第十三話 大聖堂の戦い③
「ん? あれ? 勇者カイトはどこだ?」
かっこよく登場したグルだが、この場所にはいないカイトを探している姿にちょっと笑ってしまった。
「カイトはここにはいないよ」
「お、レオじゃないか! お前、そんなに弱ってどうしたんだ? 前に会ったときの裏ボスキャラはどうしたんだ?」
俺が裏ボスキャラ?
「あれから色々とあってね。全力で戦えない体になってしまったんだよ」
「そうか……お前とも戦ってみたいとも思ったのだが残念だ」
「俺も残念だよ」
いや、本心としてはまったく残念ではないんだけど。
誰が戦闘狂の相手なんかしたいと思うかよ。
「それでレオよ。カイトはどこだ?」
「だから、ここにはいないよ」
「いないだと? それじゃあ、このイベントはなんだ?」
イベント? こいつ、まだ厨二病を患ってるのかよ。
お前も十六になったんだろ? 流石に大人になろうぜ?
「イベントね……。まあ、あの転生者の仕業だよ」
とりあえず話を合わせて、それとなく複製士に意識を向けさせた。
「ん? おお。あいつが全ての黒幕というわけだな」
「まあ、黒幕の幹部ってところかな」
「なるほど。あいつは、俺に任せろ」
「いや、あいつめっちゃ強いから……」
戦えって意味で複製士を指さしたわけじゃないんだよ? とりあえず、アンデッドたちを片付けて貰えるだけでもありがたいんだけど。
「遠慮する必要はない。この剣の礼がまだだったからな。魔王たるもの、貰った恩はしっかり返さないといけないからな。そこで寝ていろ。起きた頃には、全てが終わらせておく」
かっこいいなおい。俺が女だったら、惚れてしまいそうだ。
「わかった……。あ、城はなるべく壊さないように戦ってくれると助かる。この下に、仲間と嫁がいるんだ」
「おお。お前も結婚したのか。俺も結婚を考えないといけないな……」
魔王も結婚を考えるんだな。俺の知っているもう一人の魔王は、結婚している様子が一切なかったんだけど。
「とりあえず、城を壊さないように戦う」
「ああ、ありがとう」
「くくく。友というのは良いものだな」
「うん。まあ、そうだね」
俺も魔王が友達になって心強いよ。
「よし! 友のために戦うぞ!」
そう言って、グルは複製士に向かって剣を思いっきり振った。
俺たちがよく使っている斬撃を飛ばした遠距離攻撃かな……?
などと思っていたら、とんでもないことが起こった。
グルが斬った先の空間が綺麗に真っ二つになった。
「おいおい。まさか、空間を斬る能力を手に入れたとか言わないよな?」
俺、もしかしてとんでもない武器を魔王に渡してしまった?
これからは一層……グルと仲良くしないといけないな……。
「もうちょっと! どうしてここに新魔王が来ているわけ? そして、どうして私を攻撃するのよ?!」
あの攻撃をされても、複製は無事だったようだ。
あんなの初見ではどうにもできない気がするけど、よく避けられたな。
まあ、それでもさっきまでの余裕の表情がなくなっていることは簡単に見て取れた。
これはもしかして、グルならいけるかも。
「さて……俺も限界まで戦おうかな……」
せっかく、強力な助っ人が登場してくれたんだ。
今のうちに雑魚たちを片付けないと。
(だからやめておけって……お前、本当に死ぬぞ?)
そうは言っても、ギルとギーレは新しく召喚されたボスたちの相手に忙しそうだし、アンデッドは俺が処理しないとダメでしょ。
「エレナ、レベルアップまであとどのくらいかわかる?」
(感覚的にもうすぐだが……やめておけ。これだけ魔物を斬っていても上がらないんだから)
(そうです。あと一体で上がるかもしれませんし、百体倒しても上がらないかもしれないのですから)
「上がらなかったら上がらなかったで仕方ない。少しでも三人の負担を減らさないと……」
そう言いながら、俺はまた剣を構えた。
感覚的に、あと五分が限界かな? それ以上やったら本当に死んでしまいそうだ。
「もう……無茶しないでください」
俺が剣を振ろうとした瞬間、後ろから抱きつかれて止められてしまった。
「リ、リーナ……」
リーナだった。
「昨日あれだけ注いであげた魔力を全部使ってしまったのですか? もう、無茶しすぎです」
「で、でも……あのアンデッドたちをどうにかしないと……」
「あのアンデッドですか? なら、私に任せてください」
そう言うと、リーナが全てのアンデッドを聖魔法で消滅させた。
マジか……俺たちはあんなに苦労したのに、一瞬じゃないか。
「流石リーナさん。さっきから大活躍ですね」
ぎゅっと。遅れてエルシーが抱きついてきた。
エルシーとリーナは一緒に転移されたのか。とにかく、無事で良かった。
「へへへ。やっとこういう場面で役に立てました」
「師匠、後は僕に任せてください」
「ヘルマン……。あの上の戦いに巻き込まれないように注意しろ」
おお。ヘルマンも一緒だったか。これは一気に戦力が上がったな。
これなら、さっき召喚されてボス二体もどうにかなるだろう。
「あれは……?」
「魔王と転生者だよ。どっちもルー並みかそれ以上に強い」
「ど、どちらが味方ですか?」
「魔王の方だ」
「なるほど……。わかりました。リーナ様、エルシー様、師匠の魔力の回復をお願いします」
「「任せてください」」
「もう……本当にあと少ししか残っていないじゃないですか」
ヘルマンが魔物に向かって行くと、リーナとエルシーによる俺の魔力回復が始まった。
「どうしてこんな無茶をしたんですか?」
「ギルとギーレだけに無理させるわけにもいかないし……なんか、守られているだけの自分が不甲斐なくて……」
「不甲斐ないなんて……決してそんなことありません。大貴族の当主が守って貰うのなんて、当り前のことじゃないですか」
「そうかもしれないけど……」
俺は今まで先頭に立って戦ってきたから、守られることに慣れないんだよ。
「守って貰った分は、帰ってから政務で返せば良いじゃないですか。それが、貴族というものでしょ? 旦那様は領民の為に良い政治を行い。領民がその礼に旦那様を守ってくれている。そう思えば少しは納得できませんか?」
「う、うん……」
俺はもう領主がメインだ。それはわかっているんだけど……。
「それとも……普段から守ってばかりの私が不甲斐ないと言うのですか?」
い、いや……エルシーはその分……ああ、そういうことだよな。
「はあ、そうだな。俺も帰ってから頑張って働かないと」
エルシーほど働けるとは思えないけど、せめて騎士たちに守って貰えるくらいには働かないと。
「ふふ。やっと納得してくれました」
「と、言いたいところだけど……シェリーとルーを助けに行かないといけない。これだけは、体に鞭を打ってでも行かないと」
「え? ちょっと待ってください……その魔力で」
いや、複製士が魔王に手一杯になっている今しかチャンスはないんだ。
「大丈夫。二人に十分魔力は貰ったから」
「そうは言っても……」
「とりあえずシェリーと合流するよ」
俺は二人に有無を言わせず、転移を使った。
複製士の本当の狙いは俺でも、リーナでもエルシーでもなかった。
残るは、シェリーにベル、ルーだ。
可能性が一番高いのは、獣王の血を引くベルか?
とにかく、全員が無事であることを願うしかないな。





