第十四話 大聖堂の戦い④
SIDE:シェリア
「あなた……私の魔法にここまで対応できるなんて、凄いわね」
あれからいろいろと試したけど、結局カロにはまだダメージらしいダメージを与えられていなかった。
悪魔をどんどん召喚する黒魔法は凄いわね。魔法が効かない悪魔が出てきたり、その中に剣が効かない悪魔が混じっていたりと随分とカロに翻弄されていた。
「逆よ。ダークエルフの私にここまで対抗できるあなたが異常なのよ」
「エルフとダークエルフの違いって何? 見た目が黒いとかそれだけ?」
確かに、私の知っているエルフに比べて肌が黒い気もするけど……それだけじゃない?
「それだけじゃない。エルフは人族に似た体の造りだが、ダークエルフは魔族に近い」
「へえ。それじゃあ、エルフよりもダークエルフの方が強いってこと?」
「そうよ」
エルフも十分と強いと思うんだけどね。
カロがよっぽどの自信家なのか、事実なのか……。
「シェリー様、こっちは片付きました」
お喋りをしている間に、魔法が効かない悪魔たちはスタンとアルマによって全て片付けられてしまったようだ。
これで、また悪魔が召喚されるまで隙が生まれるわね。
「そう。レオたちが心配だし……お遊びは終わりよ」
「お遊び? 先ほどまでギリギリの攻防を繰り広げていた奴が何を言うのよ」
「そうね。でも、私には奥の手があるもの」
もう使うのはいつぶりだろう? 小さい頃はよくレオに使っていたけど。
あまり、人を無理矢理支配するのは好きじゃないのよね……。
『ひれ伏せ』
「く……。これはサキュバスの女王が使っていた魅了魔法」
へえ。そんな凄い人も魅了魔法を使っていたんだ。
極めたら簡単に世界を支配できてしまいそうな、恐ろしい魔法だからね……。
「良かった。忍び屋がいたから対策されていると思ったけど、ずっと使っていなかったのが功を奏したみたいね」
昔、忍び屋には魔法具で防がれてしまったけど、もうあれからずっと使っていなかったからもう使えないと思われていたのかな?
「いや……忍び屋からそんな情報は貰っていない。あいつらは、元々そこまで協力的ではなかった……」
そうなんだ。まあ、所詮は悪人の集まりだもんね。
協力しようなんて考えはないのかも。まあ、おかげで助かったわ。
「ふふふ。あなたは気に入った。私の侍女にならない? 少しの我が儘なら聞いてあげるわよ?」
「何を言っているんだ……。私がなると思うか?」
「何か条件はないの? 聞かせてちょうだい」
「そんなの言うわけ……」
もう、素直じゃないわね。
『あなたの欲望を吐き出しなさい』
「里を滅ぼしたあの破壊士に……復讐がしたい。ただ、クー様を裏切りたくは……」
また破壊士……どれだけ人を殺したら気が済むのかしら?
そんな人にレオが狙われていると思うと、本当に恐ろしいわね。
『クー様って誰?』
「私たち教皇の手の長よ」
「ということは、吸血鬼の?」
「そうよ」
「へえ。それじゃあ、その吸血鬼の呪いを解ければ、快く私に従ってくれるってわけ?」
「ええ……」
あら、意外と簡単に仲間になってくれそうじゃない。
これは、すぐにそのクーの呪いを解きにいかないといけないわね。
「わかったわ。それじゃあ、そのクーってところに案内しなさい」
「わかったわ。こっちよ」
「シェリー! 大丈夫か?」
クーのところに向かおうとしたら、後ろの方からレオの声がした。
振り向くと、レオとリーナ、エルシーがこっちに向かってきていた。
ふう。レオが無事でとりあえず良かったわ。
「レオ。それにリーナにエルシーまで……そっちは大丈夫だったの?」
「はい。なんとか」
「それより、その女性は?」
「カロって言うらしいわ。気に入ったから、魅了魔法でスカウトしたの」
そう言って、隣にいたカロの腰に手を回した。
「え? それって……魅了が解けた時に面倒じゃないか?」
「大丈夫。ちゃんと吸血鬼の呪いが解けたら私の言うことを聞くって約束してくれたし」
「そうか。それなら大丈夫なのかな」
「うん。だから、今から私たちはその吸血鬼の所に向かうね」
「わかった。その吸血鬼は誰と戦っているんだ?」
「魔族の女よ。私たちの敵」
「魔族の女ってことはルーだな」
「でも、その言い方……なんか、カロさん自身が何か恨みがあるような言い方ですね」
あ、確かに。エルシーの言う通り、カロの言い方はなんか教皇の命令って感じがしないわね。本当に、カロの敵みたいな言い方だったわ。
「当り前よ。彼女は私たちの家族を殺した女の生まれ変わりなんだから……」
ああ、そういうこと……。
「なるほど……。ダークエルフも破壊士に種族を滅ぼされた?」
「ええ……そうよ。私は、どんな手を使ってでもあいつに復讐する」
「それは困ったな……」
そうね。こうなってしまったら、カロを仲間にするのは難しいかも。
「ねえ。カロは、その復讐とクー様を助けるのだったら、どっちを選ぶ?」
「そ、それは……」
「悪いけど。どっちもは無理よ? ルーが破壊士の生まれ変わりだったとしても、あの子は私たちの家族なんだから。それに、ルーがあなたたちを殺したわけじゃないでしょ?」
お願いだから諦めて……。私は、あなたを殺したくない。
「……クー様を助けてください」
「わかった。ありがとう。あなたの主人は、絶対に助けてあげる」
私はカロを優しく抱きしめた。
私に力があれば、破壊士への復讐を手伝ってあげるって言えたんだけど……辛い決断をさせてしまってごめん。
「それじゃあ、二手に分かれるか。リーナとシェリー、スタンはルーのところに。俺とエルシー、アルマはベルのとこに向かおう」
「わかったわ……。まあ、ベルのことだからもう終わっている可能性もあるわね」
相手のリーダーがルーと戦っているなら、ベルの相手はそこまで大したことないはず。
案外、最上階に向かっているかも。
「そしたら、そっちにすぐ向かうよ」
「わかったわ」
よおし。ルー、今私たちが助けに行くからね!
SIDE:ベル
どれくらい戦っているでしょうか?
この体でここまで傷を負ったのは初めてかもしれません……。
目の前の狼は、目が血走っていてほとんど意識ないはずなのですが、動きだけは良い。
勇者様と戦った時のように本気を出せば、簡単なのですが……それだとこの子を殺しかねない。
たぶん、この子なら何か私のお父さんやお母さんのことを知っているかもしれないのよね……。
何か恐ろしい薬でも飲まされているとは思うのですが……私には解毒の方法がございませんし、薬が切れるのを待つしかないのでしょうか?
けど、旦那様が心配な今、そんな悠長なことをしている暇はありません。
困りましたね……。情報は諦めて、この子は殺してしまいましょうか?
私にとって一番優先事項は旦那様なのだから。
『グルアアア(僕はベル姫と結婚しないといけないんだ)!』
同じく獣化した影響でしょうか? 狼の叫びの意味が自然とわかってしまう。
ただ……ずっと同じことしか言っていないようなので、意味がわかっても会話にはならないのだけど。
それにしても……ベル姫と結婚ですか。
獣人族の王族みたいだし、私が赤ん坊の頃に何かしらの婚約がなされていたのかもしれませんね。
ただ、私はもう人妻です。諦めて貰わないと。
SIDE:レオンス
「大きな狼が二頭……。ベル、随分と手加減をしているな」
ベルを発見すると、二日前に俺たちも戦った狼とベルが戦っていた。
やはり、あの狼はベルほどの実力はなかったみたいだ。ベルが多少の切り傷程度なのに対して、結構痛々しい怪我を負っていた。
ただ、カイトと戦った時みたいな全力は出していないのはベルの動きを見ればすぐわかる。
まるで、殺さないように気をつけて戦っているようだった。
「何か理由があるのでしょうか?」
「まあ、何かしらベルの家族について知っている可能性がある」
もしかしたら、ベルに残された唯一の手がかりかもしれないからな。
「なるほど」
それにしてもあの狼、あれだけベル姫がどうのこうの言っていたくせに、結局自分でベルを攻撃しているじゃないか。
あの時、あいつはどうして怒っていたんだろうな?
「あの狼……目が真っ赤に染まっていませんか?」
「確かに。何か薬でも飲まされたのか?」
複製士がいたからな……。あの狂化の剣みたいな薬が使われていてもおかしくない。
「この剣に血を吸わせれば、体内の毒の解毒薬を作れるのですが……」
「じゃあ、頼んだ。致命傷じゃなければ問題ない」
こっちにアルマを連れてきて良かったな。
「わかりました」
SIDE:ベル
(ベル、助けに来たぞ)
この声は、旦那様だ。
良かった。無事だったのですね。
(旦那様! この子、何か薬を飲まされています!)
(やっぱり。今、アルマがそっちに向かったから援護してやってくれ)
(わかりました)
(殺さないから心配しないでくれ。解毒するだけだから)
(ありがとうございます)
『グルアアア(俺がベル姫と結婚するんだ)!』
ずっとそれしか言わないわね……。
少し、私も何か言ってみようかしら?
『ワフ(私がベルよ)』
『グル(お前がベル姫)?』
『ワオーン(ほらこっち)!』
『グルアアア(ベル姫は俺の物だ)!』
だから、私は旦那様の物ですって……。
そんなことを思っている間に、アルマさんが正気を失った狼の背中に乗っていた。
そして、アルマさんが剣を突き刺すと目の充血が消え、狼は寝てしまった。
「ベル様、囮にさせてしまい申し訳ございません」
「……いえ。アルマさんがいてくれて助かりました」
完全に眠ってしまったのを確認してから、私も獣化を解いた。
うう……また服が破けてしまいました。
破けない服を旦那様に造って貰いたいですが……そんなことに旦那様の貴重な魔力を使って貰うのは……。
「ベル様、私に敬語はもうやめてくださいと言っているじゃないですか。ベル様はもうメイドではないのですから。騎士に敬語なんて使ったらダメですよ」
アルマさん、私が旦那様と結婚してからずっとこんな感じだ。
ヘルマンさんとかは普通に接してくれるんだけど、アルマさんだけは騎士という職業に人一倍誇りがあるらしく、私がいつも通り接することを許してくれません。
もう……許してくれないかな……。
「まあ、慣れるまで許してあげなって。ほら、ベルに服のプレゼント」
「あっ……き、貴重な魔力を……」
「獣化している間だけ自動で収納される能力しかつけてないから、そこまで魔力は使ってないよ。また、違う服も造ってあげる。あ、近くで見ると傷が多いな。ついでに治してあげるよ」
「あ! 回復魔法まで! 本当にやめてください!」
こんなちょっとした切り傷に魔力を使わないでくださいよ!
何を考えているんですか?!
「大丈夫。今のはセレナの能力だから」
「え? セレナさん?」
た、確かレオ様が持っていた聖剣の名前でしたよね?
何か聖剣の新しい能力なのでしょうか?
「実は、リーナに止める前に最後の力を振り絞ってアンデッドを倒したら、ぎりぎりレベルが上がったんだよね」
「え? リーナさんに止められた? 最後の力を振り絞った……?」
何を言っているんですか? もしかしてレオ様、リーナさんに止められるまで無理して戦っていたというのですか?
「だ、大丈夫だから。こうして今、元気に話せているでしょ?」
「後で、リーナさんに確認してみます」
リーナさんの説明次第では、後でたっぷりとお説教が必要ですね。
どれだけ旦那様のお体が大切なのかをわかってもらわないと。
「だから大丈夫だって……」
「で、どんな能力なんですか?」
「無視しないで……能力は、聖魔法を魔力なしで使えるって能力」
「それは、随分と今のレオ様に合った能力ですね」
「確かに、エルシーさんの言う通り、昔のレオ様なら絶対に必要ない能力ですね」
旦那様はどんな魔法も自由に使えますから、万全の状態の時にその能力を貰ってもあまり使える能力とは言えなかったでしょう。
「持ち主に合わせた進化だってさ。俺が弱くなったから、進化もそれに合わせたみたい。ちなみに、進化機能もこれで終わりみたい。これ以上、俺から魔力を吸うことはないらしい」
「それなら、これから魔力を気にしないで使えますね」
「私としては、もう旦那様は戦わなくて良いと思いますけど……」
もう、旦那様は部屋に引きこもっていて欲しいです。
私が全てお世話しますから……。
「まあまあ、今回みたいなことがあるわけじゃないですか? だから、戦える力があるに越したことはないじゃないですか」
「……そうですね。でも、無理して戦うことはなしですよ?」
「わかっているよ。これからは気をつける」
「やっぱり、無理していたんですね……」
これは、帰ってからお説教確定です。