第十一話 大聖堂の戦い①
聖都に到着して次の日、遂に運命の決戦が始まる。
俺たちは教皇が待つ大聖堂に来ていた。
「ここがガルム大聖堂……か」
遠くから見ても立派だと思っていたが、近くで見るともっと凄いな。
流石、この世界で一番の宗教なだけある。
「ふう。さあ、行こうか」
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私たちがついていますから」
俺が気合い入れて中に入ろうすると、そう言ってリーナが俺の腕に絡みついてきた。
「それ、俺のセリフじゃない?」
「ふふ。立場逆転ね。まあ、私たちに任せておきなさいって」
反対の腕にはシェリーが絡んできた。
まったく、頼りになる嫁さんたちだ。
「ようこそ。ミュルディーン家の皆様。教皇様が中でお待ちしております」
出迎えはなし、か……。
これは中に入った瞬間に襲われる可能性もあるな。
「こちらです」
修道女に案内されながら、大聖堂の奥へと進んでいく。
このまま、何もなく教皇と会えれば良いんだけどな。
そんなことを思っていたら、急に廊下の床が発光し始めた。
なんだ? と思った時には、俺たちの転移が始まっていた。
「くそ! 皆、最上階を目指すんだ!」
『わかった(わかりました)』
もうどうにもできないことを悟った俺は、全員にそんな指示を飛ばした。
集合場所は設定しておかないといけないのと、教皇がいるのは最上階な気がしたからだ。
「ここはどこだ?」
転移され、すぐに周りを見渡した。
そして、すぐに一人の女性が目に入った。
「いらっしゃい。ここは、教皇の部屋よ。あそこで頭を抱えている教皇のね」
そう言われて、指さされた方向に目を向けると……本当に教皇が頭を抱えて蹲っていた。
「死にたくない……死にたくない……」
ぶるぶると震えて、ずっとぶつぶつ呟いていた。
教皇、何か呪いでもかけられたのか?
「お前は?」
「複製士って言ったらわかるかしら?」
「……転生者か」
俺はすぐに身構えた。
「正解」
これは勝ち目ない。すぐに……。
「おっと。転移は使わせないわよ」
転移しようと思った時には、後ろから抱きつかれていた。
くそ……どうやってこんなに速く移動したんだ?
「ふふ。そんな怖がらなくて良いわよ。あなたを殺すつもりはないから」
「俺を殺すつもりはない?」
複製士は、破壊士の派閥だよな? それなのに、俺を殺すのが目的じゃない?
創造士を消すにはこれ以上ないチャンスじゃないか。
「ええ。逆に、あなたには長生きして貰わないと困るわ」
「なら……どうしてこんなことを?」
言っている意味はわからないが、とりあえず話を進めることにした。
とにかく、今は少しでも良いから判断材料が欲しい。
「ふふ。ごめんなさいね。ちょっと殺さないといけない人が一人いてね……」
「おい。まさか……」
俺以外に殺したい奴がいたってことか?
「さて問題。今回、狙われているのは誰でしょう? 正解は、全てが終わってから教えてあげる」
「ふざけるな!」
くそ。誰が狙われているかなんてもうこの際どうでも良い。
とにかく全員を助けないと。
俺はセレナを召喚して、複製士に向けて振り上げた。
「やめておきなさい。あなたでは、私に勝てないから。無駄に寿命を縮めるだけ」
また、背後から声が聞こえた。
くそ……このままだと本当に魔力を無駄に使うだけになってしまう。
「勝率が限りなく低いからって……諦められるはずがないだろ!」
「はあ、仕方ないわね。暇つぶしも兼ねて、ちょっと相手してあげる」
SIDE:シェリー
「やっぱり罠だったわね……。スタン、アルマ大丈夫?」
レオとしっかりくっついていたはずなのに、一緒に転移されたのはスタンとアルマだった。
レオ……誰かと一緒だと良いんだけど。
「はい。大丈夫です」
「俺も大丈夫ですよ。それにしても……あの格好、忍び屋ですね……」
スタンが指摘したとおり、私たちは忍び屋に囲まれていた。
ダミアンさんが言っていたことはどうやら本当のようね。
「アレンが隠れている可能性があるわね……。魔力感知を怠らないように」
隠密は、攻撃する瞬間は使えないという欠点があるから、攻撃をされる瞬間をちゃんと察知できれば大丈夫なはず。
「「はい」」
「ふふ。八年前はこの光景を見て恐怖したんだけどね……」
こっちに向かってくる忍び屋を眺めながらそんなことを呟いた。
「私が全て斬ります」
「いえ。大丈夫よ」
剣に手をかけたアルマを止めて、私は全方位に特大の雷魔法を飛ばした。
私のトラウマはあっけなかったわね……。
忍び屋は、私の一撃で全滅した。
「あれだけの数を一発とは、流石です」
「いや、生き残りがいるわよ」
死体が転がる中に、一人の女性が立っていた。
服が所々焦げているけど、体は無傷みたい。
「あれは……エルフですね」
「あなたが教皇の手?」
「教皇の手のカロよ。あと、エルフじゃなくてダークエルフ」
「あ、そう」
今度は一点集中の魔法にした。
これなら、当たれば一発のはず。
そう思っていたら、黒い魔物が出てきて止めてしまった。
「悪魔……?」
「そう。私は黒魔法使い。悪魔を呼び出す禁術の使い手よ」
そう言ったカロの周りに複数の悪魔が召喚された。
どれも、さっきの忍び屋とは比べものにならないくらい強そうね。
これは……ちょっと苦戦しちゃうかも。
SIDE:リーナ
「まんまと罠にはまってしまいましたね」
転移されたのは、大聖堂のパーティー会場でしょうか?
一緒に転移されたのは……エルシーとヘルマンさんだけですか。
これは不味いですね。
「すみません……僕が未来を見えていれば」
「謝らなくて良いですよ。見えなかったのなら仕方ないですから。それより、今は早く旦那様を助けることに集中です」
「そうですよ。あっ」
「これは……随分と多いですね」
私たちが急いで部屋から出ようと思った瞬間、二十人くらいの暗殺者が私たちを囲う様にして現れました。
「これが教皇の手。全員獣人族と魔族なんですよね?」
「そうです。はあ、この光景……嫌な思い出が蘇ってきます」
「大丈夫ですか?」
「はい。ここで勝って、過去のトラウマを払拭しないといけませんから」
旦那様を助けるためには、こんなところで弱音を吐いている暇などありません。
涙を流すのは、旦那様と会えてからにしましょう。
「え?」
ふふ。少数精鋭のつもりだったのでしょうが……二十人程度で助かりました。
これくらいなら、聖魔法で簡単に眠らせられます。
「さて、急いで最上階に向かいますよ。たぶん、旦那様はそこにいますから」
旦那様、待っていてくださいね。
SIDE:ベル
「早く助けに行かないと……」
私はひたすら走っていた。
急いでレオ様を……旦那様を助けないといけない。
その一心で薄暗い地下の中で階段を探してひたすら走っていた。
「こっちから人の匂いが……いや、この匂いは」
『グルアアア!』
多少不意を突かれたけど、なんとか防御に成功した。
これが旦那様の言っていた獣人の暗殺者ですか……。思っていたより、弱いですね。
そんなことを思いながら、受け止めた獣を獣化した足で思い切り蹴飛ばした。
「その目、正気の目ではありませんね?」
蹴飛ばし、獣の全体像を確認すると……目が真っ赤に染まっていた。
これは、何か薬でも飲まされた可能性がありますね。
「急がないといけないので、あまり手加減はできませんよ?」
SIDE:ルー
「ここは? どこかの地下?」
私以外に転移されなかったのかな……?
とにかく、レオに言われたとおり最上階を目指さないと。
「ああ、正解だ。ここは、地下の大儀式室だよ」
「あ、吸血鬼!」
暗くてよく見えないけど、牙が見えたから間違いない。
あれが吸血鬼だ。
「いかにも。お前が……破壊士二世だな?」
「破壊士二世? 破壊魔法を使えるから? 何言っているのかわからないけど、とりあえず死んで!」
レオを助ける時間もないし、すぐに破壊魔法を使って手を振り下ろした。
すると、吸血鬼は綺麗に破壊された。
「あ、殺しちゃった」
昨日、レオが吸血鬼の呪いをどうにかするって言っていたけど、殺しちゃって大丈夫だったかな?
「いや、死んでないぞ」
「うわぁ! びっくりした。もしかして不死身? これは面倒だな……」
急に死体から血が噴き出したと思ったら、吸血鬼が復活しちゃった。
あれ、どういう原理? 何か魔法かな?
「面倒? その余裕はすぐになくなる」
そんなことを言って、吸血鬼は闇に消えちゃった。
あれは闇魔法だね。
「本気のベルには劣るかな」
不意打ちのつもりかもしれないけど、無属性魔法を極めた私にはあまり意味ないよ?
「ほう。どうやら、破壊魔法だけではなかったみたいだな」
「そうだよ。ちなみに、この短剣はレオの特製だから凄く切れ味が良いんだ」
ふふん。ずっとこの短剣でダンジョンに潜っていたんだからね。
そこら辺の吸血鬼に負けるはずがないわ。
「切れ味など、私には関係無い」
「そう? 修復に魔力を使ってるみたいだし……このままだと私が勝つよ?」
私はいくらでも吸血鬼に攻撃できるけど、吸血鬼の攻撃は私に当たらない。
このままだったら、私の勝ちね。
「思っていたよりも頭が回るのだな……。仕方ない。予定より早いが、これを使うか」
そう言って、吸血鬼は変な薬を飲んだ。
すると……吸血鬼の魔力が爆発的に増え始めた。
「魔力を増やす薬?」
「そうだ。人族なら副作用ですぐに死んでしまうが、俺は死なない体なんでな。副作用を気にする必要はない」
何それ。ずる……。