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継続は魔力なり《無能魔法が便利魔法に》 Web版  作者: リッキー
第十二章 教国旅行編

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第三話 出発

 

 遂に出発当日。

「もう出発するよ! 馬車に乗り込んで!」

 昨日あれだけ言ったのに、一名荷造りが終わっておらず出発できずにいた。

 まあ、もちろんその一人とはルーなのだが。


「ほら、ルー。そのお菓子は諦めなさい」

 そうシェリーに言われているルーは、背中に背負ったバッグと両手に持った大きな袋にこれでもかと大量の食料を詰め込んでいた。


「えー。だって、半年旅するならこれくらい必要でしょ?」


「半年あったら普通に腐るわよ……」


「あ、そうか……」

 いや、普通に考えればわかるだろ。

 まったく……。


「心配しなくても、旅の合間で帰って来られるんだから、お菓子はその時に補充すれば良いだろ?」


「そうなの!? 早く言ってよ! それじゃあ、お菓子はこれくらいで諦めようっと」

 いや、もう何度も転移を使ってこっちに戻ってくる話はしたはずだけど?

 本当、見た目はもうずいぶんと大人なのに、中身は変わらないな。


「まさか。そっちの袋は全て持っていくつもり?」


「え? 多い?」


「十分多いわよ……」

 流石のエルシーも呆れちゃってる。



 それから、ルーに両手に持った袋は諦めさせて、ようやく出発でできた。

 まあ、背中にあるものだけで十分だろう。

 そう思っていたのだが……。

「よく食うな……」

 ルーは馬車から見える景色など気にせず、パクパクとお菓子を口に放り込んでいた。


「本当、よく太りませんよね」


「腹の中で破壊魔法でも働いているのかもしれないな」

 胃の中に入った瞬間、破壊されていたりして。


「あり得るわね……」


「ふんふふんふん」

 俺の言葉や目なんて気にもせず、ルーはそれからもお菓子を口に放り込む手を止めることはなかった。


「それで、いつまでこうして馬車に乗っているつもり?」


「ボードレール領までは良いんじゃないか? 流石に帝国で襲撃してくるような馬鹿はいないだろう」


「そうですね。それで、ボードレール領に到着するまではそれで良いとして……」

 途中で言葉を止めると、リーナが俺に心配そうな目を向けてきた。

 これは、本気でやるのか? と言いたいのだろう。


「大丈夫だって。帝国を出たら、予定通り馬車には無人で走って貰って、その間に俺が目的地まで一走りしてくるよ」

 帝国を出たら安全は保障されない。教国貴族が成長した聖女を狙ってあの手この手で俺たちを殺そうとしてくるだろう。

 盗賊や暗殺者、爆弾。何を使われるかわからない。だからこそ、何かが起こったとしてもすぐに対応できる少人数で移動することが正解だと思うんだ。

 まあ、全く旅行気分は味わえないのだけど。


「一人でなんて危ないわ。ねえ……考え直さない?」


「大丈夫。一人じゃないよ。スタンとヘルマンを護衛につける」

 あの二人が護衛なら、転生者が相手じゃない限り問題ないはずだ。


「スタンさん。結婚したばかりなのに、良いんですか?」


「確かにそうなんだけど……仕方ないじゃん。教国の地理に詳しくて、俺の護衛ができるのはスタンしかいなかったんだもん。まあ、一週間だけだから」

 教国出身で頼れる人は、リーナ以外ではスタンしかいない。

 もちろん。新婚ほやほやのところ申し訳ないけど、一週間だけフレアさんに我慢してもらうことにした。

 まあ、夜は転移でこっちに帰ってくるつもりだし、日中会えなくなるだけだから大丈夫なはず……大丈夫かな? フレアさんに嫌われたくはないな。


「無理はさせちゃダメだからね?」


「もちろん。安全第一で行ってくるよ」

 危なくなったらすぐ転移。これを心掛けるようにしましょう。



 それから数日馬車に乗り、ようやくボードレール領に到着した。

 この数日間、ゆったりとした馬車の旅を嫁さんたちと楽しんだ。

 たぶん。こんな時間はもう当分はないだろうな。

 そんなことを思いながら馬車を降りると、ボードレール家の当主、フランクのお父さんに出迎えられた。

「お久しぶりです」


「久しぶりだな。戦争での傷はどうした?」


「こうして旅に出られるくらいには、すっかり治りましたよ」


「それは良かった。教国には明日にでも入るのか?」


「ええ。行かないといけないところ、やらないといけないことはたくさんありますからね。ボードレール領に長居したいところですが、今日だけの滞在とさせて頂きます」


「そうか。まあ、半分仕事みたいなものだからな。レリア嬢、お父様によろしく伝えておいてくれ」


「はい。伝えておきます」



 それから、軽くフランクのお父さんと世間話を交えて仕事の話をして、少し時間が余ったから皆で観光をすることになった。

「ここの人たちってたまにちょっと変わった格好をしている人がいるわね」


「え? そう?」

 変な恰好の人なんていたかな?

 シェリーに指摘され、周りを見渡してみるが、そんな人は見当たらなかった。


「教国の服ですよ。あちらでは、半袖の服を着るのが一般的です」

 半袖? ああ。言われてみれば、帝国で半袖を着ている人は見かけないな。

 まあ、理由は単純に半袖では少し寒いからなんだけど……教国は比較的温暖なのか?

 俺の記憶が正しければ、気温は帝国と大して変わらなかったよな?


「へえ。その割に、リーナや聖女様、レリアはしっかりと着込んでいるわよね」


「ガルム教の神官や教国貴族はしっかりと服を着ないといけない習わしです。守らないと異教徒として処罰されてしまいます」


「へえ。それじゃあ、フードとか被っていたら逆に目立つのかな?」


「そうですね……それは厳しいかもしれません」


「元々、庶民に薄着をさせる理由の一つがそう言った密偵や暗殺者に顔を隠させないためですからね。真っ先に騎士たちに取り押さえられてしまうと思います」

 リーナの回等にレリアが補足してくれた。

 なるほど。庶民の服を取り締まっている理由にはそんな理由があったのか。

 暗殺大国の教国らしい政策だな。


「そうなのか……仕方ない。こうなったら、堂々と教国風の服で旅をするしかないな」

 これ自体が強国の思惑通りなのかもしれないが、他に方法もない。


「気をつけてくださいよ……。旦那様の顔は、名のある商人なら知っていて当然とされているのですから。都市に行けば確実にレオ様を知っている人は必ずいます」


「わかった。まあ、もし俺だと気がつかれたら全速力で次の町に逃げるさ」

 エルシーの心配そうな助言の通り、俺の顔を見てレオンスだと気が付ける人は俺が思っているよりも多いはずだ。

 だからこそ、見つかったらすぐに転移を心掛けておかないと。


「そうしてください」


「それじゃあ、服選びだな」



「なんか、半袖って不安になるな。防御力が減ってしまった気がする」

 適当な服屋に入って、シェリーが選んだ服を適当に試着してみた俺はそんなことを思ってしまった。

 長くしっかりと服を着こんでいたせいか、どうも薄着なのは心が落ち着かない。

 あと、普通に肌寒い。


「布が何枚重なって防御力には関係ないって。うんうん。似合っているわ」


「ちょっと派手では……?」

 ベルに指摘されて、自分の恰好を見直してみると……確かに赤や黄色を基調としていて、確かに派手と言わざるを得なかった。


「そうですね。旅行だけが目的なら素敵だと思うのですが……」


「そう……? うん。言われてみれば、これは人目に付くかも」


「というわけで、もう少し地味な色にしましょうか」



 それから女性陣たちによる試行錯誤が繰り返され、ようやく試着室から解放された。

 色々と試されたが、結局黒一色の服を着ることになった。

「うん。良いと思うわ」


「はい。黒なら目立たなさそうですし、良いと問題ないと思います」


「それは良かった。それじゃあ、明日からはこれを着て移動だな」

 あとは、剣とか冒険者みたいな装備を持っていれば大丈夫だろう。

 まあ、あっちに入って自分たちが変に思われそうだったら、すぐに変えれば良いだけだしね。


「くれぐれも気を付けてくださいね」


「うん」


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