました少年は、俺を見るなり急いで距離を取った。
ああ、しっかりと拘束しておけば良かった。
これでまた戦闘が始まったら面倒だ。
「落ち着けって。お前の言っていたベルは目の前にいるぞ?」
「べ、ベル姫……あなたが……」
さっきまで戦っていたのに、まるで初めて会ったみたいな反応だな。
やはり、あの時は薬で意識がなかったのか?
「あなたの名前を教えて貰っても?」
「お、俺は、ジル! 王弟ディルの息子だ!」
「なるほど……。ということは、私の従弟というわけですね?」
「そうだ! あ、えっと……本当に、ベル姫は結婚してしまったの?」
「はい」
「そ、そんな……」
ジルは、本気で悲しそうな顔をした。
そこまでベルに俺と結婚して欲しくなかったのか? なんか、俺まで悲しくなってくるな。
「どうしてそこまで私と結婚することに拘りを持っているのですか?」
「お父さんが……王国を復活させるには強い子が必要だって……。俺とベル姫が結婚して、子供が産まれればきっと強い王が誕生するって」
なるほど、そう教育されてきたってわけか。
それがどうして、暗殺者になってしまっているのかはよくわからないけど。
「そのお父さんは今どこに?」
「十年くらい前に死んだよ。聖女暗殺に失敗して死んだ」
リーナのお父さんたちに殺されたのか。
それは何とも言えない運命の巡り合わせだな。
「ど、どうして、獣人族が暗殺者なんかに?」
「俺が物心ついた時には皆暗殺者だったから詳しいことはわからないけど……王国から命からがら逃げて来たお父さんたちは、その日食べるものもないくらい大変な生活を強いられていたみたいなんだ」
「それで、フォンテーヌ家に雇われたってわけか」
それだけの実力があったら冒険者でも十分稼げたと思うんだけどな……。
まあ、誰にも他の稼ぎ方なんて教えて貰えなかったんだろう。
「いや、最初は傭兵をやっていたみたいだ。それで、父さんの名が知られてきて……フォンテーヌ家に引き抜かれたんだ」
傭兵か。この国では内戦が盛んらしいからな。
確かにこの国なら、冒険者よりも傭兵たちの方が稼げるかも。
まあ、その流れなら暗殺者になるのも納得かな。
「本当は父さんもこんなことをやりたくなかったと思うんだ。いつも、仕事を終えて帰ってくる父さんは、自分に失望したように一人で落ち込んでた」
そりゃあそうだろう。光輝く王族が一転、薄汚い暗殺者だからな。
「それで、口を開けたと思うと俺にこう言うんだ。ベル姫を見つけるんだ。そして、強い王を産むんだ。って……」
はあ、なんか本当に獣人族は可哀想だな。
これから先、暇になったら獣人の王国の復興を手伝ってやるか。
「なるほどね。父さんが死んだとき、どういう流れで教皇につくことになったんだ?」
「父さんは、皆の心の支えだったんだ。それが急にいなくなって……皆、死ぬのが怖くなってしまったんだ。だから、当時最強だった教皇に鞍替えすることにしたんだ」
「なるほどね……」
「俺は、父さんと違って獣魔法を使えたから……良い気になっていたんだ。いや、父さんみたいに死にたくなかったから、虚勢を張っていただけなのかもな……」
いや、子供がまともな感情で暗殺者なんてできるかよ。
これは、カロと同様に保護してやった方が良いかもな。
唯一残ったベルの親戚だ。このまま心が壊れていくのを見ているのは辛い。
「もう良い。さっさと俺を殺せ」
「いきなりどうした?」
「どうせ、俺の仲間も皆殺しにしたんだろ? もう、俺に生きている意味はないよ。暗殺者としても失敗して……父さんとの約束も守れなかった」
本当、お前は可哀想な奴だな。
今までまともに愛情なんて貰えなかったんだろう……。
これは、少しずつ解決していくしかなさそうだ。
「まあ、とりあえず捕虜になれ。こっちも色々と忙しくてな。暇な時に人生相談に乗ってやる」
そう言って、俺は手錠を創造してジルに手渡した。
「え……?」
「とりあえず、形だけでも捕虜らしく手錠でも嵌めておけ。ほら、行くぞ」
戸惑うジルを無視して、またジルを担いで歩き始めた。
「う、うん……」
「よし。後はルーのところだ」
ルーなら大丈夫だと思うけど、千年生きている吸血鬼も相当化け物だろうからな……。
SIDE:ルー
あと何回こいつを殺せば、この吸血鬼は死ぬんだろう?
あの変な薬のせいで、どんどん魔力が回復されていくし……。もう、流石にめんどくさくなってきたな。
「恐れ入った。強力な破壊魔法を持っていながら、破壊魔法に頼らずにここまで強いとは」
「そう? 頑張って練習したからね~」
「そうか。あいつとは……似ているようで似ていないな。やはり、転生者は育つ環境で変わる物だな」
「ふふん。育ちは良いからね」
なんて言ったって、私はお城育ちなんだから。
そう言いながら、また私は破壊魔法でクーの顔を抉った。
そして、間一髪おかずに前進を破壊魔法で消していく。
「もう、回復させる隙なんてあげない。徹底的に壊してあげる!」
チマチマとした攻防に飽きた私は、動きが止まったクーに向けて破壊魔法を飛ばしまくった。
もう、魔力がなくなるまで壊してやる。そんなつもりだった。
「ぐ……」
けど、気がついたら私の足に短剣が刺さっていた。
これ、毒が塗られているやつだ……。
そう思った瞬間に、私は自分の右足をナイフごと破壊した。
「俺はいくらでも致命傷を受けられるが、お前は違う。これで、形勢逆転だな」
「そんなことない……お前の魔力の回復も止まった」
私は痛みに耐えながら、破壊魔法を絶え間なく飛ばした。
もう、あいつを近づけられない。
「そうは言っても、明らかに動きが悪くなっているぞ?」
「ぐう……」
クーが流れ出る私の血を操って、私の左足も抉った。
その瞬間、私の集中が切れ、クーを見失ってしまった。
あ、ヤバい……。
「本家の方だったら、こうも簡単にはいかないだろうな」
「うるさい……。私は、絶対に負けないんだから」
私は精一杯の虚勢を張りながら、無属性魔法をかけなおした。
ダメだ……一度見失ったらそう簡単に見つけられない……。
どうしよう……レオ……助けて。
「ルーさん! 今助けます!」
「あ、見えた!」
どこからかレリアの声が聞こえたと思ったら、闇が払われてしまった。
「何!?」
私は、驚くクーに構わず一瞬で全身を破壊してやった。
ふう……。なんとか勝てた。