第十二話 大聖堂の戦い②
あれからどのくらい時間が経ったのだろうか?
皆、無事だと良いんだけど……。
「無駄な抵抗はやめた方が良いと思うんだけどな。現に、あなたは私に何もできず後ろを取られているわけだし」
あれから俺は必死に続けていたが、実力差がありすぎて叩きにすらならなかった。
くそ。ここで魔力を全部使ってしまったら、本末転倒だし……。
俺はそんなことを考えながら、とにかく剣を振り続けていた。
「あー。本当に面倒ね。あなたは殺せないのよ……。仕方ないわね。これの相手でもしてなさい」
そう言う複製士の手には、いつの間にか見覚えのある球が……三つもあった。
「それは、魔の召喚石……今までのは、お前が犯人だったのか」
地下市街にあったのも、王国でのあれも複製士が関わっていたのか。
「王国でのこと? そうよ。これは、私が生まれるよりも前に創造士が造った勇者の訓練装置よ。あまりにも召喚される魔物が強すぎるという理由で、封印されていたのを私が見つけて複製したってわけ」
「そうだったのか……」
ミヒルめ、余計な物を創造してくれたな。
「さて、どうする? 大人しく全てが終わるのを待っていてくれるなら、割らないであげる。今のあなたでは、流石に三つは無理でしょ?」
「まあ、そうだな……正直、勝率はほぼゼロに近いかもしれないな」
「けど、俺は戦う? はあ、良いわ。どうせ暇だし」
俺の返答を聞き終わるよりも早く、複製士は魔の召喚石を割ってしまった。
ああ、くそ。ここから死ぬ気で戦わないと大変なことになる。
(セレナ、エレナ、力を貸してくれ)
俺は、セレナの能力でエレナを召喚して、二人に話しかけた。
(久しぶりに頼ってきたと思ったら。随分とピンチね)
(うふふふ……。やっと使って貰える……もう何年放置されていたのでしょうか?)
(ごめんって。ここのところ、ずっと戦う場面がなかったのと、ちょっと魔力に制限がかかってしまってね。使いたくても使えなかったんだ)
セレナもエレナも持っているだけでとんでもない魔力を吸い取っていくからな……。
この体では、そう簡単に使えないんだよ。
(あの異常な魔力を持っていたあなたがね……。まあ、良いわ。魔物を二体召喚するくらいの魔力は残っているんでしょ?)
(ああ、残っている)
(なら、あのドラゴン二体を召喚しなさい。そのあとは……あと少しで私とエレナのレベルが上がるだろうから、それに賭けることね)
確かに、ギルとギーレがいれば随分と楽になるはず。
魔力の大半を使ってでも、召喚するべきだな。
(けど、召喚した後は運任せか……)
レベルを上がった結果、余計に魔力が必要になったらどうするんだ……?
(もう、今のあなたにはそれしか選択肢がないのですよ。諦めてください)
(そうだな……。わかったよ。運に任せるとするか)
そんなことを言いながら、ギルとギーレを召喚した。
「ギーレ、ギル、急に呼び出して悪いね」
「いえ……この状況でよくぞ私たちを頼ってくれました」
「今回は待機で退屈だと思ったけど、思わぬ出番が回ってきて嬉しいわ」
二人は召喚されるなり、すぐに状況を察して戦闘モードに入ってくれた。
「心強くて本当に助かるよ」
「あら、強力な助っ人ね。でも……そんなに魔力を使って大丈夫なのかしら? これから先は長いわよ」
「いいか? あいつは無視だ。とりあえず、目の前の敵だけ集中しろ」
「わかりました。それにしても……あの女、一体何者ですか? ルー様にも劣らない圧を感じます」
「まあ、ルーの同族みたいなものだ。正直、魔力を全力で使えた俺でも勝てるのか微妙な相手だよ。いや、高確率で負けるだろうな」
普通に考えて、自分より長く生きている転生者に勝つなんて無理なんだよ。
ルーの破壊魔法ならそれも覆せるかもしれないけど、破壊士の部下ならその対策も何かしら持っていそうだしな……。
「そんな人がどうしてこんなところにいるの?」
「俺もそれが知りたいんだけど教えてくれないんだよ。だから、とにかく気にしないでこの魔物たちをどうにかしよう」
召喚が始まった。三つも割ってくれたから、とんでもない魔物の数だ。
これは時間がかかりそうだな……。
「やっと第一波が終わりましたな」
「ここからが本番だよ。ほら、来た」
第一波に時間がかかりすぎて、休む時間は与えて貰えなかった。
くそ……魔力があればもっと楽に戦えるのに。
「今回は、レッドドラゴンにネクロマンサー、マッドデーモン……」
「やったドラゴンなら、私たちの言うことを聞いてくれますわ」
良かった。竜王を部下にしておいて本当に良かった。
「マッドデーモンも、この明るい中ではそこまで脅威になりませんね。逆に、闇は目立ちます」
指摘されて気がついたけど、いつの間にか大聖堂の天井が崩れ落ちていた。
ちょうど昼過ぎの今、太陽が一番差し込む時間だ。
これなら、確かにマッドデーモンは脅威ではないな。
「問題はネクロマンサーか。この死体の山では、アンデッドを作り放題じゃないか」
「レッドドラゴンたちに燃やさせる?」
「いや、それだと大聖堂が火事になってしまう可能性がある。ここのどこかでシェリーたちも戦っているはずだから、それはできない」
レッドドラゴンを暴れさせるのも大聖堂の倒壊を招きそうだし、あまり良くないかな。
「とすると……もう一度、倒した魔物たちを倒す……しかないですね」
「ごめん。俺が魔法を使えれば、こんなに苦労しないで済んだのに」
聖魔法があれば、アンデッドがここまで脅威になることなんてなかったのに。
「いえ。気にしないでください。そもそも、レオ様は護衛される立場なのですから」
「そうよ。そんな謝罪なんて必要ないわ」
「ありがとう。どうにか、最後のフェーズが始まる前に片付けよう」
あれからまたどのくらい時間が経ったのだろうか?
「くそ……魔力が足りない……」
もう、俺の魔力は限界に達しそうになっていた。
(もうやめなさい! あなた、これ以上私たちを持っていたら死ぬわ!)
(そうです! もうあの二人でも対応できるくらいの数になりましたから!)
「そうは言っても……これからもっと強い奴が出てくるのに……」
そんなことを言っていると、遂にラスボスの召喚が始まった。
くそ……。まだアンデッドの処理も終わってないのに……。
「勇者よ! 再戦の時が来た! この魔剣の威力、とくと受けるが良い!」
「おいおいマジかよ。ここに来て俺の悪運が味方したぞ」
ラスボス三体の内、一体は新魔王のグルだった。