閑話14 親友の結婚式
フォンテーヌ家の当主の名前を変更させて貰います。
六巻でちょこっとだけ名前が載っていたことを忘れていましたm(_ _)m
SIDE:フランク
今週行われるレオの結婚パーティーに参加するため、俺とジョゼ、アリーは馬車に乗っていた。
王国との戦争も無事勝利に終わり、ここ最近は帝国全体がお祝いムードだ。
ミュルディーン領に行くまでに帝都を経由したのだが、帝都ですら皇女の結婚に凄く賑わっていた。
たぶん、ミュルディーンはもっと凄いことになっているだろうな……。
「本当、この国はパーティーが好きね。結婚パーティーはわかるけど……何かと理由をつけてパーティーを開いているじゃない。もう、多いときなんか週に四回もパーティーがあるなんて異常だわ」
そんなことを言うのは、教国出身のアリーだ。
確かに、毎日パーティーみたいな時があったな。確か……知り合いの成人パーティーに学期末のパーティー、生徒会会長就任パーティー、新任教授の就任パーティー……あれ? 五回じゃないか?
どっちにしても外国の人からしたら、異常と言われても仕方ない頻度だな。
「仕方ないよ。良いことがあったらパーティーを開いて皆で祝う。それが帝国の文化なんだから」
これは帝国が建国された頃からの伝統だ。
パーティーで頻繁に帝国貴族は顔を合わせていたからこそ、帝国はこれまで貴族同士の大きな争いや内乱などがなかったのかもしれない、とよく歴史の授業では教わるものだ。
「本当、金持ちの帝国だからできる文化よね……」
「教国でパーティーとかはなかったのですか?」
うん。金の無駄遣いなのは認めるが、教国貴族も持っている金の量は変わらないだろ?
「そんな、いつ暗殺されてもおかしくないようなイベントに誰も参加するはずがないわ」
「本当……危なっかしい国だな」
アリーの教国の話を聞く度に、どんどん教国が危ないイメージに染まっていく。
最近では、教国が魔界のような国に思えてきた。
「帝国で暮らしていればそう思うでしょうね。まあ、そう言う私も帝国に慣れちゃって、教国にはもう帰りたくなくなってしまったのだけど」
「自分の故郷なのにですか?」
「故郷だからこそ、どれだけ危ない国なのかを理解しているのよ。妹のレリアなんて何回暗殺されそうになったかわからないわよ? 私も妹に間違えられて襲われることが多々あったし」
「それは確かに帰りたくなくなりますね……」
ジョゼの言う通り、いくら故郷でも魔界のような場所に帰りたいとは思えないよな。
俺もできることなら、足を踏み入れたくない。
「そういえば、そのレリアさんがミュルディーンで修行中なんだろう? 今回、会えるんじゃないか?」
アリーの妹で、教国の聖女をしているレリアさんはリーナに聖魔法を教わっているらしい。
なんでも、リーナが教国に連れ戻されない為の交換条件だったとか。
そんな聖女様の名前を出すと、アリーはあまり嬉しくなさそうな顔をしていた。
「そうね……」
「嬉しくないのですか?」
「ええ。あまり、話したことがないから……」
「姉妹なのに?」
「だって、レリアは八歳の頃には聖女として担ぎ上げられて、教会に幽閉されていたのよ? 私なんかが会える機会なんてなかったわ」
「確かに、それは複雑な気持ちになるな」
あと、俺と出会って魔法が上達するまでは、レリアさんに劣等感を抱いていたからな。
それも少なからず、会いたくない気持ちに繋がっているのだろう。
「とは言っても、フランクの兄弟関係ほどではないけどね」
「あまり思い出させないでくれよ。今、一番俺と父さんの頭を悩まされているんだから」
ああ、もう。これから一ヶ月くらいは思い出さないでおこうって思っていたのに……。
俺の兄、ローラントは現在、教国で王国派の貴族たちと俺を失脚させようと動いているらしい。
まったく……少し頭を使えば、自分が道具として使われて終わることが理解できないのか?
ああ、思い出したらまたイライラしてきた。
「悪かったわね。それじゃあ、話題を変えましょう。何か、ミュルディーン領について教えてちょうだい」
「良いですよ。ミュルディーンはですね。土地としては凄く狭い領地ですが、納めている税は帝国一と言われています。つまり、それだけ儲かっているというわけですね」
随分と免除されていて帝国一だからな。これが普通通りに払われるようになったら、帝国はとても潤うことになると思う。
「そんなことは知っているわ。世界の中心と言われている場所ですもの」
「そうでしたね。それじゃあ、街の特徴について説明させて貰います」
「うん。お願い」
「まず、一番の特徴としては大きな地下市街があることです」
「その地下市街って聞いたことはあるけど、実際にもう一つの街が地下にあるってこと?」
「はい。凄く広いですよ。昔は、犯罪者たちの溜まり場だったらしいですが、レオくんが取り締まって、一般の商人たちに解放したんです。今では、オークション会場や闘技場もあって、とても活気のある街です」
「へえ。それは是非とも行ってみたいわね」
「これから一ヶ月は滞在するし、行けると思うぞ」
魔法学校も今は長期休暇だ。だから、しばらくレオのところでお世話になることにした。
新婚夫婦たちを邪魔したくなかったから宿でも取ろうと思ったのだが、城に泊めて貰えることになってしまった。
まあ、できる限り俺たちは外に出て夫婦の邪魔はしないつもりだ。
「それは楽しみね。案内は二人に頼むわ」
「任せてください。ミュルディーン領で数ヶ月生活していた頃に、大体街の構造は覚えてしまいましたから」
「へえ。数ヶ月……それはちょっと羨ましいわね」
「まあまあ。その分、これから思う存分観光しようよ。一ヶ月もあれば結構遊べるぞ?」
ちょっとムッとしながら本気で嫉妬し始めたアリーをそれとなく宥めた。
喧嘩にまで発展してしまうと、こっちにまで被害が及ぶからな。いや、俺が一番被害を受ける。だから、最近はその前に止めるように心がけている。
「そうね……わかったわ。楽しみにしておくわ」
ふう。喧嘩する程仲良いのはありがたいんだけど、その間に挟まれる俺の気持ちも少しは考えて欲しいよ。
「本当に凄い賑わいね。ここが大国の首都だって言われても、全く驚かないわ」
ミュルディーンに到着すると、アリーがそんなことを言いながら子供のように外を眺めていた。
「ミュルディーン城も相まって、本当に一国の首都みたいな場所だよな」
「あれがミュルディーン城……単なる貴族が住むことを許されるようなものじゃないわよ? あれは」
「まあ、四十年前にここの領主が有り余る金を使って建てられた城なんだけどな。壊すのももったいないし、そこら辺の貴族に任せるわけにもいかないし、そんな中で皇族になるレオに白羽の矢が立ったというわけだ」
下手したら帝都にある城より立派だからな。壊すだけでも莫大な金がかかる。
「なるほどね。それにしても、こんな場所に住んでいたら、さぞかし王様気分なんじゃない?」
「意外にもそんなことはない。どちらかというとあまり贅沢はしたがらないタイプだよ」
「あんな城で暮らしていて?」
「まあ、それは皇帝に頼まれたというか……シェリーと結婚するために仕方なくって感じだな。じゃなかったら、途中で投げ出していたと思うぞ。それくらい、この街をここまで発展させるには苦労していた」
「え? この街で苦労することなんてある?」
「さっき地下市街が昔は犯罪者の溜まり場だってことは言っただろう?」
「ええ」
「レオが就任したばかりの頃、この街は非常に治安が悪かったんだよ。スラム街はあったし、地下では違法な薬や奴隷、暗殺者……。役人たちの汚職、憲兵は機能していないなどなど、誰も引き受けたくないほど酷い街だったんだよ」
とても、成人してない子供に任される街ではない。
皇帝も街がそんなことになっていると知らなかったとはいえ、ちょっと酷いよな。
「ここがそんな場所だったんだ……。本当にレオンス侯爵は噂通り凄い人だったのね」
「凄いですよ。奥さんが五人もいることはどうかと思いますが」
確かにそうかもしれないけど、皆幸せにできているんだから、それも凄いことなんじゃないか?
「五人? シェリア皇女とリアーナ、獣人のメイド、ホラント商会の会長以外にいるの?」
「そういえば、秘密だったな」
もう話しても大丈夫な気もするけど、俺から言うのは止めておいた方が良いよな。
「え? 秘密? 秘密にしないといけない相手がいるの?」
「まあね。まあ、今日のパーティーでどうして秘密だったのかわかると思うよ。たぶん、ほとんどの人が凄い衝撃を受けるはず」
「他の四人と比べても?」
「うん。他の四人と比べても衝撃度は高いと思う」
まさか、魔族が人間界にいるとは誰も思わないだろうからな。
世界中に衝撃が走るんじゃないか?
「へえ。それじゃあ、楽しみにしておくわ」
城に到着すると、すぐにパーティー会場に案内された。
パーティー会場の広さも異常だったが、それ以上に人の数が異常だった。
「凄い人の数だな。まだ始まっていないのに、二百人は余裕で越えているぞ……」
本当、どこかの王が結婚するのか? と思ってしまうほどの規模だ。
「ちょっと見渡しただけで、教国の有力貴族が何人も見つけられたわ。とても侯爵家の結婚式とは思えないわね」
「それだけ、皆がレオに期待しているってことだろうな」
これから西側のほとんどがレオのものになるのだ。
もし、レオがあの広いだけの荒れた土地を無事開発してみせたら、本当に一つの国並の力を得ることができるはず。
それをわかっているからこそ、世界中の貴族や商人がこぞって今回は参加しているんだろうな。
「そうですね。なんせ、勇者を撃退してみせたわけですから」
「まあ、俺はレオに傷を負わせることができた勇者の方が凄いと思うけどな」
いくらベルを庇って負った怪我だったとしても、素直に凄いと思う。
普通の人なら、レオを引っ張り出すことすらできないんだからな。
「なるほど。レオンス殿はそこまで強いのか」
「え?」
知らない声に振り返ると、見るからに高貴な男の人が立っていた。
うん……帝国の貴族ではないな。教国の貴族か?
と思っていたら、その隣にアリーとそっくり……いや、そのまんまの少女が立っていた。
あ、この人誰かわかったぞ……。
「あ、お父様。それにレリア……」
予想通りだった。この人は、フォンテーヌ家の当主であるガエルさんだ。
「お久しぶりですお姉様。お元気にしておられましたか?」
「え、ええ。魔法学校でしっかりと魔法の腕を鍛えているわ」
相手は妹だというのに、アリーの対応は凄くぎこちなかった。
やっぱり……まだ妹に対して苦手意識を持っているんだな。
「レオンス様から聞きました。フランクさんに魔法を教わっているのですよね?」
「そ、そうよ」
「なら。きっと凄い魔法が使えるはずです。今度、是非見せてください」
これは純粋な気持ちで言っているのだろうか……? それとも、皮肉か?
まあ、今のアリーは俺が鍛えたから自信持って披露できるんだけどな。
「も、もちろん。良いわ」
「私も忙しくなかったら見たかったのだがな。残念だ」
「ふふ。お父様には私がどれほど凄かったのか手紙で教えてあげますわ」
「おお、それは助かる。頼んだぞ」
「はい。任せてください」
二人は仲が良いな。どうして、姉妹でこんなに性格に差が出たのだろうか?
まあ、環境だろうな。
「それと、聞いたぞ。入学してからずっと首席らしいな? 凄いじゃないか」
レリアさんとの会話が終わると、今度はまた俺の話題のようだ。
「はい。と言っても、レオンスやリアーナがいない中での主席なので、本当の一位ではないんですけどね」
主席は名誉なことだと思うけど、あまり嬉しくない理由はこれだ。
あの初等学校ではあのレベルの高さがあったからこそ、良い順位を取ることに燃えることができた。
今は……言葉は悪いけど、ちょっと周りのレベルが低く感じてしまう。
「それもそうか。レオンス殿たちと競い合っていた君からしてみれば、他の生徒たちなんて恐るるに足らずってところだな」
「そうですね」
「ハハハ。アリーンよ。良き相手に嫁げて良かったな」
「……はい。私もそう思います」
アリーの口からそう言って貰えるのは、言わされている感があっても嬉しいな。
「おっと。私はこれから挨拶して回らないといけない。また、ゆっくり話そうではないか」
「はい。是非またよろしくお願いします」
「ふふふ。お姉様、本当に変わられましたね」
ガエルさんがどこかに行ってしまっても、レリアさんは俺たちの所に残っていた。
一緒に挨拶回りしなくて良いのかな? とは思ったけど、ガエルさんが置いて行ったということは大丈夫なのだろう。
「そ、そうかしら?」
相変わらずたじたじのお姉様を見ながら、俺はそんなことを考えていた。
「はい。凄く雰囲気が柔らかくなられました。凄く、幸せな気持ちが伝わってきます」
「それを言うなら……レリアも、随分と明るくなったじゃない。前会った時は、もっと疲れた顔をしていたわ」
疲れた顔ね……。
「それはもう、ここでの生活は天国のようですから。修行は大変な時もありますが、教国にいた頃に比べたら毎日が充実していて……本当に楽しいんです」
それはそうだろう。魔界みたいな国とは違って、ここは凄く安全で楽しい場所だからな。
レリアさんの疲れが吹っ飛ぶのもよくわかる。
「そう……なら、良かったわ」
「はい。それと……そちらがジョゼッティアさんですか?」
「あ、ごめんなさい! 遅くなったけど紹介するわね。ルフェーブル家の長女のジョゼッティア、私と同じフランクの婚約者よ」
俺は、ずっといつジョゼを紹介しようか考えていたんだけどな。
ガエルさん、ジョゼに対して興味すら示さなかったから、紹介しようと思ってもなかなかさせて貰えなかった。
もしかすると、俺が側室を取ることをあまり良く思っていないのかもしれないな……。
はあ、また悩みの種が増えた。
「はじめまして。これからよろしくお願いしますね」
「こちらこそ。お姉様をよろしくお願いしますね。それと、ジョゼッティアさんも聖魔法を使えると聞いたのですが、本当ですか?」
「はい。と言っても、私はもう一つの風魔法の方が得意ですけどね」
「ジョゼの風魔法は凄いわよ。見たら絶対驚くわ」
レオの姉さん直伝だからな。
「それは是非とも見てみたいです。三人とも、今月いっぱいミュルディーンにいるのですよね?」
「はい。なら、騎士団の訓練場に行く日があるので、その日に披露する形でどうですか?」
「それは良いですね! 私も訓練場でいつも修行を行っているので、いつでも呼んでください!」
ジョゼの提案にレリアさんは心の底から嬉しそうにしていた。
やっぱり……レリアさん、猫を被っているわけではなさそうだな。この笑顔が演技だったら……もう、俺の中で教国は魔界以上の恐ろしい何かになってしまいそうだ。
そんなことを考えていると、パーティー会場の大きな扉が開いた。
レオたちの入場だ。
「うんうん。五人とも本当に幸せそうだ」
親友の幸せそうな顔に、俺は思わず笑みがこぼれた。
そうだ。皇帝の言葉が終わったら、真っ先に祝いに行ってやるか。
それと、どこかで警備しているであろうヘルマンも見つけ出してやらないと。
あいつ、相変わらず脳筋な性格をしているのかな? 彼女ができて、少しは変わっただろうか?
それにしても……レオが幸せそうで良かった。
六巻は購読して貰えたでしょうか? 今回は、六巻の番外編でヒロインだったアリーンの回でした。
アリーンは次の章で本格的に出番が回ってくる予定です。お楽しみに。