第二十三話 世界最難関
風邪を引いてしまいました。皆さんも気をつけてください。
そして、今回は昨日更新出来なかった分もあるので、めちゃくちゃ長いです。
戦争終結からちょうど一週間。
予定通り、今日からダンジョンに挑戦する。
この一週間、ベルたちはギリギリまでレベル上げをし、俺は一ヶ月ダンジョンに潜っていても大丈夫な物資の準備をしていた。
いや、俺は家から出るのを禁止されていたから、実際に調達してくれたのはエルシーなんだった。
認めようじゃないか。俺はこの一週間ニートだった。
「皆、忘れ物はない?」
『大丈夫!』
俺の問いかけると、皆が元気よく答えてくれた。
メンバーは、シェリーにリーナ、ベル、ルーとヘルマン、アルマ、ギーレにギルの俺を合わせて総勢九人だ。
この八人がいれば、例え俺が戦えないとしても問題ないだろう。
「了解。それじゃあ俺は今回、マッピングと荷物持ちをさせて貰うよ。戦闘は皆に任せた」
『はい』
「スタンとベルノルトは俺がいない間、街の安全を頼んだよ」
「「任せてください」」
見送りに来た団長二人の力強い返事にうんうんと頷いた。
スタン……元気になってくれて本当に良かった。
レリアの話では、リーナじゃなかったら助けられないような深い傷だったらしい。
うん……今回はシェリーの高火力な魔法にリーナの聖魔法、エルシーの用意した冒険者たち、ルーがいたことでシェリーをさせることができ、ベルがカイトを倒してくれた。
改めて、俺のお嫁さんたちは皆優秀だと感じさせられた。
「フレアさん、こんな忙しい時にいなくなってごめん」
「いえ。レオ様の体以上に大切な物はございませんから」
「ありがとう。それじゃあ、ダンジョンに向かうか。全員俺に触って」
フレアさんに謝った俺は皆が俺に触ったのを確認して、転移を使った。
「ふう……懐かしいな……。嫌な記憶が蘇ってくる」
俺が転移した場所は、初級ダンジョンの出口。
ここから、じいちゃんを担いで転移を使ったのを今でも鮮明に覚えている。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。それじゃあ、先に進むか」
そう言って先の部屋に進もうとすると、急に声が鳴り響いた。
『新たな挑戦者を確認しました。二つの指輪を所有していることを確認しました。上級ダンジョンへの挑戦資格が認められたので、扉が開きます』
どうやら、この階の扉は自分では開けられないタイプだったみたいだ。
勝手に開いていく扉に、皆で驚いてしまった。
「わあ~。なんか凄いわね」
「二つの指輪って何?」
「たぶん……これとこれじゃない? どっちも、ダンジョンをクリアして手に入れた指輪だから」
初級ダンジョンの悪魔が持っていた指輪と入門ダンジョンの天使が持っていた指輪。
きっとこの二つのことだろう。
「え? それじゃあ、先にダンジョンを二つクリアしていなかったら、中に入れなかったの!?」
「まあ、そうだね。本当、運が良かったよ」
入門ダンジョンに挑戦したのは、本当に偶然だったからね。
「運が良かったって……死にそうになっている人が言うこと?」
まあ、でも死んでないから運が良いんじゃないの?
そんなやり取りをしながらダンジョンの中に入っていくと、さっそく魔物と出くわした。
「え……。なんで、ボスみたいな魔物がそこら辺にいるわけ?」
シェリーの言う通り、いきなり出てきた魔物は初級ダンジョンの二十階のボスだったサイクロプスだった。
それが五体もいた。
「まあ、一応ここは五十階なわけだからな。普通のダンジョンと比べたらダメだ」
「言われてみればそうね」
「慎重に、確実に進むしかないよ」
そんな会話をしている間に、今日初めての魔物をヘルマンが斬り倒してしまった。
まあ、このくらい苦戦していたら攻略なんて無理な話だろう。
「広すぎでしょ……一体、どこに階段があるわけ?」
攻略を始めてすでに五時間、これだけ探しても階段はまったく見つかっていなかった。
「これは……時間がかかりそうだな。とりあえず、一旦休憩するしかない」
そう言って、俺は鞄から軽食と水を取り出した。
「これを見てくれ」
休憩時間を利用して、俺は皆にこれまで歩いてきたダンジョンの地図を見せてあげた。
「うわ~。もう、これは迷路だわ。地図を見ても、もうどの道を進めばいいのかわからないじゃない」
そう。このダンジョン、訳がわからないくらい広くて、進むのが難しいのだ。
「これで一層目となると……先が思いやられますね」
「そうだな。でも、先に進まない限り、クリアはできないよ」
焦ってもしかたないし、地道に進んでいくしかない。
「あった! 階段だ!」
結局、階段を見つけるのに初日を使い切ってしまった。
「一日で一階か……。何階あるか知らないけど……。このペースで攻略していくのは不味いな」
この調子で進んでいたら、一年以上はかかってしまう。
「そうですね。明日からは、レオ様は私に乗って移動しますか? そうすれば、攻略速度が上がると思います」
ベル、ナイスアイディア!
確かに、俺の歩く速さに合わせる必要ないじゃん。
「良いね。そうさせて貰うよ」
次の日。
「おおー。もふもふだな」
俺はベルの背中にしがみつきながら、ベルの触り心地の良い毛皮の感触を楽しんでいた。
「それにしても本当、この体だと無属性魔法のありがたさを感じるな」
いつも何気なく使っているものが急になくなると、意外と困るんだよね。
無属性魔法も普段生活している分には、まったく必要がないものだし。
それから一時間して、早々に階段が見つかった。
「おお、もう見つかったのか」
「昨日の十倍くらい速く移動していたからね」
「はあ、昨日からこうしてれば良かったな」
初めからこの作戦でいけば、一日無駄にしないで済んだのに……。
「そうね。まあ、どうせ先は長いんだし、一日くらい誤差の範囲よ」
それはそうなんだけど、一日でも早くクリアしたいじゃん?
とは言っても、確かにゴールする頃には誤差にしか思えないんだろうな。
「それにしても……あれだけ走って、シェリーとリーナが平気な顔をしているのは……なんか、感慨深いな」
一時間も走っても平気な顔をしているとは、本当に成長したよな。
初めて無属性魔法を教えてあげた頃の二人が懐かしいよ。
「ふふふ。私たちも成長しているのですよ?」
「普段ダンジョンを攻略しているときは走って移動しているからね。これくらい平気だわ」
「うんうん。なんなら、もうちょっと速い日もあるよね」
「随分とストイックに訓練していたんだな……」
遊び感覚でダンジョンに挑んでいないのは知っていたが、まさか四人がここまで本気でダンジョンに挑んでいるとは思わなかった。
今度、四人が攻略している様子をこっそり見に行ってみようかな。
「これも、いつかレオを守る為だわ」
「ありがとう。俺も皆をもっと守れるように頑張るよ。それじゃあ、この調子でどんどん攻略していこう!」
「六十階に到達するのに、三日もかかってしまうとは」
「仕方ないわ。このダンジョン、広すぎるんだもん」
結局、無属性魔法を使っても51~60階を攻略するのに二日かかってしまった。
「今日はまだまだ時間の余裕があるわ。もう少し先まで行きましょう?」
「いや。それはこれからのボス戦次第かな。たぶん。結構強いと思うから」
「それもそうね。それじゃあ、気合い入れて倒すわよ!」
シェリーのかけ声と共にボス部屋に侵入すると、見たことがある魔物がいた。
「あれは……」
「ヒュドラだな。前に一回、戦ったことがある。あいつに物理攻撃はあまり意味が無い。それと、毒攻撃が厄介だから、シェリーとルーの魔法で急いで倒してしまった方が良い」
いつかのラスボスであるヒュドラがいた。
こいつ、再生能力は凄いし、毒の霧は出すし、普通に戦ったら非常に厄介な相手なんだよな。
「了解! えい!」
「どうだ!」
シェリーの魔法でヒュドラの半身が吹き飛び、残りの半身はルーが消してしまった。
「お疲れ様。瞬殺だったな」
「す、凄い……」
「二人とも流石です!」
「私たちの出番はなかったですな」
「うん。私たちが呼ばれた意味はなかった」
「まあ、これからもっと強い敵が出てくるだろうし、その時は二人にも活躍して貰うよ」
まだ始まったばかりなんだ。序盤は楽に倒せるに越したことはないだろう。
「はい。お任せください。それと、娘が失礼な態度を取り、申し訳ございません」
「……申し訳ございません」
別に、ギーレに言ったわけじゃないんだけどな……。
とりあえず、ギルに無理矢理頭を下げられているギーレを許しておいた。
「よし。この調子であと二階は進もう!」
「はい」
それから一週間……。まさかこんなに時間がかかるとは、やっと七十階に到達した。
どんどん広く複雑になっていくのはまだ許せるとして……出てきた魔物が良くなかった。
キメラ、複数の動物が混ざったような魔物が今回の敵だったのだが、倒すと分裂するという非常に面倒な魔物だった。
どうしても瞬殺できないから、一々遭遇する度に時間を取られてしまった。
はあ、この調子だと師匠の葬式には参加できそうにないな……。
そして、七十階のボス部屋に入ると、ライオンとサソリが混ざったような化け物が待ち構えていた。
また強そうな魔物だな……。と思いつつ、俺は鑑定した結果を皆に伝えた。
「あれは、マンティコア。尻尾の毒に気をつけて。それと、キメラと同様に、もしかしたら分裂するかもしれないから気をつけて」
「了解しました。今回は、僕とアルマで倒してもよろしいでしょうか? 物理攻撃が得意な相手なら、僕たちのスキルがあれば簡単に勝てると思います」
「そうだな。それじゃあ、二人に頼んだよ」
二人の透過スキルなら、毒針も怖くないしね。
まあ、結果は二人が楽に倒してみせた。
瞬殺じゃないのは、また分裂したから。
本当、二度とこの階層には挑戦したくない。
「次の敵はスライムか」
ボスを倒して次の階層に進むと、そこら辺にいそうなスライムが出てきた。
とは言っても、もちろんこんなところにいるスライムがそこら辺のスライムと同じはずがない。
だから、とりあえずヘルマンに斬撃で遠いところから斬らしてみた。
「斬ると分裂しますね」
ヘルマンが四つの斬撃を飛ばすと、綺麗にスライムが八等分された。
また分裂系かよ……。しかも、今回は無限に分裂する勢いじゃないか。
はあ、このダンジョンを造った奴の顔を見てみたいよ。
よくこんな嫌がらせみたいなダンジョンを造れる。
「仕方ない。スライムの処理は、シェリーとルー、ギーレ、ギルに任せよう」
「お任せください」
「やっと出番」
「ふふ。任せて」
今回の記録は十日だった。
ルーの魔法が殲滅に向いていたおかげで、思っていたよりも時間がかからなかった。
挑戦を始めてもう三週間……創造士に会えるのはいつになることやら。
そして、現在はボスの部屋だ。
「八十階のボスは予想していたけど、スライムだな。それにしては……」
「思っていたより小さいわね。これくらいなら、私の魔法で瞬殺よ!」
小さいから注意しようと言おうとした瞬間には、シェリーが魔法を撃っていた。
完全に疲れで油断していたな。
「うわあ!」
やっぱり、スライムには魔法は効かなかった。
それどころか、スライムは魔法を吸収して大きくなった。
「これ、魔法で攻撃したらダメなやつだ。ヘルマンとアルマ! 斬撃で限界まで切り刻め!」
「「了解しました!!」
「ふう……。なんとか、無傷で終わって良かった」
ヘルマンとアルマがスライムを限界まで小さくさせたところで、スライムは勝手に消えてくれた。
小さくなり過ぎると、体が維持できなくなるような仕組みになっていたのかな。
「まさか、魔法を吸収するなんて……」
「まあ、ここは八十階のボスだからね」
魔法が効かなかったり、物理が効かない相手が出て来るのはそろそろ普通になってくると思うよ。
そして、一休みをしてから八十一階層に下りた。
「え? いきなり床が無くなったんだけど」
そう。階段を下りていくと床が無く、ずっと空が続いている世界が広がっていた。
「これは空を飛んで攻略しろってことかな?」
空を飛ぶ手段がなかったら詰んでいたな。
「それなら皆さん、私とギーレに乗ってください」
「そうだね。あ、ヘルマンはこれで移動する?」
「その靴は……?」
「空でも走れる靴。とりあえず履いてみな」
俺がいつもダンジョンや本気で戦うときに装備する靴をヘルマンに渡した。
一人、自由に動ける人がいないと、どこかで困ることになるかもしれないからね。
「わ、わかりました」
「どう? 歩けそう?」
「な、なんとか……」
そう言いながらも、ヘルマンは両手を広げてバランスを取るようにして空中を歩いていた。
これは、ちょっと練習が必要だな。
「それじゃあ、ヘルマンが空中を走れるようになるまで休憩にしよう」
「す、すみません」
「気にしなくて良いよ。どうせ、すぐに慣れると思うし」
「うん。随分と慣れたみたいだね」
思っていた通り、三十分くらい練習したら空中を余裕で走れるようになった。
「はい。もう、大丈夫だと思います」
「良かった。それじゃあ、他は皆ギーレとギルに乗せて貰おう」
そして、しばらく進んでいると、遠くから黒い粒々が見えてきた。
「何だあれ……? うお! ワイバーンの大軍だ」
近づいてくるにつれて、とんでもない数のワイバーンが向かって来ていることに気がついた。
「大丈夫! 私の魔法でなんとかなる!」
流石シェリー、一撃でほぼ全てのワイバーンを地に落とした。
まあ、この階層に地面があるのかは謎なんだけど。
「あ、何体か残った!」
「僕に任せてください!」
残ったワイバーンはヘルマンが綺麗に斬り落としていった。
「おー。やっぱり、ヘルマンにその靴を渡しておいて良かった」
そして、九十階までは三日で到達できた。
面倒な迷路が無かった分、早かった。
「ボスは白龍か……」
今回のボスは、前世の記憶に出てくるような日本式のドラゴンだった。
「リュウ? あれ、リュウって言うの?」
「うん。まあ、ドラゴンみたいなものだよ」
「へえ。あれもドラゴンなんだ。えい! ……あれ? 効いてない?」
ルーが破壊魔法を使ったみたいだけど、白龍は無傷だった。
「もしかしたら……また魔法は効かないのかもしれないな」
「そんな……」
まあ、流石に破壊魔法の対策はされているか。
「ということで、ヘルマンとアルマ頼んだ!」
「「任せてください!」」
俺の指示に、ヘルマンとギーレに乗ったアルマが龍に向かっていた。
そして、そのままヘルマンたちが龍に攻撃を始めた。
始めたのだが……。
「嘘だろ……あのダンジョンの壁すら抉れるヘルマンの斬撃を受けても、鱗にひびが入る程度なんて……」
ヘルマンとアルマが斬撃を飛ばしても、鱗にひびが一つしか入らないのは随分とヤバい気がする。
龍の攻撃もヘルマンたちには当たっていないけど……これは倒せるのか?
「でも、集中的に同じ場所を狙い続ければ、いつかは倒せるはずです」
「そうだけど……。でも、あの大きさと速さで同じ場所を狙うのは難しいだろ……」
「大丈夫ですよ。ヘルマンさんならやってくれます」
「……そうだな。まあ、見守るとしよう」
リーナの言葉に、俺は頷くことしかできなかった。
戦えない俺が心配したところで結果は変わらないんだ。勝負は二人に委ねようじゃないか。
そして……なんと一時間が経過した頃。
「お!」
やっと一つの鱗が割れた。
よし! 行け!
「グルアアア!」
アルマが龍に剣を突き刺すと、龍は大きく吠えた。
そして、力なく落ちていった。
「毒が効いたみたいだな……」
まさか、ボスに毒が効くとは。
ナイスアルマ!
「次はちゃんと地面がある!」
「でも、なんか不気味だわ……」
次のステージは墓地だった。
薄暗くて、シェリーの言う通り凄く不気味だ。
「ということは……やっぱりアンデッド系の魔物が出てくるよな」
すぐにたくさんのアンデッドたちが湧いて出てきた。
これは凄く面倒だな。
「スケルトンにゾンビにミイラにレイス、選り取り見取りね」
「ここにきて、リーナの聖魔法が大活躍だな」
アンデッドは基本、聖魔法に弱い。
「ふふ。ずっと見ているだけでしたからね。見ていてください。これくらいなら、すぐに成仏させてあげられます!」
そう言って、嬉しそうにリーナが聖魔法を四方に飛ばすと、アンデッドたちはすぐに消滅していった。
「流石聖女様!」
「聖女は私じゃなくて、レリアさんです」
「もう、冗談よ」
「ベル、またお願いね」
「はい」
それから、ベルに乗っての移動が続いた。
一週間後。
「九十九階にボスの部屋か……」
百階ではなく、九十九階にボスの部屋があった。
「これ、続けてボス戦になる気がする」
このボスを倒したら、次の階にもボスがいるパターンだ。
「私もそんな気がする。でも、まあ。これまでの調子で行けば大丈夫じゃない?」
「そうかな? まあ、とりあえず次のボスはリーナに頼んだ」
どうせアンデッドだ。なら、リーナがいれば大丈夫でしょ。
「はい、任せてください!」
「やっぱり、アンデッドでしたね」
「ああ。あれはネクロマンサーだな」
無限にアンデッドを生成できる魔物だ。
早くネクロマンサーを倒さないと非常に面倒なことになってしまう。
「リーナ、いけるか?」
「はい!」
『ぐおおおおおお』
リーナが聖魔法を使うと、ネクロマンサーはいかにも苦しそうな叫び声をあげた。
ただ、すぐには成仏してくれなさそうだ。
「うう……鼓膜が破れそうだ」
「凄いですね」
「あ、大量に召喚しやがった。皆、リーナを守るんだ!」
それから、リーナがネクロマンサーをジワジワと苦しめている間、他のメンバーで湧いて出てくるアンデッドたちを倒し続けた。
そして、三十分くらいして、ようやくネクロマンサーが倒れた。
「ふう。随分と長く耐えやがって……」
「少しヒヤッとしたわね」
本当、結構ギリギリだった。
アンデッドたち、なかなか死なないから湧いてくる量に倒す量が間に合っていなかった。
あと少しでもリーナが倒せていなかったら、危なかったかも。
「どうする? 少し休んでから次に挑む?」
「そうですね。次が最後だとしたら、万全の状態で挑みたいです」
「そうですな。流石に、最後は余裕を持って倒せるような相手ではないと思います」
「了解。それじゃあ、皆の魔力が回復するのを待って、百階に行こう」
「よし。それじゃあ、下に降りるよ。心と体の準備は大丈夫?」
『大丈夫』
「よし。それじゃあ、行くぞ!」
「なにあれ……」
「テュポーン。確か、ギリシャ神話に登場する怪物だったかな」
ボスを見た瞬間に、前世の記憶が出てきた。
どうやら、この魔物は創造士が思いつく中で一番の魔物らしい。
見た目は上半身がおっさん、下半身と腕は無数の蛇という気持ち悪い形をしていて、大きさは高層ビルくらい……かな?
「ギリシャ神話?」
「えっと……前世の昔話? たぶん、この記憶は創造士の物だから、間違いないと思うよ」
「そのテュポーンという怪物は、どんな怪物なのですか?」
「神にも勝てる怪物だよ」
「え? それは随分と不味くないですか?」
「……神を殺す気で造った魔物ってことですよね?」
「そうかもしれないけど……」
「リーナとベル、そんなことを言っていても仕方ないじゃない。もう、ここに来てしまったからには倒さないといけないのよ」
「そうですね」
流石シェリー。シェリーの一言で皆の雰囲気が一変した。
「あの無数の蛇による攻撃はヘルマン、アルマ、ギーレ、ギルで対処して」
『了解しました』
「シェリーは、テュポーンが火を吐いた時に壁を造って皆を守って」
「了解」
「ルーは破壊魔法で本体を破壊!」
「任せて!」
それから一進一退の長い長い戦いが始まった。
蛇は斬ると回復しないが、本体はいくらでも回復するから、チマチマと蛇を殺していくしかなかった。
そして、やっと全ての蛇を倒した時に本体の回復が止まり、ルーがとどめを刺して終わった。
「本当に、神様を殺せてしまえそうでしたね」
「壊しても壊しても回復するから、本当にウザかったわ」
「今までで一番強い相手だったわね」
それぞれ体力を完全に使い切り、床に倒れ込んでいた。
もう、最後の方は気力で動いていたからな。
「皆、お疲れ様。ここまで俺の為にありがとう」
「お礼なんて良いわ。普段、レオにはもっとお世話になっているんだから」
俺が頭を下げると、シェリーのそんな言葉と皆のそれに賛同するような頷きが帰ってきた。
本当、俺は良い仲間を持ったな。
「ありがとう。それじゃあ、休憩したら会いに行くか」
遂にこのときが来たな。
創造士……一体どんなやつなんだろうな?
昨日より六巻が発売中です!!
そして、来週は漫画版二巻が発売されます!
そちらも是非よろしくお願いいたしますm(_ _)m





