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第二十一話 戦争の最後

 

 体の調子に慣れてきたところで、俺は立ち上がってみた。

 うん。魔力が使えないだけで、普通に動くことは問題ないみたいだ。

「ふう。それじゃあ、カイトを家に届けてやるか」

 動いても問題ないことを確認した俺は、そう言ってカイトを抱えた。

 カイトをここに置いておいても仕方ないからな。王国に届けてやらないと。


「え!? ちょっと、何を考えているの?」


「あ、そうだ。ついでに、ゲルトの件も片付けてくるか」

 師匠に少しでも早く恩を返しておきたいし。

 どうせ王城に行くなら、纏めて解決してしまおう。


「ちょっと! 危険だわ。今のレオは安静にしてなさい!」


「転移くらいなら大丈夫でしょ。あれ、魔力を使っているわけじゃないし」

 魔法は使うな。とは言われたけど、スキルはダメとか言われてない。

 まあ、それでもあまり使わない方が良いのかな? とは言っても、カイトは送り届けてやりたい。


「それでも……どうやってゲルトと戦うつもり?」


「心配ないよ。たぶん、戦わずに終わると思うから」

 たぶん。バルスの口ぶりからして、あいつはもう殺されていると思う。


「そう。それじゃあ、私が着いて行っても良いよね?」


「うん……。まあ、大丈夫かな」

 今の俺より、シェリーの方が強いし。


「あ、一応ルーもついて来て万が一に何があるとは限らないから」


「了解。久しぶりに戦えるかな~~~」


「いや、それは来週の楽しみにしておいて」

 今回はカイトを渡してすぐ帰宅したいんだから。



 SIDE:ゲルト

「戦争……どうなっただろうな?」


「……」

 ここ数年、ずっと俺に向かって憎まれ口を叩いていたヘロンダスからの返事は帰ってこなかった。

 流石のこいつも、もう限界だったらしい。


「はあ、どうしてこうなってしまったのかな……。これが俺の罪に対して神に与えられた罰とでも言うのか?」


「まあ、そうなのかもね。本当、辛い罰だわ……」

 独り言にまさか返答が来るとは思っていなかった俺は、驚きながら厚い扉を見た。

 女の声……だったよな?


「知らない声だな。ここまでどうやって入ってきた」


「どうやってだと思う?」

 そう言うと、ギイイと重苦しい音を立てながら扉が開いた。

 そして、部屋に入ってきたのは、やはり見知らぬ女性だった。


「いや、どうでも良い……。俺を殺しに来たのか? それとも、何か新しい命令か?」


「殺しに来たが正解」


「そうか……。お前はレオンスの命令でここにやって来たのか?」

 殺すと言われても、俺は何も感じなかった。

 ここで生活しているなら、死ぬ方がマシだからな……。


「いいえ。違う人の命令」


「それじゃあ……誰だ? 親父か?」


「違う。たぶん、あなたが聞いても知らない人。私たちは破壊士って呼んでる」


「破壊士?」

 本当に聞いたことがない奴だな。

 どこかの殺し屋か?


「そう。転生者を殺して来いって命令されちゃった」

 転生者……だと?


「そうか……。やっぱり、転生者は俺以外にもいたんだな」

 なるほど。破壊士というのは、転生者を殺して回っているのだろう……。


「そりゃあいるわ。あなただけが特別じゃない」


「そうだな……」

 そんなことには、もうずっと前からわかっているさ。

 俺は悪役であり、脇役だった。その程度の男だったのさ。


「それで、最後に何かやり残したことはあるかしら?」


「……そうだな。一つだけ。生涯唯一の仲間を助けてやりたい」


「ふ~ん。まあ、それくらいなら付き合ってあげる」


「ありがたい」

 この名前も知らない女には感謝だ。

 さて、それじゃあ、ゲルトとして最後の仕事だ。


 SIDE:エレーヌ

 ドッガーン!!


「え? 何? 何の音?」


「これは……爆発音ですな」


「どうして? ここで爆発音が? もしかして、レオがここまで来た?」

 これだけの爆発音。外はただ事では済まされていない。

 そんな馬鹿なことを流石の馬鹿なお父様でもやらないと思うし……。

 だとすると、レオが攻めて来たと考えるのが妥当なはず。


「可能性としてはあり得ますな。あ、結界が切れましたぞ」


「どうする? 出ても大丈夫だと思う?」


「姫様の判断に任せます。もし、外に出るなら、このアーロンが今度こそ姫様をお守りしてみせます」


「ありがとう。それじゃあ、外に出るわよ」

 もしこの爆発が私を殺すためのものだったら、ここで待っていても結果は変わらない。

 なら、私から動いた方が良いでしょう。



「うう……凄い煙」

 部屋の扉を開けると、人も壁も床も全て外は焼け焦げていた。

 ここまで焼けていて……どうして火災が発生していないのかしら?


「これは、とても大きな爆発でしたな。結界が無かったらと思うと、ゾッとしてしまいます」


「とりあえず……お父様の様子を見に行くわよ」

 たぶん。謁見の間にいるはず。

 もしそこでお父様が元気にしていたら、犯人はお父様。

 まあ、流石にそれはないと思うけど。



「これは……」

 謁見の間に到着すると、眩しいくらい太陽の光が差し込んでいた。

 そう……天井が無くなっていた。


「ここで爆発が起きたのでしょうか? ……ん? あれはゲルト殿ではありませんか」


「ゲルト……あ、本当だ!」

 アーロンに指さされ、すぐそっちに目線を向けると、一人だけ焼けていない人がいた。

 間違いない。あれはゲルトだ。



「……死んでる」

 触らなくても、ある程度近づいたらわかっていた。ゲルトの胸には深々とナイフが刺さっていたから。


「もしかしたら……ゲルト殿が私たちを助けてくれたのかもしれませんな」


「え? それって……」


「はい。ゲルト殿は死ぬ間際に、城を爆発したのだと思います。私たちは……結界に守られていたわけですね」


「本当……何をやっているのよ。バカ……」

 別に命を落としてまで、助けて欲しいなんて思っていないわよ。

 本当……馬鹿なんだから。

 そう思いながら、私は数少ない仲間の死に涙を流した。


「え? ここは? 王城だよな?」

 しばらく泣いていると、もう聞き慣れた若い男の声が聞こえてきた。


「ほら! やっぱり、転移も使ったらダメだったんじゃない!」


「そんな……やってしまった。どうやって帰ろう」


「心配しなくても大丈夫。ここは王城よ。まあ、見ての通り壊れてしまっているけど」

 突然の来客に、私は涙を拭って無理矢理笑顔で出迎えた。

 王女、いえ、女王たるもの、相手に弱みを見せてはいけないわ。


「エレーヌ! これはどういうことなの? って! それはゲルト!」


「私たちも、ずっと閉じ込められていて知らないの。拘束が解かれたと思って、ここにやって来たら……ゲルトがここで死んでいたわ」


「なるほど……。ゲルトは最後、国王を道連れにして死んでいったのかもしれないな」

 レオは早速、考えが答えに行き着いたようだ。

 流石ね。

 それにしても……レオとシェリーともう一人……この子は見たことが無いわね。

 というか、頭に角が生えてるじゃない。この子、魔族だ。

 レオ……ここに魔族を連れてきて、何をするつもりだったの?

 そう思い、レオに視線を向け直すと、レオが誰かを抱えていることに気がついた。

 え? あれって……。


「え? あのゲルトが?」


「ああ。あいつなりの罪滅ぼしだったんだろうよ」


「ねえ……そのレオが抱えているのって……」

 私は震えながら、レオに抱えられているボロボロな男を指さした。


「ごめん。カイトだよ。心配しないで、まだ生きてる」


「まだってどういうことなの!? そ、そんな……カイト! カイト! ねえカイト! 起きて!」

 私は急いでカイトに駆け寄った。

 確かに……まだ息はしている。でも、すぐに死んでもおかしくないようなのは一目瞭然だった。


「正直……息を吹き返すかはわからない。リーナが言うには、五分五分だ」


「そ、そんな……どうして、カイトがこんなことに!?」


「王国は道中、三分の一近くまで数を減らしてしまった。その為、カイトが無茶をしないといけなくなってしまったんだ」


「そんな……」

 やっぱり、私を人質にされてことで……無茶なことをさせられていたのね。


「正直、カイトの勢いに俺は危うく負けるところだったよ。仲間がたくさん死んでいく中、一人で城壁を突破し、俺に致命傷まで与えた。あの勢いは本当に凄かったよ」


「……」

 何それ……ほぼ一人で戦わされていたってこと?


「えっと……。実はこう見えて、カイトにやられて俺も結構キツいんだ。詳しい話は、俺が元気になってからで良いか?」


「え? ええ。そんな大変な状態なのに、わざわざカイトを連れてきてくれてありがとう」

 あのレオがそこまでの傷を負うなんて……カイト、あなた頑張りすぎよ。


「いや、カイトなら……エレーヌが傍にいればすぐに目を覚ましてくれると思ってね」


「……そうね」

 レオの目は純粋にそう思っている目であった。

 慰めとかではなく……。だから、私は何も言えなかった。


「それじゃあ、また」


「ええ。本当にありがとう」



 レオが消えると、また私は涙があふれ出してきた。

「う、うう……」

 そして、今度は声に出して泣いてしまった。


「姫様……」


「カイトの馬鹿……無事に帰ってくるって約束したじゃない」

 もう、負けても良いからって言ったのに。

 私の話を聞いていたの?


「お願いだから……私を一人にしないで」

 ピクリとも動かないカイトに、私はそれしか言えなかった。

 お願いだから……起きて。ねえ、カイト。




今週土曜日に発売される六巻とポストカードをよろしくお願いしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 大分冷える様になってきましたので、作者様もお身体には気を付けて下さいね。
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