第八話 あの日の真実①
SIDE:レオンス
昨日のことがあったから、慎重に街から少し離れた場所に転移し、昨日の街を通らないように聖都へと向かった。
そして、半日走ってようやく聖都に到着した。
「ようやく到着したな。とりあえず、馬車が無事到着できたか見ておくか」
まあ、無事なはずがないんだけど。
一応、目的地に指定しておいた宿屋に向かってみた。
「やっぱり聖都にはたどり着けなかったみたいだな」
「みたいですね。それらしき馬車がどこにも見当たりませんでした」
宿屋を調べてみると、俺たちの馬車らしき物がまったく見当たらなかった。
予定通りに進んでいれば、とっくに着いてないとおかしいから、途中で壊されたと考えて大丈夫だろう。
「まあ、僕たちがあれだけ大変な目にあったんですから、あれだけ堂々と出発したゴーレムたちが無事なはずがありませんよ」
「それもそうだな。とりあえず新しく馬車を用意して、シェリーたちを連れてきたら予定通りフォンテーヌ家に向かうとするか」
「はい。馬車の護衛は僕たちに任せてください」
それから鞄から馬車を出し、二人に馬車を見張っていて貰う間に城に転移した。
「皆、準備できてる?」
「良かった~。何もなかった?」
転移すると、すぐにシェリーに抱きつかれた。
随分と心配させてしまっていたようだ。
「うん。念話で報告したとおり、大丈夫だよ」
「それでも、実際に無事なのを確認しないと安心できませんよ」
「そうです。本当に心配したのですから」
「ごめんって」
そう謝りながら、皆をギュッと抱きしめた。
それから、ヘルマンたちを長く待たせるわけにもいかず、俺たちはすぐに馬車に転移した。
そして、そのままフォンテーヌ家の屋敷に向かった。
「レオンス殿、お久しぶりです。随分と派手に襲撃されたようですが……ご無事なようで一先ず安心しました」
屋敷に到着すると、ガエルさんが出迎えてくれた。
昨日の黒幕が誰かわからない以上、この人のこともあまり信用してはいけない気がしてきた。
まあ、この人に俺たちを暗殺する意味はないと思うんだけど。
「はい。特に怪我とかはしてないので大丈夫ですよ」
「それは良かった。馬鹿な王国派の貴族たちはすぐにでも没落させますので、ご安心してください」
王国派貴族に止めを刺す為に昨日の襲撃を行ったとしたら、この人も中々の策士だよな。
まあ、それを考えるとしたら参謀の爺さんなんだろうけど。
「まあ、そこら辺は任せます。それより……吸血鬼を雇っている貴族を知っていたりしませんか?」
「きゅ、吸血鬼? も、もしかして、昨日その吸血鬼が襲ってきたというのですか?」
ん? 何か知っていそうな反応だな。
「いや。直接戦うことはなかったんですけど」
「そうですか……」
「吸血鬼について何か知っているのですか?」
「……良いですか? ここだけの話ですよ? これを知っている人は、この国でも数人です」
「はい」
「この国で、吸血鬼を雇っている人は……教皇です」
「教皇?」
教皇が魔族を雇うなんてできるのか?
「教皇の持つ暗殺部隊……教皇の手は、獣人族やエルフ、魔族で構成されているのです。そして、その長は千年近く生きていると言われている吸血鬼なのです」
「千年……?」
ミヒルや魔王たちと一緒じゃないか。
もしかしたら、あいつも転生者なのか? いや、単純に吸血鬼に寿命がない可能性もあるな。
けど、千年も生きていれば十分強いだろうな……。
「詳しい説明は、我が家の参謀にさせても?」
「ええ」
「それでは説明させて頂きます」
「昔々……まだこの人間界に魔族がいた頃ですね。三人の英雄が魔族を人間界から追い出したと言われています。一人は初代国王であり、二代目勇者様ですね。二人目は、初代皇帝……この方はあまり記録が残っておりませんが、初代魔導師とも言われています。そして三人目は、この教国の創設者であり、十一代目教皇妃、最後の聖女様と呼ばれている方なのです」
三人の英雄ね……。勇者は勇者だろう。初代皇帝は、ミヒルで間違いないだろうな。
ただ……聖女の紹介がよくわからないな。
「最後の聖女?」
「ええ。レリア様やリアーナ様の前でこのようなことはあまり言いたくないのですが……今の聖女様は、単に最後の聖女様の血を引く女性なだけなのです」
ああ、そういうことか。わかったぞ。
最後の聖女というのは、転生者だった聖女の最後ということだ。
今の聖女であるリーナやレリアは別に転生者じゃないからな。
「なるほど……その、最後の聖女様というのは、決定的に何か違ったのかな?」
「はい。世界で唯一蘇生術というものを使えました」
「蘇生術……それは、死んだ人を生き返らせることができるということか?」
それが可能なら、実に転生者らしいチートスキルだな。
「何かしらの条件はあったとは思うのですが、確かに死人を生き返らせたと記録には残っています」
「それは凄いな。それで、その最後の聖女様は誰かに殺されてしまったのか?」
今はいないとなると、そういうことなんだろうな。
まあ、自分を蘇生することはできないだろうし、他の転生者に狙われたらキツいのかもしれないな。
「最後はよくわかっておりません。もしかしたら、千年生きている吸血鬼なら知っているかもしれませんね」
「その吸血鬼は、いつから教国にいるんだ?」
「ああ。失礼しました。少し脱線してしまいましたね。その吸血鬼は、元々最後の聖女様に仕えていたと言われています」
なるほど。それで最後の聖女の説明をしたわけか。
「へえ。その名残で、ずっと教皇に仕えていると?」
「はい。吸血鬼は、血の契約というものを行うらしいのですが……どうやら、何かの対価に一生教国の為に生きるという血の契約を聖女様と行ったらしいのです」
「血の契約か……」
吸血鬼の能力なのかな?
「もしかしたら、教皇様が前聖女様やリアーナ様を必要以上に恐れていたのは、その血の契約が関係しているのかもしれません」
「どういうことだ」
「今代の教皇様は、予知魔法という特殊な魔法を使うことができると言われています。自分や他人の未来を見ることができるという魔法ですね」
へえ。それは随分と宗教家向けな能力だな。
「それで、血の契約の解除方法を知ってしまった? 吸血鬼は、教皇を恨んでいるのか?」
もしかしたら、人族全体を恨んでいる可能性もあるな。
もう何百年も暗殺者として汚い仕事をさせられているんだ。俺でも恨みたくなるはず。
「かもしれませんね。元は、聖女様の騎士として扱われていたのが今では暗殺者としてこき使われていますからね……」
「そういうことだったのか……」
それなら、教皇が聖女を恐れるのも納得だな。
「というわけですね。聖女様の話をするときの教皇はとにかく怯えていましたから」
「あの……一つ、私から一つ質問してもよろしいでしょうか?」
吸血鬼の説明が一段落すると、リーナが手を挙げた。
「構わない。一つと言わず、好きに質問してくれ」
「ありがとうございます。それじゃあ、聞かせてください。私の両親を殺したのは本当にフォンテーヌ家なのですか?」
「……」
リーナの問いかけに、ガエルさんは黙ってしまった。
そして、口を開いたと思うとレリアに目を向けた。
「はあ……レリア、自分の部屋に戻っていなさい」
「え?」
「これから話すことは、フォンテーヌ家の存続に関わることだ。悪いが、まだお前には教えられない」
ふうん。ということは、リーナの質問に答えてくれるということか。
「わ、わかりました。失礼します」
「それでは……お話ししましょう。十年前の真実について」
レリアが出て行ったのを確認すると、ガエルさんが説明を始めた。
果たして、どんな理由でリーナの家族は殺されてしまったのだろうか……?





