第六話 隠密旅行④
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いしますm(_ _)m
SIDE:クー
「やはり……駄目であったか」
久しぶりの失敗……こうして頭を下げるのはいつぶりだろうか?
あの小娘を取り逃がして以来、約十年前か。
思っていたよりも最近だな。
「申し訳ございません」
「構わん。そういう定めであったというだけだ」
「そうかもしれませんが……」
「そうだな。定めであったとしても、それを変えるのがお前たちの役目だ」
「申し訳ございません……」
「もう時間はない……。私に残された時間はないのだよ。私の寿命は君たちにかかっている。それをわかっているのかね?」
「もちろんです……」
「私がどうして化け物を飼っていると思っている? 私に定められた運命を変えるためだ。働いてもらわなければ困るぞ……」
「はっ」
「わかったなら行っていい。そうだな……ここで待ち伏せしておけ。ここで大きな運命を感じる」
「……わかりました」
渡された紙には、王国派の過激派貴族の名前が書かれていた。
あいつら、自分の領地で襲撃を行うのか?
考えが足らない連中だとは思ったが、ここまでとは……。
まあ、手駒として使うには楽だから良いのだが。
SIDE:レオンス
ボードレール領から三日間走り続け、あと二日もあれば聖都に到着できそうだった。
そう、この三日間何も起こらなかった。
「あいつら、仕掛けてこないな」
「もう、早ければ明日には到着してしまうのですけどね……」
「今日の目的地にも到着してしまう。俺たちがいくら目立たないようにしていたとは言っても、暗殺者なら気が付けたはず……。何が狙いなんだ?」
俺たちの移動が速くて、準備が間に合わなかった?
常に警戒していた俺たちに不意を突ける隙が無かった?
いや、あの五人なら仕掛けてこられたはず……。
「帝都の入り口で狙っているとかは?」
「それはあり得るな……」
山の時みたいに別ルートを通られるのを恐れて、絶対に俺たちが来る場所で待ち伏せをしている可能性は高い。
「聖都の裏侵入ルートを知っていますが、そっちから行きますか?」
お、流石スタン。
「どんなルート?」
「地下水道です。非常に匂いがきついですが、隠れて侵入するにはもってこいのルートです」
「いや……それ、絶対暗殺者も隠れやすいだろ。てか、地下なら生き埋めにされる可能性もあるじゃないか」
あいつら、平気で街とか爆破しそうじゃん。
「そうですね……」
「こういうときは、堂々と正面突破が一番安全かもしれないな」
よくわからない暗い地下で戦うよりは、まだ逃げ道が多い地上で戦った方が良いだろう。
地の利はあっちにあるわけだし。
「そうですね」
「まあ、とりあえず今日はあの街まで頑張ろう」
今日の目的地がやっと見えてきた。
良かった。今日も日が沈むまでに到着できそうだ。
SIDE:クー
「来たぞ」
夕日に照らされた三人組が見えてきた。
あと十分もあれば、この街に着くだろう。
「よし。思う存分暴れてやるぞ~」
「だから、クー様の説明を聞いていた? 私たちの出番はまだよ」
「え~。でも、あんな雑魚が群れたところで何も変わらないだろう? なら、あいつらもまとめて俺が……」
「もう失敗できない……わかっているな?」
「う、うん……」
キャンキャンよく吠える犬は臆病なだけだ。一睨みすれば、すぐに黙る。
さて、レオンスよ……。今日は生きて返さぬぞ。
SIDE:レオンス
「やっと到着。それじゃあ、帰ろうか」
ぎりぎり日が沈む前に着くことができた。
明日は遂に聖都だ。無理だとは思うが……このまま何も起こらずに終わってくれると楽で良いんだけどな。
「そうですね……。あ、師匠!」
「うお?」
俺が転移をしようと二人に手を伸ばそうとすると、それを阻止するようにどこからか矢が飛んできた。
「遂に来たか……。くそ。領民が死んでも構わないってことか?」
雨のように降り注ぐ矢をスタンに魔法で防御してもらいながら、思わず周りの心配をしてしまう。
やはり……関係ない人たちが射抜かれて倒れていた。
くそ。胸糞悪いな。
「どうします?」
「二人とも、街から出るぞ。ここにいると、俺たちに巻き込まれてたくさんの人が死んでしまう」
幸い、俺たちは街の入り口に近い。
俺たちなら、矢を避けながら街を出られるはずだ。
「ですが、あの弓兵たちをどうにかしかないと……」
「そうだけど、人命優先!」
人の心配をしている場合でもないけど……何も関係ない女性や子供たちが殺されていくのを見過ごすことはできないな。
「わ、わかりました」
「とりあえず、走るぞ!」
と腹を決めて走りだそうとした瞬間、急に矢の雨が止んだ。
それに驚いて辺りを見渡すと……大量の暗殺者たちがこっち向かってきていた。
「おいおい。無理やりにでも、俺たちを街の中で戦わせるつもりなのか……? これは、思っていた以上にヤバいな」
SIDE:クー
「おい、嘘でしょ!? なんであいつら、あんな雑魚たちに苦戦しているんだよ!」
貴族持ちの暗殺者たちに苦戦しているレオンスたちを見て、ジルが地団駄を踏んでいた。
こいつが特別傲慢で頭が弱いのか……獣人族自体の思考能力が低いのか……戦力になるから大目に見ているが、この作戦が終わったら本気でこいつの処分も考えないといけないな。
「魔法や飛ぶ斬撃を使えば、簡単にあの数を倒せるだろう。だが、あいつらは街中で使うことはできない」
「どうして? まさか……あいつら、自分の領地でもないのに街が壊れないように戦っているというのか?」
どちらかというと領民……いや、こいつにとって領民も街の一部みたいなものか。
「ああ、正義の味方というのは大変なんだよ」
金にも何にもならないというのに、よくそんなものによく命をかけられる。
「ねえ? もうこうなったら、俺が行っても良いでしょ? 早く終わらせようよ」
「いいや。お前に出番はない」
「はあ?」
浮き浮きしたジルの提案に俺が首を横に振ると、ジルが声のトーンを下げて俺に向かってきた。
はあ、実に残念だ。今の態度でジルは処分することが決定事項となってしまった。
ここまで上に歯向かうようになってしまえば、組織にとって邪魔にしかならない。
将来性があっただけに……とても残念だ。
「あいつらは、数に押されているだけで、個としての強さは変わっていない。今、お前が突っ込んで行っても、三人相手には簡単に殺されるだろうな」
「お、俺が?」
「ああ。いたずらに兵たちの士気を下げるだけだ」
「そ、そんなことない! 見ておけ! 今、俺が……」
「言ったはずだ。もう俺たちに再度やり直すチャンスなど存在しない……。ここで、俺の言うことを聞かないなら、ここで俺が殺すぞ?」
「ぐっ……わかったよ。ここでおとなしくしておけば良いんだろう?」
どうやら、俺が本気で殺す気でいることを気がついたようだ。
最初からそう素直に頷けば良いものを……もう遅い。
「ああ、おとなしくしておくんだ。カロ、お前は魔法部隊に加われ、街を必要以上に壊すなよ? あいつらに守るものがなくなった瞬間、形勢が逆転する」
「……わかりました」
「ちえ」
SIDE:レオンス
「くそ……一体いつになったら終わるんだ?」
ひたすら向かってきた敵を倒しながら、俺はこれからどうこの状況を打開するのか必死に考えていた。
いつからか降り注ぎ始めた魔法の防御をスタンが担当し始めてからは、ギリギリの戦いが続いている。
どうにかしないと、いつかはやられてしまう。
俺も魔法を使いたいが……魔力が寿命と直結してしまった今、魔力を無駄に使う創造魔法は使えない。
もちろん使ったからと言ってすぐには死なないが……あの五人と戦わなくてはいけなくなることを考えると、ここで魔法は使えない。
「夜通し戦うことを覚悟しておいた方が良いかもしれませんね……」
「それは非常に不味いな……。体力よりも魔力が先に尽きる」
今も無属性魔法で少しずつだが、魔力が減っていっている。
まさか、この俺が魔力の残量を気にする日が来るとは……。
「師匠は戦わなくても大丈夫ですよ?」
「何を言っているんだ。そんな必死に戦いながら言われて、俺が頷くと思うか?」
「す、すみません……」
「気にするな。今、打開策を一つ思いついた。まあ、それを実行する隙は与えて貰えないけど」
「その隙はどのくらい必要ですか……」
「十秒……いや、五秒あれば十分だ」
「わかりました。五秒ですね?」
そう言うと、スタンが魔法を使って俺に向かっていた暗殺者たちを吹き飛ばしてくれた。
これなら、五秒は俺に刃が届くことはないだろう。
「おお。ありがとう。これで、三体は出せる」
SIDE:クー
「出てきたか……」
今のレオンスは創造が使えないのではなかったはず……それに、あの数秒で創造はできなかったのではないか?
はあ……やはり、情報が足りない。
「おお。あれがレオンス十八番のゴーレム? あれじゃあ、もう勝てないじゃん」
「そうだ。仕方ない。想定外だ。魔法は一旦止めろ。ジル、ゴーレムを壊してこい」
「え? マジ?」
「ああ。レオンスの負担が減れば、どんどんゴーレムが増えていく。そうなれば……俺の作戦は失敗する」
「わかったよ……。ついでにレオンスと戦っても良い?」
「死にたいならな」
好きにしてくれ。俺としては、処分する手間が省けて助かる。
「ちえ……わかったよ。ゴーレムだけね」
SIDE:レオンス
「ふう。少しは楽になったな。この調子であと二十七体……全部出せれば、俺たちの勝ちでしょ」
戦争が終わってから、魔力量に十分注意しながら少しずつ造り貯めておいたゴーレムは三十体。
王国との戦争の時と比べれば随分と少ないけど、この程度の暗殺者たちなら大丈夫だろう。
それから、俺は隙を見ながら少しずつゴーレムを鞄から取り出していき……、
十体が出た頃には、俺はもうほとんど戦う必要がなくなっていた。
「徹夜にならなくて良かったです」
「そうだ『ドッガン!!』……え?」
「お? 思っていたよりも固いな」
衝撃と爆発音と共に舞い上がった砂埃が晴れると、ゴーレム五体が狼人間……人狼に壊されていた。
「やっぱり来たか」
こいつが来たということは、他の四人もこの近くにいることを頭に入れておかないといけない。
ふう。ここからが本当の戦いだな。
「ん? 獣の匂いがする……。これはメスだな。しかも、これは……随分と格が高い。もしかしてお前……」
格が高い獣のメス? なんだそれ? 俺から獣の匂いがするのか?
あ、いや、もしかして獣って獣人族のことで、格の高いメスってベルのことか?
「もしかして……ベルのことか?」
獣魔法を使えるみたいだし、もしかしたらこいつも生き残った王族の一人なのかもしれない。
「ベル? お前、ベル姫を知っているのか?」
……ん? どういうことだ? こいつ、俺とベルの関係を知らないのか?
暗殺者なら、暗殺対象の結婚相手の名前を知らないはずがないだろ?
これだけの実力を持っているのに末端の暗殺者だというのか? いや、それはないか。
うん……獣魔法を使えるところを見るに、こいつは獣人族の王族の生き残りで間違いない。だとすると、どういう経緯で暗殺者になったのかは想像つかないが、こいつは暗殺者をしながらベルのことを探していたのかもしれない。
でも、雇い主視点から考えるとこれほどの人材がいなくなるのは困るわけで……目的を達成されるのは非常に困る。
だから、こいつにはベルの情報が伝えられなかったのかもしれない。
そう考えると納得だな。
「おい! 黙ってねえで何か言えよ!!」
「ごめんごめん。ベルは……俺の嫁だ」
正直に答えてみたが、果たしてどういう転ぶか……。
「嫁? 姫が人間なんかと結婚だと?」
くそ……そういう考えのタイプか。
これは非常に不味い。
「その気持ちもわかるけど、少し落ち着こう。これにはちゃんと訳があって」
「うるさい……黙れ人間。お前を殺して、ベル姫を助け出す」
ああ。これは戦わないとダメなやつだ。
「ヘルマン、頼んでも良い?」
「もちろんです。むしろ、僕に任せてください」
「うん。頼んだよ」
『グルアアア!!』
「おいおい……」
いきなり最終形態か……。
もしこいつがベルと同じ実力を持っているとしたら、俺たちに勝ち目はないな。